ポケモンDPt 時空神風伝 12 |
チャンピオン、シロナ!
「ヒーコ、かえんぐるま!
ズーバ、つばさでうつ!
トーム、あやしいかぜ!」
ハクタイシティを旅立っていった彼らは道中、技の特訓をしていた。
ポケモンたちはそれぞれ、別々の方向に技を放ってその威力やスピードを上げている。
「よっしゃ、いい感じだぜ!
ズーバ、ヒーコ、トーム!」
全員の技の切れの良さに喜びつつ、クウヤはおもむろにタウンマップを開いてここからいける道をチェックする。
「ここから先はサイクリングロードかぁ。
自転車は大丈夫だけど、そこからクロガネシティに戻ることになるんだな」
すでにクロガネジムのバッジはもっているので、そこまで用はない。
だがサイクリングロードを越えて一度クロガネシティに戻るしかない。
「まぁいっか、進めるところへ進むしかねぇーよな!」
考えるより動くタイプのクウヤは、ぱっと気持ちを切り替えて、レンタルサイクルショップにはいり自転車を借りる。
元々の運動神経に加えて何度も自転車に乗ったこともあるのでクウヤはすいすいとサイクリングロードを進むことができる。
「おい、そこのキミ、ポケモントレーナーだろ!」
「へっ?」
その途中でポケモントレーナーにも遭遇した。
「オレとポケモンバトルしようぜ!」
「よし、受けて立つぜ!」
相手のトレーナーが出してきたムクバードにたいし、クウヤはトームをそこに出した。
「ムクバード、つばめがえし!」
「トーム、でんげきは!」
クウヤがサイクリングロードを抜けることができたのは、昼過ぎのことだった。
「自転車で進むだけかと思ったけど、バトルばっかしてたな」
レンタルしていた自転車を返し、クロガネへの道を進むクウヤ。
「ねぇ、そこの貴方」
「え、おれ?」
「そう」
「・・・誰?」
クウヤの前に現れたのは黒いコートを身につけた一人の女性だった。
白金色の長い髪で、前髪の一部が顔の片面をかくし、灰色の瞳は静かに光を持っている。
どこから見ても、非の打ち所のない美女だった。
「私はシロナ、ポケモントレーナーよ。」
「おれはクウヤだ!」
「よろしくね、クウヤくん」
女性、シロナはにっこりと笑う。
「それで、シロナさん、おれに何か用?」
「うふふ、実はさっきのサイクリングロードでの連戦、私見ていたのよ」
「え、そうだったの?」
「ええ、そこで貴方が連勝していたのが気になったから、声をかけてみたくなっちゃったのよ」
「そういうことかぁ」
シロナの話に納得していると、遠くからあーっと叫ぶ女の子の声がして、なんだと思ってそっちをむくと、その女の子の口から予想外の言葉がでてきた。
「チャンピオンのシロナ様だー!」
「チャンピオン、え、チャンピオン!?
え、え、えぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
チャンピオンという単語を聞いて自分の目の前にいる女性を二度見し、クウヤは驚きのあまり絶叫した。
「しししし、シロナさんってチャンピオンだったのかぁぁっ!?」
「ええ、そうよ。
びっくりさせちゃった?」
「びっくりだよびっくり!」
そこでクウヤが思い出したのは、かつてホウエン地方を旅していたときに出会ったホウエンのポケモンチャンピオンのことだった。
「じゃじゃ、じゃあさ、ダイゴのことも知ってたりする!?」
「もちろんよ、彼とは何度も一緒に仕事したりバトルもしたことがあるわ」
「じゃあさ、じゃあさ!」
「クウヤくん」
クウヤが慌てながら話をしようとしているので、シロナは彼の肩を軽くたたいて落ち着かせた。
「まずは少し落ち着いて、ゆっくり話してみて?
私ちゃんと話を聞いてあげるから」
「う、うん」
クウヤは軽く呼吸をして、話を再開させた。
「ミクリにいちゃんは知ってるのか?」
「ミクリにいちゃん・・・ああ、ミクリのことね、もちろん知っているわ。
でも彼に弟なんていたかしら?」
「あー、にいちゃんていうのは、おれが勝手にそう呼んでるだけだよ!」
「そうなの」
「オレ、あの人のことホントのにいちゃんだと思ってるし、ミクリにいちゃんも、おれのこと可愛がってくれて色々教えてくれたり一緒に遊んだりしてくれたんだ!」
クウヤがすごく楽しそうに興奮して話している様子をみて、シロナは察した。
彼はミクリのことを心から慕っているのだと。
「でも、ミクリのことを兄のように慕ってた割には、クウヤくんはナルシストじゃないのね」
「え?」
「いえ、こっちの話よ」
クウヤはシロナと色々な話をした。
ミクリのことやダイゴのこと・・・お互いが今まで出会ってきたトレーナーやポケモンのこと。
「よう!」
「あら?」
「へ?」
そんな彼らに声を掛けてきたのは10人くらいの柄の悪い男の集団。
みるからに不良といえるような恰好の男たちはニヤニヤと気味の悪い表情を浮かべて彼らに歩み寄ってきた。
「へっへっへ・・・シロナさんよぉ」
「あんたチャンピオンなんだって?」
「ええ、それがなにか?」
挑発的な笑みを浮かべる不良達に対し、ニコニコとほほえむシロナ。
「チャンピオンなら、ポケモントレーナーの見本だよなぁ?」
「だったらむやみやたらと公式戦でもないのに、力ひけらかしてトレーナーやポケモンを傷つけたくないよなぁ?」
「大事なお偉い立場だもんなぁ」
にやにやと、気色の悪い笑みを浮かべながらシロナを挑発する不良たち。
そんな彼のその様子が気にくわないクウヤはいらだっていた。
「だから、ポケモンたちを差し向けても文句もできないし反撃もできないよなぁ、強いから!」
そういいながら不良達はポケモン達を出してそれで二人をとり囲う。
「このっ」
クウヤがボールからポケモンを出そうとした手をシロナがとめる。
「シロナさんっ」
「ガブリアス!」
シロナが繰り出したのは鋭い鰭と目、牙や爪を持ったドラゴンポケモンのガブリアスだった。
「ドラゴンダイブ!」
ドラゴンダイブで不良のポケモンを一掃するガブリアス。
その一撃で不良達のポケモンは全員戦闘不能になった。
「な、なななななな・・・・」
そのパワーを目の当たりにした不良達はさぁと青ざめる。
「ちゃ、チャンピオンが、こんなことしていいのかよ!」
「あら、正当防衛に出ただけよ?
でもあっさり終わっちゃったのね」
「このおぉぉぉっ!
やっちまえおまえらぁー!」
今度はデルビルやヤミラミ、ベトベターなどを繰り出してシロナのガブリアスに総攻撃を仕掛ける。
「ヒーコ、マッハパンチ!」
そこで、クウヤがヒーコを繰り出してマッハパンチで一部のポケモンを攻撃した。
「なにしやがんだ、このガキ!」
「集団で攻撃なんて、そんなの格好悪いじゃん!」
「なにをぉ!」
「ズーバ、はがねのつばさだ!」
今度はズーバを出してはがねのつばさでマッハパンチが効かないポケモンを倒していく。
次々に不良のポケモンを倒していく様子を、シロナとガブリアスはあえて手を出さずに見ていた。
「このガキ!」
「いい加減にしろよ、おまえら!」
不良の引き際の悪さやしつこさなどが鬱陶しくなったクウヤは最後にトームをだした。
「トーム、あやしいかぜやっちゃえ!」
「トトトッ」
トームは不良の中心に入り込み自身の周囲にあやしいかぜをまきおこす。
「うわぁーっ!」
不良達はあやしいかぜにとばされていったのだった。
「凄いじゃないクウヤくん、一気に不良達を蹴散らしちゃうなんて!」
「いやぁ、シロナさんのガブリアスだってめっちゃ強いと思うぜ!」
クウヤたちは今、道中のポケモンセンターでポケモン達を回復させていた。
シロナの姿を見かけたポケモントレーナーが騒ぐ中で二人は静かな場所に移動し、シロナは先程のことをポケギア越しに誰かに報告していた。
「シロナさん、不良を蹴散らしたことを報告するのも仕事なのか?」
通信を切ると、彼女の会話の内容が気になっていたクウヤはシロナにそのことをきく。
するとシロナは少し疲れているというか呆れている様子で通信で先のことを報告した理由を説明した。
「最近ああいう連中が増えてるのよ。
威厳を保つべき立場というのを利用して悪ぶって調子に乗っている・・・ああいう連中がね」
「へぇ」
「だからポケモンリーグ協会も、そんな過度な連中に対していっさいの手抜きは不要だって仰ってたわ。
表ではほとんど秘密のことだけどね。
まぁ、私もあれで本気じゃないのだけどね」
「え、さっきのドラゴンダイブが!?」
彼女の発言に驚きクウヤはあのとき見た技の威力を思い出す。
地面が大きくえぐれ、襲い掛かってきた不良のポケモン達は一瞬で戦闘不能になった。
その実力が並以上というレベルで収まらないことなど、ダイゴやジンキ、そしてミクリを見てきたから知っているはずだった。
だが、先程のシロナのガブリアスを見て、チャンピオンの存在の大きさやトレーナーとしての実力の違い、そして人格者としてもレベルが違いすぎる。
「やっぱ・・・チャンピオンってすげーんだな・・・」
クウヤが素直に感嘆の声を上げると、シロナは微笑みかけた。
「でも、クウヤくんにはすごい才能を感じるわ」
「え?」
「ポケモン達をみたら解るわよ、貴方はポケモン達にとても好かれていることがね。
きっと、貴方がホウエンで旅していたポケモン達も貴方を好いているわ。」
「そーかな」
自分の凄さを言われても、自覚がないのがクウヤだ。
その様子がおかしくてシロナはつい笑う。
「貴方はポケモンが好きなのよね?」
「うん!」
「私も、ダイゴもミクリも・・・そして、私の知る強者トレーナー達は、みんなポケモンが大好きなの。
その気持ちを捨てず守ってきた結果が今の立場なのよ。
だから、貴方がポケモンを好きでい続けることは、チャンピオンに近づくということ。
少なくとも、私はそう思うわ」
「・・・ポケモンを好きでいること・・・」
クウヤは白い歯を見せ、無邪気に笑った。
「じゃあおれもいつか、チャンピオンくらい強くなれるな!
だって、おれ、ポケモンのことホントに好きだもん!」
その元気な様子に、シロナもどこか元気をもらった気がした。
「貴方がシンオウ地方を旅して、今より強くなって、バッジを全部集めて四天王にも勝つことができたなら・・・そのときは、私ともポケモンバトルしましょう」
「ああ! おれ、そのときがくるのが楽しみだぜ!」
「私もよ」
丁度ポケモンの回復が終わり、クウヤはモンスターボールを受け取ってそれをベルトにつける。
その中にいるポケモンに、大好きだという気持ちを抱きながら。
「じゃあシロナさん、まったなー!」
「ええ、またあいましょう!」
満面の笑顔で手を振りながらそこを走り去っていくクウヤ。
そんな彼に手を振り替えしほほえむシロナ。
「・・・ダイゴやミクリが、可能性を感じていた理由がわかるわね・・・。
さらにはあのジンキまで・・・」
彼の姿が見えなくなったあとで、シロナは独り言をつぶやく。
限りなく純粋で、まっすぐな輝きを持った目。
あの目を曇らせたくないし、させるようなことがあってはならない。
「いつかは本気で勝負したいしね・・・クウヤくんとは。」
あの緑色の目の輝きと笑顔を思い出しながら、シロナは口元に笑みを浮かべた。
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