とある8月のとある里帰
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  心地よく車に揺られていると眠たさが戻ってくる。まさかこんな時間に車で移動するとは思いもしなかった。腕時計に目をやるとあと二週半ほどで日付が変わる。

 

 目的地に着くまでまだ少し時間はあるみたいなのでつくまで寝ようかなと考えて、体をシートに預けて目を瞑る。

 

「亜由美ちゃん、ごめんね。眠いなら寝ていていいよ。」

「はい。」

 

 後ろの席に座っているお姉さんが声をかける。いつもと違って少しばかり暗い感じがした。いや、少しじゃない間違いなく、元気が無い。何事も無ければいいけど。車に乗ったときの彼も酷い顔をしていた。私と目があうと少しだけ頬が緩んだ感じがしたけど、すぐに悲しそうな顔をしていた。

 

 そんな事を思い返しつつ、私は握っている彼の手にそっと力を加える。車に乗ってからずっと二人の手は繋がっている。手が少し強く握りかえさせる。起きたのかなと思って顔を見る。安堵しているようにも不安が残っているようにも見えたが眠りについていた。

 

「真一は、寝ちゃった?」

「ええ、ちょっと前から。」

 

 私がそう答えると彼のお母さんが助手席から振り返る。彼がいるはずの空間に視線を向けたが、そこに彼はいない。しばらくして視線を私に向ける。

 

「もう、この子は。」

 

 彼のお母さんは一瞬、呆れたような表情をしたもの優しい顔を私に向けて、前を向いてとなりにいるおじさんに、彼の様子を伝えていた。おじさんもちらりと後ろを振り帰った。

 

「重いだろう。座席に下ろしていいよ。」

「お父さん、余計なこと言わないの。」

 

 彼のお母さんが笑いを含みながら話しかけている。普段会うときは、もう少しカラカイを込めて接してきてくれるけど、今日も明るくつとめようとしているけど、どこか影がやっぱりある。

 

 彼の頭は私の膝の上にある。さっきまでは反対側にもたれていたんだけど、カーブを曲がった時に私の肩に倒れてきたので。そのまま私の膝の上に移動させた。何でそうしたのかはよく覚えてないけど。

 

 ただ彼の横顔はさっき会ったときよりも落ち着いた表情をしていたのを眺めていたかったからかもしれない。

 

 ことのはじまりは夕食後にかかってきた一本の電話だった。お母さんが電話に出て、何やら深刻そうな声に変わったなと思っていると。

 

 すぐさま私に出かける準備をするようにいった。分けもわからずとりあえず準備をする為に弟妹にもさせようとしたが、私だけでいいといって準備をさせられた。

 

 眠気に誘われる中、彼の顔に手を添えつつ、ウトウトしながら頭の中にその時の事を思い返す。

 

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 夕食が終わり、二人を無事にお風呂に入れた後、冷蔵庫からよく冷えたスイカを取り出して細かくサイコロみたいに切り出す。それを横でまっている弟妹がもっているガラスの器に落としてやる。二人は次から次へと落とされるスイカを楽しそうに眺めている。

 

 前はかぶりついて食べていたのだけど、以前デザートとしてサイコロみたいに出して以来、二人の中ではスイカをこうやって食べるのがお気に入りだ。

 

「はい、おしまいだよ。フォークを持ってテーブルね。」

「「は?い。」」

 

 元気よく返事をすると引き出しからフォークを取り、自分達の椅子に座る。私は自分の分と、お母さんの分を用意してお盆にのせてテーブルにつく。

 

「お母さん、スイカ切れたよ。」

「先に食べといて、すぐ行くから。」

 

 声をかけるとそう返事が返ってきたので、先に食べることにした。

 

「じゃ、食べようか。いただきます。」

「「いただきます。」」

 

 二人は両手を合わせていただきますをして、競うようにスイカを口の中に放り込んでいく。

 

「もう、慌てないの。おなかがビックリするよ。」

 

 そんな二人を見ながら私も口の中にスイカを放り込む。程よい甘さと瑞々しさが口いっぱいにひろがっていく。買う時にコツコツと叩いて聞いた音に間違いはなかったみたいだ。

 

「うん、このスイカは当たりだね。甘くて美味しい。」

 

 私がひとりごちると、二人が大きく頷きながら口をモゴモゴ動かしていた。この前、食べながら喋るのを怒ったからかな。すぐ忘れちゃうんだろうけど、まだ覚えて守ってくれていた。

 

 そんな風に夏の味覚を味わっていると電話が鳴る音がした。こんな時間に誰かな。口の中にあるスイカを咀嚼して飲み込み。電話に出ようと立ち上がると音が途切れて、お母さんの声がした。

 

 お母さんの話し声が聞こえてくる。私は立ち上げるのをやめて再びスイカを口に放り込む。そうしているとお母さんが顔出し、私を手招きする。

 

「亜由美、ちょっとおいで。」

「うん、なに。」

 

 お母さんに呼ばれてリビングを出る。電話はどうも保留になっているみたいだった。誰からだろう。そんな事を思っていると思いがけないといがされた。

 

「あんた、明日何か予定とかある。?」

「ないよ。家で課題を見直すつもりだけど。」

 

 夏休みも残り一週間と少し、新学期が始まるとすぐに実力テストがある。実力テストと言っても七割位は課題から出題されるのでそんなに大変じゃない。

 

「そう、じゃ今から出かける準備なさい。」

「いいけど、どこにいくの。その前にあの子達に服着せないと。」

「いくのはアンタだけよ。早くしなさい。」

「?」

 

 私が不思議そうな顔をしているとお母さんは受話器をとり、再び話をつづける。

 

「お待たせしました。ええ、大丈夫です。はい。いえ、こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

 そういって受話器を下ろす。それかれ側に置いてあるメモ帳になにやら書き込んでいく。

 

「30分後に迎えが来るから。着替えてきなさい。他のいる物は後で送るから。」

「誰が来るの。」

「真一君の家族よ。」

 

 なんだろう、家に電話があって、私が出かけるって。もしかして、彼に何あったんだろうか。一瞬にして嫌な想像が頭の中を駆け巡る。そんな私見てお母さんが優しく話しかける。

 

「真一君に何かあった訳じゃないから、安心しなさい。ただ彼のお祖父さんが倒れたらしいの。」

 

 お母さんは準備をしながら詳しいことを話してくれた。。さっきの電話の相手は彼のお母さんだった。

 

「そうなんだ。でもなんで私が。」

「会わしてあげたいんでしょうね。息子のお嫁さんを、」

 

 何か言おうとしてお母さんを見たら、いつものからかうような表情でなくとても真剣な表情だったので何も言えずにいると話を続けた。

 

「あと、真一君がね。まいってるみたいだから。元気づけてあげなさい。キスとかして、」

「えっ、あっ、うん。」

 

 思わず頷いてしまった私を見てお母さんは少しだけ笑っていた。私が顔に熱を帯びているのを感じていると優しく頭を撫でられた。

 

「冗談とかじゃないからね。亜由美が必要だと思うなら迷わずにしてあげなさい。」

 

 お母さんの顔はすごく真剣な顔だった。今度はしっかりと頷き、私は慌てて部屋に戻りでかける準備をする。でもどういった服がいいんだろうか。普段着じゃダメなのはわかるけど。お出かけ用の服も違う気がする。

 

 ゴチャゴチャと考えていると部屋のドアが開く。お母さんが小さなバックを持ってきてくれた。

 

「最低限のものは入ってるから。あと細かい物は向こうで買いなさい。」

「ありがとう。ねぇどんな服がいいのかな。」

「そうね。あまり派手なのは良くないけど。動きやすい方がいいかな。」

 

 お母さんのアドバイスを聞きながら服を選んでいく。動きやすさからスカートはやめてパンツにした。それに合う色の服を取り出して、髪をあげていつものように整える。とりあえず準備が終わり荷物をもって下に降りると弟妹の姿はなかった。

 

「ねぇあの子達は?」

「アンタが準備している間に、寝かしてきた。起きてたらアンタが出かけにくいでしょう」

 

 確かにそうかもしれない、起きてたら自分たちも一緒に行くと言って大騒ぎになったかな。でもそれは明日の朝、目を覚ました時も同じかな。

 

「あっ、お母さん。悪いんだけど明日は必ずあの子達をラジオ体操に連れて行って欲しい。」

「いいけど。何で?」

 

 そう言えばまだ話してなかった。それは弟の淡い淡い夏物語。少しだけ早いような気もするけど、それを見守るのも姉の勤めだろう。大方の説明をするとお母さんがなんでそんな面白いことを黙っていたのという感じで責める。

 

「そっか。よう君がね。わかったわよ。帰ってきたら詳しく教えなさいよ。いい。」

「うん。」

 

 そんな話をしていると玄関のチャイムがなった。迎えが来たみたいだ。

 

「じゃ、行ってくるね。」

「いってらっしゃい。真一君の家族によろしくね。ねぇ、亜由美。やっぱり、お……。」

 

 ?お母さんが出かけに言ったことを思い出す。正直な話、まだ私は答えをえていない。ただ今は良い感情はもってない。そんなことも思い出しつつ私はしばしの間、睡魔が奏でる子守唄に身を委ね浅い眠りについた。?

 

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「そろそろつくよ。」

 

 後ろからした、お姉さんの声に揺すられ目を覚ます。ウトウトしていたのは覚えていたがいつの間にか寝ていたらしい。私は目を開けて後ろを振り向く。

 

「おはよう。膝の上で幸せそうに寝ているのも起こしてあげて。」

 

 お姉さんはそういって笑う。私もつられて笑う。さてどうやって起こしてあげようかな。前は彼が目を覚ました時にキスしてあげたんだっけ。『必要ならしてあげな。』お母さんの言葉が頭をよぎる。ちょっぴり顔が熱くなるのを感じながらも私は彼の顔に手をかけてゆっくりと優しく摩った。

 

「うううん。」

 

 彼が声を微かに漏らしながら、徐々に目を覚ましていく。目が覚めた彼と視線があう。今回はキスはなし。だって後ろと前からの視線がある。何やら、期待しているみたいだったけど、さすがに恥ずかしい。

 

「おはよう。そろそろだって、もう起きてた方がいいよ。」

 

 覗き込むように彼に伝える。彼は目をこすりながら私を見る。まだ少し寝ぼけているのかな。

 

「おはよう。」

 

 彼はそれだけ言うと顔を真っ赤にしている。自分の状況がよくわかったみたいだった。

 

「ほら、いつまで膝枕されてるの。亜由美ちゃんが困ってるでしょう。」

 

 そう言われて彼は慌てて起き上がる。

 

「ごめん。全然覚えてない。」

「いいよ別に、気分はどう?」

 

 私は彼の顔色を見る。家の前であったときよりもいい顔色に戻っていたけど、まだ少しだけ暗い感じがした。照明が少ない所為だけだといいな。そんな事を思っていると後ろから声がした。

 

「悪い分けないよね。亜由美ちゃんの膝枕だもんね。悪いって言うなら帰りは私がしてもらうんだからね。席代わりなさいよね。」

「もう、五月蝿いな。ありがとうな、亜由美。だいぶ落ち着いた。」

「あれ、膝枕の感想はないの?」

「あのな?。」

 

 お姉さんはどうやら彼をカラカウことで、いつもの調子を取り戻そうとしているみたいだった。そんなやりとりがされている中、目的のインターチェンジで降りる。しばらくは市街地を走っていたのだけど徐々に風景から建物が少なくなっていく。

 

 田んぼや畑が広がる光景を目にしながら車が進んでいく。しばらくすると昔ながらの作りの大きな家が見えてきた。もしかしてあれなのかな、すごく大きな家。いや、お屋敷と言った方がいいのかな。

 

「もしかして、あのお屋敷みたいなのですか。」

「そう。まぁただ大きいだけだから心配しないで。」

 

 そうは言うもののすごく大きな家だ。彼の家も大きかったけど、今目にしているのはそれよりも大きそうだった。

 

 家が近づいてきて、玄関は灯がついている。車から降りる。彼のお母さん、お父さん、お姉さん、彼、そして私の順に歩いていく。みんなの足が速い、歩いているのに走っているような不思議な感じで玄関にたどりつく。

 

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 扉を開けると女の人が待っていた。車の音で来たのがわかったのだろうか。もしくは私が寝ている間に連絡を取ったのかな。

 

「姉さんお帰り。」

「ただいま、お父さんの容態は?」

 

 そう彼のお母さんが聞くと出てきた女の人は困ったような顔をしていた。

 

「あのね、そのことなんだけどね。」

 

 その人がモゴモゴしていると後ろから大きな声が聞こえてきた。

 

「よくきたな。まっとたっぞ。」

「じいちゃん。あれ、倒れたって?」

 

 彼がビックリしたような声で声のする方を見ている。元気そうなお爺さんがニコニコしながらやってきた。その後ろから着物をきたおばあさんもでてきた。

 

「真ちゃん。ごめんね。倒れたってのは、この人のお芝居なんだよ。真ちゃんの彼女さん急に会ってみたいって言いだしてね。後ろの子だよね。写真で見るより可愛い子だね。」

 

 そう言って私をみる。ゆったりとした口調で自己紹介をしてくれた。

 

「こんばんは、はじめまして。真一の祖母です。おばあちゃんて呼んでくれてかまわないからね。」

「こんばんは、はじめまして、榊亜由美です。」

「亜由美ちゃん、よく来たね。ごめんね、こんな遅くに迷惑かけたね。」

 

 お祖母さんは何だか申し訳なさそうな顔をしていた。私は首を横に降る。確かびっくりしたけど、こんなことがなければたぶん二人が一緒になる日まで会うことはなかっただろう。

 

「はよせんと夏休みを終わってしまうしな。どうじゃ名案じゃろうに。」

「姉さん、自分達のときを思い出さない?」

 

 最初に玄関にいた女の人ががそういうと、彼のお母さんは、どっと疲れたような声で言った。

 

「迂闊だったは、二度も引っかかるなんて。アンタもこんなことに協力しないの。お盆に戻った時、元気だったからおかしいとは思ったけど。」

「ごめんね、姉さんも知ってるでしょう。お父さんがこうなったら止まらないもの。」

 

 彼のお母さんと女の人は諦めたような顔をして笑っていた。その笑い顔をどことなく似ていた。

 

「真人くん。すまんの遠い所までの運転。」

「いいですよ。これぐらい。」

「それにお母さんも。父さんがうわ言で真一の彼女に会いたいっていってるって嘘言わないの。」

 

 彼のお母さんはとっても悔しそうだった。以前にもあったんだろうか。私が不思議そうにお母さんを眺めていると後ろにいたお父さんがボソッと教えてくれた。

 

「昔ね、同じ方法で僕が連れられてきたんだ。僕も今の今まで忘れてたけどね。」

「そうだったんすでか。」

「まぁお義父さんらしいよ。」

 

 確かに間違いなく会えるかもしれないけど、あんまり心臓に良くない呼び出し方だ。でもなんとな憎めないような、可愛い人なのかもしれない。

 

「亜由美ちゃん。ごめんね。こんなことにつき合わして。」

「いいですよ。何事もなかったんですから。」

 

 彼のお母さんはすごくすまなさそうな顔をしていた。本当に何もなくてよかった。隣にいる彼は戸惑っているようだったが、お祖父さんが元気だったのは嬉しいみたいだ。さっきまで顔に刺していた影はどこにもなかった。

 

「まあいいじゃないか。せっかく来たんだから。ゆっくりしていきなさい。」

「ねぇ、お母さん。いいんじゃないの。明日は土曜日だし。お父さんも仕事休みでしょう。」

「そうだけど、何て説明しょう。亜由美ちゃん家に、ドッキリでしたなんて言えない。」

 

 そういって困った顔で私を見る。身内だけならまだしもそう言うことになるのかな。でもウチのお母さんは物わかりが良過ぎるから大丈夫かな。そう思ったので思った通りのことを伝えた。

 

「大丈夫だと思います。たぶん何もなくて良かったって言うはずだから。」

 

 私はそう言った瞬間に、何故だか立っていられなくなり、彼を掴んでしまった。

 

「亜由美。どうしたんだ。」

 

 彼はそう言って、優しく抱きとめてくれた。何だろう力がどこかに行っちゃったみたいだ。彼が心配そうに覗き込む。

 

「大丈夫。うまく足に力が入らないだけ。何か力が抜けちゃった。」

 

 たぶん彼のお祖父さんに何もなかったと聞いて、張りつめていた物がとけた反動だろうな。それなりに緊張はしていたんだろう。自分でなんとなく答え探り当てた。

 

「もう遅いしな。部屋を用意してあるから。ゆっくり休むといい。」

 

 お祖父さんがそんなことを言うと彼のお母さんが困った顔をしてお祖父さんに言った。

 

「もう、誰の所為だと思ってるの。けど、何だか私も疲れちゃった。」

「じゃ、姉さん私は帰るね。明日から子どものキャンプだから。」

「うん、お休み。また今度、もどったときにゆっくりとね。」

 

 玄関から出る際に軽く挨拶をする。お母さんの妹さんかな。そんな風に見ていると目があった。

 

「それにしても可愛い子を見つけたわね。真君。やるわね。」

 

 彼は恥ずかしそうに頷いていた。何だか私は恥ずかしくなって俯いてしまった。

 

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「またね。」

 

 そう手を振って女の人が出ていき、玄関が閉まる。一段落ついた様な空気が漂う中、お姉さんが、良い事を思いついたという感じで話しはじめた。

 

「そうだ、私、亜由美ちゃんと一緒に寝たい。」

「ダメよ。聞きたいことは、私もあるんだから。」

「じゃ、三人一緒でいいじゃん。いいよね。」

 

 お姉さんがすごい勢いで背中を押してくる。その顔は普段会う時に見せてくれる笑顔だった。お姉さんもホッとしたんだろうな。

 

「そうだ、じいちゃん。話したいことがあるんだけどいい?」

「いいぞ。」

「真一、明日にしなさい。アンタも疲れてるでしょう。」

「大丈夫だよ。」

「あっ、電話借り手もいいですか。家に電話しないと。」

 

 彼はお祖父さんとお祖母さんと一緒に、彼のお父さんは荷物をとってくるといって車に戻った。

 残された私はお姉さんとお母さんと一緒に部屋に移動する。その途中で電話を借りて家に連絡をした。

 その時、隣には彼のお母さんとお姉さんが一緒にいる。私はいいですよと言ったんだけど一緒にいてくれた。彼のお祖父さんに何もなかったことを伝えるとお母さんは良かったねと言ってくれた。

 それから彼のお母さんに代わる。最初はお祖父さんの策略に引っかかったことの話をしていたのがいつの間にか私がしばらくこちらでお世話になる話になっていた。電話を代わると頑張りなさいとだけ言われた。何を頑張るんだろうか。

 

 そんな電話も終わり、しばらくお世話になる間に使わせてもらう部屋に案内してもらう。荷物を部屋の隅に置く、そういえばパジャマはもってこなかった。どうしようかとも思っていると、お祖母さんが襖をあけて浴衣をもってきてくれてい。

 

「もし、寝間着をもってないなら。これつかいなさい。」

「ありがとうございます。忘れてきたので助かります。」

 

 私がそんなやりとりをしている間に、二人は布団をしいていた。三つの布団が部屋の真ん中に引っ付けてしいてある。広い部屋なんだからもう少し間隔があってもいい気もする。

 

「亜由美ちゃんは真ん中ね。それでいいでしょう。お母さん。」

「文句はないわよ。さて、もう遅いから寝ましょう。」

 

 私は服を脱ぎ浴衣に着替える。何だか旅館に来たみたいだ。布団に入り横になる。天井の木目がとっても綺麗だった。しばらくすると電気が消される。すると右隣にいるお姉さんが話しかけてくる。

 

「来てくれてありがとうね。おじいちゃんがさ倒れたって話聞いたときのアイツ、真っ青だったんだ。おじいちゃん子だからね。」

 

 そうなんだ。そう言えばあんなに焦った顔をしたのは初めてかな。

 

「私もあんな顔見たの初めてです。」

「でも亜由美ちゃんの顔見たら少しずつだけど顔色が戻っていったんだ。」

「そんなことないですよ。」

 

 私だけじゃない、お姉さんやお母さんやお父さんも気をかけながら優しい言葉をかけていた。そう私が言うとお姉さん違うよと小さく答えた。

 

「私たちがね、声かけても頷くだけで、顔色は戻らなかったんだ。ちょっと悔しいな。お母さんもたぶん一緒でしょう。」

 

 お姉さんがそう言うと左側にいるお母さんが答えた。

 

「そうね。真一の中で一番は今の家族じゃなくて未来の家族である亜由美ちゃんなのかもね。だから来てくれてありがとうね。非常識なお願いだったからね。」

 

 二人してそんなことを言う。でもそんなことはない、彼はお母さんやお姉さんの事を大事に思っている。遊びにきた時にたまに愚痴ったりするけど。

 

「だからね。もし何かあったらあのバカを頼っていいんだよ。頼りがいないかもしれないけどさ。」

「そうね肝心な所でヘタレだったりするけど。愛想つかさないでね。私は貴女が娘になることを願ってるから。」

 

 彼のお母さんやお姉さんはそう言ったけど、彼は頼りにしてもいいと私の本能はそう言っている。ヘタレじゃなくて彼は優しいだけ。相手のことを考えるから、無理なことはしない。それはつき合いだしてわかったこと。恋人同士になるまではもどかしかった彼の態度はそう理由だった。

 

 目を瞑ってしばらくすると、右隣のお姉さんが私の布団の中に入ってきた。何だろうどうしたのかな。そう思って横を向くと、お姉さんが楽しそうに小さな声で聞いてきた。

 

「そうだ亜由美ちゃん。大事なことだからちゃんと答えてね。」

「はい。」

 

 私がそう答えるとお姉さんは私の耳元でつぶやく。呟かれた瞬間に私は体中が熱くなるのを感じた。冷えないようにかけた薄い掛け布団が原因でないのは確かだ。

 

 その答えに私が軽く首を横に降ると、お姉さんはホッとしたような、残念そうな、呆れたようなどれともとれる顔をしていた。

 

 その後、しばらくお姉さんと色々な話しをした。お互いに眠くなりお姉さんは自分の布団に戻り、私たちは深い眠りについていった。

 

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 おなかの当たりにちょっとした重みを感じながら目を覚ます。夏が終わりかけの朝は少しだけ寒いみたいだ。

 

でも何故かお腹の辺りが温かい。そっと手を伸ばすとフサフサした感触が伝わってきた。布団の中をそっと覗くとそこには丸まっているネコが私のおなかの上でチョコンと寝ていた。

 

 どこのネコなのかな、大人しいからここの家のかな。ゆっくりと私はネコの頭に手を当てて撫でてあげる。しばらく撫でているとネコが目を覚ます。

 

 逃げていくかなと思っていると、お腹の上から降りて横で再び丸くなって寝はじめる。

そんな様子を確認して、私は起き上がり伸びをする。部屋にかけてある時計を見ると、いつも起きる時間と同じ位だった。

 

 寝間着として貸してもらった浴衣を脱ぎ、服に着替える。髪を軽く整えて軽くストレッチをしていると布団の中にいたネコがふすまを器用に開けて外に出ていった。私は何となくネコの後についていってみることにした。

 

 ネコは時たま私の方を振り返りながら進んでいく。何だか道案内をしてくれているみたいだ。辺りを見回しながら歩いていく。十分な広さをもった庭が目の前に広がる。家の作りは昔ながらの日本の家という感じだ。部屋が襖で間仕切りされ、廊下がある。

 

 ネコが鳴いた気がして前をむくとネコはいつの間にかいなくなっていた。廊下の突き当たりにある扉がある。扉を開けるとそこは台所だった。彼のお祖母さんが台所で朝ご飯の支度をしていた。

 

「おはようございます。」

「あれ、おはよう。早いんだね。眠れなかったかい。まだ寝てていいよ。」

「いつもと同じ時間ですので大丈夫です。」

 

 足元でネコが『ニャー』と鳴く。いつの間に私が先に来ていたみたいだ。しゃがんで足元のネコの頭を撫でてあげる。

 

「あれ、ミー。アンタ昨日はどこにいたんだい。」

「私のお布団の中にいたみたいです。」

 

 お祖母さんに抱き寄せられ幸せそうな顔をしていた。お祖母さんが大好きなんだね。

 

「昨日ね真ちゃんから聞いたよ。」

「?」

 

 私が何のことかわからずにいると、お祖母さんは左手をとり、じっと手を見る。見ている先にある物を私も確認する。そこには彼から貰ったお揃いのリングは嵌っている。聞いたってどのことだろうか。色々思いを巡らせているとお祖母さんは優しく手を握った。

 

「正式に決まったときは、皆でおいでね。」

 

 お祖母さんはそう言って握った手をはなし朝ご飯の支度に取りかかった。仮婚約の話をしたんだ。正式に決まったらまたおいでって言ったし間違いないかな。

 

「はい、そうだ何か手伝えることありますか?」

 

 手持ち無沙汰だった私がそう言うとお祖母さんは嬉しそうに笑っていた。

 

「いいのかい。じゃ、お味噌汁の準備を手伝ってもらおうかな。魚は捌いたことある。」

 

 覗き込むとまな板の上にはお椀に丁度おさまる位の魚が並んでいた。初めて見る魚だったけど、やることはどのたぶん魚も一緒だろう。

 

「はい、できます。」

「それじゃ、エラとかを取り除いてお鍋に入れてね。一匹丸ごと入ったお味噌汁だよ。ダシがよく出てて美味しいんだから。」

「この魚初めて見ますけど。何ですか?」

「これかい、近くの海で昨日あの人が釣ってきたカサゴだよ。」

 

 海も近いんだ。そう言えば車から降りたとき匂いがしたっけ。そんなことを思いつつ私は魚を捌きはじめた。

 私は魚をさばいた後、お祖母さんがつくるみそ汁の作り方をずっとみていた。みそ汁の具にお魚を使う何て思いもしなかった。

 魚好きのあの子達にしてやったら喜ぶかな。お鍋に水を入れそこに捌いたカサゴを静かに入れて、コンロの火をつける。

 

「ダシはいれないんですか?」

「これはね。これだけでも十分良い味になるんだよ。」

 

 そう言ってお玉にみそをとり、ゆっくりと溶かしていく。それを少しだけよそって私に渡してくれる。そっと口を付けて飲んでみる。海の味がした。

 

「おいしい。初めて飲んだ。」

「後は少し煮込んで魚に味噌をしみこませておしまい。」

 

 お鍋に蓋をして、弱火で煮込んでいく。

 

「そうだ卵焼きをつくってくれないかな。フワフワのヤツね。」

「えっ。」

「真ちゃんが美味しいって。言ってたからね。こんなに早く機会があるとは思わなかったけど。」

 

 彼が言うフワフワの卵焼きは初めて作ったお弁当に入れたおかず。彼はこれをすごく気に入ってくれた。彼が言うにフワフワしていて甘いお菓子みたいな卵焼き。弟妹も大好きな卵焼きだ。お母さんが作ったのはもっとフワフワしているけど。まだまだそこまでになってない。

 

「いいですよ。でもあんまり期待しないでくださいね。」

 

 私はフライパンを借りて卵焼きをつくる。まずはだし汁をつくる。普段使うのと少し違うので少しずつ味を確かめながらだし汁を調整する。完成しただし汁を卵に素早く混ぜ込んでいく。その間にフライパンを暖めていく。フライパンに広がった溶いた卵をフライ返しで折り畳んで四角の形をつくる。

 

 出来上がった卵焼きをまな板の上に乗せて一口サイズに切っていく。切れ端を一切れ口に含み味見をする。美味くいったみたいだ。

 

「食べててみてもいいかい。」

「はい、どうぞ。」

 

 反対側の切れ端をお祖母さんは手にとりゆっくりと味見をしていく。家族以外は彼しか食べたことがないので少し不安だった。

 

「なるほど。確かにフワフワだね。美味しいよ。」

「そうですか。良かった。」

 

 その後はお茶碗をだしたり、お椀にお味噌汁をもったりして、食卓をそれ得ていく。

 

「さて、そろそろ皆を起こしてくるかね。」

 

 そう言ってお祖母さんは皆を起こしにいった。さてお祖母さんは味見をして美味しいと言ってくれたけど他はどうかな。まだ、ちょっぴりドキドキしながら皆を待つことにした。

 

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「おばあちゃん、これって卵焼きだよね。」

 

 お姉さんが卵焼きを口に入れてお祖母さん聞いている。

 

「どうだい。美味しいかい。」

「うん、とっても美味しいよ。甘くてフワフワしてる。」

「どれどれ、本当だ。」

 

 お祖母さんが私を見て笑う。よかった彼のお母さんもお姉さんも美味しいって言ってくれた。彼は最初に手を付けた時にこちらを見ただけだったけど、たぶん食べただけでわかったんだろうな。

 

「はい、お爺さん。これ。」

 

 そういってお祖母さんがお祖父さんのお皿に盛る。お祖父さんは箸で卵焼きを半分に割り、一つを口の中にいれる。何だかすごく緊張する。

 

「確かに、美味いな。だがばあさんの味付けじゃないな。ちと甘い」

 

 お祖父さんには少し甘かったかな。砂糖を入れすぎたかな。そう言えばここは大人ばっかりだから少なめの方が良かったかな。

 

「もう、せっかく亜由美ちゃんが作ってくれたのに。」

「これか。真一がいっていた卵焼きは。」

「ちょっと待って何で真一は食べたことがあるの。」

 

 お姉さんが二つ目を口に入れながら彼に聞いているが、彼はどこ吹く風と言った感じでご飯を食べていた。なのでお姉さんは私の方を向く。私が答えようとすると彼のお母さんがかわりに答えていた。

 

「たぶん、お弁当でしょう。ちょくちょく、お弁当いらないっていわれたから。最初は学食の大盛りランチかなにかだと思ってけど、亜由美ちゃんが作ってたのね。」

「ずるいな。私もお弁当が食べたい。何で私同じ学校じゃないんだろう。そしたら作ってもらうのに。」

「迷惑だろ。我慢しろよ。」

「何よ、アンタはもうこの卵焼き食べちゃダメよ。黙ってたバツだからね。」

 

 そう言ってお姉さんは卵焼きに手を伸ばす。

 

「やっぱり亜由美ちゃんは理想の娘ね。真一、ご両親への挨拶に失敗しちゃダメよ。」

「あんた、緊張しそうだもんね。マゴマゴしないでよね。美味くいけば毎日食べれる。」

「美咲はお嫁に行くでしょう。私だけの特権よ。」

「お婿さんもらって一緒に住むの。」

「二人ともうるさいな。それは、ちゃんと出来たよ心配するな。」

 

 彼は五月蝿そうにそう言って私を見る。あの時のことをいっているのかな。なので私は頷いてあげる。それを見て彼は少しだけ照れた顔をしてご飯食べていく。

 

 そんなやりとりを見ながらお茶を飲む。ふと何やら視線があることに気がついて顔をあげる。

 

「あの、出来たってどういう事かな。」

「亜由美ちゃん、今頷いてたよね。」

 

 お母さんとお姉さんが代わる代わる質問をしてくる。お祖父さんとお祖母さんは私と目があうと優しく笑った。彼のお父さんは淡々とご飯をたべていた。どうしようかと思っているとお祖父さんが説明を始めた。

 

「なんだ聞いてないのか。挨拶は終わっとると聞いたぞ。そうだ真一、ご先祖様にはまだ報告しとらんだろう。彼女と一緒に言ってこい。」

「そうですね。一緒に行ってきなさいな。お花は用意しておくから。」

 

 お祖父さんとお祖母さんが静かにそう言った。お墓参りかそう言えばお父さんの所に行ってない。何となくおじいちゃん達に会うのが嫌だった。去年までは一人でお盆のお墓参り行ったけど。お母さんが泣いていたからだ、何を言われたのかは怖くて聞いてないけど、たぶん酷いことを言われたと当たりを付けていた。

 

 そんな関係のないことを考えていると彼のお母さんが彼に詰め寄っていた。

 

「ちょっと待って。真一、いつしたの。そんな大事な話聞いてないよ。」

「えっ、父さんに話したから。知ってると思ってた。」

 

 彼は驚いた顔をしてお父さんを見ている。お父さんは相変わらず黙々とご飯を食べていたが、箸を置いき、お茶飲んで一息ついてお母さんに言った。

 

「あれ、言ってなかったかな。」

「言ってませんよ。いつ真一から聞いたんですか。」

「確か五月の連休明けだったかな。真一が彼女の家から帰ってきた日。」

「なっ、そんな前なの。」

 

 そっかその日のうちに話をしていたんだ。私たち三人も色んな話をした。お父さんもお母さんも幸せにしてもらいなさいと言ってくれた。お母さんは、あっちの家のことはなんとかするから、気にしないようにと言われた。

 

「亜由美ちゃん。本当にコイツで言いの。考え直すなら今だよ。私は嬉しいけどさ。」

 

 そんな二人の言い合いを横で聞きながらお姉さんが聞いてくる。顔はすごく楽しそうに笑っている。私もつられて頬が緩む。

 

「ほら、二人とも落ち着きなさい。亜由美ちゃんの印象を悪くしてどうするの。」

「だって、こんな大切なこと言い忘れる何て。」

 

 夫婦喧嘩になりそうな二人をお祖母さんがなだめている。そんな中、事の発端の彼は笑いしながらその光景を見ていた。私が顔を向けると頭をかいた。

 

「ごめんな。いつも賑やかで、大目に見てくれな。」

「大丈夫だよ。こういうの好きだから。」

 

 ?そんな賑やかな朝の食卓を囲みながら、私の中で一つ大きな決意をした。こんな風に私の方も仲良くできるといいな。その為には、もう一度、お母さんとあの家にいかないと。?

 

fin

 

説明
8月も残すところ残りわずかです。皆様はこの夏をいかがおすごしでしょうか。何かに挑戦したり、何かを決意したりするには持ってこいの時期です。さて彼女はどうだったのでしょうか。少し時を遡り覗いてみたいと思います。
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