紫閃の軌跡
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西ゼムリア通商会議から半月、エレボニア帝国内での空気は不穏さを増す一方であった。

 

“貴族派”と“革新派”双方ともに浅くはないダメージを負いながらも……この場合は、そのダメージによって拍車が掛かったというべきなのだろう。“革新派”の勢力が強い帝国政府は『テロリスト対策』という大々的な名目を以て鉄道憲兵隊の活動強化―――哨戒の強化に乗り出した。“貴族派”に関しても、テロリスト対策という名目で幾つもの猟兵団を莫大なミラで雇い入れたという噂が流れるほどであった。

 

お互いに<帝国解放戦線>という存在から、一つの対象を名目としつつも相容れない二つの派閥。ガレリア要塞の一件からしても、この時点で彼らは単なる“革命願望者”というくくりから外れている。そして、“革新派”を狙いすましたような行動様式と、彼らが所持していた書状によって貴族派の最有力であるカイエン公爵家、それ以前の彼らの行動に関与している可能性のあるアルバレア公爵家が彼らを裏で操っているのでは、という噂も流れるほどに帝国内は緊迫した状況に置かれていた。

 

舞台となったクロスベル自治州でも動きがあった。共同代表の一人であるディーター・クロイス市長が会議の場において『帝国と共和国の二大国に従属している現状を打破するために“独立国家”を目指す』という宣言を大々的にも行ったのだ。傍から見れば『絵空事』という形で気にも留めるようなことは帝国も共和国もしていなかった。ごく一部の『原作の未来』を知るものを除いて……

 

そして、今年度初めての理事会がトールズ士官学院で開かれた。

 

 

〜トールズ士官学院 会議室〜

 

「―――以上をもちまして、今年度・前期課程における運営報告を終わります」

「成程、各種行事の運営なども問題はなさそうですな。他の高等学校や士官学校と比較しても、学力・成績を上回っている」

「2年生も負けてはいませんね。生徒会長を務めている女子など、学業以外の成績も目覚ましい」

「先日の通商会議に勉強を兼ねて参加したが、本職顔負けの働きぶりであったと聞いている……まぁ、通商会議自体はあんな幕切れで終わってしまったが」

「こっちを見ながらそれを言いますか、皇子殿下……確かに、あの一件は私の国も無関係とは言い切れませんが」

「そうですね……私共のグループも株が乱高下している状況です」

「帝国経済にとっても、由々しき問題ではありますね。ところで―――」

 

ヴァンダイク学院長からの活動報告を聞き、各々述べている理事長のオリヴァルト皇子、常任理事のレーグニッツ帝都知事、ルーファス・アルバレア、シュトレオン・フォン・アウスレーゼ宰相、イリーナ・ラインフォルト。この場だけでも帝国内外の軽い縮図を示しているようなものだ。クロスベルにかかわる問題はひとまず置いておき、レーグニッツ知事から出た言葉にほかの一同が視線を向ける。

 

「先日の定期考査の結果ですが、T組・U組の結果が下がっているのが些か気になります。やはり、貴族生徒に対する優遇措置が仇となっているのではないでしょうか?」

「8月中、将来の領地運営を学ばせる目的で、貴族生徒にのみ故郷への帰省を許可する。トールズの伝統ではあるが、今の時代には少々そぐわないのかな?」

「失礼ですが、殿下。伝統とは保たれることに価値があります。文化、芸術、そして身分制度。帝国を帝国たらしめている伝統は守られるべきでしょう。トールズ士官学院がドライケルス帝の理念を体現しているのと同じように」

 

身分というかかわりになると予想できていた展開。確かに古き良き伝統や理念は受け継がれるべきものだろう。だが、それが国という存在の成長の妨げになっていた場合、それを守ろうとするものと壊そうとするものが出てくるのはなおのこと。身分にとらわれない学院を作ろうとしていたらしいドライケルス帝の話を持ち出したレーグニッツ知事に対し、ルーファスはその当時の事情も交えつつ皇族・貴族・平民のピラミッド式身分制度をしっかりと確立すべきと述べた。

 

「やれやれ、本当にそうならば私も楽に意見は通せるのだが、あなた方は揃いも揃って手厳しいことこの上ないときている。そのあたりもいっそのことかつての古き良き帝国時代―――大帝の頃に引き戻してほしいものだね」

「ふふ……」

「これは、一本取られましたな」

「理事長の意見を検討し、実現に向けて練り上げるのは我々の役目でもありますから」

 

そのピラミッド式が完全に機能しているのならば、庶子とはいえオリヴァルト皇子も皇族であり、その力をもって意見を通せるという趣旨をもっての発言に先ほどまでの空気は幾分か和んだ。ここにいる常任理事の面々はそれこそ各派閥や企業、国家の中枢部を担うもの。むしろこれぐらい手厳しくなければやっていけないことぐらい皇子自身も理解している。

 

「―――ほうら、手厳しい。学院長やシュトレオン殿下も何か言ってやってくれたまえ」

「儂はあくまでもこの会議の進行役ですからな。そこは若い殿下の熱意と努力に期待しております」

「意見をうまく練り上げることはできても、エレボニアの身分制度自体は内政干渉になるからできませんよ。その先は殿下の手腕に期待させていただく」

「うーん、流石はわが恩師と親友。それ以上に手厳しかったか……」

 

当たり前の正論なだけに、オリヴァルト皇子もこれ以上すがるのは無理だと判断せざるを得なかった。いったん議論が落ち着いたところで、次に口を開いたのはイリーナ会長であった。

 

「次は私からの議題提案となますが。導力ネットと魔導杖については先ほどお話しした通りです。特に導力ネットに関しては……セキュリティ技術の導入が必須ともいえるでしょう」

「現在、IBC方面の仲介がやりにくくなっているので、直接財団を頼る必要があるが……」

「そちらはお任せします。そして、ARCUSの運用―――ひいては、Z組の特別実習に関わってのことです」

 

結果的に事なきを得たとはいえ、形から見れば正式な軍人ではない学生が国際問題に発展しうるかもしれなかった危険な出来事にかかわったのだ。厳しさを増す帝国国内の情勢からすれば、今後の安全も鑑みて今月の特別実習を中止にすべきでは……というイリーナの意見に他の常任理事三名も異論は述べなかった。とりわけZ組に自身の身内がいるのだから、当然の発言ともいうべきだろう。だが、あえてオリヴァルト王子は一石を投じた。

 

「―――『若者よ、世の礎たれ』。ご存じのとおり、この学院の創設者でもあるドライケルス帝のお言葉だ。確かに帝国内の情勢は厳しさを増している。先月の一件に関しても同様のことがいえるだろう。だが、その状況下でも彼らは誰かに言われるのではなく自身らで決めて行動し、結果を得た。虫がいいように聞こえるのは当然だが、この状況だからこそ彼らは成長できるのかもしれない。残念なことに、私も含めて痛い目を見なければ目の前に迫りくる危険を認知できない存在が多いからね」

「………そうですね。彼はともかく、うちの娘にどれだけのことが成せるのかは解りませぬが」

「それを言われるのでしたら、うちの愚息も同じです」

「それはわが弟も同じ。だが、この学院に入って少しは自分の殻を破れたようだ」

 

自身のことを皮肉りつつも述べたオリヴァルト皇子の言葉に、他の常任理事も先ほどと打って変わった空気。そこでオリヴァルト皇子はシュトレオン宰相のほうを見やると、その視線を向けられた当人は苦笑を浮かべた。

 

「来月は学院祭のため、もとより特別実習はありません。それでは、今月の特別実習を予定通り執り行うという方針に賛成の方は―――」

 

 

〜トールズ士官学院 1年Z組教室〜

 

その頃、Z組の面々は学院祭の出し物について話し合っていた。で、それに関わることでアスベル、ルドガー、セリカ、そしてリーゼロッテに関しては事の推移を見守るようなことになっていた。というのも、話し合いの前にサラが

 

『とりあえず、あんたら4人はアドバイス担当ね』

 

と言われてしまったためだ。それに加えてもう一度一年生をやってるような状態のクロウも似たような感じというか、自発的に黙っていた。流石にノーヒントで妙案など出るはずもないのだが。そこに一石を投じる形で、ミリアムが質問を投げかけた。

 

「ねー、ガクインサイって何をするの?」

 

肩をすかす人もちらほらいるが、ある意味的を射たような質問。通例ならば一年生が出し物をする流れであり、その形態は教室を使っての展示や講堂のステージを使っての発表といったところだろう。このまま案が出ないようだと特別実習のレポート展示になりかねないので、それはできることなら回避したいとZ組一同は思っている。

 

エマから学院祭の説明を終えたぐらいのところで、丁度サラが姿を見せた。内容としては、理事会が無事終わって今月の特別実習は予定通り実施。そして、理事たちも丁度出ていくところなので、見送りぐらいは許可するというものであった。とある人物のたくらみのせいで常任理事自体身内が多いのだが……それに甘える形で、面々は校舎の外に出た。すると、各々を迎えに来たリムジンと常任理事や理事長であるオリヴァルト皇子の姿もあった。

 

「父さん、最近慌ただしいようだけれど、大丈夫かい?」

「ふふ、これぐらいの事はもう慣れたようなものさ。ところで、先月は派手なことをしたみたいだね」

「自分でも軽率だとは思ってるよ。でも、自分で決めたことだから後悔はしていない」

「うむ、それならばそれでいい」

 

レーグニッツ知事とマキアスの会話は割かし穏便に終わった。ところ変わって、ルーファスとユーシスの会話はというと、

 

「お久しぶりです、兄上」

「直に顔を合わせるのは三か月半ぶりか。一層、磨きがかかったような顔つきが見れて、安心しているよ」

「……先月末にレグラムを訪れていたとお聞きしましたが」

「ああ。少しばかりカイエン公の出迎えでね。挨拶の一つもしなかったのは申し訳ないが、あの方に変な興味を持たれるよりはマシだろう?」

 

先月末の特別実習のとき、アルトハイム自治州とレグラム自治州を訪れていたカイエン公爵。その時の目的は大方リベール側でも把握していることだろう。それはともかく、それを出迎えたルーファスの答えは何かをはぐらかすような印象を拭えなかった。

 

「父上もそうですが、アルバレア家は……いえ、<五大名門>のうち、シュバルツァー公爵家を除く四家は何をしようとしているのですか?」

「さあてね、私もその真意を測りかねている。そもそも、父と私の間ですら意見が異なっている状況だからね。……ユーシス、そなたは己に何ができるのか…公爵家の者として、その言葉の意味をよく考えるといい」

 

何か大きなことが迫りくるようなルーファスの物言いに、ユーシスは押し黙るほかなかった。

さて、一方イリーナとアリサはというと、

 

「よく来れたわね。いつもなら商談とかで時間がないと言って理事会の出席さえ断っていそうなものなのに」

「時間は空くものではなく、『作る』ものよ。上に立つものならば、尚更といったところかしら」

「ふふ、お嬢様もそういうところは会長そっくりですね。勉学だけでなく、武術・趣味・部活動すべてをそつなくこなしていますし。まぁ、一つだけ奥手になっているみたいですが」

「それぐらいはできて当然として、もっと創造的に時間を使うことをおぼえるべきかしら。彼に愛想をつかれちゃうわよ」

 

言い方は厳しめなのだが、イリーナの言動そのものは明らかに娘を心配する親そのもの。とはいえ親も親なら子も子なわけで、素直に認められないアリサは納得いかない表情を浮かべているのだが。

 

「ぐっ、余計なお世話よ……アハツェンをみたわ。それに『列車砲』も。母様は、あれが本当に必要だと思っているの?」

「それらや、二年前実際にリベールの最新式装備を見たあなたなら、言わずともわかっているのでしょう。あれらは“時代の必然”とされたからこそ生み出されたのだと」

「それは……」

「人の考えを当てにせず、まずは自分の考えを見極めなさい。あなたが本当に家から自立したいと思っているのなら。本当の意味で彼と並び立ちたいと強く思うのならば尚更ね」

 

そして、オリヴァルト皇子とシュトレオン宰相、リィンらほかの面々が顔を合わせていた。

 

「いやぁ、改めて君たちには妹共々足を向けて寝れなくなってしまったよ。危うく宰相殿と一緒に((女神|エイドス))の下へ召されるかもしれなかったからね」

「いえ、そんな……!」

「ともあれ、ご無事で何よりでした」

「通商会議のほうも、お疲れ様でした」

「いやはや、正直謝罪のバーゲンセールだったよ。隣にいる殿下にしてやられたわけだし、私の皇族の威厳が薄れてしまったよ」

「責任転嫁するような言い方はやめろ……ともあれ、最後の最後でディーター市長が爆弾を投下した形になるんだが」

 

混乱を極める状況下において、知名度の向上と功績の両方を成したオリヴァルト皇子とシュトレオン宰相。そこに更なる爆弾発言を加えたディーター市長。双方の宗主国にとっては少なからず影響を与えている。

 

「確かクロスベル自治州の『国家としての独立』提唱ですか……」

「あまり現実味がないかも」

「確かに、尤もな意見だろうな」

「まー、大幅な税収減でも手放すだなんて選択肢はないだろうね。半分近くは地方に行っているから、貴族派も反対しないだろうし」

「ミリアム、お前な……」

「つーか、ぶっちゃけすぎだろ」

 

ここでオリヴァルト皇子の悪い癖が危うく発動して、ミリアムがアガートラム出そうとしたので双方ともに諌める事態となったことを述べておく。その当事者らは納得いかなそうな表情であったが。

 

「おふざけも大概にしておけ。この後のスケジュールが詰まっているのだからな」

「むむむ……折角なら生徒たちと交流を深めたかったが、致し方ない」

「そういえば、どうしてシュトレオン宰相はオリヴァルト皇子と一緒のリムジンなのですか?」

「言われてみれば……」

 

確かに、ほかの常任理事は各々のリムジンに乗ってきている。外国とはいえ、通例ならばVIP専用のリムジンを用意していてもおかしくはない。その答えはシュトレオン宰相が述べた。

 

「リベール王家とエレボニア皇家の友好をアピールする目的も少しはあるんだが、ここから先は国家機密になるので勘弁願いたい」

「えー、誰にも言わないから教えてよー!」

「それは流石に駄目だろう……」

 

そして、会話も済んで各々学院を出ていくリムジン。シュトレオン宰相とオリヴァルト皇子、そして護衛であるミュラー・ヴァンダール少佐の三人になったところで、シュトレオン宰相は口を開いた。

 

「しかし、エレボニアも忙しい情勢だというのに、この時期での『締結』提案とは驚いたが」

「寧ろ、この時期を逃すとエレボニアとしてはさらに不利になる可能性があったからね。むしろ、あれだけの提案を少し条件が追加された程度で通してくれたことに感謝だよ」

「王国議会としても『徒に追い詰めれば最悪の結果を招く』ことを危惧して穏便に済ませる方向で全会一致となった。条件追加もそちらがどのような事態になっても対応するためのものだ……先月のことからして、テロリストがこのまま黙っているなどとは到底思えないが」

「殿下……」

 

下手に追い詰めれば更なる被害を生んでしまう。そのことをリベールは<百日戦役>のときに経験している以上、引き際が大事なのだと。

 

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閃Vもキャラ追加されて、とうとう出てしまいましたか……ちなみに前作でも触れましたが、うちのレヴァイスさんはそのまま続投です(年齢的にヴィクターぐらいな感じ)。でないとルドガーと名前被りまくりなのでw

説明
第101話 常任理事会(第六章 黒と銀〜鋼都動乱〜)
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閃の軌跡 オリキャラ多数 神様転生要素あり ご都合主義あり 

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