ある日の保健室
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学園の保健室、今日もそこに通っている……((保健室|ハックル))の影武者として働いてるディスペルから、毎日来るように言われているからだ。

実はこの学園、保健室よりも優れた医療施設があり、ここを利用する人は殆ど居ない為、ついさっきまでは良からぬ企みをしていた女子グループの溜まり場だったのだ。

だがある日、その首領である生徒会副会長とその仲間達がとある事件を起こした事で一斉検挙され、すっかり寂しくなったとか。

今ここを利用してるのは、居座ってる患者一人、そのお見舞いが数人、保険医(の影武者)一人、その知り合いの俺一人。

「しっかり忠告、したんだけどなあ〜……」

「はっきり言わないからですよ。あの時の彼女はそれぐらい頭が回らなかったのですから」

引き戸を開けると先客が居た。毎日ここに通っていた患者だ。今では保健室の主として、ここに住み着いているようだ。

寮の部屋が設けられて無いディスペルが寝泊りしていると聞いてそうするようになったらしい。

「おっ、待ってたぜ〜」

「もう来たのですか……」

患者の方は不機嫌そうに不貞寝をし、ディスペルは自然な笑顔で出迎える。

「そっか……その飯食い仲間とは友達になったんだな」

「放課後一緒にクエストやるんだ。その為にアレ持って来たし」

「ここの荷物検査ガバガバだからな〜……その所為であんな事件起きたってのに」

これと言って変わった話じゃないけど、こうして話していると結構落ち着く……所謂、【実家に帰ったような安心感】という所か。

「ところでさ、そのクエスト行く時俺もメンバーに「ごめん、もう間に合ってる」原則パーティーって大体四人ぐれーなんだろ?少なくとも後二人空いてんじゃん」

「残りの二人には生徒会長とその相方が入ってるんだ……というか仕事放棄しちゃ駄目じゃないか?」

「ふっふっふ……実は最近、有能なアシスタントとそのブレインを拘そ……((確保|スカウト))したんだ。アシスタントの方は倒れても倒れても((すぐさま復活|コンティニュー))する働き者さ」

何時の間にスカウトを……ディスペルは手とか足とかが早いのは知ってはいるが、これほどとは……

ハックルが「アイツは何故か変人にモテる」ってよく言ってたけど、それと関係あるのかな……

「そしてブレインの方は博識でな、薬の材料とか作り方を検さ……質問すれば一発で解っちまう、まさしく人間インターネットって奴さ」

得意げに助っ人を自慢するディスペル……まるで自分の子を自慢する親バカのようだ。

確かにその二人さえ居ればディスペルもかなり捗るだろう。この学園には変に異質で優秀な生徒がやたら多いし、そんな生徒が居ても可笑しくない。

現に大事件を起こした副会長だって、人の認識やら意識やら操作する能力を持っていたし……かく言う俺にも、不思議な力が目覚めたわけだし。

あの集団洗脳未遂事件の当日、病養中だった生徒会長と協力して副会長のこれまでの悪行を暴いた。

そして濡れ衣を着せられて拘束された飯食い仲間の身の潔白を、周りの証言やアリバイ、そして現場の周辺から回収した証拠で証明しようとしたその時だった。

何処からか吹き矢で刺されたかと思ったら自警団グループに拘束され、モニターは消され、これまでの証拠や証言等をデマとして片付けようとした。

このままだと場が混乱するだろうと考えて事を穏便に済まそうとしたのだろう。

必死にもがく俺だったけど、自警団の一人に痛めつけられた。暫くやられた俺は、痛めつけた自警団に偽善者だの自己満足だの目立ちたがりだの勝手な思い込みだの、耳元でネチっこく言われた。

俺はアイツを助けたと悦に浸るためにやってるわけでも無ければ、正義だの何だのと言った理由でやってるわけでもない。周りの事なんて関係ないし、ちやほやされるのはごめんだ。

そもそも大食らいのアイツがやってるとすれば、購買部や食堂が悲惨な状況になって居るはずだ……的外れな事ばかりを知ったかぶりに囁かれた俺は、これまでに無いほどムカついていた。

嗚呼、なんて事だ。こんな体験生まれて初めてだ。まさかここまで【馬鹿にされる】なんて、ここまで【侮辱される】なんて、ここまで【見下される】なんて……今までを思い返しても、ここまで【頭にきた】事は無かったよ。

その時ブチギレた拍子に覚醒したのがあの力だった……左腕は黒く堅く強靭な異形なものとなり、全身にみなぎる力で拘束や周囲の自警団を吹っ飛ばした。

それからは無双状態だった。襲い来る敵を掴んでは投げ、掴んでは叩き付け、殴り飛ばし、蹴り飛ばし、踏みつけ、障害を取り除きつつ用心棒の猛攻をかいくぐって副会長の首根っこを掴んで飯食い仲間の居場所を問い詰めた。

けど副会長は自分は近い将来人を導くだのアイツは近い未来全てを脅かす災厄になるだの言って全然教えもしなかったので、更にキレて完膚なきまで叩き付けて叩き込んだ。

用心棒の猛攻をその場にあった副会長や自警団の一人で防ぐ中、「この場は我々に任せてもらおう」と同じような力を持った生徒会長直属の部隊を名乗る人たちが突然現れ、飯食い仲間の居場所を俺に教えた。

俺は教えられた場所に向かって一目散に走った。しかしたどり着いた頃には飯食い仲間は随分と痛めつけられ、そして今まさに相手の鋼鉄の義手によって頭を握りつぶされる所だった。

その時怒りが一周回って冷静になった俺は、焦らず慌てず気配を消しつつ相手の直ぐ近くまで詰め寄って、相手の義手の親指を引きちぎって飯食い仲間を助けた。

それから相手の義腕を掴んで叩き付け、そして間髪入れずに相手を踏みつけ義腕を引き千切り、引き千切った義腕を相手に何度も叩き付けた。

その後飯食い仲間を保健室に運んだ後、安堵したのかふっと意識を失って眠ってしまった……ようだった。

実の所大暴れした時の記憶が物凄く曖昧で、生徒会長に記録ビデオを見せられて初めて知った……そしてその時の自分を我が事ながらもドン引きした。

 

「偽善者だの自己満足だの……うざってェンだよモスキィiィトォォoooooo!!」

「部下だかペットだか奴隷だか知らネeケどよoォ……そンならそれらシく!クンクンくnくn媚び諂って!ご主人サマの棒でもシャブってロやぁa!!」

「人を導くダa……?悪霊モどキが……ヒと指揮ってんじゃネェよo!!」

「チっ……トこトn使えネぇな((副会長|コレ))」

「なマいキだa?……テメぇこソ、ガらクタnoくセに生イ気ナンだヨ」

 

使った覚えの無い汚い言葉による罵詈雑言を吐きながら荒れ狂う様は、本当に自分がやったのかと疑う程に酷かった。

某純情デビルハンターのような豪快な戦い方やバグったような声、やっているのは自分なのに【まるで自分じゃないみたい】だった。

あの力は自発的に目覚めるものではないらしく、このまま野放しにするのは危険だという事で左腕に制御装置なる腕輪を付けられた。

付けられた当初は「神機使いの腕輪っぽくてカッコいい!」と大はしゃぎだったが、後から「服の着替えどうしよう……」と不安になった。

そんな一喜一憂の反応を楽しんだ生徒会長がカバーを外すと腕時計サイズになり、着替えの心配は無くなった。

後でディスペルが調べた所、あの力を封じる機能以外は付いてないようだ。

「余計な機能を付けるとアレの影響で使い物にならなくなるから寧ろ付けられない」と言うのがディスペルの推測だ。

それから数日後、生徒会長は転校生として通うようになった。生徒間ではもう注目の的のようだ。

彼女の同学年の二年はおろか、三年や一年も生徒会長の話題で持ち切りだ。ファンクラブが即座に出来、老若男女関係なく恋に落ちる者達も続出してるとか。

そんな中、俺はディスペルの検査を定期的に受ける事になった……今日来たのもその為だ。

「……よしっ、今日も異常なしっと。制御装置というか封印はしっかり機能してるよーだな。」

「……毎日これやんないといけないのか。」

「これ大事なんだぜ?何せお前はもう普通の人間じゃなくなったんだから」

「人間……ではあるんだ」

「人としての境を越えちゃいねーからな。まあとにかく、お前はもう【常人】じゃない……それが何を意味するのかをよーく、考えておくんだな。」

常人ではない、普通の人間ではない、それは他と明らかに違う事、溝や差が確実に出来る事を意味する。

そんな自分自身の状況を踏まえて、自分以外の誰かとの接し方を考えなければならない。ある時あの力が使えるようになったとしても、その時の状況や周囲の心情を把握しなければならない。

これから先も反面教師の【奈落の女神】として語り継がれるであろう元副会長は、自分の力に酔って溺れて学園中を巻き込んだ事件を引き起こして((生徒会追放|あのザマ))だし。

そういう点では生徒会長を見習った方が良さそうだ……今度色々と教えてもらうとしよう。

「そーいや自警団グループな、お前にコテンパンにされた奴らが辞めた所為で縮小して、生徒会に吸収されたみてーだぜ?」

「え、じゃあ俺のせいで……」

「責任感じなくていんじゃね?あいつ等が勝っちまったらあの子は助からなかった……それだけの事さ。」

「でも……」

「何かを助けるという事は、別の何かを切り捨てる事を意味する。どーせ切り捨てるなら情の入ってない敵とか仇とかのほーが良いのさ。」

「…………」

ディスペルはそう言うが、俺としては気の毒な事をしたなとは思ってはいた。

向こうも仕事や任務を全うしていただけだろうし……まあ恨むなら人を散々馬鹿にしたあの自警団員を恨んで欲しい。

流石にあれは言い過ぎだった……尊敬する人の髪型を真似てる学生を貶してボコられた漫画家のような目に遭っても仕方が無かったと思う。

だから俺は謝る気は無いし省みる気も無い……というか生徒会の一員になって、案外良い思いしてるかもしれない。

因みに合併でなく吸収になった決め手は人員不足ではなく、自警団のリーダー達が良くお酒を買っていた事そのものだったようだ……正直言うと、それを知って気が楽になった。

そんな雑談をする事数分、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

「おっとそろそろ時間じゃねーの?」

「あ、そうだ」

「そんじゃ放課後、楽しんでけよ〜」

保健室を出て次の授業に向かう。授業は楽しいものじゃないしどうしても好きにはなれないけど、その後の放課後や休みの日が待っていると思えば頑張れる。

きっと皆もそうやって授業を受けて、その内容を学習していくのだろう。

飯食い仲間が濡れ衣を着せられたり、疑いを晴らそうとしたら止められて馬鹿にされたり、そういった嫌な事がこれからもあるだろう。

けど良い事も偶にあったりするだろうから、学生の時に謳歌する青春というものは甘く、酸っぱく、そして苦くて渋くて刺激的なのだろう。

そんな青春の日々は、まだ始まったばかりだ。

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ネタにして良いと言ってたので、使わせてもらいます
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タグ
二次創作の二次創作

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