ガイシイレブン 第3話
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「何でお前達が……」

「何でって……試合に出るためだよ!」

 

そう言ってエッヘンと豊かな胸を揺らし言う劉備……いやそう言う意味の何でいるのではなかったのだが……冷静の考えたらサッカー大好き女のこいつがこの場に見るためでもなんでも居ないわけがない。ちょっとでも興味を持ってしまった過去の自分をぶん殴りたい……

 

「あ!もしかして一刀さんも試合に……」

「出ねぇよ。気まぐれで見に来ただけだ」

「そっか……でも気が変わるかもしれないし一応選手登録はしとくね。ちょうど一人空いてるし」

「お前俺の話聞いてた?」

 

と、勝手に筆と木の板みたいなやつにサラサラとカタカナで【ホンゴウカズト】と書く劉備に頭が痛くなる。まあいいさ……どうせ出る気ないし。

 

「よおし!勝つよ!」

『おぉ!』

 

とそんな一刀を他所に劉備はチームと円陣を組んで気合いをいれる。見てみれば関羽と張飛もいる。他の顔は……ダメだわからん。

 

「なぁ、ここのサッカー自慢ってのはあんなに少ないのか?」

「いや?ここに住んでれば誰がうまいか何てのは嫌でもわかるし目立ちたがり屋の馬鹿でもこういうときぐらい譲るさ」

 

と、隣のオッサンに聞くと教えてくれた。

 

「だけど大丈夫なのか?相手はガタイのデカイ男もたくさんいるし女の子が三人も……」

「その点は大丈夫だろう。あの三人はこの邑に滞在して長いから見たことあるが間違いなく《武将クラス》だ」

「ぶしょうくらす?」

 

聞きなれない言葉に一刀は首をかしげるとなにも知らないんだなお前はとオッサンはため息をつきつつ、

 

「謂わばサッカーの天才さ。天賦の才を与えられた者達で何故か女しかいない……だから自然と国の上に立つのは女が多いだろ?」

 

知らんがなと一刀は思いつつも曖昧に返事を濁し、試合を見ることにし……

 

「はい!と言うわけで劉備選手率いる即席チーム対黄巾党チームの試合が始まります!」

「どわ!」

 

突然横から大声を出され一刀が驚いて飛び上がるとそこに立っていたのは眼鏡を掛けたチビ……誰?

 

「おっと驚かせて申し訳ない。私は実況解説審判を担当します陳琳ともうします。以後お見知りおきを」

 

役割多いなおい!っと突っ込みたくなったが陳琳はそんな一刀など気にも止めずフィールドを見た。

 

「さぁ選手の皆様も全員ポジションにつきました!それでは〜……試合開始です!」

 

ピー!っと陳琳が笛を鳴らすとボールを関羽が軽く蹴りチームの男に渡す。

 

それと同時に黄巾党チームも走り出しボールを奪いに掛かる。

 

だが劉備チームの男も中々上手くボールを操り相手を躱す……が、

 

「っ!」

 

そこに黄巾党チームのスライディングが入りボールを奪う。

 

「いくぞ!」

 

そこからカウンターの体制に入った黄巾党は一気にボールを細かくパスしながら上がっていく。

 

劉備チームの男たちも奪い返すべく追い縋るが殆ど意味はなくあっという間にゴール前までやってくる……そして!

 

「うらぁ!」

 

渾身のシュートを放たれる。真っ直ぐと劉備が守るゴール目掛けて飛んでいくボール……だがそれは劉備ではなく別の人物によって阻まれた。

 

「行かさないのだ!」

 

そう言ってシュートを何とボレーシュートで弾くという離れ業で防いだのは張飛だ。

 

「なに!?」

 

黄巾党の男が驚愕するが、それを気にせず張飛は前線にいる関羽に向かってボールを放った。

 

「愛紗!行くのだ!」

「おう!」

 

張飛からのパスを受け取り関羽は走る。勿論黄巾党の男達が止めにはいるがそれを強引に突破し関羽は足を後方に振り上げ……

 

「オォオオオオオオオ!」

 

ボールが変形しそうなほどのパワーで蹴られたボールはレーザービームの如く相手ゴールに襲いかかり……

 

「な……」

 

相手は反応すらできずにゴールを許した。

 

何て言うキック力だろうか……純粋で真っ直ぐなシュートに一刀は知らず知らずの内に拳を握り笑っている。

 

それを見た物乞いの男は思わず苦笑いした。口ではああ言いつつもこの男もサッカーを愛するものなんだと……

 

そうこうしている内に試合が再開されるようだ。だが明らかに黄巾党の男達の目の色が違う。どうしたんだ?

 

「お前らぁ!いくぞぉ!」

『オォ!』

 

そう掛け声を掛けると同時にボールを蹴って走り出す。

 

劉備チームも止めようとするが先程と同じ細かいパスに翻弄され、あっという間にゴール前まで来た。だが、

 

「何度来ようと通さないのだ!」

 

そう言って立ち塞がる張飛……しかし、ボールを持った黄巾党の男は笑い、それと同時に体からオーラのようなものが溢れる。

 

『なっ!』

 

劉備チームだけではなく、見ていたものも驚愕する。あのオーラ……まさか!

 

「すいせい……」

 

ボールを空中に蹴りあげ、それを追うように飛び上がった男は体を捻り、ボールを蹴る。

 

「シュート!」

 

すいせいシュート……そう名乗った必殺技は星屑と共にボールを打ち出しゴール目掛けて飛ぶ。

 

「いかさにゃあ!」

 

ボールを止めようとした張飛を弾き飛ばし、ゴールに迫るボールを劉備は見据え、腰を落とす。

 

「止めて見せる!」

 

そう言って正面からボールを取った劉備だったが、必殺技に正面からというのは分が悪すぎた。

 

必死に耐え、止めようとするが止まらない。少しずつ後ろに押され……最後には、

 

「きゃあ!」

 

劉備の手を弾き、無情にもボールはゴールネットに突き刺さる。

 

「あいつら……必殺技持ちまでいるのかよ……」

 

限られた一握りの才能を持つものが使うことができる必殺技……これは少なくとも一刀の世界では【シュート技】【ドリブル技】【ブロック技】【キーパー技】の四種があった。

 

こっちの世界は分からないが少なくともシュート技はあるらしい。そして劉備チームの男達の反応を見る限りああいうのが出来るのは決して多くはないようだ。

 

「まずいな……今の必殺技で揺らいでる」

 

物乞いの男の言葉に一刀は頷く。これは……かなり厳しい戦いになるだろう。

 

そうしてる間に試合が再開された。だがさっきの必殺技の動揺があるためか動きに精細がない。

 

「オォ!」

「負けないのだ!」

 

だがまだ決定的な状況に陥ってないのは関羽と張飛が試合を持たせ、

 

「まだだよ!まだ終わってないよ!」

 

劉備が声を張り上げているからだろう。だがそれがいつまでも持つわけがない。一瞬の隙を突き先程シュートを放った黄巾党の男にボールが渡される!

 

「しまった!」

「すいせい……」

 

ボールを蹴りあげ、シュートの体制に入ろうとする男……すると、

 

「さぁあああああせぇええええるぅううううかぁああああああ!」

 

空中に上がったボールと共に飛び上がった男を追うように空中に上がった影……間違いなくそれは劉備だ!

 

「なにっ!」

 

シュート体制に入った男が目を見開く中劉備は手を伸ばし、ボールを掴む。そして顔面のほんの数ミリ横を脚が通っていくのを確認し二人は地面に落ちた。

 

「まだまだ……終わってないよ……」

 

ボールをしっかりと体に抱え、劉備はニッと笑みを浮かべた。

 

「っ!」

 

その笑みに一刀は電流が走ったような感覚を覚えた。彼女の目を知っている。

 

決して諦めない……絶対に逃げないと訴える目だ。昔自分もあんなだった。だがそれでも逃げた。心が折れた。それを彼女は持っている。

 

「さぁ!行くよ!」

 

そう言って劉備はボールを投げ、それを関羽が受けとる。

 

勝つために……一点をとる!そう関羽が走り出そうとした瞬間!

 

「がっ!」

 

関羽に向けて放たれた黄巾党の男のスライディング……それはボールではなく、関羽の足を捉えた。

 

「あ……」

 

ドシャッ!と地面に倒れ関羽は一瞬何が起きたのか理解できなかった……それと同時に右足を襲う激しい傷みに関羽は声もでなかった。

 

「ファウル!」

 

それを見た陳琳は笛を鳴らし試合を止める。それから、

 

「大丈夫!?」

 

そこに駆け寄ってきたのは劉備と張飛……二人は心配そうに関羽を見ていた。

 

「大丈夫です……あと少しで前半も終わります……早く開始しましょう」

 

そう言って立ち上がるが明らかに辛そうだ。

 

「わりぃわりぃ。ボールを奪うだけのつもりだったんだがよ」

「お前わざとだったのか!」

 

そう言って黄巾党の男に噛みつこうとする張飛を劉備は止め、一瞥してその場を去る。

 

恐らくわざと関羽の足を狙ったか……確かに唯一恐れるとしたら関羽のシュート位で、それさえなければ必殺技を使える黄巾党チームの方が有利だ。

 

これで劉備チームは相当不利になっただろうな……そう試合が再開された光景を見ながら一刀は思う。

 

関羽が戦えなくなった今、これで余程の奇跡がなければ点は入らない。そして勢いは黄巾党チームにある……このままでは負けるだろう。

 

(俺なら……)

 

あれくらい突破してゴールを奪えるのに……そう思い、ハッと我に帰る。今自分は何を考えた?自分なら取れる?やりたいと考えたのか?サッカーを?

 

そこまで考え、一刀は自嘲気味に笑う。あれほど誓ってもそう考えるとは相当自分でもサッカー馬鹿らしい……

 

そう考えていると、どうにか攻め込まれることだけは防いだ劉備達と黄巾党チームがグラウンドから出てきた。そうか、試合再開とほぼ同時位に前半終了になったんだろう。

 

そんな風に思いながら見てると関羽はベンチに座り治療を受けていた。だが恐らく後半は出れないだろう。今こうしてみても痛みに耐えているのがわかる。

 

「これじゃ後半は無理そうだね……」

「何を言ってるのですか!この程度!」

 

劉備の言葉に立ち上がろうとした関羽は足に走った鋭い痛みに悲鳴をあげそうになったのを耐えたが、そのままベンチに座ってしまった。

 

「ほら、後半は休んでて」

「ですがこのままでは……」

 

そう、勝つことは無理だろう。それどころかこのままでは同点に持ち込むことすら難しい……それは劉備も分かっている。相手は必殺技持ちまでいる。どうするか?そう考えていた劉備と一刀は目があった。そうだ、この手があったと。

 

「一刀さん!」

「っ!」

 

そう言って駆け寄ってきた劉備は慌てて逃げようとした一刀の手をつかんだ。

 

「お願い!試合に出て!」

「断る!」

 

一刀は劉備の方を見ずにそう叫んだ。そしてさらに続ける。

 

「いい加減にしてくれ!俺はもうサッカーはやめたんだ!もうサッカー何てしたくないんだよ!」

「絶対嘘だよ!」

 

一刀は正面から劉備に否定され、ギクッと固まった。

 

「だって……あんなすごいシュートを放てるんだよ!?そんな人がやめたのは本当でも、したくないなんていうのだけは絶対ないよ!」

「っ!」

 

ズキン!っと一刀は胸が締め付けられる感覚……そんな中劉備は強引に引っ張って一刀を自分の方に向かせた。

 

「一刀さん……サッカーやろうよ!」

「……」

 

真っ直ぐと邪気のない綺麗な目だった。その目は決して一刀から逸れることはない。

 

もうサッカーはしない……そう決めたはずなのに、彼女とサッカーをしたい。そう思わせるなにかを持った目だった。

 

「……」

 

ギュっと唇を噛む一刀……それと共に自らの誓いが音をたてて崩れていくのを感じる。だがそんなものはどうでもよく感じた。また同じことになるかもしれない……そう思っていても我慢の限界だった。そして口を開くと……

 

「分かった。やろう」

 

その言葉に劉備は笑みを浮かべ、一刀の手を引く。

 

「ふふ……」

 

その光景を見ていた物乞いの男は人混みからソッと外れ、もう一度振り替えって一刀達を見た。だが重要なのはそこではない。なぜなら先程まで男だったはずの人物は振り替えると妙齢の女性に姿が変わっていたのだ。

 

彼女の名は管輅……世が世なら天の御使いの顕現を予見したはずの占い師である。

 

そんな彼女は笑みを浮かべながらまた歩き出す。

 

「頑張ってくださいね?この世界の……他の外史とは全く違う世界の北郷 一刀さん」

 

そう彼女は呟くと何処かへと消えていったのだった。

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