しまのりんち10話 |
しまのりんち 10話
【乃梨子】
目を覚ましてカーテンの隙間から漏れる光が部屋の中に差し込んできてそれが
隣で寝ている志摩子さんの顔に当たって綺麗に見えた。私は隣で寝てる彼女のふわふわ
の髪の毛を触りながら眺めていた。
さて、軽く準備だけでもするか。志摩子さんの寝顔を堪能した後に私は今日出かけ先が
仏像展ということもあり珍しくテンション高く早めに起きてしまったのだ。
最近めっきり暑くなっているから日焼け止めや熱中症予防のアレコレを考えながら
詰めていく。その音のせいか、それとも元々早起きだからか志摩子さんが少し眠そうな
顔をして私に声をかけてきた。
「おはよう…乃梨子。ふあぁ…今日は早いのね」
眠そうにしかもあくびをしている志摩子さんは少し新鮮でとても可愛かった。
「うん、今日出かける準備をね」
「あら、そうだったわね…じゃあ今日は私が朝ごはん作るわね」
「え、今日は私の番の日なのに」
「いいのいいの、たまには。それに今日の乃梨子すごくいい顔してるから」
言って微笑みながら志摩子さんは寝巻きから簡単に着替えて部屋を出ていく。
私の準備が一通り終わった後、部屋を出てリビングへ向かうと食パンにベーコンエッグと
サラダにコンソメスープが並べられていた。
いただきますと言ってからテレビのニュースを見ると、やはり熱中症情報があちこちで
流れていた。
「今日も暑いらしいから気をつけなさいね、乃梨子」
「うん、わかってるよ。志摩子さん」
「それもそうね」
私よりしっかりしてるものね、乃梨子は。って言いながら微笑する志摩子さん。
私たちは食事を終えたら食器を流し台に持っていって二人で話をしながら洗うと
ちょうどいい時間になったので私は志摩子さんに声をかけてから家を出た。
志摩子さんはドアが閉まるまでの間、ずっと私の方を見て微笑んでくれていた。
いってきます。志摩子さんの好きそうなお土産買ってくるからね。
***
【志摩子】
乃梨子を見送ってから途端に私の中ですることがなくなってしまった。
今日は講義があるからそれの準備をしてから私も家から出て思った…。
乃梨子がそこにいないだけでこんなにも違和感を覚えるだなんて…。
そのことをずっと引きずっていたせいか友人にも心配されるほどボ〜ッと
していたらしい。言われてからお姉さまと一緒にいたときみたいに切り替えないと。
キリッ
「何だか今度はクールな感じになっちゃったね。今日の藤堂さん面白いわ」
「…!!」
何だか恥ずかしくなってきた…。早く乃梨子に会いたい…。
そんな気持ちで受けていたからか勉強がちっとも頭に入っていかなかった。
こんなことは今までなかったから複雑な感情を抱きながら残りの時間を勉強に費やした。
お昼はあまり寄らないようなお店に行ったり、大学の友人と過ごしたり、
祐巳さんや由乃さんとメールでやりとりしながらも普段より時間が経つのが遅くて
持て余している状況だった。
「こんなこと初めてだわ…」
乃梨子と出会うまではこんなことなかったのに…。青空を見ながら私はそう考えてから
笑みを浮かべる。あぁ、でも。それでも私は今が一番自分らしく「生きてる」
って感じがしていた。
***
「ただいま」
帰ってきても誰もいないのは知ってるのだけどいつもの癖でつい。
すっかり暑くなってるリビングで冷房をつけてからテレビをつけると朝やっていた
熱中症情報がやっていた。今日も人の数を見てると多くて心配になってくる。
その人たちもそうだけど、乃梨子のことが一番心配…。
それから少しの間、勉強の復習をしているとドアが開く音がした。
その後、今一番聞きたかった声が聞こえてきた。
「ただいま〜」
ただその声には元気がなくて私は急いで玄関に向かうと顔が赤くなって
へろへろになっている乃梨子を見てびっくりしてしまった。
「どうしたの!?」
「あ、暑さにやられちゃった…対策したのに…」
熱中症かもしれない。私は乃梨子に肩を貸してリビングのソファのところまで
運んでから横にさせて冷たいものと常備していたスポーツドリンクを持ってきて
乃梨子に飲ませて凍らせた保冷剤を冷やすのに適しているところに当てた。
「ふぅ…ありがとう、志摩子さん…。あと頼みがあるんだけど」
「なに?」
「膝枕してもいーい?」
乃梨子が赤くなりながら甘えてくるのは滅多にないのでその姿を見た私は
不謹慎ながらもちょっとキュンとしてしまった。
「もう…しょうがないわね」
苦笑しながら私は乃梨子の頭を太股の上に乗せる。
「あー…柔らかくて気持ちいい〜。極楽極楽」
「極楽に行かれちゃ困るわよ」
「大丈夫〜」
へらへら笑いながら手を振る乃梨子には余裕が出てきたように見えてホッとした。
「いやぁ、熱中症にはかかっちゃったけど。仏像展は楽しかったよ」
「そう、良かったわ」
「そうだ。お土産買ってきたんだ。食べ物だから早めに食べようよ」
「じゃあもう少しゆっくりしてからね」
何だろう、乃梨子の選ぶものはハズレがないから楽しみだけどもう少しだけ
こうして乃梨子を見ながら頭を撫でてあげたい気分だった。
しばらくそうしていると乃梨子はすっかり元気になって買ってきたものを
紙袋から出してくれた。中から出てきたのは可愛らしい絵を交えながら「ギンナン」の
文字が書かれていて思わず目が輝くくらいテンションが上がっていた。
「じゃーん、ギンナン蒸しケーキ」
「わぁ、すごいわね。こんなものがあるのね」
「志摩子さん好きだと思って」
「さっそくお茶にしましょう」
乃梨子が買ってきたケーキは蒸しあげたふわふわした生地の表面と中にまるごとの
ギンナンがたくさん入っていた。匂いは気にならない程度に残されていてほくほくした
食感がなんともいえず好きで、甘みもそんなに強くなく素材を活かした味付けだった。
「あら、乃梨子は食べないの?」
「私は少しでいいや。すごい良い顔して食べてる志摩子さん見てる方が幸せだし」
「も、もう…。そんなこと言われると食べにくいわ…」
「ごめんごめん。でもこれ志摩子さんのために買ってきたんだから。よかったら
残りも食べちゃってよ」
「ありがとう。じゃあ残りは冷蔵庫に入れて後で食べるわね」
こんなにギンナンを食べるのは久しぶりかも。甘いもので食べるのは初めてだけど
ちゃんとギンナンを食べてる感覚が残っていて幸せな気持ち。
しょっちゅう食べてると体に悪そうだけど、たまにはいいわよね。
…好きなものを食べてるからというのもあるけれど、やっぱり乃梨子と向かい合って
楽しくお喋りしながら食べるのが一番美味しく感じられた。
乃梨子の出かけた先のイベントの話を聞きながらお茶をする。なんて心地良いんだろう。
今まで特に意識していなかっただけに今日のことはずっと記憶に残っていそうな日だった。
「あ、志摩子さん。口元にケーキくずがついてる」
「え、どこ?」
「ここっ」
ちゅっ
「!」
油断していたところに乃梨子が私の唇を塞ぐ。舌も入れてきて食べていたケーキの
味が濃厚に感じられてドキドキした。少しの間そうしてキスをした後。
乃梨子は爽やかな笑みを浮かべて言った。
「ん、美味しいね!」
「もう、乃梨子ったら…」
「ごめんなさーい」
ちょっと呆れつつも乃梨子の気持ちは嬉しいし、私も嫌じゃなかったから乃梨子の頭を
軽くぽんぽんと叩いた後、撫でた。乃梨子の髪の毛はすべすべしていてさわり心地
いいからいつまでも撫でていられる。
「あ、あの…志摩子さん…? 照れるんだけど」
「いいじゃない。おあいこ」
「う、うん…まぁいいんだけど」
こうして何気ないことでも幸せを感じられるのだから乃梨子の存在は私にとって
すごく大きいんだなと思った。この幸せがずっと続けばいいと。
そんな私の気持ちを読んだかのように乃梨子が笑いながら。
「こんな感じでこれからもずっとこうしていたいね」
「そうね」
乃梨子の言葉で私の気持ちは満たされる。そして今日残った時間を
乃梨子と一緒に過ごした。
こんなに幸せな気持ちでいられるならたまには別行動も悪くないと思えた私なのだった。
お終い。
説明 | ||
最近暑いので熱中症ネタとイチャイチャで。イチャイチャ大好き。このカップル未だに大好き(・。・v | ||
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