紫閃の軌跡
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〜ルーレ RF社ビル・ペントハウス〜

 

『いきなりは辛いでしょうから、時間はあげるわ』

 

夕食の後、イリーナはそういってその場を後にした。続くようにフランツも出ていくところを見ると、どうやら仕事のために下のフロアへ降りていくようだ。すっかり夜も更けたので各々の自由時間となった。レポートのほうは既に一通り纏めてあるので、それの細かい修正でもしようかと宿泊する部屋に向かおうとしたところ、

 

「あれは……アリサ?」

 

遠目ながらもアリサが神妙な表情で奥の部屋へと向かっていくのを見て、ただ事ではないと思いその後を追いかけるようにその部屋へと向かった。中は屋内テラスとなっており、手入れされた花々が飾られていた。そして、そのテラスの手すりに手を置いて項垂れているアリサのもとへ近づく。

 

「アリサ、大丈夫か?」

「アスベル……うん、ちょっと……」

「アリサにしてみれば故郷のことだからな。無理するな、とは流石に言えないけれど…あまり思いつめるなよ? 困った時に助け合うのが“仲間”なんだから」

「……ホント、手厳しいわね」

「アリサに慰めの言葉をかけるのもアリかな、とは思ったけれど……逆に発破かけることになりそうだからさ」

 

そう言って、アスベルも窓の外の風景を見やる。工業都市ならではの明かりの数々が灯り、特徴的な導力ジェネレーターも絶えぬ光を放っていた。

 

「しかし、こういう風景も悪くはないな。都会となるとどうしても騒がしいってイメージが付いてて、落ち着ける雰囲気が少ないけれど」

「否定はできないかな。……正直、解らないことだらけ。ううん、解ろうとしていなかったところもあった。ホント、未熟と言うほかないわ」

「全知全能の人間なんていないからな。俺にだって解らないことのほうが多いさ」

 

夕方の一件、その時のルーファスの言葉。そしてイリーナとフランツの『できれば深入りしてほしくない』という意味も込めた言葉。ただの対立という単純な構図ではないということは解っていた。彼らの心配を無碍にしたくはない……でも、このまま故郷が火の海になるようなことは避けなければならない……思考のループに陥っているアリサに気付いたのか、アスベルは優しくアリサの頭に手を置いた。

 

「えっ」

「まったく、アリサは何かにつけて世話焼きで頑張り屋さんだな。つくづく見習わないとなって思うよ」

「ふふっ、そう言っているアスベルのほうが私以上だと思うわよ……世話焼きすぎて、女の子を落としちゃうところが玉にキズだけれど」

「そうならないように細心の注意は払ってるんですがね、これでも」

 

アスベルの言っていることも真実だろう。まぁ、その素っ気無さが逆にクールさを醸し出して、女性のハートをつかんでいるのだろうとアリサは内心溜息を吐く。

 

「アリサは、何とか足掻いてみたいんだろ? この状況を変えるために」

「……ええ、勿論よ。まったく、これでも貴方の恋人なのにそういう言葉はかけないのね」

「状況がそういうのを許してくれる雰囲気じゃないからな」

「もう……ありがと、アスベル。私のほうで何か情報がないか聞いてみるわ」

「ああ」

 

そう言って一足先にテラスを後にしたアリサを見送り、アスベルは改めて外の風景を見やる。

 

「……ゴメンな、アリサ。流石にこのことだけは言えなかった」

 

彼女への謝罪の言葉。それが何を意味するのかは、彼のみぞが知る……そこへ割り込むかのように、鳴り出したARCUSの着信音。今日の日中に通信測定の課題をこなしていた関係でARCUSがつながる可能性もなくはなかったが、どうやら普通に通信機能が使えるようだ。とはいえ、通信ということは同じA班のメンバーではない可能性大。その思考を片隅に置きつつ通話ボタンを押すと、通信の相手は夕方に見かけた人であった。

 

「トールズ士官学院、アスベル・フォストレイトです」

『よかった、つながりましたか。ミリアムちゃんに通信コードを聞いておいてよかったです』

「その声はクレア大尉ですか。この時間にどうしましたか?」

 

彼女からはこれから会って情報交換できないか、という趣のことであった。この班の中で一番面識のあるアスベルに通信を試みた、という注釈も添えて。流石に時間のこともあるだろうが、ルーレにかかわること……とりわけラインフォルト社に関わることとなれば、会わないという選択肢はない。

 

「―――わかりました。上層のダイニングバーで、ですね」

『ええ。それでは』

 

通信だと喋れない内容、となれば夕方の一件にも関わってくる事案と言ってもいいだろう。今回の特別実習までの期間に帝国内の必要な情報をあらかた仕入れてはいるが、その照らし合わせの意味合いも込めて“かの御仁”に近い立場にいる人物とのコンタクトは必須。先方からはアリサの耳に入れてほしくないとは言ったが、

 

「流石に連絡なしだと誤解を生みそうなんだよなぁ……よし」

 

とはいえ、直接言うと同行を申し出てきそうなので、まずは宿泊するアリサの部屋に向かった。すると色々支度しているセリカがアスベルの姿に気づいて振り向いた。

 

「あれ、アスベル。アリサとお楽しみじゃなかったの?」

「このご時世にそういう訳にもいかないだろうが……ちょっと街に出てくる。なんか俺だけに情報提供したいとのことでさ」

「ふむ……なるほど、アリサさんにフォローしてほしいと?」

「理解が早くて助かる。彼女の性格だと強引にでも同行しそうだから」

「その位ならばお安いご用です。じゃあお礼は今夜の抱き枕役にでも」

「俺に死ねと申すか」

 

ここら辺はジョークを交えつつも、アリサへのフォローはすると約束してくれた。次はシャロンのところへ向かうことにした。

 

「あら、アスベル様。いかがなされました? もしかして、マッサージでもご希望でしょうか?」

「気持ちだけ受け取っておきます。……実は、ちょっと街に用がありまして。流石に鍵をかけずに外出は拙いと思いましたので、施錠をお願いできますか?」

「ふふ、そういうことですか。『騎士様』は夜もお忙しいですね」

「そういやご存知でしたか……ま、『狩り』のために外に出るわけではありませんので」

 

この場合セリカに頼めば楽なのかもしれないが、疑り深いところがあるアリサに対してセリカがフォローに専念してほしいという気持ちの表れだ。シャロンもその辺は理解してくれたようで、アスベルの頼みを快く引き受けてくれた。ひとまず二人に声かけをしたところでリビングに出たところで、一息吐いて周囲の気配を確認する。

 

(視線はなし……外に出るのなら、今を置いて他にはないな)

 

完全に音を殺す歩き方、ドアの開閉、そしてエレベーターで1Fに降りた。我ながら転生前の癖が残っていることに心の中で苦笑しつつ、歩き出した。そこでアスベルは乗ってきたほうとは異なるエレベーターから素早い動きで横切った何かを感じた。普通に見る限りにおいてエレベーターから降りてきたのは一人だが……アスベルは一息吐いて視界をモノクロ状態にし、視界の死角となっている場所にいる少女を抱えると、そのまま正面玄関前まで一気に走ってそこで視界に色を戻す。

 

「………あれ?」

「うまく隠れたつもりだろうが、隠形に関してはちょっと心得があってな、フィー」

 

とりあえず抱えたフィーを降ろして立たせ、理由を聞いてみた。どうやら突然アスベルの気配が消えたことに首を傾げ、追っかけてきたとのことだ。その気配察知の能力は団長であるレヴァイス仕込みなのだろうと、アスベルは溜息を吐いた。

 

「で、どうして外に?」

「クレア大尉が情報提供してくれるらしくてな」

「…デート?」

「違うわ、阿呆。まぁ、約束の時間までは時間があるから一通り街中を見てみるか」

「それ、遊撃士というよりは騎士側の発想だよね」

「言うな……俺だって好き好んで身に着けたわけじゃないんだ」

 

この発想を身に着けてしまった要因は自身の上司がよく仕事中に抜け出して酒盛りすることが多いため、彼女を捕縛するためのスキルとして身に着けてしまった。その余波で酷いときには一日数軒の建物が地下都市行きになったことを付け加えておく。ちなみに、フィーは二年前の事件の関係でアスベルの裏の仕事についても知っている。とはいえ、おいそれと表に出せないことなのは理解しているために触れないようにしてくれている。

 

ひとまず一通り街を見て回り、その過程でちょっとした捜索もした。その関係で、指定されたダイニングバーに到着したのは約束の時間の数分前であった。

 

 

―ダイニングバー『F』―

 

アルファベット一文字だと<帝国解放戦線>を連想しそうなことはさておくとして、呼び出した相手は既に店内にいた。とはいっても、いつも身に着けている制服姿ではなく、

 

(………ドレス姿?)

(腑に落ちないって表情してるね)

(流石になぁ……)

 

いや、似合う似合わないということではない。繁華街とかでカモフラージュのためにドレス姿ならば違和感はないのだが、洒落たダイニングバーということから間違っていなくもないのだが……少なくとも工業都市のバーでドレス姿というのはどこかしら“浮いている”ような気がした。それは置いといて、アスベルはその呼び出したドレス姿の相手―――クレア大尉に話しかけた。

 

「お待たせしました。少し遅れてしまって……あと、何か付いてきてしまったので」

「大丈夫ですよ、ほぼ時間どおりですし。大方お二人で街の探索でもされていたのかと」

「私のこともご存じ、ということかな」

「ええ、情報局経由で少々」

 

流石に三人でカウンター席なのは目立つため、テーブル席に移動した。アスベルとフィーにはノンアルコールの飲み物が注文された。アスベルは成人しているが、学生の身分上致し方ないことだ。

 

「そちらの情報提供を聞く前に、一つ質問があります。……“かの御仁”はこの世界を闘争に導くつもりですか?」

「え……」

 

夕方の領邦軍と鉄道憲兵隊のいざこざに関しては、ある程度背後関係自体洗い出しは済んでいるので今更聞く必要はないと判断し、違う質問を投げかけた。これには流石のクレア大尉も予想外の質問に驚きを露わにするほどであった。

 

「いきなりぶっ飛んだ質問だね」

「いや、これでも言葉を選んだつもりだよ。ただ、今までの歴史から戦いを掲げた末路はどれもこれもロクなものじゃない。強引ともいえる領土拡張政策と軍備増強路線……それを選んで成功した国なんてないに等しい」

 

別にこの質問の明白な回答を言え、などとは言わない。周囲から恨みを買い続けることの意味、そこから生まれ出づる怨恨の連鎖、その果てに辿り着く末路……頭脳明晰な彼女がその意味を理解できないはずはないだろう、と問いたかっただけだ。

 

「……まぁ、これに答えろなどとは言いませんし、その答えを持っているのは当人だけでしょう。失礼、今のは聞かなかったことにしてください。こちらもいろいろ疲れてたようです……ところで、本題のほうを聞かせていただいても? おそらくこのルーレで起きていること絡みだと思われますが」

「え? あ、そうでしたね。お話ししたいのは、現在鉄道憲兵隊は『ラインフォルト第一製作所』への強制査察を検討していることです」

 

鉄鋼を中心に扱っているラインフォルトグループの一部門。そこにある疑いがあって、そのための準備をしているとのことだ。

 

「問題はその一つ一つが巨大になりすぎたこと。そして、それらが貴族派や革新派などの派閥に分かれている状況です」

 

確かアリサとシャロンの会話を思い出すと、それを示唆するような言葉があったのは事実だ。もはや“財閥”と言ってもいいぐらいの規模だろう。広大な帝国内の工業関係をほぼ一手に担っているということから、そのスケールの大きさはとても一企業という単純な枠組みではなくなっている。しかも、独立採算制というイリーナ会長が導入したシステムによって独立性が高く、そのためイリーナ会長でも把握し切れていないのが現状だ。

 

「つまり第一製作所は貴族派が占めていて、その査察を露骨に妨害されている……夕方のいざこざの背景はその解釈で間違いないでしょうか?」

「ええ、話が早くて助かります。レクターさんもこれぐらい察してくれればやりやすいのですが……コホン」

「すごいこと聞いた気はするけど置いといて……拙いね」

「ああ、帝国内の対立と完全に連動しているな」

「伝えられる情報はここまでとなります。―――『危険』の輪郭を見極め、近寄らないようにしてください」

 

そう言って席を立ったクレア大尉。伝票がないところを見ると、彼女が支払ったのだろう。仕方なく、注文した飲み物を飲みほし、店員さんに挨拶をして外に出た。

 

「案の定、釘を刺されたわけだね」

「言ったところでうちのリーダーが聞くようなタマでもないけどな」

「それは言えてる。で、アスベル。さっき最初にした質問……ホントは何を聞きたかったの?」

「ああ、あれか……これで、よし。フィー、聞いても驚くなよ?」

「?」

 

念のため、会話改変の法術を施した上で…フィーにしか聞こえない小さな声で呟いた。

 

 

 

『―――エレボニア帝国……いや、ギリアス・オズボーンはこの世界を『破滅』に導きたいのか? ってな』

 

 

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一応一通り閃Vのストーリーは見ましたが……あれ、終結できるのか?(汗

 

声補正のせいでオズボーンが某外道神父にしか見えなくなりました(いろんな意味で)

 

前作(紫炎)あたりで守護騎士の継承に触れていたのですが、まさか……ね……いや、吃驚です。あと、あの悲劇がらみどうしたものか(汗)

 

なお、アリサの父親の名前が判明したので、差し替えてあります(覚えてる範囲内で)

 

それよりも一番吃驚だったのは……ヴァンダイク学院長のその後という。あの人確かVだと72歳なんですが(汗

 

説明
第105話 危険の片鱗
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タグ
閃の軌跡 ご都合主義あり オリキャラ多数 神様転生要素あり 

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