二者択一人生
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 二人で一人。一人で二人。二人でも二人。

 これな〜んだ?

 

 伏見さん家の一樹と双葉は、一卵性の双生児。親でも見分けがつきません。医者でも見分けがつきません。

 大学四年になった一樹が、ため息を漏らします。

「あ〜あ、卒業したくないなぁ……」

 同じく大学四年になった双葉が、ため息を漏らします。

「あ〜あ、遊びすぎて卒業できないよ……」

 互いの言葉を聞いて、顔を見合わす二人。

「……やるか?」

「もちろん」

 以心伝心、暗黙の了解で、にやり笑ってうなずきあうと、

 その場で財布と携帯を交換し、二人は別々の方向に歩き去っていきました。

 

 彼らが最初に名前ごと入れ替わったのは、小学生の時でした。

 好きな女の子と何とか同じクラスになりたくて、そしてそれがちょうど互い違いになっていたのです。

 交渉するまでもありません。なんせ互いの気持ちは双子だけに、とっくにわかりきっていたのですから。

「やろうぜ」

「OK」

 短いやり取り。だれにも見分けられない兄弟です、二人が互いに了解したその瞬間、二人は完全に入れ替わりを果たしたのでした。

 そこに、特に躊躇などありませんでした。簡単ないたずら目的の入れ替わりなど、やんちゃ盛りの二人にとっては、日常茶飯事のことでしたから。

 ただ、元に戻らない完全な入れ替わりをしたのは、これが初めてのことでもありました。

 

 中学でも、同じようなことがありました。

 私立の中学に進んだ一樹は、

「かたっ苦しくてやってられねー」

 公立の中学に進んだ双葉は、

「周りの程度が低くすぎて、いらいらする」

 二人がまた入れ替わりを決意するのに、一秒だって要りませんでした。

 

 一樹が高校で男子校に進めば、

「潤いが足りねー」

 双葉が高校で共学に進めば、

「女のこと気にするなんて面倒だー」

 

 はい、バトンタッチ。

 

 文系と理系の選択でも、

「俺やっぱ文系のほうが合ってる気がする」

「俺やっぱ理系のほうが合ってる気がする」

 

 はい、バトンタッチ。

 

 そうしてそれ以外にも、様々な場面で入れ替わってきた二人です。今度の入れ替わりにだって躊躇なんてするはずもありません。

 しかし後日、大学で二人ばったり顔を合わせたとき、一樹がふとつぶやきました。

 

「そういや俺ら、最初はどっちがどっちだったっけ?」

 

 双葉は返答に詰まりますが、ちょっと考えた後こう答えました。

「どっちの名前も、俺たちのものだろ?」

 一樹もああと納得し、

「それもそうだな」

 とうなずいてみせます。

「一樹と双葉は、俺らが演じる役名で」

「二人で共有する、人生でもある、と」

 

 そうなのです。どちらだって一樹として生きていた時もあれば、双葉として生きていた時もあります。二人の人生はごっちゃになって入り混じって、今更どちらか一方にまとめることなんてできないのです。

 

「一樹は俺で」

「双葉はお前」

「双葉は俺で」

「一樹はお前」

「二人で一役」

「一人二役」

「二人そろっても」

「やっぱり二役」

「それが俺らか」

「その通り」

 

 ところが、そんな時に襲う悲劇。一樹が突然の交通事故で、帰らぬ人となりました。

 

 一人残された双葉は、途方にくれます。

 

「あれ、俺は本来、一樹と双葉のどっちなんだっけ?」

 

 親にも医者にも、そして自分たちにも判別できない兄弟は、ゆえにその答えを知る術がどこにも存在しませんでした。

 どちらの人生を歩むべきなのか。

 そもそも自分は一樹ではなかったのか。

 なら自分は死んでしまったのか。

 苦悩しようと、双葉はもう、双葉として生きるより他に道はありませんでした。

 

 そして気づきます。すぐにでも。一樹がいないということは、双葉にはもう間違った時嫌なことがあった時投げ出したい時、逃げ込める人生がなくなってしまったということでした。選択肢を選んで最悪な目が出た時も、誰もそれを肩代わりしてはくれないのです。

 

 それに気づいてしまった時、彼にはもう何も選べなくなりました。

 怖いのです。恐ろしいのです。今まではいつも保険がありました。二つの道があったら二つ共を選べたのです。それはつまり、選んでなどいなかったということです。

 一度も選ぶことのなかった彼は、選択肢から逃げ続けた挙句に、とうとう――

 

 閻魔様の前に引き出された彼は、そこで罪状を読み上げられた時にやっと、

「……ああ、それが……」

 自身の本当の名前に、気づくことができたのでした。

 

説明
小説というより、小話的な感じでしょうか。
途中でも、なんとなく先が読めてしまうかもしれませんね。特に目新しい題材と言うわけでもありませんし。
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