サモさんとのとある一日
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「なぁ、マスターって巨乳好きなのか?」

 

何気なく呟かれたモードレッドの一言。

 

直後、『約束された勝利の剣』の如き勢いで、マスターたる彼の口からコーヒーが吹き出された。

 

 

 

 

モードレッド。

 

叛逆の騎士。キャメロットの破壊者。アーサー王伝説を終わらせた者。

 

王剣クラレントを操るセイバーとしてのモードレッドは、性格は苛烈にして直情的であり、マスターに対しても横柄に接する。

 

ことに、アーサー王に関する話は非常にデリケートであり、彼女にその手の話題を振る際には細心の注意が求められる。

 

しかし、気に入った者に対しては面倒見も良く、カルデアにおいてはバーサーカー・フランケンシュタインの少女の世話を焼いている姿も見られ、マスターの少年とも良好な関係を築いている。

 

そんな彼女が、ある異変の折にライダーとしての霊器を獲得した。

 

ライダーとしての彼女は全体的にテンションが高めであり、気難しさは鳴りを潜め、面倒見の良さに磨きがかかる。

 

更には、セイバーの時には間違っても口にしないような、こちらへの好意的な言動が増える。セイバー時に「あの状態はオレであってオレじゃないから忘れろ!っつーかこっち見んな!!」とクラレントを突きつけられるほどだ。

 

要は端的に言って、限りなくただの可愛い少女に近くなる。

 

ライダーとしての霊器を得る原因となったスカサハ曰く、

 

「英霊には様々な側面があり、サーヴァントとして召喚される際にその側面の特徴が大きく精神性、外見に作用する場合も多い。ヴラド三世などが良い例よな。であれば今回の件はこう考えられよう。これはあやつらの『ただの少女としての側面』が大きく作用し顕現した姿である、とな。考えても見よ、鎧も纏わぬ、剣も持たぬ騎士がどこにいよう?」

 

 

 

 

「おいマスター、いつまでテーブル拭いてんだよ」

 

「はっ?!」

 

あまりの事態に思考が飛んでいた。

 

吹き出したコーヒーはとうに手にした布が吸収し終わっていた。

 

「いや、なんかちょっと変な聞き間違えをしたみたいでさ。それで、何の話だっけ?」

 

「だから、マスターって巨乳好きなのか?」

 

再び意識が遠ざかりかける。

 

ライダー状態のモードレッドは当然水着の上にジャケットを羽織っただけの姿だ。

 

そんな姿の少女が自分の部屋でベッドに横たわって「巨乳好きなのか?」等と問いかけてくる。

 

Q.この状態での最適解を答えよ。なお、少女の胸は比較的慎ましやかなものとする。

 

1.うん!大好きさ!→部屋で『逆巻く波濤を制する王様気分!』は後片付け大変そうだなぁ。と言うか死ぬ。

 

2.いいや?大きい胸なんて興味ないね。→黒髭の仲間扱いは社会的に死んだも同然では?

 

3.モードレッドくらいが丁度いいよ。→言えたら良いよねそんなセリフ!!

 

……あれ?詰んでない?

 

 

「悔しいわ悔しいわ!こうなったらアンデルセンに頼んで胸のおおきなお嬢さんが活躍する童話を書いてもわなきゃ!私の姿に影響が出るような!」

 

「おかーさんはおかーさんなのにおおきなおむねが好きなの?それはつまりおかーさんのおかーさん?」

 

「聞こえましたっ!マスターの母を呼ぶ声がっっ!!」

 

床板を跳ね上げて飛び出してきたおかーさん(狂)はモードレッドにプリドゥエンによって出てきた穴に叩き返され丁度落ちてきた床板が蓋になりその上にネロの胸像(作・カリギュラ)が重しに置かれた。

 

「ほらほら、2人はおかーさん(弓)におやつもらってきなさい」

 

『はーい!』

 

幼女たちの興味はあっさりとおやつに向いた。

 

お母さん呼ばわりはやめてくれないか、と苦虫を噛み潰したような顔の赤い弓兵の姿が見えた気がした。

 

2人を見送ったあと、モードレッドが呆れたように、

 

「チビどもはどっから湧いたんだよ…」

 

「あぁ、良くあるんだよね…ジャックは気配殺して一緒に部屋に入ってきたり、ナーサリーはいつの間にか本棚に混ざってるんだ」

 

「…あのバーサーカーは?」

 

「頼光さんは…その他2名と一緒にいつの間にか部屋への侵入経路を確保してて…」

 

マシュを始めとした有志が定期的に侵入ルートを塞いでくれているのだが、イタチごっこの様相を呈してきている。

 

部屋を変えるという案も出たのだが、バレンタインを始めとする各種イベントでインテリアも増え、引っ越しにも一苦労しそうだ。そんなことでサーヴァント達の手を借りるのもなんだか悪い。

 

なによりこの部屋には思い出がある。

 

……Drと、初めて会ったのはこの部屋だったっけ。

 

ふと気付けば、モードレッドが何か言いたそうな顔でこっちを見ている。

 

「…………」

 

「モードレッド?」

 

こちらの呼びかけに、彼女はあー、とかうー、だの言いよどみ、その後消え入るような声で、

 

「オレも迷惑かなって」

 

「そんなこと無いよ」

 

自分でも驚くくらいあっさりと言葉を返していた。

 

セイバー時のモードレッドにはあり得ないことではあるが、ライダーの時のモードレッドは弱音を吐く。

 

夏が遠くなれば遠くなるほどテンションは下がり、ふとした拍子に今のような不安そうな顔を見せる。

 

そんな彼女が、自分の言葉一つで輝く笑顔を取り戻してくれる。

 

いつも戦うことが出来ず、皆に不安を預けて守ってもらっている自分が、彼女の不安を消すことができる。

 

……自分の言葉にだけそれができると、自惚れてもいいだろうか。

 

「…そっか。へへっ、そっか!」

 

その笑顔に、自分が間違っていなかったと確信する。

 

「コーヒー淹れ直すけど、モードレッドも飲む?」

 

「おう!あ、コーヒーで思い出した。マスター、さっきの話だけどさ」

 

思わず硬直する少年を愉快そうにべしべしと遠慮なく叩く。

 

モードレッドは愉快そうに笑って、

 

「別にどっちでも構わねーよ!オレは父上の子だぜ?槍の父上を見りゃ、俺の将来性は保証されてるだろ!」

 

逆に、

 

「マスターが小さいの好きなら、父上からエクスカリバー奪って成長止めりゃいいだけの話だしな!簡単だろ?」

 

「それはつまり俺の回答によってはカムランの戦い再びじゃないか!やだよそんなの!」

 

「ははは!大丈夫大丈夫!今度は絶対勝てるって!」

 

妙に確信に満ちた笑顔に、思わず異を唱えようとした瞬間、

 

「今のオレにはマスターがついてるからな!ラクショーだぜ!」

 

なんて、少年が何も言えなくなるようなことを言い放ったのだった。

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良きかな、良きかな(アイン)
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