ISS |
金曜日が祝日なので今日仕事に行けばもう休みで、それで仕事を終えて八時ごろに職場を出てまっすぐ家に帰る前に古本屋でも寄って行こうかなと思って古本屋へ行って、前から欲しかったボフミル・フラバルの本でも買おうかなと思って暖簾をくぐったけれどもその古本屋では売っていなくて、そういう海外文学の類を揃えていることに唯一意義があるような書肆であるのに何たることかと思いながら他に棚を見ているとボルヘスの幻獣辞典があって、これでもいいやと思いながら購入すると、白髪のやせぎすの目の細い店主がタバコを吸いながら今日はISSがもうすぐ通るから見ているといいよというようなことを言われて、何時頃ですかと聞くともうすぐであると言う。店主が携帯で調べると八時半ごろであるということから私は古本屋を出て空を眺めていると、いつまでたってもISSが通らないので、騙されたのかなと思って立ち尽くしたまま首が疲れるまで見上げていると、やっと遠くのほうから早い飛行機みたいな飛行機よりもやや明るいISSが通ってきてゆっくりと空を右から左へ横断していった。
良いものを見たと思って電車に乗ると、途中の駅で停電にあって、電車は非常電源があるからすぐに点いたけれども肝心の推進力の方はだめになってしまってそれで復旧するまでみんなで待っていてくださいと言われて、疲れている人々は待っていることができずにてんで勝手にドアを開けて線路に降りて歩いて行ってしまう。線路には電流が流れているから、線路を歩いてはいけないのだということは私も知っていたけれども、あんまりみんな歩いて行ってしまうものだから、とうとう私も線路に降りてバラスト石の間を縫って隣の駅まで歩いていくと、町は一帯が停電になっていて蝋燭や懐中電灯のある家の窓だけが明るくなっていて心配そうに窓から外を見ている親子の姿などが影絵のようにガラス面に映し出されている。非常灯の緑色の明かりだけが強い色彩で線路のあちこちに反射しているのが不思議な感じで、こんな時にISSが通ったら明るく見れるだろうなと思って空を見上げたら果たせるかな、二度目のISSがやってきて、それで空をゆっくりと横断していく。人々はみんな上を向いてその明るさのおこぼれにあずかろうとしているかのように口をぽかんと開けて上を見ていた。街灯の照らす街中で見たさっきのISSよりずっと明るくすい星のように光の尾を曳きながらISSは流れていった。
一晩に二機もISSが通ることもあるのだなあと思って家に帰って新聞記事を検索したけれども、どのニュースを見てもISSは八時半ごろに通った一機だけが本物で、二回目に見た光について言及している記事は一つもなかった。でも、たくさんの人が見ていたのだし、あの光の尾を曳いて流れていったのは何なのかしらと思うけれども、まあきっと、飛行機か飛行船か、そんな何かなのだと思います。
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