英雄伝説〜光と闇の軌跡〜エレボニアカオスルート |
〜パンダグリュエル・パーティーホール〜
「―――話を戻すけど、実はパパ達がアリシア女王達を緊急訪問した話には続きがあってね。パパはアリシア女王達に和解調印の依頼の他にある”提案”をしたのよ。」
「”提案”、ですか……?」
「その”提案”とは一体どのような内容なのでしょうか?」
レンの話を聞いてある事が気になったエマは不思議そうな表情で首を傾げ、アルゼイド子爵は真剣な表情でレンに訊ねた。
「うふふ、その”提案”とはね……――――和解調印式までの公平性を保つ為にメンフィルが捕縛したアルフィン皇女を和解調印式の日まで”中立地帯”であるリベールに預ける提案よ。」
「何ですって!?」
「まさか皇女殿下は、和解調印式の日まではリベールに保護されていたのか!?」
驚愕の事実を知ったその場にいる全員が血相を変えている中サラ教官とトヴァルは信じられない表情で声を上げ
「大正解♪幾ら帝位継承権を持つアルフィン皇女がユーゲント皇帝の代わりに調印しても、アルフィン皇女はメンフィルの”捕虜”だから、それを理由にエレボニアが今回の和解調印について難癖を付けて中立勢力に協力してもらって和解条約内容の変更を主張してくることはわかりきっていたから、それを防ぐ為に”不戦条約”を提唱し、両帝国と友好を結び、今回の戦争に関しては”中立の立場”であるリベールにアルフィン皇女を預ける提案をしたのよ。―――で、慈悲深いアリシア女王は調印の日までの公平性を保つ為かつメンフィルの捕虜になってしまったアルフィン皇女の身を心配して、アルフィン皇女の保護を受け入れたのよ♪」
「ハハ……確かにリベールはアルフィンを預ける相手としてうってつけの相手だね……ちなみにメンフィルに捕縛されたアルフィンはいつリベールに移送されたんだい?」
レンの説明を聞いたオリヴァルト皇子は疲れた表情で呟いた後レンに訊ねた。
「アルフィン皇女を捕縛したその日の夜――――つまり、パパがアリシア女王達に和解調印の依頼等をした後にアルフィン皇女を移送してアリシア女王達に預けたから、アルフィン皇女がメンフィルの捕虜であった期間は実質たった約4時間の上、捕虜にしたアルフィン皇女はメンフィルの旗艦である”モルテニア”の貴賓室で過ごしてもらったし、移送までの間アルフィン皇女に接触したメンフィルの関係者は移送する際に同行したパパとママを除けば一人だけで、しかもその人物はオリビエお兄さんも信用できる人物よ?」
「……その人物は一体誰だい?」
「――――ユミル領主の娘にしてリフィアお姉様の専属侍女長であるエリゼ・シュバルツァーお姉さんよ。」
「ええっ!?そ、その人も確かバリアハートで戦った……!」
「あのリィンって黒髪の軍人の妹にして”聖魔皇女”の専属侍女長だね。」
「何故彼女だけが皇女殿下に接触したのだろうか?」
オリヴァルト皇子の質問に対して答えたレンの答えを聞いたアリサは驚いてエリゼの顔を思い浮かべ、フィーは静かな表情で呟き、ガイウスは考え込みながら自身の疑問を口にした。
「捕虜の立場とはいえ、アルフィン皇女は他国の皇族なんだからエリゼお姉さんを臨時のアルフィン皇女付きの侍女としてアルフィン皇女の世話を一任してあげたのよ。――――貴賓室で過ごしてもらった事に加えてメンフィルの次代の皇帝たるリフィアお姉様の専属侍女長をわざわざ臨時の専属侍女としてつけてあげたのだから、”捕虜”に対して破格の待遇でしょう?」
「それは……………」
「ハハ………確かにエリゼ君ならば私も信用できる相手だから、まさに文句の付け所がないね………」
レンの説明を聞いたアルゼイド子爵は複雑そうな表情をし、オリヴァルト皇子は疲れた表情で答えた。
「うふふ、ちなみにエリゼお姉さんはリィンお兄さんの婚約者の一人で、リィンお兄さんの”正妻”になる予定よ?」
「へ…………」
「ちょ、ちょっと待ってください!皇女殿下がリィンさんに嫁ぐのに、何でリィンさんの妹さんまでリィンさんと結婚するんですか!?」
「それに二人は兄妹の間柄だが………兄妹でも結婚はできるのか?」
「―――少なくても七耀教会では”近親婚”は認めていません。混沌の女神(アーライナ)教や癒しの女神(イーリュン)教はわかりませんが………」
エリゼがリィンの婚約者である事を知ったエリオットは呆け、マキアスは困惑し、ガイウスの疑問にクレア大尉は静かな表情で答えた。
「リィンお兄さんはシュバルツァー家の”養子”で、エリゼお姉さんとは義理の兄妹の間柄の為血縁関係はないから、”近親婚”にはならないわよ。」
「そ、そうなんですか?」
レンの答えを聞いたエリオットは目を丸くして訊ね
「ええ。リィンお兄さんの出自についてはレンが説明しなくても、オリビエお兄さんとサラお姉さんも知っているから後で二人に教えてもらったら?」
「ええっ!?ど、どうしてオリヴァルト殿下とサラ教官がリィンさんの出自について知っているのですか………?」
「それは…………」
「…………………」
(どうしてオリヴァルト殿下とサラ教官が……………――――!も、もしかしてリィンさんはZ組のメンバー候補だったんじゃ………)
レンの説明を聞いたエマは驚いてアリサ達と共にオリヴァルト皇子とサラ教官を見つめ、その場にいる全員が自分達に注目している中オリヴァルト皇子は複雑そうな表情で答えを濁し、サラ教官は重々しい様子を纏って黙り込んでいる中ある事に気づいたトワは不安そうな表情でアリサ達を見回した。
「ま、リィンお兄さんの出自については一端置いておいて、話をリィンお兄さんの婚約者の件に戻すけど……リィンお兄さんには既にアルフィン皇女以外に6人の婚約者がいるのよ♪」
「ろ、”6人の婚約者”って………!」
「ほえええ〜!?あの人、”六銃士”の”黄金の戦王”みたいに冗談抜きのハーレムを作ったんだ〜!?」
「とんでもない女タラシだね。」
「ふふ、まさに”英雄色を好む”ですわね。」
「ハア……何でアタシ達が”導く”はずだった起動者(ライザー)に限って、様々な意味で”規格外”の人物なのよ………」
レンの答えを聞いたアリサは信じられない表情をし、ミリアムは驚き、フィーはジト目で呟き、シャロンは苦笑し、セリーヌは疲れた表情でため息を吐いた。
「確か七耀教会は重婚を認めていなかったから………リィン君達はアルフィンとの結婚も含めて混沌の女神(アーライナ)教か癒しの女神(イーリュン)教に結婚式を頼むつもりなのかい?」
「ええ。リィンお兄さん達の結婚式を取り仕切る司祭はママ―――ペテレーネ・セラ神官長とティアお姉様―――ティア・マーシルン・パリエ司祭長に務めてもらう予定よ。」
「ペテレーネ・セラ神官長にティア・マーシルン・パリエ司祭長………確かその名前はゼムリア大陸に存在する異世界の宗教の……」
「―――”ゼムリア二大聖女”と称えられている混沌の女神(アーライナ)と癒しの女神(イーリュン)、それぞれの宗教の”聖女”認定されている聖職者にしてゼムリア大陸での両宗教の活動を取り仕切っている方々です。」
オリヴァルト皇子の質問に答えたレンの答えを聞いたガイウスが考え込みながら呟いた言葉の続きをクレア大尉が答え
「そのような重要人物達が協力して、彼らの結婚式を取り仕切るとは……何故メンフィル帝国は彼らの為にそれ程の好待遇をするのでしょうか?」
「うふふ、リィンお兄さんは今回の戦争を早期に終わらせたメンフィルの新たな”英雄”にして将来はクロイツェン州の統括領主になるんだから、その程度の好待遇は当たり前でしょう?ああ、それと”シュバルツァー男爵家”は今までの働きを評価してリィンお兄さんの代で”公爵家”に昇格する事が内定しているから、リィンお兄さんは将来の”シュバルツァー公爵”よ。」
「ええっ!?リ、リィンさんが将来のクロイツェン州の統括領主で、しかも貴族の爵位では一番上の”公爵家”の当主!?」
「幾ら戦争による手柄の件があるとはいえ、”男爵”から一気に”公爵”に昇格させるなんて、常識では考えられない出世の速さね……」
「ハハ、エステル君達がメンフィル帝国から貴族の爵位を貰った時以上かもしれないね。」
「それは……………レン皇女殿下。殿下もご存知の通りクロイツェン州の統括領主は”アルバレア公爵家”です。和解条約でクロイツェン州の大半がメンフィル領と化する事ですから新たな統括領主を決める事は当然ですが、元クロイツェン州の統括領主であった”アルバレア公爵家”に対してはどうするおつもりなのですか?」
アルゼイド子爵の疑問に答えたレンの話を聞いたエリオットが驚いている中サラ教官は疲れた表情で呟き、オリヴァルト皇子は苦笑し、ラウラは複雑そうな表情をした後すぐに気を取り直してレンに訊ねた。
「あ…………」
「だ、だが今の”アルバレア公爵家”で生きている人物は………」
「ユーシスさんだけですから、現当主であるアルバレア公とアルバレア公の跡継ぎであるルーファス卿が戦死した以上、ユーシスさんが現時点で”アルバレア公爵家”の当主と言う事になりますね。」
ラウラの質問を聞いたエマは呆けた声を出し、マキアスとクレア大尉はそれぞれ複雑そうな表情で呟いた。
「逆に聞くけど、どうしてそんな質問をしたのかしら?―――和解条約の第4条にも”四大名門”が”貴族として”メンフィルに帰属する事は許さないって書いてあるのに。」
「確かに和解条約の第4条の緩和条件の所にも書いてあるな………『貴族連合軍に加担していた”四大名門”を除いたエレボニア貴族のメンフィル帝国への帰属の不許可を条件付きの許可(条件、爵位を一段階下げる。)』だから、”四大名門”である”アルバレア公爵家”は貴族としてメンフィル帝国に帰属する事はできねぇな………」
「そ、そんな……それじゃあ家族どころか、実家の地位や故郷まで失ったユーシスはどうなるんですか……!?」
不敵な笑みを浮かべたレンの指摘を聞いたトヴァルは複雑そうな表情で和解条約書を見つめながら呟き、エリオットは悲痛そうな表情でレンに訊ねた。
「さあ?レグラムでも説明したようにユーシスお兄さんには”アルバレア公爵家”が所有していた莫大な財産の四分の一を渡す事になっているから、”平民”として生活するんだったら少なくても一生生活費には困らないはずよ。”平民”としてメンフィル帝国に帰属してリィンお兄さんみたいに手柄をあげてお家復興を目指すか、もしくはエレボニア帝国がユーシスお兄さんを引き取って、ユーシスお兄さんに”貴族”として今後のエレボニア帝国を支えてもらう等今後どう生きるかはユーシスお兄さん次第よ。―――まあ、それ以前に今回の戦争や内戦の件があるからエレボニア帝国がユーシスお兄さんを引き取った所で、”アルバレア公爵家”の爵位を剥奪するかもしれないけどねぇ?」
「それは……………」
「――確かに今回の戦争や内戦の元凶の一つは”アルバレア公爵家”だが、ユミル襲撃に関わらず、貴族連合軍にも加担していないユーシス君まで罰するつもりはない。さすがに爵位は下げざるを得ないだろうが………ユーシス君が望んでくれるのならば、私達エレボニア帝国はユーシス君を”貴族”として受け入れる所存だ。」
「殿下………」
小悪魔な笑みを浮かべたレンの推測を聞いたガイウスが複雑そうな表情をしている中静かな表情で語ったオリヴァルト皇子の意志を知ったラウラは明るい表情をした。
「まあ〜、何だかんだ言ってもユーシスは”四大名門”だからね〜。例え今回の戦争や内戦の件で”四大名門”の権威が落ちても、”四大名門”の一角である”アルバレア公爵家”を味方にできる事はアルノール家にとっても”利”はあるしね〜。」
「ミリアムちゃん!時と場所を考えて発言してください!」
「後、頼むから遠回しな言い方をいい加減少しでも覚えてくれ………」
そしてミリアムが呟いた言葉を聞いたアリサ達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中クレア大尉は声を上げてミリアムに注意し、マキアスは疲れた表情で指摘した。
「あの……先程レン皇女殿下はエリゼさんがリィンさんの”正妻”になる予定だと仰いましたが、エリゼさんが正妻だとするとアルフィン皇女殿下は正妻になれない事になるのですが………」
「そ、そう言えば………!」
その時ある事が気になっていたジョルジュはレンに質問し、ジョルジュの質問を聞いたアリサは不安そうな表情で声を上げた。
「ええ。さっきも説明したようにアルフィン皇女がリィンお兄さんと婚約するまでにリィンお兄さんはエリゼお姉さんを含めて既に6人の女性達と婚約しているんだから、アルフィン皇女はリィンお兄さんの側室でリィンお兄さんの妻としての序列は最下位である7位になるわね。」
「お、皇女殿下が側室で、しかも序列が最下位だなんて………!?」
「失礼を承知で意見させて頂きますが、皇女殿下に対する扱いとして幾ら何でも非常識すぎませんか?皇女殿下は”帝国の至宝”と称えられている上、帝位継承権もお持ちになられているのですから正妻は無理でもせめて、側室としての序列は一位にすべきだと思われるのですが………」
レンの答えを聞いたトワが信じられない表情をしている中ジョルジュは複雑そうな表情でレンに指摘した。
「あのねぇ……リィンお兄さん達は妻の序列を全員で話し合った上それぞれが納得する序列にしてレン達メンフィル帝国もその序列を承認したのに、そこにアルフィン皇女が割り込んでせっかくリィンお兄さん達やメンフィル帝国が納得した序列を乱すなんて、そっちの方が非常識だと思うのだけど?―――しかも戦争の和解の為に”政略結婚”として嫁いで来た皇女が。」
「それは…………」
「リィンさんもそうだけど、エリゼさんを含めたリィンさんの婚約者の方達は政略結婚でリィンさんに嫁いでくる事になるアルフィン皇女殿下の事をどう思っているのでしょうね………?」
「…………レン皇女殿下。素朴な疑問なのですが、何故リィン殿がアルフィン皇女殿下のお相手としての候補に最初からあがっていたのでしょうか?」
呆れた表情で指摘したレンの正論に反論できないジョルジュが複雑そうな表情で答えを濁している中エマは不安そうな表情で呟き、アルゼイド子爵は真剣な表情でレンに訊ねた。
「え………それって、どういう事なんですか?」
「レグラムの時もリィンがバリアハートでの手柄の件で最有力候補にあがったって言っていたから元からリィンがアルフィン殿下のお相手としての候補に挙がっていたって事になる事だよ。」
「確かに普通に考えたらありえないよね〜。”男爵”は貴族の爵位の中では最下位なのに。」
「もしかして身分にうるさいエレボニアに対する嫌がらせとか?」
アルゼイド子爵の疑問を聞いたエリオットの疑問にトヴァルとミリアムはそれぞれ静かな表情で答え、フィーはジト目でレンを見つめて訊ねた。
「そんなバカバカしい嫌がらせをメンフィルがする訳ないでしょう?―――リィンお兄さんがアルフィン皇女の相手として最初から候補にあがっていた理由の一つはシュバルツァー家に対する”詫び”の為よ。」
「へ………”シュバルツァー家に対する詫び”………?」
「その”詫び”とは一体どういう事に対する”詫び”なのでしょうか?」
フィーの推測を呆れた表情で否定した後答えたレンの説明を聞いたマキアスは呆け、クレア大尉は真剣な表情でレンに質問した。
「エレボニアの内戦が勃発した際、内戦に無関係のメンフィルは巻き込まれないと高をくくっていたせいでユミルには防衛の為の臨時の派遣兵の一人も送らなかったから、その”詫び”よ。で、レン達メンフィル帝国の怠慢によってユミルが襲撃された”お詫び”としてアルフィン皇女をシュバルツァー家の跡継ぎであるリィンお兄さんに嫁がせる為にリィンお兄さんもアルフィン皇女の結婚相手の候補としてあがっていたのよ。特にリィンお兄さん達の両親――――シュバルツァー男爵夫妻は戦後のアルフィン皇女の処遇について随分心配していたと聞いているわ。アルフィン皇女がリィンお兄さんに嫁ぐ事で自分達の所でアルフィン皇女を可能な限りの好待遇で過ごしてもらう事ができるでしょう?」
「それは……………」
レンの説明を聞いたラウラが複雑そうな表情をし
「それにアルフィン皇女がシュバルツァー家の跡継ぎであるリィンお兄さんに嫁げば、リィンお兄さんとエリゼお姉さんの両親は当然として、リィンお兄さんやエリゼお姉さんも両親の意志を組んで強制的に嫁がされてきたアルフィン皇女を大切にするでしょう?どうせアルフィン皇女の処罰の件でもお人好しなリベール王国あたりが口出しして来る可能性が高いでしょうから、アルフィン皇女を大切に扱う可能性が高いシュバルツァー家にアルフィン皇女を嫁がせた方がリベールを含めたアルフィン皇女の件で文句を言ってくる勢力も納得せざるを得ないでしょう?しかもリィンお兄さんとアルフィン皇女の年齢差はたったの2年だから、アルフィン皇女の嫁ぎ先はあらゆる意味でシュバルツァー家の跡継ぎであるリィンお兄さんが適任なのよ♪」
「……言われてみれば皇女殿下の政略結婚相手としてシュバルツァー家はエレボニア帝国としては安心できる皇女殿下の嫁ぎ先ですわね。シュバルツァー男爵夫妻は戦争勃発前は皇女殿下を匿い、戦争勃発後も故郷が襲撃され、シュバルツァー男爵閣下ご自身も重傷を負ったにも関わらず皇女殿下の身を案じ、お二人のご子息であるリィン様はご両親の為に今回の戦争に参加して手柄をあげて、和解へと導いたのですから。」
「それらの件を考えると”シュバルツァー家”が跡継ぎに嫁いで来た皇女殿下を肩身の狭い立場で過ごさせる可能性はないでしょうね。」
「しかもシュバルツァー家は公爵に昇格する上、クロイツェン州の統括領主になる事が内定しているから、結果的にエレボニアのメンツも守られる事になるよね〜。」
「ハハ……アルフィンの政略結婚でエレボニア(わたしたち)を含めた勢力の苦言の対策にもなるからリィン君がアルフィンの相手の候補として最初から挙がっていたのか………アルフィンの兄として、そしてエレボニア皇家の一員として、その事は不幸中の幸いと思うべきだろうね。そのお陰でアルフィンは敗戦国の姫君として嫁いでも、嫁ぎ先で肩身の狭い立場で過ごす事もないだろうしね………」
「…………………」
更なるレンの説明を聞いたシャロンとサラ教官、ミリアムはそれぞれ静かな表情で呟き、オリヴァルト皇子は疲れた表情で呟き、アルゼイド子爵は目を伏せて黙り込んでいた。
「クスクス、色々と話が逸れたけどこれでわかったでしょう?今回の和解条約の件は既に遊撃士協会自身も認めている上、メンフィルが捕虜にしたアルフィン皇女には何の危害も加えていない所か捕虜として破格の待遇で過ごしてもらったし、和解調印までのほとんどの期間は”中立地帯”にいた為和解調印までの公平性は保たれている上”中立地帯”で和解調印がされ、その和解調印に遊撃士協会を含めた”中立勢力”も立ち会って和解条約に同意して調印しているのだから、トヴァルお兄さんの宣言―――――『支える篭手』の紋章を賭けての宣言は何の意味もない事に。」
「ッ!!……すまん………役に立たない所か俺自身がお前達の足を引っ張っていた………!」
「トヴァル殿………」
「…………………今までの話を聞いて一つだけ気になる事が出て来たわ。今までの話からすると本部の連中も和解調印が行われる事や皇女殿下がリベールに保護された事もあんたとの交渉で知っていたのに、何でその情報がレグラム支部に回って来なかったのよ?あたし達がレグラムにいる事もレグラム支部の受付をしているハインツを通して本部の連中もあたし達の居場所を把握していたはずよ。」
「そ、そう言えば………」
小悪魔な笑みを浮かべたレンの指摘に唇を噛みしめた後辛そうな表情で身体を震わせて謝罪したトヴァルの様子をラウラは心配そうな表情で見つめ、重々しい様子を纏って黙り込んでいたサラ教官は真剣な表情でレンに訊ね、サラ教官の疑問を聞いたトワは目を丸くした。
「クスクス、これは和解調印式の後でわかった事実なんだけど本部の人達はエルナンお兄さんに『エレボニア帝国支部の受付並びにエレボニア帝国支部所属の遊撃士達に両帝国の間に起こった戦争の和解調印式の件を教える事を厳禁とする』って指示を出していたそうよ?」
「何だとっ!?」
「ええっ!?何で、遊撃士協会の本部はそんな指示を出したのですか!?」
「なるほど…………そういう事ですか………」
「え……今の話を聞いてシャロンは何か気づいたの……?」
レンの説明を聞いたその場にいる全員が血相を変えている中トヴァルとマキアスは驚きの声を上げ、考え込みながら呟いたシャロンの言葉が気になったアリサはシャロンに訊ねた。
「はい。恐らく遊撃士協会本部はトヴァル様達――――エレボニアの遊撃士協会の関係者達に和解調印の件等が伝われば、トヴァル様達がオリヴァルト皇子殿下に連絡を取って和解調印の件等を教え、それを知った殿下が皇女殿下と共に和解調印式に参加する為にリベール王国を訪問する事によって、殿下の動きに注意していた貴族連合軍にまでリベール王国が皇女殿下を保護していた事が把握され、その結果ユミルの二の舞のような事が起こる事を防ぐ為かと。」
「”ユミルの二の舞い”って……」
「メンフィル帝国に奪われた皇女殿下の”救出”を大義名分にした貴族連合軍―――いや、エレボニア帝国とリベール王国の戦争へと勃発する事を防ぐ為か………」
「なるほどね………既にユミルの件による”前科”をそこのバカが作ってしまったから、これ以上遊撃士協会による失態を避ける為に本部の連中はあたし達に和解調印の件の情報を回さなかったって事ね………!」
「ッ!!すまん………!これも全部俺のせいだ……!」
複雑そうな表情で答えたシャロンの推測を聞いたトワが不安そうな表情をしている中ジョルジュは複雑そうな表情で呟き、サラ教官は厳しい表情で呟き、辛そうな表情で唇を噛みしめたトヴァルは再び謝罪をした。
「クスクス、状況から考えてサラお姉さんの推測は当たっているでしょうね。―――ああそうそう、ちなみにメンフィルの代表者であるシルヴァンお兄様と和解交渉をするエレボニアの代表者であるアルフィン皇女はまだ交渉をした事がない事に気づいていたアリシア女王達がパパに和解交渉の場にダヴィル大使も参加させてアルフィン皇女の補佐をさせる提案をして、パパもその提案を了承したから、アルフィン皇女は一人でシルヴァンお兄様と和解交渉をした訳ではないわよ?」
「ダヴィル大使………?一体誰の事なんだ……?」
「――――ダヴィル・クライナッハ男爵。エレボニア帝国の大使の一人で、リベール王国の王都にあるエレボニア帝国大使館に務めておられる方です。」
「と言う事はエレボニア帝国の大使も皇女殿下と一緒にメンフィル帝国と和解交渉をしたのですか………」
レンの話を聞いてある事が気になったガイウスの疑問にクレア大尉が答え、マキアスは複雑そうな表情で呟いた。
「ええ、そうよ。わざわざリベールとエレボニアの戦争勃発のリスクを背負ってまでオリビエお兄さんを和解調印式に呼ばなくても、オリビエお兄さんよりよっぽど交渉事に関して経験豊富なダヴィル大使がアルフィン皇女の補佐をしてシルヴァンお兄様と交渉をしたのだから、オリビエお兄さんが和解調印式にでなくても問題無かったでしょう?」
「ハハ……確かにリベールの旅行から帰ってくるまで滅多に社交界にも出ず、皇族としての交渉もして来なかった私と比べれば長年”大使”として様々な交渉に関わって来たダヴィル大使の方が適任だろうね。ちなみに和解調印式はいつ行われたんだい?」
「今日の午前9時に始まって、午後3時頃に終わったわよ。」
「ええっ!?きょ、今日!?」
「よりにもよって、今日に和解調印式が行われていたなんて………」
「ふ〜ん、なるほどね〜。午後5時以降でないと君達に会えないって言っていたのは、和解調印の件を知ったボク達が和解調印式に乱入しないようにする為だったんだ。」
「あ……っ!」
和解調印式が今日行われた事を知ったトワは驚き、ジョルジュは複雑そうな表情で呟き、意味ありげな笑みを浮かべたミリアムの推測を聞いたアリサは声を上げた。
「うふふ、メンフィルの同盟国であるリベールまでメンフィルのようにエレボニアとの戦争勃発を防ぐ為の”措置”なんだから、その程度の情報操作はしても仕方ないでしょう?―――まあ、例え今朝レン達がオリビエお兄さん達に和解調印の件を教えて、その件を知ったオリビエお兄さん達が和解調印式に乱入しちゃったら、お人好しなリベールはともかく他の中立勢力のエレボニアに対する心象は最悪になってその結果、シルヴァンお兄様達―――メンフィル側が要求する和解条約に対して”中立の立場”としてアルフィン皇女達と一緒に条約内容の緩和の嘆願はしなかった可能性も考えられたから、”全部終わった後に知って”良かったでしょう?」
「………………………」
不敵な笑みを浮かべたレンの説明にその場にいる多くの者達は複雑そうな表情をしたり、辛そうな表情で黙り込んでいた。
「……レン皇女殿下、本当にアリシア女王陛下―――リベール王国もこの和解条約内容を全て把握し、納得した上で調印したのでしょうか?この和解条約が成立してしまえば、リベールまで混乱に陥る可能性があると思われるのにアリシア女王陛下がこの和解条約内容を認めて、調印したとは正直信じられないのですが………」
「へ………それってどういう事ですか?」
「多分―――いえ、間違いなく第六条の件の事を言っているのだと思うわ。」
クレア大尉の質問を聞いて不思議そうな表情をしているマキアスの疑問にサラ教官は重々しい様子を纏って指摘し
「第六条って………」
「『”百日戦役”の”真実”―――――”ハーメルの惨劇”を世界中に公表する事』、か。」
サラ教官の指摘にエリオットは目を丸くして条約が書かれてあるコピーの書類を読み直し、ガイウスは静かな表情で呟いた。
「”百日戦役”…………12年前に起こったリベールとの戦争の件か。」
「”百日戦役”の”真実”――――”ハーメルの惨劇”って一体どういう事なのよ……?シャロンは何か知っている?」
「…………それは………………」
ラウラは考え込み、アリサに視線を向けられたシャロンは複雑そうな表情で言葉を濁した。
「………………―――わかった。ちょうどいい機会だ。”ハーメルの惨劇”の内容をみんなにも教えよう。」
「……本当によろしいのですか、殿下?」
オリヴァルト皇子の答えを聞いたアルゼイド子爵は静かな表情で問いかけた。
「ああ。”ハーメル”の件を公表する事も含まれている和解条約が成立した以上、私達が黙っていても、どの道判明してしまう事だ。”ハーメルの惨劇”とは―――――」
そしてオリヴァルト皇子は決意の表情になってその場にいる全員に”ハーメルの惨劇”を説明した――――――
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第34話 | ||
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本郷 刃様 そしてその真実が明るみになればエレボニアが大パニックになる事間違いなしだから隠蔽していたんでしょうね(sorano) ハーメルのことはエレボニア帝国民の課題ですからね、自分達がどんな犠牲による真実の上で生きてきたのか知るべきといえばそうでしょうし(本郷 刃) |
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