サク→プラ←ラショ |
カレーライスというものがある。
シルターンのお米にカレーをかけたものなのだが…なかなかどうして、この料理には不思議な魅力があるものだ。
(カレーの鍛聖 著)
はじめてのカレーライス
お昼どき。
サクロの家では、ひとつの料理が完成していた。
テーブルに置かれたひとつの皿。
それをまじまじと見ながら、プラティは立ち尽くしていた。
「ん?どうしたね?」
彼女の隣で、いつもどおりに優しく質問したのは、この家の主である「青玉の鍛聖」のサクロだ。忙しいこの昼どき、彼が「わざわざ自分の家にもどっきた」のは、目の前の料理の為だった。
サクロは、そっとプラティの顔を覗き込むと、「うー」と口の中でうなりながら可愛い顔をしかめている。
原因は、このテーブルにある一皿の料理だろうと彼は素早く推測した。
真白のごはんに、黄色いスパイスとシーフードと野菜をたっぷり使った香ばしいカレー。
ワイスタアンでは、カレーにはナンと定番が決まっている。
この島から出た事のないプラティにとって、この料理は、かなりのカルチャーショックがあったのだろう。
「作った人が人だからね、そう思うのも無理はないか」
サクロは、嫌味をこめてそう言った。
実は、このカレーを作ったのは、プラティではない。
カレーヲタクとして名高い、このサクロでもない。
「るせぇ、サクロ。お前には言われたくねぇンだよ。
…とと、おいおい。なんてツラしてるんだよ。大丈夫だ、旨いって!!」
テーブルを挟んで向こうにいるのは、似合わない「男子厨房エプロン」をつけているカレーを作った張本人だ。どんと胸を張って、味を保証する。
「でも、ラショウ〜〜 これって、いくらなんでも…」
プラティは情けなくなった。
この料理は彼女にとって、かなり冒険といえる。
サクロの言葉どおり、作った人が人なのだ。
何しろ、ラショウといえば、口が悪く、態度と行動で意思表示をするシルターン出身の護衛獣である。鬼の長である彼が料理できるなんて…全然しらなかったのだ。
先日のプラティの料理下手さに見兼ねてか、「わかった。お手本に、オレ様の特別料理をつくってやる」と言いだしたのが昨日の事。
「それが、コレとはね…」
プラティはため息をついた。
「…本当に美味しいの?」
訝し気に、何度もラショウに念押しする。
「ああ、保証するぜ?」
にやりと笑った鬼の顔は怖い。プラティ観念したように皿を手にとって、その不思議な物体をじっとながめた。
すると、黙ってプラティ達のやりとりをみていたサクロが、プラティの肩ごしに顔を出すと
「昔、僕もよくたべたよ」
と懐かしそうにそう言った。
「え?サクロさんも?」
「シンテツと一緒によく食べたモンなんだよ。サクロが知っているのは道理だぜ?
おい、プラティ。お前、親父の思い出の料理を食べないっていうんじゃねぇだろうがよ。いい加減に食べないとキレるぞ?」
「そんなこと言ってないよ〜;;」
「ああ、ああ見えて、ラショウの料理はなかなかなのものだよ」
「へぇ〜。そうなんですか?」
カレーに目がないサクロの太鼓判だ。言われてみれば、なかなかどうして、香ばしいカレーの風味がただよってきて、鼻腔を刺激している。
「けっ。お前、食べれると思ってやしねぇだろうな。
オレ様はプラティのために拵えたんだぜ?」
「…おや?僕に食べさせないというつもりかね?
だいたい、君の作ったカレーの材料は全部僕が買ったものだろう?
それに、そのエプロンもおたまも僕のものじゃなかったかな?」
「ちょっと、ふたりとも…」
プラティは焦った。
「カレーを作るのにここが一番いいって、コイツが言うんだから仕方ねぇだろうが。
大体、おまえがこの間、こいつの料理を下手だってハッキリ言わねぇで、ばくばく食うもんだから、下手なのにやたら増長するんだ」
「プラティくんが作ったというのに味があるんだよ。野暮な人間にはわからないだろうがね」
「…野暮で悪かったな。誰だって旨いものを食べたいだろうがっ!
そんな気障ったらしいことばかり言ってるオレ様は、お前が嫌いなんだよ。
おい、プラティ。お前、護衛獣のオレ様よりも、こんなメガネ野郎の言う事が信用できるのかよ?」
「ちょっと、やめてってば、二人とも…
へ?な、なんでそこに話が…。
というか、何もそこまで言ってないじゃない…」
「…ほぉ?
だったらオレ様の作ったものを食べてみろ」
「ええっ!?」
「それはいい。もともとそのつもりで僕も家にかえってきたんだからね。
大丈夫だよ。味は僕が保証する」
「お前にゃ言ってねぇだろがよ!」
「ああ〜もぉ!!!
食べるよぉ。食べます!
ちょっと待ってってば!」
たまりかねてプラティが喘いだ。
この二人は、まるっきり正反対だ。同じ事を言っているのに、ちょっとしたことで引っ掛かる。
この場をおさめるのは、この料理を食べるしかなかった。
プラティは、匙をとってカレーをを見据えた。その姿はトーナメントの時の戦闘体勢のような緊張感が走る。
「ううう…匂いはおいしそうなんだけどなぁ…」
不思議な料理だ。
かけるものが違うだけでかなり印象が異なる。
シルターンの主食に異世界の料理の組み合わせ。
なるほど、こんなこともあるのかもしれない。
プラティはそのままカレーに魅入りながら、皿に匙をすすめた。
少し固めのルーは、お米にうまい具合にからまっている。
具は適度な大きさに切られており、自分が作ったよりも綺麗だ。
おそるおそる口に含む。
すると、カレーの辛味と御飯の甘味がプラティの口にさらさらとほどけて広がった。
「どうだ?」
ラショウは意気揚々とたずねた。
もう一度。匙をすくって口に含む。
よく煮込んであるカレーのとろみは味が濃く、深い。
野菜や肉がとろけるようだ。
あっさりとしたお米が、こんなにカレーと相性が合うなんて思わなかった。
プラティは何も言わず匙を置いた。
「おい?」
ラショウは心配そうな顔をする。
プラティは、口の中のものをよく噛んで、こくんと胃の中に押し込むと、
「美味しい!美味しいよ!!
すごいね。ラショウ!こんなに美味しいなんて、すごいよ」
プラティは、喜んでラショウに言った。
「だから、最初から旨いっていったじゃねぇか」
「うん。ありがとう、ラショウ。サクロさん、すごく美味しいです!」
「ああ、良かったね」
「はい!サクロさんも食べましょう!」
どうせなら、この場の3人でカレーを食べたい。
プラティはそう言って立ち上がった。
既にサクロの厨房はプラティが熟知している。
だが…、
「おい、待てプラティ」
「?」
「サクロはダメだ」
「ラショウ?」
「こいつは食べさせねぇ。オレ様はお前のために作ったんだぞ」
「でも、美味しいもの。サクロさんも大好きだって言ってたよ」
「それでも、オレ様は野郎に物をつくる趣味はねぇ」
ラショウはサクロに睨んでそう言うと、身に付けていたエプロンを外してテーブルに置いた。
プラティは、少し泣きたくなった。
どうして、この二人はこんなに仲が悪いのか。
認めあう事はあっても、仲良くはなれない。
「でも…私は…」
悔しそうにそう言ったプラティに、プラティの肩にそっと手をのせながら、サクロは隣でそっとこういった。
「大丈夫だよ」
「サクロさん?」
「大丈夫だ。僕は、こちらからもらうとしよう。そうすれば、問題ない」
そう言うと、プラティの手にある皿から匙をとると、そっとカレーをすくって笑った。
「おい、サクロ!…てめぇっ!」
「え?えええぇぇぇぇっっ???」
「君がいけずをしたおかげで、こういうこともできるんだよ」
満面の笑みでラショウにそう言うと、サクロは持った匙をぱくっと口の中に入れた。
「サ、サ、サクロさん〜〜〜〜;;;」
もぎゅと噛み締めるそのカレーは、プラティが食べているもので、その匙は、プラティが使っていたもので…
「美味しいね」
サクロがそういっても、プラティは真っ赤になって固まっている。
目の前では、ラショウが肩を震わせて怒っている。
「今度はプラティくんが食べる番だよ。はい、口をあけてごらん」
(ううう。ラショウが怖いです…サクロさん)
サクロがすくったカレーライスを口に頬張りながら、プラティは、ほとぼりがさめたらカレーライスの作り方をきいておこうと心に誓った。
了
2004.05.17
説明 | ||
サモンナイト?クラフトソード物語より。 サクロとプラティとラショウで小咄。 |
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