真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 34 |
「……来たぞ!」
俺は遠くに関羽たち旗を見つけて声を張り上げる。
「こちらでも確認しました!」
「じゃあ、弓兵さん、斉射を……! てっ!」
鳳統の合図で弓兵が斉射を放つ。
「もう一回お願いします!」
次は孔明の合図だ。
二回の斉射が終わって休むまもなく鳳統が槍兵へ指示を飛ばす。
「槍兵さん、突撃してくださいっ!」
その合図に合わせて槍兵の一団が突撃を敢行する。
関羽たちの隊は突撃のタイミングに合わせて隊を二つに分けて俺たちの道を作り出したが、その中で関羽たちの姿が見えた。
「桃香さま!」
あちらも気が付いたようで、こちらに大声で呼びかける。
「愛紗ちゃん! 鈴々ちゃん! 星ちゃん! 三人はこのまま駆け抜けて! 私たちが一度押し返した後で、袁紹さんの所に向かうよ!」
「御意です!」
返事を返した関羽は同じく聞いていたであろう趙雲、張飛と共に後ろへ駆け抜けていった。
「よし、じゃあ朱里ちゃん!」
「はいっ! 弓兵さんは斉射を2回! 突撃した槍兵さんたちの後退支援をお願いします! 槍兵の皆さんはすぐに後退をしてください!」
その号令に素早く対応する兵たちを見ながら劉備も指示を飛ばす。
「突撃部隊が帰還したらすぐに後退するからね! みんな、準備をしてね!」
「はいっ!」
そして、突撃部隊が帰還した直後に俺たちもなだれ込むよう演技をして袁紹の本陣へ向かった。
「ん? あれは……」
その時、その本陣から砂塵が舞い上がる。
「孔明あれは」
「袁紹軍の部隊のようです。旗は顔の字と、文の字、袁紹軍の二枚看板の顔良将軍と文醜将軍です!」
「なるほど、向こうから来てくれたってわけか」
まぁ、あいつらを巻き込むって目的は達成できるか。
「じゃあ、このまま」
「はい! なだれ込みます!」
そして俺たちは乱戦へと持ち込んだ。
「よし! うまくいったぞ!」
北郷が歓喜の声を上げる。が、劉備は少しだけ不安そうだ。
「このまま、本陣壊滅なんてことにはならない、よね?」
「いえ、その心配はないかと」
そういって孔明が指さした先には見慣れた“曹”の旗。
「ありゃ、曹操か」
どうやら、華雄軍に横槍を入れるつもりらしい。
「これは、荒れるな」
その時、さっき合流した三人の中から張飛が元気よく案を出す。
「なら、鈴々がこの隙に華雄と一騎打ちをするのだ! そいで、ババーンって華雄をぶっ飛ばして、形勢逆転で勝利なのだ!」
「……なるほど、それもいいかも」
そういって北郷は自分の考えを皆に語る。
「この乱戦なら、鈴々が言ったように一騎打ちに持ち込むことも容易だ。そこで華雄を討ち取ることができればこれは“策だった”って言い訳ができると思うんだ」
「なるほど、そいつはいい。戦果を挙げれば袁紹も文句を言いづらいだろうしな」
「……ふむ、確かに。しかし」
そこで関羽が少し残念そうな表情になる。
「華雄ほどの良将ならば、正々堂々、真正面からの一騎打ちで闘いたかったものだが」
「まぁ、気持ちはわからんでもないが、今回ばかりは致し方ないだろ」
「そうですね。では、鈴々、華雄の件は任せてもよいか?」
「任せるのだ!」
元気よく返事をした張飛にうなずきを返した関羽は北郷に案を打診する。
「では、我らは鈴々の援護に回ります。私が部隊を率い、華雄隊の右翼を受け持ちます」
その言葉に趙雲も続く。
「なら、私は左翼を持とう」
そうなると……。
「一瞬できた隙間に張飛が突撃ってところか」
「そうですね。ただ、確実なものにするため、玄輝さんにはその“後詰め”をしてもらいたいのですが、いいですか?」
「ああ、問題ない。俺が後ろを受け持つ」
孔明の願いを受け入れ、俺は北郷に確認を取る。
「北郷、これでいいか?」
「ああ。でも、その前に」
北郷はそういって、張飛に向き合う。
「鈴々、くれぐれも無茶はしないでよ?」
だが、張飛はその言葉を明確に否定する。
「それはできないのだ。一騎打ちは命のやり取り。少しでも手を抜いたら相手にも失礼だし、何よりその方が危ないのだ!」
その言葉に苦笑する北郷。
「それもそうだね。でも、君が傷ついたらもっと傷つく人がいることも忘れないで」
そういって北郷は劉備の方を向く。案の定というか、ものすごく心配そうな表情をしていた。
なるほど、確かにそうだ。しかし、それは張飛に関しては無用の心配だろう。何より、一番長く連れ添った姉が心配していないからだ。
「ご安心ください、ご主人様、桃香様。鈴々であれば無事に戻ってきます」
そして、その意見は俺も同じだ。
「華雄と戦ったことのある俺から言わせてもらえば、まず勝てる。だから安心して待ってろ」
だが、その言葉に劉備は首を横に振る。
「そんなこと言われても、安心なんてできないよ」
だが、そんな劉備の目をまっすぐに見つめて、張飛は言い切る。
「お姉ちゃん、鈴々は必ず帰ってくるのだ」
その言葉と、姿勢に劉備はその表情を変えることのないまま、せめてもといった感じで目線を合わせる。
「約束、だからね」
「ん、約束なのだ!」
そして、小さき猛将は俺たちに向き合う。
「じゃあ、愛紗、星、玄兄ちゃん。鈴々の援護、お願いするのだ!」
「任せろ。華雄まで無傷で届けてやる」
「無論だ。我が龍牙に懸けて誓おう」
不敵に笑う二人に合わせて俺も答えるとしよう。
「お前の後ろには俺がいる。何の心配もするな」
その言葉に、張飛もいつもとは違う闘志のこもった笑顔で答えてくれる。
「よし、作戦は決まった。4人とも、武運を」
「はっ! では、参ります」
関羽は静かにそう告げると、ほかの二人も同じように戦場へ向かっていく。
俺も向かおうとしたところで、劉備に声をかけられた。
「玄輝さん、鈴々ちゃんのこと、よろしくね?」
「……心配せずに待ってろ、と言いたいところだが今のお前さんには効果なさそうだな」
「う〜」
「……任せろ。あいつに傷一つ付けさせん」
それだけ言って、俺も背を向けて駆け出した。いまだ鉄と鉄がぶつかり合う死のに臭いが立ち込める舞台へ。
4人で前進しているとき、ふと敵に乱れが生じた気がした。
「……関羽、今、敵が」
「ええ、乱れましたね」
原因が何かと考えていると、趙雲が東の方を指した。
「あれだ。あれが原因だろう」
その方角を見れば、俺たちの軍の旗が大量に動いている。
「ありゃ? 旗がたくさん動いているのだ!」
「……なるほど、そういうことですか」
どうやら、関羽はわかったようだ。
「おそらく、派手に後方を揺さぶるつもりなのでしょう」
「つまり、陽動ってことか?」
「そういうことでしょう」
なるほど、となると孔明か鳳統の策か。
「ま、なんにせよありがたい。これで多少楽ができるってもんだ」
その言葉に趙雲がうなずいて続きをつなげる。
「そうですな。では、鈴々。お膳立ては我らに任せよ」
「うん! 鈴々がババーンって華雄をぶっ飛ばすから、安心して待ってるのだ!」
「うむ、そうさせてもらう。では、参ろう!」
その声に全員がうなずいて指示を飛ばす。
「では、これより作戦を開始する! 関羽隊は敵右翼、趙雲隊は敵左翼に当たる!」
「今回は敵の撃滅が目的ではない! 敵を釣り上げるのが目的だ! 皆、命を粗末にするなよ!」
「御剣隊は張飛隊が突っ込んだ後でその穴を守るのが仕事だ! 関羽が言ったように変な気を起こすんじゃねぇぞ!」
「“おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!”」
そして、俺の言葉を皮切りに全軍がそれぞれの持ち場へと進軍を開始した。
ぶつかり合う叫び声。俺たちは関羽と趙雲が道を開けるその一瞬を張飛と共に待っていた。
(……来た!)
そして、その時は来た。前に張飛はその時を逃さず、突撃を開始する。
「よし! 俺たちも続くぞ! かと言って前に出すぎるなよ!」
「“応!”」
張飛隊が通った道をなぞる様に駆け、その道を俺たちの隊で埋め尽くす。
「よし、このままここを守備、」
その時、背筋に何かが通り過ぎた。まるで、虫の知らせのようないやな感覚だ。
「……黄仁」
「はっ!」
俺は近くにいた黄仁に話しかける。
「……ここを、お前たちに任せてもいいか?」
「え、ええ。それは問題ありませんが……。どうされたのですか?」
「……嫌な予感がする、としか言えん。すまん」
だが、それで察してくれたのか、黄仁は頷いて俺の背中を押してくれた。
「あなた様が嫌な予感がするというのであれば、我らはそれを叩き潰すまでです。指揮は私が代わります」
「頼んだ!」
それだけ告げて俺は張飛隊の後を追う。だが、その間にも嫌な予感はどんどん膨らんでいく。不安ではない。
そもそも、張飛が負けるなど俺は微塵も思ってない。なぜなら華雄の実力は張飛よりも下だからだ。戦ったからこそ、それがわかる。
(だっていうのに、何だこの心のモヤは?)
収まることなく拡がり続けるモヤ。だが、そこで一つのことが思い当たる。いや、そもそも最初に気にしなければいけなかったのだ。
(……白装束)
そうだ。奴らがこの戦場にいたなら? 十分な不確定要素にならないだろうか?
「くそっ!」
俺は速度を上げて張飛のもとへ急ぐ。傷が少しずつ痛みを脳へ叩きつけてくるが、それは心で押さえつける。
そして、俺は張飛を見つけた。
「うりゃりゃりゃぁ〜〜〜〜!」
「ぐ、くぅ」
どうやら、完全に張飛の流れのようだった。このままいけば張飛が勝つ。だが、“このままいけば”の話だ。
(どこだ……!)
俺は全神経を集中させ、戦場を見渡す。
普通の戦場に見える。
(違う!)
どこにも異変はない。
(そんなわけあるか!)
何も問題は、
「黙れっ!」
己が声に反論した、その時だった。
異常が、湧いた。
それは一瞬、いや、刹那の事だった。華雄の兵の一人が突然、張飛へ向けて槍を投げつけたのだ。
対し、張飛はとどめの一撃を放つ瞬間。まさしく全神経を込めた一撃を放とうとしているところだ。そんな彼女にはあの一撃を避ける余裕はない。
「おおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
槍に攻撃を当てたところで間に合わん! なら!
「張飛!」
「にゃ?!」
その体を全力で弾き飛ばし、槍の到達地点から彼女を弾き飛ばす。
「っ!」
飛んできた槍は外套の背の部分を裂き、その下に纏っている鎖帷子と擦り合い“ギャン!”という音を立て、地面へと突き刺さった。
「貴様ぁ!」
それを見た華雄は激高し、突き刺さった槍を引き抜き、投げつけた自分の隊の人間の胸めがけ投げつけた。
「……っ!」
その槍は見事、兵の胴体を貫き絶命させた。
「張飛! 無事か!?」
「にゃ……」
どうやら無事なようだ。
「な、なにをするのだ! 今は真剣な一対一の戦いなのだ!」
どうやら、さっきの槍は見えていなかったようだ。
「その言葉は華雄にでも言え」
そういって俺は華雄に振り向く。
「……さっきの行動から、お前の命令でも、“お前の兵”でもないのはわかっている。だが、一対一の戦いで今のは無粋じゃねぇか?」
「……貴様、あれを覚えているのか?」
「覚えている……?」
その物言いに引っかかりを感じた俺は問い詰める。
「どういう意味だ? 今さっき起きたことを忘れる奴なんているわけがないだろう」
「……そうか。であれば、確かめねばならん」
そういって華雄は俺へ戦斧を向ける。
「張飛よ。貴様に先ほどの無礼を詫びよう。そして、勝負は貴様の勝ちだ」
「にゃ! そんなの納得いかないのだ!」
「いくら詫びたところで許してもらえんだろうが、私はこの男と戦わねばならぬ理由があるのだ!」
そういって華雄はこちらへ襲い掛かる。
「ちぃ!」
上段から振り下ろされる一撃を右手で抜いた釘十手で流すと、華雄の首へ向かってそのまま振り下ろす。
だが、華雄は自ら前へ飛ぶように転がりながら避け、距離を取り、下段に戦斧を構える。
「ふー……」
深く一息をつく華雄だが、その隙に張飛が俺と華雄の間に割って入る。
「待つのだ! こっちの決着はまだ付いて無いのだ!」
「張飛」
「いくら玄兄ちゃんでも、これだけは譲れないのだ! 真剣勝負の決着がこんなのは納得いかないのだ!」
その気持ちはわからなくもない。だが、俺もさっきの一撃で感じたことがある。
「……張飛、悪いが俺もやめる訳にはいかなくなっちまった」
「なんだとぉー!」
「……華雄もな、納得してねぇんだよ」
「“っ!”」
俺の言葉に張飛も、華雄も同じように驚いたような表情をする。
「さっきの一撃で感じられたことだ。どうにも華雄の一撃には迷いのようなものがある
多分だが、お前、先の戦いで死ぬべきだったと思っているだろ?」
「……くっ」
その指摘に華雄は苦虫を噛み潰したように歯軋りをして、それが正しいことを言外に答える。
「張飛、それでも華雄は俺と戦うことを選んだ。その意味を察してやってくれないか?」
その言葉に張飛は悲しそうな表情になる。
多分、自分に置き換えられたのだろう。武人が負けを認めてもなお、戦わねばならないという意味を。それがどれだけ苦痛であるかということを。
「……わかったのだ」
それだけ言って、張飛は矛を収め、身を引いた。
「でも、この戦いは見届けさせてもらうのだ。でないと割に合わないのだ!」
「すまぬ、張飛よ」
華雄は深く頭を下げ、礼を込めた謝罪をし、改めて俺と向き合う。
「そして、御剣よ。我が挑戦、受けてくれたこと感謝する」
「御託はいい。始めようぜ」
互いに得物を構え、神経を尖らせていく。痛みは消え、俺の視界には物を切るための線が見える。
「華雄、参る!」
「来い!」
こうして、俺と華雄の戦いが始まる。
「はっ!」
華雄の戦斧が俺の左胴を狙って弧を描きながら迫るが、それは鞘を持ち上げることで防ぎ、勢いは回転しながら前進することで受け流す。
そして、その回転を利用して刀で華雄の首を狙う。
「っ!」
華雄はそれに対し、低く屈んで刀をやり過ごすと、そのまま当て身へと移行する。
「甘い!」
それを膝蹴りで迎撃する。当然ながらまともに顔面へ入った膝に華雄の体が浮き上がる。
「がっくっ!」
しかし、その眼は光を失っていない。
(なら!)
浮き上がった体、その左肩へ刀を振り下ろす。
「ぐっ、がぁ!」
だが“線”は切っていない。つまり、今の一撃は峰打ちのようなものだ。
(でも、確実に骨はやった)
その証拠に、地面へ伏せた彼女は左肩を抑え、うずくまっている。
「ぐ、ぅう……!」
「勝負あり、だな」
「まだ、だ」
そういいながら彼女は膝で立ち上がる。
「首を取れ」
「……で、何を確かめたかったんだ、お前は」
「……お前が、この戦いに終止符を打てるかどうかだ」
……どういう意味だ?
「お前ならば止められる。ここから先は私には言えん。首を取れ」
「……そうか」
なら、そうさせてもらおう。
俺は刀を華雄の首めがけ、一閃させる。
「……さて、これで終わりだな」
「まだなのだ」
と、張飛が俺の背中を思いっきり叩く。
「いっっ! なんだよ」
「名乗りをして初めて終わりなのだ!」
と、そういうことか。
「……すぅ」
一度、息を大きく吸って、声へと変換した。
「天の御遣いが護衛、御剣が猛将華雄を打ち破ったりぃ!」
その瞬間、鬨の声が天を震わせた。
はい、どうも作者の風猫です。
そういえばみなさん、最近はVRが何かと有名ですが、皆さんは何か体験されましたか?
実は今日、秋葉原のVRのゲームに行ってきたのですが、やばかったです。
何がやばいかって言えば、臨場感、没入感、そして疲労感です。
臨場感は言わずもがな、ゲームの中に”自分がいる”というのが認識できます。まぁ、それがVRの目玉でもあるのですが。
次に没入感。このゲーム、実際に歩いて移動をしたり、しゃがんだりして攻撃を避けるので、もう、本当にその場で闘っているようでした。
そして、最後に疲労感。さっきも言ったようにその場で素早くしゃがんだり避けたりするので、多少は疲れるのは当たり前なんですが、このゲームには今までのゲームにない”緊張感”があるので、疲労度合いがかなり大きかったです(普段からあまり運動しないのもあるのですが……)。最短で8分、最長で15分ということだったのですが、はっきり言ってそれ以上の時間を感じました。
総じていえば満足の行く時間でした。機会があればまたやってもいいかなぁ、と思えるほどに。
……でも、やっぱ1プレイ1500円は高いですな。
あ、あと、クリアランクもありまして、自分は「S」取れました!
やったぜ!
というわけで長くなりましたがこれにてあとがきとさせてもらいます。
では、また次回。
説明 | ||
真・恋姫†無双の蜀√のお話です。オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。 大筋は同じですけど、オリジナルの話もありますよ?(´・ω・) |
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コメント | ||
出来ればVRは流行で終わらせてほしくはないですねぇ〜。出来れば次世代のスタンダードとしてのこってほしいです。そしていつかはフルダイブゲームを……(風猫) 華雄さんは何かを知っていたようですが討ち取りましたか… ゲームは久しくやってませんが、VRとかまさに未来のゲーム!って印象です。これからまだ流行は続きそうな感じですねー(はこざき(仮)) |
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