誘蛾灯
[全1ページ]

 静かな夜、隣の家に門付けの獅子舞がやって来て踊っている。磨りガラス越しに獅子舞が踊っているのを見ていて、うちにも来ないかなと思うけども、うちは新興住宅なので来なくて、隣の家は古くからある農家の家だから獅子舞がやって来るのだ、うちにも来ないかなと思う。

 煙草がなくなったのでコンビニまで行くことにする。人気はなく、外灯は100mおきに一つ立っているきりなので外灯と外灯の間は薄暗く、虫がたくさん死んでいる穴が道ばたの畑の隅っこにあってそこに落ちたら人間でも助からないという話を子供の頃に聞いてすごく怖かったことをそこを通るたびに思い出す。穴を覗き込むと、底の方から甘ったるい腐った匂いがして、たぶんそれはダメになった果物を放っておく穴なので、そこで虫がたくさん溺れて死んでいるんだろう。農家の人はそこに柵でもしておけばよいのだけれどもしていないから、今でもたまに子供が嵌まって大騒ぎになるということが数年に一回ぐらいあって、そういうとき僕はああとなんだか溜息をつきたくなるのは、本当は僕がそこに嵌まっていなくちゃいけなかったんじゃないかなと思うからだ。

 コンビニへ行くと今週のジャンプが来ていて、ハンターハンターが連載再開したと言うから見てみたらまだ載ってなくて、それは今週じゃなくて来週だという話だからめくってみて損をした気分になるけれども、店員がじっと見ているからめくってしまったジャンプは買わなくちゃいけないんじゃないかと思って煙草と一緒に買う。

 コンビニは個人経営の夜9時には閉まってしまう店でいつ来ても薄暗く、節電とか言って大震災の時に電気をケチるようになってからはずっと店の中の電気を四つまで消してしまって、だから隅の方のビールの棚からビールを選ぶときいつもどれが発泡酒だか第三のビールだか分からなくなってしまって、そのたびにイラッとするけれどもここにしかコンビニがないので仕方がない。それを店員に言ったって店員はバイトの中学生でオーナーは隣の町に住んでいてコンビニには週に一回来るか来ないかぐらいなのだから仕方がない。

 夜になると店の前のいやに大きい誘蛾灯の青い色が店の中に差し込んできて、頻繁にバチッと言って蛾が死んでいく音が店の中に響いてくる。BGMはないからその音とビールの冷蔵庫がブウーンと言ってるのが聞こえるぐらいなもので、そうすると何だかここは葛西臨海水族園でマグロの一匹もいなくなった大水槽みたいに死んだ海なんじゃないかっていう気がしてくるから僕は本当は悪い気持ちにはならない。

 立て付けの悪い自動ドアが勝手に開いてそしたら誘蛾灯に打たれた蛾がひらひらと入ってきて僕の足元に落ちてきたので僕はそれを踏んづけてしまう。

説明
オリジナル小説です
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
551 551 2
タグ
オリジナル 小説 

zuiziさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com