バスに乗って終点 |
バスに乗って終点まで走っていくと、だんだん景色は寂しくなっていって、家の数も減って行って街灯もぽつんぽつんとしか灯らなくなって、本当にこんなところに終点があるのかしらといつも思うようなこの世の果てみたいな寂しいところへ行くことができるので私はたまにふと思い立って通っていた。寂しいところへ行かないといけないような衝動が時たまあってそういう時はこんな夜更けにバスに乗ってここまでやってくることにしているのだ。
一緒に乗り合わせただけの人が僕は終点へ行ってそれから自殺の名所へ行くんですと誰ともなしに言って、運転手以外には私しかいなかったからたぶん私に言っているのだろうけれども、私は人の生き死にのことなんかどうでもよかったからうつらうつらして聞いていた。夜の十時で、このバスが最後のバスで、終点まで行ってしまったらとても駅へは戻れないけれども、でも寂しいところへいかないと仕方がない衝動があるので乗っているのだ。本当は誰でもそういう衝動を持っていて私みたいにこのバスの路線を利用していない人はもっと他の別な場所を見つけてそこを一人で楽しんでいるんだと思うのだけれども、今のところ私以外の人でそんなふうな衝動に駆られている人を聞いたことがないから仕方がない。
終点に着いた。私とその人が降りて、運転手さんがもう最後のバスはないけれどもと私たちに言って、たまにあなたたちみたいな人がいるんだよね最後のバスに乗って、暗いところに置き去りにしてしまうのもなんだから、と言って運転手さんは私たちに一個三十円のチョコレート菓子をくれた。私はその場でポリポリと齧りだすが、乗り合わせた人は僕はいりませんからと言って私にそのチョコレート菓子をくれてしまったので、運がいい。私はその人の分もチョコレートを食べて、バス停のベンチに座って一息ついた。最近気づいたのだけれども、車は乗っているだけで脚を踏ん張ってしまうので、車に乗ると脚が疲れてしまうので、私はバスから降りるとすぐには歩きだす気力もなくて、ベンチに座ってしまうのだ。
それでベンチに座っていると、乗り合わせた人が私の横に座って、自殺の名所まで一緒に行きませんかと言う。私は行かないよと思って無視して、そういうんじゃねーんだよと思ってカバンから珈琲を入れた水筒を取り出して飲むと、ほかほかで温かく生き返るような気分だった。
それでそのうちに乗り合わせた人は諦めて立ち上がってふらふらと道の暗い方へ行ってしまった。あの人がどこへ行こうか私は知ったことではないのだし、今はここでベンチで座って珈琲を飲んでいるのが美味しいのでどうでもよいのだ。その人の消えていったほうの真っ暗な道をじっと見ているといつもの幻覚が出てきて、暗いところを凝視するといつも見えるお化けや人の顔のような模様が次々と入れ替わってくるのを見て不思議だなあと思い、それからその幻覚も消えて、落ち着いた暗闇の暗さだけを味わって、秋のそろそろ死に絶えた虫の寂しい最後の一声を聞きながらじっと、あと一時間ぐらい飽きるまでベンチに座っていようと思った。
それからあとは歩いて帰るかタクシーを呼ぶか、それかして、都会の方へ帰れば、終電までには家に着くので大丈夫なのだ。
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