真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 29
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〜反董卓連合軍の集合場所〜

 

 出発してから一週間、俺たちは指定された場所、つまりは合流場所へたどり着いた。

 

 そこにはすでにいくつかの軍が集まっており、色とりどりの旗が空を埋め尽くさんばかりにはためいていて、その下には大小さまざまな天幕と数多の兵士が様々な色形の鎧をまとっていた。

 

「おぉ〜、これは壮観だなぁ……」

 

 思わずぼやいたであろう北郷の声につられるように劉備も言葉をつなげる。

 

「本当だねぇ〜。すごい数の兵隊さんだよねぇ〜」

 

 その言葉とは裏腹に、冷静な声を上げたのは孔明だ。

 

「さすが諸侯連合、というべきですね。ここまでの兵が一同に会するとここまで壮観になるものなのですね」

 

 遅れて会話に入ってきた趙雲が中央であろう位置にあるひときわ大きな天幕、そしてその上でなびく旗を見上げながら口を開く。

 

「ふむ、あの旗が河北の雄、袁紹の旗か」

「あれが……」

 

 今回の発起人か……

 

「んで、その横にある旗が、えん、えん、えんかく?」

「玄輝殿、袁術です。袁紹の従妹で、荊州・南陽の太守です」

「ああ、そんな名前だっけ」

 

 正直、その時は寝ていてほとんど聞いてなかった。

 

 そんな俺に呆れながらも情報を教えてくれた関羽はその近くにある旗に目をやった。俺もつられてそちらを見ると、そこには見覚えのある「曹」の旗が。

 

「あれは、曹操のか?」

「そのようですね」

 

 なるほど。アイツも参加しているか。となると、やはりこの戦いは何かしらの大きな節目のようなものだろう。もし、益も意味もないような戦いなら、曹操は参加なんてしないはずだ。

 

(まぁ、そこまで良く知っているわけではないが、機を逃すやつではないのは十分理解したからな)

 

 ふと、その奥の旗に目が移った。その旗は赤を基調とした旗で「孫」の文字が書かれていた。

 

「鳳統、あの旗って誰のだ?」

「あれは、江東の麒麟児と名高い孫策さんのだと、思います……」

「麒麟児ねぇ……」

 

 そういや、真田の誰それがそんな名前で呼ばれてたとかなんとかって聞いたな。

 

「他には誰か有名どころの旗はあるのか?」

「そう、ですね……」

 

 そういって鳳統は旗をぐるりと見渡してから、質問に答えた。

 

「多分、この中で有名、と言えば西涼の馬騰さん、でしょうか。他にも官軍に所属されていた方の旗は見えるのですが……」

「まぁ、そこまで有名どころってのはいないってわけか」

「そういうわけではないのですが、一歩抜きんでている、という意味では……」

「なるほど」

 

 と、小さく返答したところでまたもや見慣れた旗を見つけた。

 

「あれは、公孫賛の旗じゃないか?」

「あ、本当だ! 白蓮ちゃんの旗だ!」

 

 昔懐かしの(まぁ、そんなに昔、というわけではないのだが)旗を見つけたところで、北郷がやたらそわそわしていることに気が付いた。

 

「おい、大丈夫か?」

「ん? ああ、大丈夫だよ。なんて言うかさ、こう、武の競演! みたいな感じで、お祭りの時みたいな気分になっちゃってさ」

 

 むぅ、確かに気持ちわからんでもないが、と思っていたら、関羽やら張飛やらが笑いながら話す。

 

「まるで子供のようですよ、ご主人さま」

「お兄ちゃんもまだまだガキなのだ」

「まぁ、ご主人さまの気持ちもわかるかな。私も全然ワクワクしてない、なんて言ったら嘘になっちゃうもん」

 

 ただ、そんな会話をしている面々に趙雲だけは冷静な言葉を出してきた。

 

「私もその気持ちはわかりますが、ワクワクしてばかりではいられますまい。ここにいる英傑は皆、侮りがたい者ばかり。曹操、孫策は言わずもがな、袁紹、袁術も能力は凡人程度、あぁ、いや。頭だけは痛いところではありますが、その財力と兵力はまさに脅威。あとは……」

 

 そういった趙雲は公孫賛の旗を見上げてから、苦い表情、いや、憐憫というべきか? そんな表情を向けてから、

 

「伯珪殿が他の諸侯に付け込まれないか、と言うところでしょうな」

「あぁ〜、ありえそうだなぁ……」

 

 正直、公孫賛の人の良さはこの世界では仇になりかねないからなぁ……。なんて思っていると北郷も同じ気持ちになったのだろう。

 

「……なんか、俺も心配になってきた」

 

 北郷も心配そうな表情を浮かべ、少し考えるそぶりをした後頷いて、旗を見上げた。

 

「もし、白蓮に何かあったらすぐに駆けつけられるようにしよう。彼女にはたくさん恩があるんだ。こういう時こそ返さないと」

「そうだね。それに、私にとっては大事な友達だもん」

 

 その劉備の賛同の声の直後、やたら豪勢な鎧に身を包んだ兵がこちらに駆け寄ってきた。

 

「長きにわたる行軍、お疲れ様でございました! 貴殿のお名前と兵数をお聞かせ下さいませ!」

 

 どうやら、袁紹軍の兵士のようだ。筆記用具を持ち出してこちらに差し出してきた。

 

 それに対し、劉備は一礼をしてから自身の名を名乗った。

 

「平原の相、劉備です。兵を率いて、ただ今参陣いたしました。連合軍の総大将さんへ取り次いでいただけますか?」

 

 しかし、その言葉に兵士は“困ったぞ”みたいな表情をしてから、若干言いにくそうな口調で返答を返した。

 

「え〜、恐れながら現状、総大将にお取次ぎをすることは出来ないのです」

「え、どうしてですか?」

 

 ……なんだか雲行きがおかしいな。

 

「その、大変申し上げにくいのですが、実はまだ連合軍の総大将が決まっておらぬのです」

「…………はぁ!? 総大将が決まっておらぬだと!?」

 

 関羽の大声に呆然としていた思考が元に戻った俺はすかさず質問を投げかける。

 

「いや、だとしたらこの場所で何やってるんだ? こんな大軍勢がそろいもそろって」

 

 俺の問いに答えたのは兵士ではなく、聞き慣れた声だった。

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「総大将を決める軍議さ。さっきからずっとな」

「白蓮ちゃん!」

 

 そう、公孫賛だ。

 

「久しいな、桃香」

「久しぶりだね〜! 元気そうでよかった〜♪」

「おかげさまでな。星も久しぶりだな」

「ええ。伯珪殿の陣を離れてひとしきり見聞した後、桃香様と一刀様の元に仕えることにいたしました」

「そうか。元気そうで何よりだ」

「伯珪殿こそ」

 

 そこでにこやかに握手を交わした二人だったが、その手を放したときに公孫賛は何かを思い出したかのように疲れた表情を浮かべた。

 

「まぁ、お前が抜けた穴を埋めるのは至極疲れたがな」

「おや、まさか伯珪殿に嫌みを言われる日が来ようとは。成長なされましたな」

「言ってろ」

 

 少しきつく聞こえる会話だったが、二人の表情を見ていると、これが二人にとっての付き合いかたなのだろうと思える。

 

 だが、俺にはそれよりも聞きたいことがある。

 

「なぁ、公孫賛。総大将が決まっていないってのはどういうことだ? まさか“俺が総大将にふさわしいだろうが!”“何言ってんだ、俺様の方がふさわしい!”みたいな会話でも延々としてんのか?」

 

 だとしたらお笑い草なんだが……。俺にとっては。

 

 なんて思った俺の気持ちを知ってか知らずか、公孫賛も呆れた感じの半笑いを浮かべる。

 

「それだったらまだ幾分かマシだったんだがなぁ……」

「ん? どういうこった?」

 

 盛大にため息をついた公孫賛がいったい何が起きているかを説明してくれた。

 

「実は、一部を除いてほとんどの諸侯が“そんな面倒な仕事はご免だ”ってやつしかいなくて、軍議が全く進まないのさ。まったく呆れた話だよ」

「それだったら、その一部のヤツにやらせればいいのだ。なんでそれをしないのだ?」

 張飛の疑問ももっともだ。そいつにやらせてやりゃあいいものを……

「ごもっともな意見だが、そいつが自分から名乗りを上げないのさ。どうにも“頼られて総大将になった”って肩書が欲しいらしい」

「え〜と、つまり……?」

「他の諸侯はやりたそうなやつに押し付けたい。でも、そのやりたそうなやつは肩書が欲しくて立候補をせず、推薦されるのを待っている。他の諸侯もそれが分かっているから、下手に発言をして責任を背負いたくないってワケさ」

「……くっだらねぇ、腹の読み合いしてんなぁ」

「まぁ、こんな規模の大戦だ。慎重になりもするだろうさ」

 

 “おかげで見ているこっちがつかれるよ”と嘆息する公孫賛。

 

「で、お前さんはさしずめ“当分決まらんだろうし、外の空気でも吸うかな”ってところか?」

「大当たり」

 

 力のない笑顔でそれを肯定する彼女を見て、北郷がため息交じりに言葉を吐き出す。

 

「なんというか、みんなまじめにやっててそれなの?」

 

 その言葉に孔明が同じような声色ではあるが、真剣な表情で返した。

 

「大まじめだと思いますよ。大事な権力争いなんですから。ここで最大限の戦果を得られれば後々色々なところで響きますから」

「朱里ちゃんの予想が的中したねぇ……」

 

 軍議の場で言っていた彼女の予想がここまで当たるとは……。さすがというべきか。

 

「でも、こんなところでそんなくだらないことをしている時間があるのか? この間にもあちらさんはこちらの動向を掴んでいるんじゃないか?」

 

 その質問に答えたのは鳳統だ。

 

「これほどの大軍勢ですから、掴んでいると思います。それどころか、着々と軍備を整えているかと……」

「だよなぁ……」

 

 これだけの軍勢が自分の領地の近くにいたら、どんな間抜けだろうと気がつくし、一分一秒でも速く軍備を整えようとするはずだ。

 

 つまり、ここで時間を費やせば費やすほどこちらの被害は大きくなるという事だ。

 

「まったく、仮にも英傑と呼ばれるような人間が揃いも揃ってこのざまとは……」

 

 関羽の呆れた声ももっともな話だ。

 

「船頭多くして船、山に登る、ってか?」

「まぁ、己が利益を優先させるのであればそういうことになりましょう。主、ここは軍議に乗り込みましょう。このままでは埒があきませぬ」

 

 趙雲の言葉に北郷はうなずいて、覚悟を決めた表情になる。

 

「そうだね。少なくてもここで待っていても、意味はない。ただ悪戯に時間を消費するだけだ」

 

 北郷の言葉に続いて劉備もうなずく。

 

「もしかしたら、この間にも苦しんでいる人がいるかもしれない。なら、私たちが少しでも早く終わらせないと」

 

 そういった劉備は勇み足で天幕へと向かっていく。それに続いて北郷も天幕へと向かっていく。

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(さて、俺は雪華姫のご機嫌でも取りに行くかね)

 

 雪華は今天幕で休んでいる。俺が待っているように言ったのだ。

 

 天の御使いの噂がだいぶ浸透してきてはいるものの、やはり普通の人から見れば「異質」であることは違いない。下手に騒がれるくらいならと、俺が天幕で待っているように言ったんだ。侍女の人が一緒にいるはずだが、それでもあの寂しがり屋の事だ。拗ねているに違いない。

 

 なんて思っていると、劉備がこちらへ振り向いて大きな声で手招きをする。

 

「玄輝さんも来てよ〜」

「……はい?」

 

 いや、何故? と、思いつつも、とりあえず近くまで駆け寄る。

 

「なんか忘れ物でもしたのか?」

「そ、それは、大丈夫、だと思う」

「じゃあなんだよ。俺は必要あるまい。そも、雪華のやつも待たせてるし……」

「う〜ん、でも、やっぱり雪華ちゃんの名代は必要だし……」

「……あ〜、そういうことか。そりゃそうだよな」

 

 確かに、噂の御使いは二人。片方が出るよりも、二人出た方がいろいろと疑われない、か。

 

「はぁ、鳳統か関羽にでも相手してもらうように頼んでくるわ……」

 

 正直、面倒くさそうなので出たくないのは山々だが、かといってそんな場に雪華を出すわけにもいかない。俺は関羽と鳳統に雪華の事を頼むと、劉備と北郷と共に天幕へと足を向ける。

 

「そういや、劉備は何かあるのか? 打破する方法というか……」

 

 いの一番に足を出した以上、何かある、と思いたい。

 

「ん〜、とりあえず“早く決めてください”て突っつこうかなぁ〜って」

「……本気か?」

「うん。あっ! 何も考えてないわけじゃないからね!」

 

 慌てて補足する彼女は、一度だけ咳払いをしてから自分の考えを告げる。

 

「その、ね? 多分、今軍議をしている人は、言い出したくても言い出せない状況だと思うの。だから、そこで何にも知らない風を装って私たちが言ったらこの軍議は終わるんじゃないかなって」

 

 なるほど。確かにそれなら軍議を終えることも出来るかもしれない。でも、それはあるものが発生することも意味している。

 

「……だが、それは俺たちが責任を負うってことになるんじゃないか?」

 

 軍議が終わるという事は、総大将が決まるという事。そうなると俺たちはその総大将を推したという事になる。そうなると、総大将がやらかせば俺たちも同じように非難される。

 

 だが、劉備は俺の言葉にうなずいて話を続けた。

 

「でも、ここで無駄に時間を使って助けられる人が助けられない、なんてことになったら、私はその方が嫌。兵隊さんたちには、その、ごめんなさいっていうしかないけど……」

 

 前とは違う、何か芯を感じられる言葉だった。

 

「……そうか。そこまで考えているならいい」

 

 これはこいつなりに考え抜いて出した結論なのだろう。それに、それによって発生する事柄もしっかり考えている。なら、尊重すべきだと思う。だが、俺としては北郷の意見も気になる。

 

「北郷はどうだ? 何か考えがあるか?」

「……いや、桃香と全く同じ意見だよ。少し違うとしたら、小さな望みを抱いているってところかな」

「望み?」

「まぁ、望み薄だけどね。もしかしたら、その人が俺たちを援助してくれたりしないかなぁってさ」

 

 そういった北郷の表情は、その望みが本当に薄いものだと物語っていた。

 

「……さて、うちの頭二人がそういうことなら俺はその望みがかなうことを祈っているよ」

「玄輝は何かないの?」

「ふむ、まぁあるとするなら小馬鹿にでもしようかなと」

「おいおい……」

「冗談だよ。いくらなんでもそんなことはしねぇよ。真面目な意見を出すとするなら、挑発ことぐらいしか思い浮かばん」

「挑発?」

「要は、このままだと先手を打たれる。総大将を決められないなら好き勝手にやらせてもらう、ってところか」

「それは、過激だねぇ……」

 

 劉備が何というか、感心したような声を出すが、こちらとしてはその反応は予想外というか……。

 

「いや、そこはバカにしてくれてもいいんだぜ? 正直、この中じゃ弱小勢力の俺たちがそんなことをいったところで……」

「いや、そうでもないかもよ?」

「北郷まで……」

「確かに、弱小勢力の俺たちが単独で戦闘に出たところで何もできないかもしれないけど、一番槍をとられるのを嫌う諸侯もいるはず。そういった人たちには効果はあると思う」

 

 でも、といって北郷は顎に手を当ててまるで自分に問いかけるように小さな声で続きを口にする。

 

「でも、そんな人だったら、総大将になる栄誉を逃さない、かなぁ……」

「まっ、なんにせよ多数決の少数意見だ。基本はお前さんたちの突っつくって方針で行こうぜ」

「……そうだね。そうしよう」

 

 こうして、俺たちは覚悟を決め、天幕へと入っていったのだが、そこに待っていたのは予想を超える、光景だった。

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はい、どうにか更新できました。

 

例によって次回更新は不明です……

 

でも、読んでくれる人がいる以上は、完成させたいですので、頑張ります!

説明
白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話

真・恋姫†無双の蜀√のお話です。

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。



















大筋は同じですけど、オリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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コメント
そこは、ご想像にお任せいたしまする。でも、あのおバカさんは平然と地雷を踏み抜きそうですよねぇ…(風猫)
あぁ、袁紹が雪華をバカにして玄輝がキレる絵しか想像できませんねぇ…(そっと目を背ける) どうなることやら(汗)(はこざき(仮))
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オリジナルキャラクター 真・恋姫†無双 蜀√ 鬼子 

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