真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 37
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「さて、今回もどうにか勝ちで終わることができたんだけど……」

 

 北郷が微妙なところで話を切ったのには訳がある。

 

「“……………”」

 

 俺と関羽の空気が悪いからだ。

 

(ねぇ、玄輝。愛紗と何かあったの?)

(……どうなんだろうな)

 

 互いに何かしたわけではない以上は、何もないとも言える。でも、あったといえばあった。

 

(下手に合わせるなら、死ぬ、か……)

 

 よくよく考えれば、確かにいつの間にか俺自身の戦い方というのを忘れていた気がする。

 

(俺自身が振るうべきものは、この刀だ。暗器じゃねぇ)

 

 そう言って俺は今まで振るってきた刀、心斬(シンザン)へと視線を落とす。

 暗器は元々補助として使うことはあったが、こんなに大量に使うことは竜との戦いぐらいでしかなかった。

 

(……一回、基本に立ち戻るか?)

 

 とはいっても、戦場において、それは困難だ。ましてや、俺自身の今の立場もある。

 

(……だが)

 

 このままでは、別の意味で俺自身を殺さなければならない。

 

(……この戦いの後、答えを出すべきかもしれない)

 

 もう、雪華の居場所もある。黒の御遣いなんて名は付いてはいるが、神輿は北郷だ。俺が消えたところで取り戻す術はある。

 

「玄輝?」

「……すまん、ちと席を外す」

 

 そう言って俺は皆から離れた。

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 玄輝が立ち去ったあとも、その場には微妙な空気が残っていたままだった。

 

「ねぇ、愛紗。何かあったの?」

 

 北郷はこのままではどうにもならないと判断して、あえて質問を投げかける。

 

「ご主人様……」

 

 だが、彼女は口をあまり開きたくはなかった。なぜなら、呂布の言葉をそのまま皆に行ってもいいかどうか、自分では答えをまだ出せていなかったからだ。

 

(玄輝殿は、私たちに歩幅を合わせてくれていたのだろうか……)

 

 確かに、彼女も玄輝の戦い方が集団の戦いには向いていないのは気が付いていた。でも、それを嫌々合わせていたのかまでは考えたことがなかった。

 

(……いや、あのお方に限ってそんなことは)

 

 そも、嫌々合わせているような人間に人は付いていかない。どこかしらで人心は離れていくものだ。

 

(それに、玄輝殿は“命”を重いものだと考えている。敵でも、賊のものでも)

 

 だからこそ、愛紗は信じていた。どこかで本当に私たちと共に、心の底からの仲間として戦ってくれるということを。

 

(でも、それが私の思い込みだったら?)

 

 そう考える要素もある。彼の闇だ。

 玄輝は、確実に何かを抱えている。それが皆との壁、いや、溝を作っている。

 

(私は、考えないようにしていただけなのだろうか……?)

 

 見ないようにして、気が付かないふりをして、信じようとしていたのか。

 呂布を一人で追い返すほどの技を持つ、あの人を。そう考えていた愛紗に鈴々が話しかける。

 

「愛紗、鈴々は話すべきだと思うのだ」

「鈴々……?」

「この後も大変な戦いが待ってるのに、こんな空気はよくないと思うのだ……」

 

 そうしょんぼりとした表情を見せる鈴々。

 

(……そうだな。我らは、ここで止まるわけにはいかない)

 

 力なき民を守る。それが私たちが目指すべきものだ。そこを見失うことがあってはいけない。

 

「……実は、先ほどの呂布との戦いであったことなのですが」

 

 そして彼女は何があったのかを、静かに語る。

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「そんなことが……」

「下手に合わせると、死ぬ……」

「そも、あの呂布を一人で退かせるとは……」

「玄輝さん……」

 

 北郷、桃香、星、雛里がそれぞれの感想を流す中、

 

「……そうですか」

 

 孔明だけはどこか納得したような表情をしていた。

 

「朱里、お主、何か思い当たる節があったのか?」

 

 星の話に朱里は頷いて思っていたことを口にする。

 

「正直言えば、玄輝さんは桃香さまとは似て非なる考えを持っている方でした」

「似て非なる……?」

 

 桃香は不安そうな顔で聞き返した。

 

「桃香様のお考えは力なき人々が笑える世界。それは“目に見えない人も救う”と言えます。でも、玄輝さんは“目に見える人だけを救う”ことを信条としている方でした」

「ふむ、確かにそうだろうな」

 

 星もそれは感じていたのだろう。そう言って話を続ける。

 

「しかし、それだけで“下手に合わせていると死ぬ”などとは言われまい。そもそも、下手に合わせるなら死ぬという話であれば、しっかりと合わせられるようにすれば問題なかろう」

「……いえ、それは現状不可能です」

「何故?」

「玄輝さんは、おそらく心の奥底で私たちをいつでも切り捨てる心づもりがあるからです」

「朱里ちゃん!」

 

 その言葉に大きな声を上げたのは雛里だった。

 

「……ごめんね。でも、雛里ちゃんもどこかで気が付いていたでしょ?」

「そ、そんなこと」

「ううん。気づいているはずだよ。だって私よりも雛里ちゃんの方があの人を見ているはずだから。そんな雛里ちゃんが気が付かないはずないよ」

「……………」

 

 その言葉に完全に閉口してしまう雛里。

 

「……朱里よ」

 

 その跡を継ぐように愛紗が口を開いた。

 

「その心づもり、どういう意味なのだ」

「……切り捨てるというのは、彼の繋がりです。友、部下、守った人、守るべき人、そのすべてです」

「その言い方では、雪華も捨てると聞こえるぞ」

「…………」

 

 その問いに沈黙で答える朱里。

 

「本気か?」

「……はい。約束を破る方だとは思いません。でも、約束を果たしたのならば間違いなく雪華ちゃんを置いていくと思います」

「朱里!」

 

 思わず大きな声を出す愛紗だが、朱里は決して引かない。

 

「……私は、あの方はとても不安定に見えます」

「不安定、だと?」

「自分で常にすべてを捨てられる覚悟は持っているのに、目の前で苦しんでいる人や、助けを求める人、不条理に晒されている人は見捨てられない。それはひどく矛盾しています。だって、捨てるつもりなのに繋がりを作ろうとしているのですから」

 

 朱里の言うことはもっともだ。

 

「私が考えるに、玄輝さんの中には二つの心が常にせめぎ合っているのだと思います。全てを捨てようとする心と、人を守ろうとする心。呂布さんの言っている“合わせる”というのは、この葛藤の事ではないでしょうか」

「つまり……」

「そのどちらかの心に傾かせなければ、死ぬ、ということではないでしょうか。皆と戦うのが苦手なのはすべてを捨てようとしている心があるからではないでしょうか。彼自身も戦いに身を置く人間だからこそ、そんな人間に背中を預けられないのは百も承知のはずです」

「……だが、それでも」

「ええ。彼は人を守ろうという心も持っている。だからこそ、ひとたび誰かに背中を預けられれば、その背中を守るために全力で戦うのだと思います」

 

 そこまで言った朱里は一度目を閉じてから、ある提案をする。

 

「私は、ここで決めるべきだと思います。玄輝さんと共に戦うか、袂を分かつか」

「“……………”」

 

 その言葉に全員が沈黙する。その中で最初に口を開いたのは朱里だ。

 

「……私は、袂を分かつべきだと思います。このままでは玄輝さんだけじゃなくて私たちにも影響が出ると思います。そうなったら、ただの悲しい結末だけが待っていることになります」

「……なるほど。確かに朱里の意見はもっともだろうな。しかし、私は反対だ」

 

 星はその理由を語る。

 

「玄輝殿は確かに何かを抱えている。しかし、それでも桃香様や主のために戦ってきた。守るために戦ってきた。であるならば私たちが守る心が勝つように手助けをしてもよかろう」

 

 次に口を開いたのは鈴々だ。

 

「……玄兄ちゃんは、鈴々達とは別の道を行った方がいい気がするのだ。鈴々、玄兄ちゃんの剣が時たま怖いと思うときがあるのだ」

 

 その言葉に星は頷いて同意を示す。それを確認してから鈴々は続ける。

 

「うまく言えないけど、こう、ヒヤッとするような、アチィーみたいな、あんまりいい剣じゃない時があるのだ」

 

 そう言って意見を言い終えた鈴々の次に口を開いたのは桃香だ。

 

「私は、あの人を信じたい。私にちゃんと覚悟を持たせてくれた人を信じたい。それに、もし手助けができるなら手助けもしたい。だって、玄輝さんだけ笑顔じゃないのは、嫌だもん」

 

 そう言って桃香は北郷へ視線を向ける。

 

「ご主人様は?」

「……俺は、鈴々や、朱里に賛成。多分、玄輝には他にやりたいことがあるような気がするんだ」

「やりたいことって……」

「……それはわからない。でも、玄輝も言ってたろ? “俺の問題があって真名は呼べない”ってさ。だから、その問題を解決するまでは、路を分かれたほうがいい気がするんだ」

 

 そう言って北郷は雛里へ視線を向ける。

 

「雛里は、どう思ってるの?」

「わ、私は……」

 

 一度言葉を切った雛里は意を決して口を開く。

 

「わた、わたひは! 玄輝さんと、一緒に戦いたい、です! その、私も玄輝さんの守りたいって気持ちが勝つお手伝いがしたいでしゅ!」

 

 そう言い切った彼女は帽子で顔を隠してしまう。そして、北郷の視線は愛紗へと向かう。

 

「……愛紗、君の意見は?」

「私の、意見……」

「将とか、立場とかそんなのは考えないで言ってほしい。皆もそのつもりで意見を言ったよね?」

 

 北郷の言葉に全員がうなずく。

 

「だから、愛紗も同じように言ってほしい」

「私は……、私は……」

 

 そう言って、彼女はあの蒼翡翠の腕輪を思い出す。

 

“……俺が持っている物で一番大事なヤツだ。お前に預ける”

 

(……そうですね。忘れていました。あなたは私を信じてくれた。なら……)

 

 私ももっと信じなければ。その心に報いなければ。

 

「私は、彼と共に戦いたい。たとえ袂を分かつことになっても、その最後の時まで共に戦いたいと思います。それに、私は思うのです。本当は、心の奥底では私達を、仲間を信じたいのではないか、と」

 

 愛紗が己の意見を言い終える。

 

「そっか。なら、決まりだね」

 

 そう言って北郷は皆の顔を見渡す。

 

「ここにいる皆の意見は共に戦うが4、袂を分かつが3。多数決で共に戦うってことでいいかな?」

「ご主人様……」

「朱里が言いたいこともわかるけど、俺も信じたいか信じたくないかで言えば信じたいんだ、玄輝を。朱里や鈴々は? 玄輝のこと、信じたくない?」

 

 その言葉に二人は首を振る。

 

「そんなことはないのだ! それだったら信じたいのだ!」

「私も同じです。でも……」

 

 朱里はそこで言葉を切ってしまう。

 

「朱里、さっきも言ったけど、言いたいことはわかる。だから俺は、いや、俺が玄輝に直接聞いてみる。俺たちと共に戦うか、別れるか」

「ご主人様!?」

 

 北郷の言葉に全員が驚く。

 

「そもそも、玄輝がいないところでこんな話を進めた以上、話さないことの方が裏切りにあたる気がするし、俺たちが共に戦いたいって言ったところで、本人がそれを拒んだら一方通行にしかならない」

 

 その言葉に、全員が閉口する。

 

「……ご主人様」

 

 だが、愛紗だけは口を開いた。

 

「その役目、私に任せてはいただけないでしょうか」

「愛紗? でも……」

「……聞くのであれば、私は直接、玄輝殿の口から聞きたいのです」

 

 その言葉に北郷は目を閉じて、少しだけ考えるそぶりをして、答えを出した。

 

「わかった。じゃあ、愛紗に任せるね」

「……お心遣い、感謝します」

「ううん。でも、本当にいいの?」

「はい。では、この戦いの後に聞こうと思います」

 

 そうして、彼女たちと北郷の話し合いは終わった。でも、全員一つだけ認識を間違えているところがあった。それは、彼女たちが知ることはできないことで、どうしようのないものだ。

 

 まぁ、間違えているといってもそんなに大した間違いじゃない。

 

 ……彼は「捨てる覚悟を持っている」わけじゃない「自分で捨てるのが分かっている」のだ。

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はいどうも、おはこんばんにちわ。作者の風猫です。

 

久々の三人称風です。

 

さて、突然ではあるのですが、自分、初音ミクが好きなんですけども……

 

ここ最近、グッズラッシュが続いていて、笑顔で戦々恐々としております。武者震いが止まりませぬ。

 

まぁ、10周年が近いからなんでしょうね。

 

でも、自分としては9月のライブグッズを買いたいので、なるべく見ないようにはしているのですけどね……

 

あ、でも、11月のゲームは買います。

 

だって、予約特典が、予約特典がぁ……!

 

とまぁ、今年は色々と懐が厳しい一年になりそうです……

 

では、ここらへんでまた次回。

 

説明
真・恋姫†無双の蜀√のお話です。

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。































大筋は同じですけど、オリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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鬼子 オリジナルキャラクター 蜀√ 真・恋姫†無双 

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