「真・恋姫無双  君の隣に」 第71話
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「一刀殿、報告するのです。徐州、豫州は制圧が完了し、?州も残り半分程なのです」

左慈の事が片付いて、俺は急ぎ魏を攻めている軍と合流した。

総指揮を執って貰っていたねねから最新の報告を聞く。

「・・魏軍の動きは?」

「陳留で貝の様に閉じ篭っているのです。ですが細作からは兵の離脱が著しいとの事で、狙い通り戦火は縮小出来ているのです」

「そうか、ありがとう、ねね。俺の無茶な考えを実現してくれて」

「お礼を言うのはねね達なのです。軍師としてこれ程やりがいのある戦は二度と無いと断言出来ます。ねねは一刀殿の軍師に成れた事を誇りに思うのです」

周りの皆も肯いて、俺は本当に恵まれてると思う。

これからも頑張ろうと思うし、感謝の気持ちも伝え続けたい。

でも、感動に浸るのはまだ早い。

皆がここまで舞台を整えてくれたんだ、俺も絶対に成し遂げて見せる。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第71話

 

 

此れは朗報か、それとも凶報でしょうか。

遂にこの陳留に華軍が攻めてきました、しかも是まで不明でした一刀殿が率いている軍が。

「止めは自らって事かしら」

「雪蓮、御遣いとお前は違う。戦いでは無く降服を促しにきたのだろう」

「あのね、冥琳。言っとくけど私の考えの方が普通で、一刀の方が変なんだからね」

確かにそうでしょう、一刀殿は政にしても戦にしても甘過ぎます。

初めて寿春を訪れた時にそんな本質がみえていたからこそ、私は華琳様を主と迷いませんでした。

「変でも何でも僕達は追い込まれてる、その事実は変わらないわよ」

「詠の言う通りやな。負け惜しみにしか聞こえんで」

・・その通り、負け惜しみです。

どうしてこうなったのか。

この魏国に集まっている人材は間違いなく大陸において最高峰、統べる華琳様の才はそれこそ並ぶ者などいませんのに。

「・・どうやらここまでね」

華琳様!

「貴女達、これまでの働きに礼を言うわ。後は各々思うように為さい」

それは間違いなく敗北の宣言。

私も桂花達も考え直して頂く様に言葉を重ねますが、具体的な手立ての無い事実が口数を徐々に減らします。

そして、最も聞かねばいけない事に言及し返って来た言葉は、

「生き恥を晒す気は無いわ。私は天命を自ら天に還す」

意志は固く春蘭殿達がせめて共にと願いますが、華琳様は最後の命と殉じる事を禁じます。

・・無力です。

何も、何も出来ずに終わるのかと思いました。

言うべき事はもう無いと背を向けた華琳様に、とんでもない暴言を掛ける者が出るまでは。

「逃げるんだ、華琳様」

季衣殿!?

「季衣、貴様、華琳様に対して何と無礼な!」

「春蘭様は黙ってて、僕は華琳様に言ってるんだよ」

信じられません、春蘭殿を常々尊敬していると言っている季衣殿とは思えない言葉。

それに感情的に喋る私達と違って、むしろ冷ややかに語りかける姿に春蘭殿が気圧されています。

「そんなに兄ちゃんに会うのが怖いの?何だかんだ言って結局は惨めな自分を見せたくないだけなんだ」

「黙りなさいっ、季衣!」

振り返り声を荒げる華琳様のお顔は殺意そのもの。

「黙らないよ。さっき好きにしろって言ったよね。だったら力尽くでも兄ちゃんの所に連れて行くから」

「季衣!!」

二人とも遂に武器まで取り出しました。

間に入ろうとする春蘭殿を止めているのは、まさかの普段は仲裁役である秋蘭殿。

他でお二人を止められる武を持つ者は霞殿ですが、黙って静観しています。

私や風のような文官では話になりません、どうすればこの場を治められるのか。

「・・ねえ、桂花。華の陣容は?」

「雪蓮、こんな時に一体何よ!」

「いいから教えて!」

「・・それが、何度か確認はしたのだけど、一刀のいる本陣が二万で両翼の関羽と華雄がそれぞれ十万で間違いないそうよ」

何ですか、その歪な陣形は!

耳を疑う報告、何度も確認したという桂花殿の対応は当然です。

本陣が手薄で脇が重厚?ありえません。

「ふ〜ん、そういう事」

納得したような雪蓮殿のお顔、何だというのですか。

「雪蓮、どういう事だ?」

「分からない?一刀からのお誘いよ、華琳へのね」

 

 

来たか。

門が開き、真っしぐらに此方左翼に向かってくるは孫の旗。

「華雄、敵兵数は約一万、敵将は孫策のようなのです」

「そのようだな。では行ってこよう」

「大丈夫なのですか?」

ねねの心配は尤もな事だ、何しろ以前に惨敗した相手だからな。

「誰であろうと私は主の願いに応えるだけだ。その為に我が武はある」

「・・武運を願っているのです」

「ああ」

私は愛馬と共に駈け出し、兵達が続く。

敵兵の姿がはっきりと見えてきた、先頭を駆ける孫策の姿が。

私は馬を止め、兵に待機の指示を出す。

此方の動きを怪訝に思ったか、向こうの足も止まる。

敵に単騎向かう私に、孫策が近寄ってきた。

「孫策、貴様に一騎打ちを申し込む。私を倒せば兵が退く事を約束しよう」

「あらあら、少しは変わってるかと思ったけど、相変わらす猪だったわね」

「受けるか?」

「いいわよ、都合良いし」

私は馬から下り、金剛爆斧を構える。

対する孫策も馬を下り、構えもせず無造作に間合いに入って来た。

 

私が任された右翼に対するは張遼軍一万。

だが敵は途中で足を止め、一騎と従者らしき者だけで近付いてきている。

「紺碧の旗に偃月刀、あの者、話しに聞いた事のある張遼将軍か?」

「あ、愛紗さん。た、確か張遼将軍はかつて月さんの臣下でお味方だった筈です」

ふむ、多少引っ掛かるものはあるが、それならば戦闘は避けたい一刀様の願いに添えるかもしれん。

「雛里、付いて来てくれ。話をしてみよう」

此方が向かう事に気付いたか、相手の足が止まった。

普通に話せる距離まで近付いたところで、明るく声を掛けられた。

「よっしゃ、当たりや!アンタ、関羽やろ。戦ってみたいてずっと思っとってん」

・・何を言っているのだ、この者は?

「霞、呆れられてるわよ」

「あっ、すまんな、名乗るの忘れ取った。ウチは張文遠や」

「・・関雲長だ」

やはりこの者が神速の張遼か、となると対等に話している従者らしき者も名のある者か?

「僕は賈文和よ。話があるんだけど聞いてもらえる?」

軍師賈駆か、この者も確か元董卓軍。

話なら軍師の雛里に任せよう。

「お、お話とは何でしょうか?」

「僕達の役目はあくまで右翼の足止めなのよ、そちらの本陣に向かう主軍の為のね。でも既に勝敗の決してる戦で兵を死なせたくは無いの」

「で、では投降という事でしょうか?」

「ええ、ただ僕から一つだけお願いがあるの。こちらの主軍を見逃して欲しい、おそらくは貴女達の目的と合致してると思うから」

成程、そういう事か。

「お、お気付きなのですね」

「まあね、あいつらしいわよ」

呆れた口ぶりでありながら、優しい表情をしている。

気持ちは分かる、話を一刀様から聞いた時の私達と同じ顔だ。

「わ、分かりました、では武装解除をお願いします」

「あっ、ちょっと待ってくれるか。一つお願いがあるんや、関羽と戦わせて欲しいねん」

私と雛里の時が止まり、賈駆が大きく溜息を吐く。

先程までの話は何だったのだ。

「何故に張遼将軍は私と闘おうと言うのだ?意味が無いではないか」

「その通りや、戦としては意味なんかあらへん。ホンマの理由は訣別の為やねん、武人としてのウチとのな」

どういう事か。

「この戦が終わったら乱世はほぼ終わりや、もう武を存分に振るう戦なんて無いやろ。勿論その方が絶対ええけどな」

「それは・・」

何となく張遼の言いたい事が分かり、返す言葉に行き詰る。

「狡兎死して走狗煮らる、や。武官のウチなんて無用の長物な世の中になる」

「一刀様はそんな方ではない!」

漢帝国を建てた劉邦のような、己の権力の為に功臣を排する王とは違う!

「分かっとるよ、あくまで例え話や」

鷹揚に答えながらも寂しげな顔だ。

目を逸らしていた事が突きつけられる。

私とて、磨いてきた武が必要無くなるのを無条件で喜べはしない。

同じなのだ、私も。

「そないな顔せんでや。だからこそ最後に憧れ取ったアンタと武を交えたいんや。それに乱世が終わった後の夢もあるしな」

「夢?」

「そうや。惚れた男と一緒に旅に出んねん、羅馬に行こうって約束したんや」

先程までとはうって変わり楽しそうな顔、そんな約束を、羨ましいと心底思う。

「そうか、良い夢だな」

わ、私も願わくば一刀様と。

「ちょっと、霞。そんなの初耳よ。何時の間にアイツとそんな約束してたのよ、僕や月を差し置いて!」

「うん?夢でやけど?」

「・・夢って。アンタね、それは約束じゃないわよ、驚かせないで!」

二人の喧騒を横に、私は考え事に没頭していた。

・・先程、賈駆は月と言ったか?

という事は、もしや、夢とは言ってたが相手は一刀様か?

それに賈駆の発言にも引っ掛かる点があるのだが、一刀様、御説明をっ!

「あ、愛紗さん、愛紗さん!」

ハッ、いかん、危うく思考の渦に飲み込まれるところだった。

気持ちを切り替え顔を上げると、張遼が真摯に私を見つめていた。

「どやろ、ウチの身勝手に付き合っては貰えんやろか?」

確かに身勝手な事だ、だが、私も同じ心だ。

雛里と賈駆が無言で下がる。

「お相手仕る。我が真名は愛紗、全力を持って闘おう」

「おおきに。ウチは霞や、いくで!」

 

左翼も右翼も止まってる、霞ちゃん達が上手くやってるんだ。

だったら僕も虎豹騎隊長として役目を果たさなきゃ。

大分と減って今は二千しかいない親衛隊だけど、何としても華琳様を兄ちゃんの所まで辿り着かせてみせる。

華琳様を護る形で僕と春蘭様と秋蘭様が先頭を走る。

いよいよこっちの十倍はいる華軍に飛び込もうと近付いたら、

「な、何!」

「何だと!」

道を開いた?敵の兵達が左右に分かれていく。

それに、な、何これ!敵兵達が降服するように左右から声をかけてくる。

無駄死にするなって。

家族や恋人の事を考えろって。

兄ちゃんは敵だった者でも大事にしてくれるって。

槍や剣じゃなくて言葉の攻撃、口撃を掛けられてる。

気になって後ろを振り返ってみたら、後方に足の止まってる兵がいた。

進めば進むほど声は大きくなって比例するように兵達が次々に脱落していく、一般兵じゃなくて忠誠度の高い親衛隊隊員達が。

・・そうだった、兄ちゃんは敵であっても全然嫌われてない王様だった。

一昨年の戦では捕虜になった人達を治療までして返してくれた。

侵攻してきても民を襲ったり田を荒らしたりしてない。

それに助けに来てくれた事もある、その事を親衛隊隊員達も当然覚えてる。

「そういう事だったのか。両翼に挟まれているとはいえ、妙に縦長な本陣だとは思っていたが」

「おのれ、姑息な真似を!」

もう味方は百騎もいないよ、でも兄ちゃんの牙門旗までもう直ぐだ。

そう思ってたら、兵と一緒に動かないで僕達の前に立ちはだかる知り合いが二人。

「季衣、よく連れて来てくれたね」

「ここまで」

呂布将軍が戟を振り下ろす、それだけで大地が震えた気がした。

馬が凄く怯えて、僕達の前進は急停止する。

流琉が僕を見る、直ぐにその意味が分かった。

「華琳様、此処は僕達が引き受けます。兄ちゃんの所に行って下さい!」

「華琳様、北郷の奴を叩きのめしてやって下さい。華琳様の偉大さが改めて分かり泣いて謝るでしょう」

「華琳様、御武運を」

「・・任せたわ」

華琳様が馬から下りて走って行く。

流琉も呂布将軍も邪魔しない、でも当然僕達は違う。

「お前達は駄目」

春蘭様と秋蘭様に呂布将軍が戟を向ける。

「季衣もだよ」

流流が伝磁葉々を構えて、僕も馬から下りて岩打武反魔を構える。

「分かってる。前の戦いの決着を付けてやるもんね」

「フフ、いくよ」

 

 

俺が知る限り、どんなに兵力差があっても降服という選択を取る王は少ない。

取らない理由を挙げるなら、誇り、意地、責任、未練、執着とか他にも色々あるだろう。

当然一つだけではなくて幾つも折り重なっている。

華琳の場合は俺みたいな常人の物差しでは測れない誇り高さ。

それに責任感もとても強い、王の役目を心身を削ってでも果たそうとする姿勢。

見習う所はそれこそ数え切れない、俺の尊敬する、寂しがりやの女の子。

・・この戦の幕の下ろし方。

俺も王である以上、個人的感情でなあなあに済ます訳にはいかない。

この戦は俺だけのものでなく、関わる全ての人のものだ。

だからこそ、華琳から引き出すものがある。

その為に皆に無理を言って、こんな舞台を用意したんだ。

俺の前にいる兵達が道を開ける。

現れたのは、魏王、曹孟徳。

 

「一刀!!」

「待ってたよ、華琳」

説明
絶体絶命の魏国。
華琳の決断は。
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コメント
もうすぐ全てに決着がつきますなぁ〜終わりが近いと思うと寂しいな;;(nao)
真恋姫の呉ルートの悲劇再び…にならなきゃいいが(鋼の後継)
「恋しさと切なさと心強さと〜」・・・BGMに流してええんやで?(M.N.F.)
ここまでして漸く引っ張り出せる女の子、たははスケールでけー(未奈兎)
華琳達の思いに応え、尚且つ最小限の犠牲をとなれば、やはりこれしかない、か。(飯坂裕一)
タグ
季衣 愛紗 華雄  北郷一刀 真・恋姫無双 

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