異能あふれるこの世界で 第二十二話
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【阿知賀女子学院・麻雀部部室】

 

 

憧「お疲れ様でした、末原先輩。飲み物はいかがですか?」

 

恭子「ん、新子か。ちょうど喉乾いとったんや。甘いやつとかあるか?」

 

憧「カフェオレとかどうでしょう。砂糖とミルクを多めにしています」

 

恭子「ええな。もらうわ 」

 

憧「はい。他にもありますけど、カフェオレが一番のおススメですから」

 

恭子「ほんまか。どれどれ……ああ、しみるわあ。ありがとな」

 

憧「コーヒー、お好きなんですか?」

 

恭子「分析とかやってる時はブラックをがぶ飲みしてるわ。けど、今は頭も胃もやられてもうてるから」

 

憧「……つらい対局、でしたね」

 

恭子「まあな。でもな、ええ体験させてもろたとも思うてるんやで」

 

憧「というと?」

 

恭子「練習や指導じゃ絶対に味わえんプロ級の本気。これだけでも大阪から来た甲斐あったっちゅうもんや。打たせてもろて今後の講義に期待できそうなんもわかったし、負けたん以外はええことずくめや」

 

憧「そうですか……前向きなんですね」

 

恭子「前向きっちゅうんかな、これ。しっかし、あんたんとこの監督、あれ化物やろ! 私んとこの監督らよりも強いっちゅう予想はしとったから勝てる要素なんぞ存在せえへんとはいえ、ここまで手玉に取られるんは流石に予想外やった」

 

憧「えっと、それってハナから負けると思っていた、ってことですか?」

 

恭子「そういう言い方すんなや。私らがやっとんのは麻雀やで。どんな状況からでも、ちょっとした偶然であっちゅう間に勝ちと負けが入れ替わる。最後の最後まで、何が起こるかわからん。そういうもんやろ? 諦めるんは締めの点数確認が終わってからでええ」

 

憧「でも、勝てる要素はないって」

 

恭子「私はただ、この面子で打つと決まった時に勝てんと判断しただけや。けど、戦うことになってもうたら、もう打つしかないねん。打つんなら勝ちにいくしかないねん。せやろ?」

 

憧「そりゃそうですけど……対局前も対局後も、末原先輩からは弱気な感じがしなかったっていうか。対局中もずっと勝つために全力だったように見えましたから、今すごく悔しいんじゃないかなって」

 

恭子「当ったり前や! 打つ前は気持ちを整える。打っとる時は集中しまくる。打った後は反省しまくる。なんもかんも基本中の基本やろ! 負けたんはめっちゃ悔しいし、次があったらこうはいかんぞっちゅうて腸煮えくり返っとる。次が無いのはわかっとっても、そう思うてまうんや」

 

憧「……なんで、あんな強い人たちに本気で勝ちにいけるんですか? 勝てるわけ、ないのに」

 

恭子「あのなあ。勝てん思うたら、へたれたまま打つんがお前の普通なん? なんで元から無い勝つ確率をさらに下げなあかんねん」

 

憧「でも……」

 

恭子「わからんなあ。お前ほんまは何が言いたいねん。私を不快にさせたいんなら今のままでええけど、よう知らん同士なんやからはっきり言わな伝わらんぞ」

 

憧「ごめんなさい……」

 

恭子「ええ。私も疲れてるから気い短かなってるしな。この飲み物の分くらいは優しゅうしたるから、素直に言うてみ」

 

憧「あの、勝てもしない人たちを相手にするのってどうすればいいんですか?」

 

恭子「は? どうするも何も、さっきも言うた通り打つしかないだけやで。後は精一杯頑張れくらいしか言えんけども」

 

憧「そうじゃなくて、勝てそうにもない人たちに対して全力で立ち向かっていくことです。私は胸を借りる気持ちで打ってしまうので、負けると納得してしまいます。でも、そういうのって何か違うなあって、ずっと思っていたんです。勝てないってわかってるのに勝つために頑張れるのって、そうそうできることじゃありません。私も、今日の末原先輩みたいに打ってみたいんです」

 

恭子「なるほどな。新子にはそう見えてたんのか。なんか話が噛み合わんなあと思うてたんや」

 

憧「えっと……というと?」

 

恭子「さっき小走さんに愚痴っとったん、聞こえんかったんか? 私も言うてたで。小走さんはあんなやばい人たちと戦うのに前向きでええなあ。あんな勝てん相手にどうやって打てばええのかわからんわあ。ははっ、弱気もええとこや」

 

憧「えっ、いつの話ですか?」

 

恭子「新子が卓の準備始めたあたりちゃうか。小走さんにも心配されてもうてな。私の態度があまりにひどすぎたから、発破かけてくれはったわ。ええ人やな」

 

憧「そんなことがあったんですか」

 

恭子「実際なあ、どう考えても勝てん奴を相手にしてどないせえっちゅうねん。戒能プロと打つともなれば緊張もするし、ほんま直前までぐっだぐだやったわ。小走さんには対局前なのにいらん気い使わせてしもたし、もうちょいしゃんとしとかなあかんかった思て反省しきりや」

 

憧「でも、私が卓の用意をし終えた時にはもう準備ができていたはずです」

 

恭子「対局が始まるんやから、しゃあないやん。やるしかないやろ」

 

憧「やるしかないって言われても、その」

 

恭子「もしかして、あれか? 新子は割り切るのが苦手なんか? ぐだぐだ悩んだまま引きずりまくる、ねばっこい感じの性格なんか?」

 

憧「えっと、どうでしょうか。わりとさっぱりとした性格をしてると思いますが」

 

恭子「あかん。女が自分であっさりとか、さっぱりとか、さばさばとか言うたらまず逆やねん。洋榎もよう自分で言うてるけど、あれでなかなかねちっこいしな。たまにぐっだぐだなまま対局始めて、序盤ええとこなしってのもあるくらいやし。新子も気分がもろに出る質なんかもな」

 

憧「うっ」

 

恭子「その反応、自覚あるな? 洋榎みたいに自分からあほになっとるわけちゃうんやから、その赤土さんにも認められとる頭使うて、しっかり戦う準備整えたらええがな」

 

憧「そのやり方がわからないんです。だから末原先輩がどうしているかを教えてもらえませんか? 手がかりにしたいんです」

 

恭子「いや、私は参考にならんと思うで。別に大した話やないから、隠すほどのことでもないけど……これ教えろ言われたら恥ずいな。いらんことまで説明せなあかんくなるから、嫌や」

 

憧「そこをなんとか。今後、麻雀を教えてもらうわけですから、その一歩目として! お願いです!!」

 

恭子「なんなんその勢い。ちょい引くわ」

 

憧「引かないでくださいよ! 私は真剣なんですから」

 

恭子「せやけどなあ。あんま言いたないこともあんねんて。つまらん話になるし……いや、待ちい。あれや。交換条件ならええわ。言うたる」

 

憧「交換条件、ですか? 私でできることならやりますよ」

 

恭子「新子にしかできんことや。しかも今が一番ええな」

 

憧「えっと、それって」

 

恭子「南三局。新子の視点で、あの局を解説して欲しいんや。後ろで見てた新子なら、赤土さんのやってたことがわかるんちゃうかなって」

 

 

……

 

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憧「覚えている限りで、見えていた牌を並べてみました。戒能プロと小走先輩の捨て牌は怪しいので、間違っていたら直してください」

 

恭子「そうやなあ、確か戒能プロはここで3ソウ捨ててへん。(3)ピンちゃうか?」

 

憧「んー、ちょっと覚えてないです」

 

恭子「……ま、ええわ。大した影響なさそうやし、一応入れ替えといて、おかしかったら修正しよか」

 

憧「はい。それで、ハルエの手なんですけど……正直、私にも全然わからなかったんです。むしろ、この局で多少知った気になっていたハルエが、ものすごく遠く見えてきたっていうか」

 

恭子「そうか。新子にそこまで思わせるほどか。不思議なことやったんはわかっててんけど、これは面白そうな話が聞けるかもしれんな」

 

憧「面白いっていうか、異常だと思います。まず開局した時点で、二人とも配牌がいいと感じました。ハルエはこんな感じで」

 

恭子「ああ、配牌時は東が対子か。切り時はどこがよかったんやろな。仕掛けさせてもあがられてたくさいし」

 

憧「私も東の切り時がポイントだと思いました。ただ、実際はわりとあっさり東を引き入れて、こんな順番で引いていって、七巡目にこう ≪三四888(55667)東東東≫ です」

 

恭子「ん?」

 

憧「で、(7)ピンを引きます」

 

恭子「この形で、8ソウを切らんかったんか」

 

憧「はい。四マンを切りました」

 

  三四888(55667)東東東  ツモ:(7) 打:四

 

恭子「いや、覚えてんねん。覚えてんねんけど……は?」

 

憧「ちなみにハルエは、無理な高得点打法はそれしか方法が無い時にすればいい、と私たちに教えています」

 

恭子「暗刻手への移行やない、っちゅうことか」

 

憧「まあテンパイは維持していますから、無理ではないと言うこともできるでしょうが」

 

恭子「ないな。言い訳にしても厳しいわ。なんぼ単騎はすぐに入れ替えられるっちゅうても、ここから手え変えるくらいなら即リーの方がまだあがりやすいやろ」

 

憧「私もそう思います。で、ここから八マンを引いて三マン切り。そして七マンを引いて……8ソウを切ったんです」

 

  三888(556677)東東東  ツモ:八 打:三

       ↓

  八888(556677)東東東  ツモ:七 打:8

       ↓

  七八88(556677)東東東

 

恭子「八マン単騎の受け変えはわかる。私が一枚捨てとるから数こそ減るけど、マンズの上は安全性がやや高い局面やったからな。手替わり前提ならそう受けるわ。問題はその次や。なんで七マン引いたら両面待ちに受けんねん。さっき同じ色の両面拒否したやんけ」

 

憧「私も同じことを思いました」

 

恭子「わけわからん。一貫性が無さすぎる。二−五マン待ちを嫌ったのに、六−九マン待ちなら喜んで受ける意味ってなんかあるか?」

 

憧「私にもさっぱり。そしてこの後、小走先輩の九マンを見逃します。続いての戒能プロの六マンは同巡であがれず。で、ハルエが……もう何の牌だったか忘れましたけどツモ切りをして、末原先輩の九マンをロンです」

 

恭子「こんなもん、どんだけ警戒しとっても打つやろ。なんで私からなら当たんねん。小走さんが打った時はおねむの時間やったんか?」

 

憧「ものすごく集中している感じでした」

 

恭子「ちゃうかあ。ええとこ突いたったと思てんけどなあ」

 

憧「えっと」

 

恭子「いや、ほんまこれなんでやねん。ずっと意味わからん思うとったけど、今の話聞いてさらに意味わからんくなってもうたわ。そんなに私からあがりたかったん? なんの意味があるっちゅうんや」

 

憧「末原先輩でもわかりませんか」

 

恭子「わからん。さっぱりや。なんかこれ、いくら考えてもわからんような気いするわ」

 

憧「そんなことってあるんですか?」

 

恭子「自分に無い発想をしてくる奴はいくらでもおるからな。たぶんこれも、本人に聞かなしゃあないやつやろ」

 

憧「でも、教えてくれるでしょうか。私たち、ハルエの打ち方について聞いたりするんですけど、お前らにはまだ早いとか、知らなくていいことだとか言って教えてくれなかったりするんです」

 

恭子「そんなん知らん。そもそも今、私らがここにおるんは私に麻雀教えるっちゅう話がきっかけなんや。しかも打つ前にこの半荘を使って教える言うたんやから、私が負けた理由の一番でかいやつはどうあっても解説してもらわなあかん」

 

憧「気持ちはわかりますけど」

 

恭子「いいや、わかってないな。絶対に聞かせてもらうで。何があろうと、一歩たりとも譲ったらんぞ!」

 

 

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 麻雀 末原恭子 新子憧 

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