マネージャーさんと私。 |
マネージャーさんと私。
私はバスケ部でマネージャーをしている美人の子の噂を聞いてちょっとした
興味で体育館へ覗きに来ていた。これまで弱小と言われていた我が校のバスケ部が
急に強くなっていったのは同じ時期に入ったキャプテンとマネージャーの力なのでは
ないかと周りから言われていた。
「さてさて、そのマネージャーさんはどんな人なのかね」
移動を弾むように歩いてツインテールを揺らしながら体育館を覗くとこれまで
見たことなかった迫力を目の前にする。チーム同士で気合を入れながら気を抜いた
プレイをしようものならキャプテンとマネージャーから怒号が飛んでいた。
「えぇぇ…」
私はコートから離れたところからすごい声を出していたマネージャーらしい子に
目を向ける。それがまた声とは違って天使のような綺麗な子だった。
「ほらっ、そこ!動けてないよ!」
「は、はいぃ…!」
見た目は天使だけど的確に指示していく姿はコーチ以上だった。
一つの単語で彼女を例えると…かっこいい。だった。
私はすっかりそのマネージャーに見惚れてしまい、それからは毎日のようにその子を
見ていく生活を送っていた。
それから一週間後、いつものように覗いているとマネージャーさんが私の近くに
そっと寄ってきた。
「最近ご熱心ね」
「え…?」
バスケ部の男子に気付かれないように近づいて声をかけられた。優しい声色だった。
「どの子が目当てなの?」
「えっどの子って…」
マネージャーさんって言いたくても言えるわけないじゃない。
もし私の気持ちを知られたら、気持ち悪がられるかもしれない。
「えっと…」
頭の中がパニクってる状態で口に出た名前が…。
「キャプテンです…」
「あぁ、あいつか〜。競争率高いよ〜」
気持ちにもないことを口に出してしまう。すると納得したような顔をした
マネージャーさんは頷きながら何かを言っていた。
何を言っているかは私の耳には届かなかった。
でもその後にマネージャーさんは私の頭をポンポンと優しく叩いた後に
撫で回してくれた。
「でもあいつは君みたいなちっちゃい子好きだからポイント高いかもね」
マネージャーさんが何を言っているか聞こえなかったけど撫でられたところが
気持ちよすぎてそっちに意識が集中していた。一体自分が何を話しているのか
全くわかっていなかった。
***
それから私はマネージャーさんと仲良くなって少しずつバスケの知識も
覚えていって少しずつ好きになっていた。最初の内はもっとマネージャーさんのことを
もっと知りたい、もっと深い仲になりたいと思っていたがそれと同時に拒絶される
怖さもあったからとりあえずしばらくはこの距離感が一番心地良く感じられた。
「今日は時間ある?」
「大丈夫です!」
「じゃあ、この時間に体育館裏で…」
メモに書いてしっかりと言われたことを書き込んでいく。詳しいことは聞けなかった
けどマネージャーさんと楽しい時間でもあるのかな、とその時はにはそれしか
頭になかった。自分でキャプテン目当てだなんて嘘ぶいていたことなんか
すっかり忘れていたのだ。
言われた時間に体育館裏で何の話をしようかとか頭の中が花畑になっている状態で
私の前に現れたのはさわやかな笑顔で走ってくる…キャプテンの姿があった。
***
最悪だ…。あの時現れたキャプテンを前にして頭の中が真っ白になった私は驚きと
気持ちが大きく落ち込んだからといって、告白してきた相手にごめんなさいと強く
言ってから相手に何も言わさずに走って帰ってしまったのだ。
気まずすぎてそれからバスケ部どころか学校にすら行き辛くなってしまった。
どんな顔をして行けばいいのかわからないからだ。好きなマネージャーの好意を潰し
女子人気の強かったキャプテンを振るという暴挙。
マネージャーと学校中の生徒からの冷たい視線を浴びせられ続けることは
容易に想像できる。それもすぐ卒業だったら我慢しても行くけれど二年くらいあるのこと
を考えると私の中には鬱しか残らなかった。
かと言ってその気もない相手と付き合うというのは相手にも失礼すぎるし…。
そんなことをここ何日も学校に行かない日は学校の生徒と合わないようにしてどこか
ブラブラしてサボっているし、学校に行った日は生徒と目が合わないように常に顔を
伏せていたり保健室に篭ったりしていた。
そしてある日、学校をサボって公園のベンチに座って溜息を吐いていると
聞き覚えのある声が私の耳に届いた。
「ねえ!」
「ひえっ!」
そこには部活をしているはずのマネージャーさんが少し怒った顔をして私を見ていた。
「ご、ごめんなさい…!」
「謝るより前に聞きたいことがあるんだけど…」
怯える私の隣にドカッと勢いよく座るマネージャーさんに色々聞かれた。
キャプテンを振った経緯と気持ちと学校で会えなかった理由を…。
「なるほど、あれは嘘だったわけね。じゃあ好きな人がいるっていうのも嘘?」
「ち、違います…好きな人はいます…。いました…」
「じゃあ、誰? 教えてくれないと…せっかく仲良くなってあなたに色々便宜を
図った私の気持ちが収まらないんだけど」
言えるわけないじゃない!でも…もう学校内でも色々広がっているし悪い噂とか
流れてるしこれ以上悪くなりようがないし…なってももう学校を辞めるつもりで
マネージャーさんに告白をした。
「マネージャーさんのことですよ!」
「え…?」
びっくりした顔をして私を見るマネージャーさん。そりゃこんな状況でいい関係に
なれるとかミリほども考えていないけど、こんな状態で長く一緒にいると
心が壊れそうだったから…もう全てを打ち明けた。
「一目見た時からマネージャーさんのことかっよくて可愛くて好きになっていたの!」
絶対に引かれる…冷たい視線で距離を空けられ拒絶される。怖くて目を開けられなくて
脳内でその姿ばかり想像をしていた。しかし一向に気持ち悪いという言葉も何の反応も
こなくて恐る恐る目を開けると少し頬を赤らめて固まっているマネージャーさんの
姿が見えた。
「本当…?」
「こんな状態で嘘なんて言いません…」
嘘を言ったのは本当のことを言うと気持ち悪がられると思って咄嗟に嘘が出てしまった
ことも全て話した。一緒にいる時間は私にとっては特別で今思うと涙が出るほど
幸せな時間だったことも。
「でも女の私が女のマネージャーのことを好きだなんて気持ち悪いと思われると…」
「そんなこと…思わないわよ」
「え…?」
「恋愛の相手なんて人それぞれだしね…。キャプテンは幼馴染でいつも
私に近づいてくる子はキャプテン目当てだったからあなたもそうなのかなと思って納得
していたのよ。本当は…私も真剣に見つめてくるあなたのことが可愛いと思っていたし」
恥ずかしそうに言うマネージャーさんの姿は今までに感じられないくらい可愛くて
見ている私も顔が火照ってくる。想像していた反応と違う。これは夢なのだろうか。
私が見ている夢で都合のいい反応をさせているのではないかと思ったけれど。
違う…。これは…現実だ…。でなきゃこんなにも目の前が涙で滲むことはない。
あまりにも可愛くて私はマネージャーさんを抱きしめていた。体は女子の中でも
大きいほうで体は引き締まっているのに女の子特有の柔らかさといい匂いなのが
私を包み込んでくるような感じがする。
「本当はあなたのところにキャプテンを向かわせた時は私の中で傷ついていたんだ。
応援したい気持ちは確かにあったけど失恋に近い感覚だった。
だから勇気を振り絞って言ってくれて…ありがとう」
「そ、そんな…私は…」
柔らかくて暖かい声で私に向かって笑顔をして抱きしめ返してくるマネージャーさん。
私は涙が止まらなくなってマネージャーさんのジャージに染みこんでいくのを
気にして離れようとするが…。
「大丈夫、気にしないで。こうしていて」
「はい…」
しばらく二人で誰もいない公園の中にあるベンチに座りながら抱きしめ合っていた。
そのしばらくの後にマネージャーさんが思い出したかのようにスマホを取り出して
ラインに何かを打ち込んでいた。
「あの…?」
「あぁ、あいつにね。あなたのことでショック受けたのと同じくらい心配していたから
部分部分隠して報告をね。それとばかげた噂も流れてるから生徒会長にも連絡しなきゃ」
生徒会長にまで!?びっくりしながらも私はマネージャーさんにくっついたまま
見つめているとマネージャーさんは笑いながら答えた。
「私って色々顔が利くのよね。バスケ部以外にもヘルプとかであちこち回ってるから」
「すごい…!」
「日ごろの行いってやつね」
それならもっと早くその手を打って欲しかったと言うと私の気持ちがはっきり
わからなかったから手を出しにくかったと。
「もし私がすることが余計な世話だったら嫌だったから。
好きな子に嫌われたくないじゃない」
いい笑顔でそんなことを言われると胸がキュッとなるではないか。
「ありがとう…ございます…」
「あっ、ほらまた泣く…。まぁ、あなたの泣き顔可愛いから好きだけど」
「もう…!」
チュッ
私がマネージャーさんに向けて文句の一つでも言おうと顔を上げるとそのタイミングで
私の涙が溜まってる所に口付けをされた。
「これからはこうやって涙を取ってあげられるね」
「普通に拭いてください…」
「嫌?」
「や…、むしろ好きですけど!」
私の中で曇って押し潰されそうだった心が驚くくらい軽くなって晴れやかな気持ちに
なっていた。気持ちが伝わってこうしてくっついていられるだけですごく幸せ。
「また学校で会いに来てね。待ってるよ」
「…!当然ですよ!」
お互いに見つめて笑い合った。それから間もなくキャプテンにはマネージャーさんの
紹介を通して新しい彼女が出来て、私に対しての噂もあっという間に消えていって
私は再びバスケ部に顔を出して部員の人たちとそして…マネージャーさんに
可愛がられる毎日を送れるようになった。
それ以上に嬉しいのはプライベートでも二人でデートできるようになったこと。
今まで二人でのデートなんて妄想の中でしかできなかったけど今は堂々とできている。
その妄想のことをマネージャーさんにうっかり喋るとちょっとだけ引かれるも表情は
笑顔のままで、恋人繋ぎをしながら色んなところに遊びに行った。
映画を見にいったり、有名なお店のアイスを食べにいって口の端についた部分を
指で取ってもらってそれをそのままマネージャーさんは自分の口に運んだり。
洋服を見て回って試着しながらあれがいい、これが可愛いとかいってはしゃいだり。
本当に楽しくて幸せなひとときをこれからずっと過ごせるのかと思うと嬉しくて
これまで隠して辛かったことなど帳消しになってプラスになるほどだった。
そして…。
「改めてよろしくね。いつも通りの親友のような関係とそして…恋人として」
「はい!」
私達は人目のつかない場所でお互いに気持ちを確認して照れながらそっとキスをした。
ずっと一緒にいたいという願いを込めて長い、長いキスをしたのだった。
お終い。
説明 | ||
一話だけのやつ。湧いてでてきた設定を妄想でちょこっと膨らましてみたのを書いてみました。 ざっくり設定。 マネージャーさん:高校二年くらい。ショートカットの黒髪。 登校以外はジャージを愛用している。キャプテンとは幼馴染。 傍から見るとかっこいいのが目立つので女子にも人気がある。 プライベートでは普通に可愛いものが好きな子なので可愛らしい一面も。 勉強運動共に平均以上の成績。 私:高校一年くらい。セミロングくらいの茶色味かかった髪でツインテール。 身長は平均より低め。気分がいいと跳ねるように歩くことがあり 小動物っぽさが男女共に受けがいい。妄想するのが好き。 勉強も運動も平均より下で苦手意識が強い。 |
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