【AKIBA'S TRIP】タモツとマヨのデート(本番) |
西暦2017年、東京・秋葉原。
この街では、先日まで謎の組織・“メトロチカ”により生み出された未知の生命体・“バグリモノ(破繰者)”の脅威によって“アキバ”という街自体の存亡の危機にさらされていたが、“アキバ”を守る為に立ち上がった少年少女たちの活躍により辛うじて守られた。
秋葉原の歴史に残る大きな戦いに終止符が打たれてから数週間後、中央通り沿いに建つとあるビルのひっそりとした地下室に、そこを拠点兼住居にしている、アキバをバグリモノの脅威から守った者・伝木凱タモツと万世架まとめがいた。
「ねえタモツ、これからデートしない?」
まとめが今までにない期待に満ち溢れた面持ちで突然タモツに問い掛ける。
「え!?どうしたんだよマヨ、いきなりデートなんて……」
「今日は火曜日だからバイトのシフト入ってないでしょ?それに、タモツとはこの前の練習の時以来二人っきりでデートするなんてことなかったじゃない…… ねっ?」
「まあ別に今日は丁度街に出る予定があるからいいけどなぁ、なんかマヨ、えらく積極的だな…」
「うーん何か、前までの自分が嫌になってきて……。メトロチカとの戦いも終わって、せっかくタモツともこうして付き合えてるんだし、どうせなら新しい自分に生まれ変わろうかな…って。ダメ…かな?」
いつもはクールな性格だったはずのまとめが今回は上目遣いで問い掛ける。
「えっ?あ、いいと思うぞ?俺は。」
「…そう?なら良かった。」
もはやキャラ崩壊に近いくらいまとめの顔がキラキラしているのを見て、長い付き合いのタモツでさえもさすがに少々引いたようだ。
タモツとまとめは、ひょんなことから知り合った。
数か月前、タモツがいつものように秋葉原を訪れていたところ、妹のにわかがバグリモノによる破壊活動に巻き込まれてしまった。妹を救うために戦慄の地に足を踏み入れたタモツは、バグリモノ集団に追い詰められているまとめを見つけ間一髪でまとめを庇ったものの、自身が瀕死の重傷を負う。しかし、まとめが施した “セツリゴエ” の儀式により一命は取り留めた。だがその代償として自分がまとめの眷属にあたる上級バグリモノとなってしまったのだ。
それ以降はまとめとタッグを組み、秋葉原に閉じ込められながらもバグリモノとの戦いを続けてきた。そして数週間前、長きに渡ったバグリモノとの戦いが終わり、晴れてまとめと相思相愛の恋人関係になったのだ。
とりあえず二人は拠点を出て、昼下がりの中央通りの活気に溢れた人混みを歩いていた。以前までなら、バグリモノが悪事を働いていないかパトロールをしていた道だが、今日の二人には何か違うように見えた。
「…んで、どこに行くんだよ?」
「うーんと、最近見つけた美味しいお店があるんだけど…… あっ、あった!」
まとめが立ち止まったところには、大分年季が入った風情あるラーメン店があった。店内に入ると、昔ながらの食堂のような雰囲気で、カウンター席、テーブル席に加え、小上がりの座敷まで完備されていた。
この店は食券式なようで、まとめは店内に入るなりそそくさと券売機に小銭を投入し『北海道バター味噌ラーメン』の食券を購入・注文した。タモツも続いて食券を購入、無難に『醤油ラーメン』を注文した。
「へいお待ち!『北海道バター味噌ラーメン』と『醤油ラーメン』ね!」
完成したラーメンが目の前に出されると、「わぁぁぁ…!!いただきまーす!!!」と満面の笑みを浮かべたまとめがすかさずラーメンをすすり始めた。それを見たタモツは、このような光景は何度も目の当たりにしたことがあるものの、やはりルックスやキャラクターとのギャップに耐え切れず、例によって鳩に豆鉄砲を食らったような顔でまとめを見つめた。
「ん?どうしたのよタモツ。ラーメンのびちゃうわよ?」
「いや、やっぱマヨはよく食べるよな〜… って思ってさ…。」
「食べられるものはしっかりと誠意を持って食べなきゃだし、それにやっぱり仕事柄、身体を動かすのが多いからその分エネルギー消費も激しいのよね。」
「あ〜、なるほど。(『仕事柄』って…。そもそも自警団って職業か?ww)」
「「ごちそうさまでした〜!」」
「まいど〜。」
二人は店を出ると、再び中央通りに戻ってベルサール周辺を練り歩いていた。
「はぁ〜、美味しかったね。」
「そうだな。また行きたいな。」
「ねえ、今度はタモツが行きたいところに行こうよ。」
「え?俺?うーん、あっ…そうだ!!そう言えば今日がフラゲ日のCDがあったんだ!」
「じゃあ行こ!」
矢庭にまとめがタモツの腕を引く。一方タモツは『これって普通俺がリードするもんだよな〜…。情けないな、俺…。』と密かに思っていた。
二人は少し歩き、アニメイトの中へ入っていった。CDコーナーへと進み、タモツは【CD新譜】の陳列棚の前で立ち止まった。
「おっ、あったあった。」
「あ、タモツ、それ……」
タモツが手に取ったのは、まとめが所属しているアイドルユニット・“まにあ〜ず”のデビューシングル・『サンキトウセン!』のCDだった。実はアキバフェスでのライブに感動した、プロデューサーの紅影がコネを駆使してレコード会社に話を通していたのだ。そして今日はこのCDの発売日前日、つまりフラゲ日だったのだ。
「だからここに来たのね……」
「ああ!!せっかくのマヨのデビュー曲、彼氏の俺が一番に手に入れないでどうするんだよ。」
タモツが微笑みながら自慢げに言う。それを聞いて、まとめの瞳が歪み出した。まとめがふと気がつくと、彼女の頬に一筋の涙が流れた。
「あっ…やだ…わたし…」
次々とまとめの目からポロポロと涙がこぼれた。
「わわわ!な、泣くなよ!!」
「だって…(えっぐ)だって…(ぐすっ)こんなの…泣けないわけないよ…」
とりあえず、ここにいると何かとマズいため、そそくさと会計を済ませて二人は店舗を出た。
「…落ち着いたか?」
「……うん。」
消え入りそうな声でまとめは返事をした。
アニメイトを後にした二人は、気持ちを落ち着かせるために日没寸前の万世橋横のベンチにしばらく座っていた。
「ごめん、マヨ…。泣かせるつもりはなかったんだ。」
タモツが俯き加減で謝罪する。
「ううん、いいよ。タモツは何も悪くないよ。それに…」
「…それに?」
「それに、嬉しかったの。タモツが…そんなに私のことを想ってくれてたなんて……」
タモツが目を見開いたのち、ニッコリと微笑みまとめの肩を自分の方に寄せた。
「…当たり前だろ、バーロー。」
某人気探偵モノ漫画の主人公よろしくキザな言葉をまとめの耳元で囁いた。それにまとめは感極まりタモツの腕の中で再び泣き崩れた。
「……ありがとう…タモツ。…大好き?」
嬉し涙に濡れたまとめはタモツをぎゅっと抱き締めた。
「…俺もだよ、マヨ。」
タモツもまとめを抱き締め返し、二人は抱き合った状態になった。
「ねえ、」
「ん?」
二人は身体を離し、互いを見つめ合った。その眼は両者ともこれまでとは違い、特別なモノを見るような眼をしていた。
「『マヨ』じゃなくて、名前で呼んで…。」
「え…」
「もう私たち、恋人なんだし… あだ名じゃなくて、ちゃんと名前で呼んでよ…。」
残った涙が潤ませたまとめの瞳がタモツの目に飛び込んでくる。タモツはそれを見て微笑み、
「……分かったよ、まとめ。」
と言い自分の唇をまとめのモノと重ね合わせた。まとめは突然の出来事で状況の理解がまるで出来ず、ただされるがままにタモツと淡く、そして長い口づけを交わしていた。
「(ぷはぁっ)…はあっ、はあっ、も、もう…いきなりキスするなんて…/// ///」
「ごめん…」
「べ、別に謝らなくてもいいわよ。やっと本当のキスができてすごく嬉しいんだから…。」
まとめの恥ずかしがりつつも輝いた笑顔に、タモツはどうにかなりそうになっていた。
「ま、まとめ、俺、もう…我慢できない…!」
「フフッ…奇遇ね、私も…。」
二人は再び軽くキスを交わし、陽が沈み色とりどりのネオンが光り輝き始めた秋葉原の街へと駆けていった。その二人の顔は、果てのない “ヨロコビ” に満ち溢れていた。
その後、二人は拠点に帰るなりキスをした。互いを強く抱き締め合い、舌を絡ませ、その擬音が部屋中に響き渡るほど深く、果てしなく長い口づけを交わした。そして理性を失いつつあった二人は、ついには同じベッドに潜り込んだ。
それからのことは、各々の想像に任せる。
=== 翌朝 ===
タモツとまとめの愛の巣と化した拠点に、タモツの妹のにわかと二人の仲間の有紗・アホカイネンがやって来た。彼女らはリビングなる部屋に入ると、いつもいる二人がこの部屋にいないことに気づく。
「お兄ちゃ〜ん!あれ?お兄ちゃんは?」
「そういえばマーもいないデース。」
「どこにいるの?」
少し部屋を捜索していると、有紗が部屋の奥のドアが半開きになっているのを見つけた。
「あ!二人がいたデース!」
「えっ?」
にわかと有紗が部屋の中を覗くと、まとめの物と思われるシングルベッドに幸せそうな顔で眠っているタモツとまとめが裸の状態で二人寄り添っていた。
「Wow!マ、マーとタモツがついに…!?」
「もう!お兄ちゃんったら…// //」
「ふむ、こんなこともあろうかとアジト中に全裸対策を施しておいてよかった。」
「「うわあっ!!」」
突然現れたラトゥ博士に二人は驚きを隠せず思わず大声を出してしまった。
「ん…うう…ん、ん?え、えぇぇぇぇ!?」
「ちょ、ちょ、なんでアンタ達が!?」
にわかと有紗の大声でタモツとまとめが目を醒ましてしまった。
「あ!お兄ちゃんたち起きちゃった!!」
「…ってちょ、タモツ!!早く服!服!」
「えっ、あっ、あぁぁぁぁ!!!!」
「もぉ〜〜〜〜〜〜!!!!!/// ///」
その後、タモツとまとめのハナシは街中に知れ渡り、以降数日間は二人を取り巻く人物らから散々イジられまくったそう。
=== END ===
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