真・恋姫†無双〜江東の花嫁達・娘達〜(五) |
(五)
身体の痛みによって一刀が目を覚ましたのは戦から五日ほど過ぎてからだった。
「ここは……?」
一刀が顔を動かして辺りを見ると焚き火の灯りと、眠っている真雪と薪を火の中に入れている梅花の姿があった。
「ばいか……?」
「うん?気がついた?」
一刀に近づいていく梅花は少しやつれた笑みを浮かべた。
「俺……たしか崖から」
「落ちたわよ。でも運がいいわね。木の枝に当たりながら落ちたみたいだから死にはしなかったわ」
「そうか」
起き上がろうとするが激痛が走り、起き上がるのを諦めた一刀は左腕を触るとそこには応急処置が施されていた。
「ああ、それ?そこのおチビちゃんが必死になって手当てしていたわよ」
「真雪が?」
疲れきっているのか真雪は眠ったまま起きようとしない。
一刀が抱きしめたおかげでかすり傷程度で済んでいた真雪は一刀よりも早く目覚め、傷の手当てをしていた。
梅花は無傷だがそれでもしばらく眠っていないのかどことなく憔悴しているように見えた。
「しかしあの高さから落ちてもその程度の済んだなんて、あんたやっぱり天運があるのね」
「そうみたいだな」
自分の強運に何度も助けられている一刀は苦笑するしかなかった。
「そうだ、戦はどうなったんだ?」
総大将がいなくなり呉軍は大混乱に陥り、敗北したのではないかと自分の傷以上に心配をすると、梅花はあまりいい表情をしなかった。
「戦自体はあんた達の勝ちよ。砦は落とされ五千もの山越兵が死んだわ」
同じ仲間が死んだことを無念に思っている梅花の気持ちに一刀は労わりの言葉をかけた。
「悪い」
「なんであんたが謝るのよ?」
「だって俺はそんなことをするためにここまで来たわけじゃない」
その理由を教えられた梅花は自分の愚痴ってしまったことを少し後悔した。
呉だけではなく山越にも真の平和をもたらすために来てくれた一刀が、自分の不注意によって起こしてしまった惨劇を悔やんでいる姿を見て梅花は自分達さえ良ければいいという考えがどれほどちっぽけなものなのかと思った。
「そうだったね。あんたはアタシ達に平和を与えてくれるためにきたんだよね」
焚き火によって梅花の表情は寂しさを滲ませているように見えた。
「あの男の人だって本当は助けたかった」
自分の身代わりに命を落とした男のことを思い出し、一刀は自分の不甲斐なさを呪う。
「一刀ってさ、本当に変な奴よね」
自分のことよりも他人のことを優先させるタイプに思えた梅花は和平のことといい、身代わりになった山越兵のことを気にしたりと、一刀が今まで出会ったことのないものを感じていた。
「よく言われるよ」
「でも一刀のような奴が王様だったらアタシ達ももっと自由になれたかもしれないわ」
他と交流を持つことを忌み嫌う異民族にとって、部族の内が全てだっただけに自由は限られていた。
「本当は戦なんてしたくないわ。でも今の王は呉を倒して自分が新しい呉の王になるって言い出したの」
「新しい王?それって」
「そうよ。一刀達の王、つまり孫権を討つことよ」
山越の不穏な動きの影にはそんな大それた事が隠されていたのかと思い、一刀は改めて蓮華が遠征軍の指揮をとらなくてよかったと安堵した。
「でも、一刀を討ち取れば結果的には孫権に大きな打撃を与えることができ、混乱状態になれば一気に攻め込むつもりなのよ」
「じゃあ、今が絶好の機会だな」
傷を負って動けないのなら殺生の与奪は梅花が握っているのと同じことだった。
「そうね。ここで一刀の頸を持ち帰ればこの戦は終わる。でも、次の戦が起こるのは間違いないわ」
それは怒りに任せて大軍を引き連れてくるであろう蓮華と山越の前面衝突が起こり、そこには数多くの血が流れてしまう。
どちらかが滅びるまで戦い続ける。
まさに一刀からすれば悪夢のような出来事だった。
「一刀が争いのない平和をアタシ達にもたらしてくれるなら、アタシは協力するって決めたのよ」
「そっか」
山越にも一刀の考えを認めてくれる人がいることに改めて感謝した一刀。
「それでこれからどうするのよ?」
重傷を負った身体で山越の本隊に行ったところで襲われでもしたら逃げることすら出来ない。
といって呉軍の城にもどったら今度こそ自由な行動が奪われる。
どちらにしても一刀にとっては厳しさを伴っていた。
「しばらくはこのまま傷を治すしかないだろうな」
動けないことにはどうすることもできないため、一刀はある程度の回復を待つしかなかった。
「仕方ないわね。アタシも傍にいてあんたを守ってあげるからさっさと治しなさいよ」
「そうさせてもらうよ。でも今急ぐことが一つあるんだけど」
「なによ?城に知らせる?それとも」
「いや、眠っていただけなのに妙に腹が減って……」
困ったような笑顔を浮かべる一刀に梅花は呆れた。
「わかったわよ。何かとってくるから待ってなさい」
そう言って梅花は外へ出て行った。
それと入れ替わりに真雪が目を覚ました。
「おはよう、真雪」
目を擦っていた真雪は一刀が目覚めていると知り、眠気を一気に外に押し出した。
「かずさま!」
思わず飛びついてしまい、傷口に触れて一刀が悶絶しそうになった。
「ご、ごめんなさいでしゅ」
慌てて離れる真雪に一刀は痛みに耐えつつ笑顔を見せる。
「大丈夫。少し痛かっただけだから」
起き上がれない身体で大丈夫と言われても真雪は心配が消える事はなかった。
それでも一刀は無理してでも身体を起こして大丈夫だということを証明すると、それとなく納得した真雪は一刀に無理をさせないように寝かせた。
「かずさま」
「うん?ああ、この傷は大丈夫だよ。すぐ治るから」
「でも私がついていくって言ったせいでかずさまに迷惑をかけてしましたでしゅ」
真雪は一刀が傷を負い五日も意識が戻らなかったことは自分のせいだといわんばかりに、自分の取った行動を反省していた。
「真雪のせいじゃあないよ。これは俺の運がなかっただけだよ」
何も真雪が悪いことなどないと一刀は彼女を諌める。
焚き火の灯りが二人を照らし、静けさを漂わせていく。
「それよりも真雪は大丈夫か?」
自分のことよりも彼女の方が心配な一刀。
「は、はい……。かずさまに守ってもらえましたから大丈夫でしゅ」
力強く抱きしめられ落ちていく中でも、真雪は一刀から離れることをせずそのおかげで彼よりも傷が少なく済んだ。
側室になったといっても一度も閨を共のすることのなかった二人。
「よかった。真雪が無事で」
本当に安心した一刀の穏やかの表情を見て真雪は頬を紅く染める。
「それにしてもみんな、心配しているだろうな」
「はいでしゅ……」
五日も行方不明であれば風達が心配するのは当然だったが、ここがどこなのか全くわからなかった。
「なんだかあれだよな。真雪とこうして二人っきりなんて初めてだよな」
今まで二人っきりになる機会はこの遠征の時ぐらいで、それまではほとんど離れ離れだったため会うことも難しかった。
「真雪」
「は、はい」
二人っきりということを意識していたのか、語尾の「でしゅ」が引っ込んだ真雪。
「もしこの戦が終われば真雪と京を建業につれて帰りたいんだけど、どうかな?」
平和になれば武勇を誇る京と軍師としての才がある真雪を残していることは以前から大きな損失だと思っていた一刀の提案に真雪は驚いた。
「それに二人にも俺達の子を産んで欲しい」
いかにも種馬らしい発言に顔を真っ赤にする真雪だが、すぐに表情が暗くなっていく。
「真雪?」
薪が音を立てて燃える中、真雪はあることを口にした。
「かずさま、以前、私の文を読んでくれましたしゅか?」
「ああ。今も覚えているよ」
「かずさまに助けて欲しいと書いていたこともでしゅか?」
「うん。でもあの時はどういう意味なのかわからなかったよ」
今もまだその意味がわからない一刀だが真雪の表情を見ると何かあるのだと思い、彼女自身から話を始めるのを待った。
「魯家はこの江東でもそれなりの名家でしゅた。父上も母上も立派な人でしゅた。でも私は何の才能もなくただ父上達の後ろに隠れていただけでしゅ」
両親の期待に応えようと学問を学び、苦手な人との交流を少しずつだが広げていった。
そしてその人柄に惚れて冥琳や悠里といった人物と交際を持つようになった。
だが、人柄が良過ぎたことで彼女と彼女の家に大きな悲劇をもたらす事になった。
京が華雄に言ったように貧しい者達に触れ心優しい真雪は仕官してまもなく、自分の蔵に収められている食糧を無償で提供したことが始まりだった。
初めは両親も呉の民を救うその優しさを賞賛していたが、貧しい者の数が増えていくにつれて真雪にやめるようにと言い始めた。
真雪は両親を説得して続けたがさすがに蔵一つ分の食糧がなくなると、残りの蔵を厳重に閉じられてしまった。
それでも真雪は自分を頼ってくる民のために鍵を盗んでまで食糧を与え続けた。
すると何もしない民は要求ばかりをしてきた。
困った真雪は両親に相談をしたが、こうなることをわかっていた両親は冷ややかな態度で軽はずみな行動をした娘を叱りつけた。
ただ食糧を与えるだけでは民を救うことなど出来ないことを知った真雪だが、泣きつかれては断れるはずもなく、とうとう家の蔵全てを開放してしまった。
それに激怒した父親は彼女を空になった蔵へ閉じ込めて罰を与えた。
どんなに豊かな家でも何千という民達を救うにはあまりにも力がなさ過ぎた事を痛感した真雪は一人、泣き続けた。
一通り泣いた真雪は両親に自分の行ったことを謝ろうと決めて蔵の中で数日過ごした。
そしてある夜。
眠っていた真雪は遠くから聞こえる悲鳴によって目を覚ました。
真っ暗の中で真雪は外で何が起こっているのか耳を済ませていると、それは魯家に食糧を求めにきた民が彼女の父親によって拒絶され暴徒と化して襲い掛かったのだった。
家族はもちろん使用人なども皆殺しにされたが蔵の中にいた真雪はそのことを知らずにただ小さな身体を震わせながら静かに耳を済ませていた。
やがて足音と声が蔵に近づいてきたので反射的に隠れようとしたが躓いて床に倒れてしまった。
蔵の鍵はあっさりと壊され扉が開かれると、そこには武器を持った民達が飢えた目で中を見た。
そして床に倒れている真雪を見つけると首元を掴んで持ち上げると、大声で食糧を出せと言ってきた。
すでに蔵の中に食糧はなく、それを恐れながらも説明する真雪だが信じてもらえず乱暴に床に叩きつけられた。
「魯家は貧しい者には食糧をくれると聞いたのにどうして俺達には出さないんだ!」
手には血のついた剣を持ち、真雪を脅すような口調で言葉を吐いていく。
「どこかにかくしているんだろう?」
何人もの男が蔵中を荒らしていく。
食糧がどこにもないことを確認しても民達は隠していると言い張って去ろうとしなかった。
民達は真雪に刃を向けた。
脅迫めいた口調で真雪に食糧を出せと言っていたが、真雪はもはや恐怖に支配されており何を言われているのかわからず、ただ身体を震わせていた。
そしてその刃が真雪に振り下ろされようとした瞬間、民達は何が起こったのかわからないまま地に伏せていった。
震える真雪が見たものは斬馬刀を肩に乗せて心配そうに見下ろしていた京だった。
「子敬さん」
京は優しく小さな友人を抱きしめた。
周辺の賊退治に来ていた京は立ち寄った魯家の異変に気づいてすぐに駆けつけたおかげで、真雪を救う事が出来た。
泣きながらも京が来てくれたことに感謝する真雪だが、屋敷を二人で見に行くと両親と使用人達の亡骸を見て意識を失ってしまった。
意識が戻っても自分の両親達が死んでしまったことを思い出しては泣きじゃくる日々を送り、京はそんな彼女の近くにいつもいては慰めていた。
何もかもを失ってしまったのは全て自分のせいだと思い込んだ真雪は落ち込んだまま日々を過ごしていき、それを気にした京は対山越の防衛の任に就いた時、何気なく軍師として誘った。
何もせずただ悲しみに沈んでいた自分を見捨てることなくいつも傍にいてくれたことに恩を感じていた真雪は頷き、京の軍師としてこの山越に睨みをきかせる城へやって来た。
「ここにきて子義ちゃんはいつも私と一緒にいてくれたでしゅ。凄く嬉しくていつも甘えてばかりで困らしていたでしゅ」
そして赴任してしばらくして京の母親が病に倒れたと知らせが届いた。
京が母親思いで何かと文を送っていた事を知っていた真雪はすぐに戻るべきだと言うと、
「子敬さんを置いてなんかいけないよ」
母親よりも自分のことを優先する京。
何度も説得をする真雪だが京は行こうとせず軍務を続けた。
その結果、母親は病で亡くなりその葬儀にも出る事のなかった京は夜、人知れず一人で泣いた。
それを偶然見てしまった真雪は自分のせいで彼女の大切な母親に会いに行く事も出来なかったと思い、自分はいてはならないと激しく責めた。
大切な人を自分のせいで失う恐怖。
それはいやというほど味わっている真雪にとって繰り返してしまった悲しみ。
「だから二人で生きていこうと決めたのでしゅ。でも……」
魯家の惨劇、母親を見殺しと、心無い者達は陰口を叩き二人を孤独にさせていった。
それを見て冥琳や悠里は憂いて何度も注意をしたり庇ったりもしたが、ある時、山越と手を組んで呉に攻め込んでくるいうありもしない噂が流れた。
当時の呉王である雪蓮や大都督の冥琳などははなから信じてはいなかったが、身分が低くなるほどその噂を信じていた。
二人を罷免する声が上がったが雪蓮は一切聞こうとせず、ただ二人にこれまでどおりの任務を与えていた。
だがそんな噂を聞いた二人はよほどの事がない限り建業に戻る事はなくなり、ただひたすら噂が消えるのを我慢強く待っていた。
「それからしばらくしてかずさまの噂を聞いたのでしゅ」
天の御遣いの噂はどれも素晴らしいものであり、かつて自分が行っていた施しなどよりも遥かに民のために活躍していたと知り、真雪は会いたいと思うようになった。
そして蜀で偶然出会ったとき、真雪はその人柄に惹きつけられる何かを感じた。
(この人なら自分達の心を救ってくれる)
そう確信した真雪は真名を手紙によって一刀だけに授ける事にした。
「かずさま」
「うん?」
「かずさまはどうしてそんなに優しいのでしゅか?」
誰よりも優しく笑顔を向けられると心を奪われた真雪はその意味を知りたかった。
自分の愚かなまでの優しさと誰からも信頼される一刀の優しさ。
「俺は優しくなんかないよ」
「えっ?」
意外な事を言われ真雪は驚いた。
「俺は自分の大切な人達が傷つけば怒るし、容赦をしないとまではいかないけど許せないとは思うよ」
無制限の優しさなど一刀は持ってはいなかった。
「真雪の優しさと俺の優しさなんて同じものだよ。ただ、何かを与えるだけでは本当にその人達を救えないと知っていただけだよ」
本当に救うというのはその人に対して生きる道を照らすこと。
与えるばかりでは自分をも見失ってしまう。
一刀の話を聞きながら自分のしてきた行為がどれほどダメだったことかを思い知らされていく真雪。
「でも、真雪の優しさで救われた人はきっといるよ」
「かずさま……」
無駄ではないと一刀は真雪のしてきたことを認めると、彼女は目から一粒、また一粒と温かな雫が零れ落ちていく。
自分のやってきたことの悪い点を言いながらもきちんと認めてくれる一刀に真雪は抱きつき声を上げて泣いた。
小さな身体でこれまで必死になって我慢していたものを吐き出すかのように真雪は泣き続けた。
一刀は何も言わずただ優しく彼女を撫でていた。
それからさらに二日ほど過ぎると少しずつ体力が戻ってきた一刀は真雪と梅花に今後の事を話した。
「でもこのままだと前にも後にも動けないわよ」
梅花の指摘に一刀は困った顔をする。
「何かいい方法ないかな」
二人に聞くが真雪も梅花もいい案が浮かばなかった。
「梅花」
「なに?」
「山越にはどれぐらい平和を望む者がいるんだ?」
梅花の知る限りの内情を一刀に教えた。
彼女を初め、部族の三分の一ほどは争いに反対していたが強者が全ての山越にとってそれは取るに足らない考えであり無視されていた。
「梅花はその人達を束ねてくれるか?」
「いいけど、どうするのよ?」
「まずは味方を増やすことから始めようと思う」
平和を望む者がいればその者達を味方にすれば上手くいく可能性が出てくる。
「難しいかもしれないけどやってみるわ」
これ以上の無意味な戦を終わらすために梅花は強く頷いた。
「一刀、この戦が最後なのよね?」
「当たり前だ。そのための策を今練っているんだから」
成功する確率は極めて少なく命を落とすことのほうが大きいが、それだけにする価値はあると一刀は思っていた。
「真雪」
「はい」
「みんなに黙っていた事を恨むかい?」
和平が目的に一刀がここにきたことを彼の傷の手当てをしている時に聞いた真雪は初めは信じられないといった感じだった。
一刀が時間を掛けて説明をしていくと真雪は彼の目指すものを理解した。
「かずさまを信じているでしゅ」
「なら、梅花と友達になってくれる?」
呉と山越の和平、そしてそこから始まる平和への道に第一歩となる一刀の提案に真雪と梅花はお互いの顔を見る。
一刀に真名を授け、彼の望むものに対して共感して実現させようと誓った二人。
「ほら」
一刀に促されても二人は声を掛けようとはしなかった。
「潘臨さん」
意を決した真雪はおずおずと小さな手を差し出した。
それを見て梅花は一つ息をついた。
「梅花」
「あう?」
「梅花でいいわよ」
そう言いながら差し出されたい小さな手を握った梅花は自分の真名を真雪に授けた。
「わ、私も真雪でいいでしゅ」
一刀以外に初めて真名を授けた真雪に梅花は笑みを浮かべた。
「うんうん。呉だろうが山越だろうがこうして仲良くするのはいい事だ」
満足そうに頷く一刀。
「それで呉のほうはどうするのよ?」
「そっちは大丈夫。きちんと手を打ってあるよ」
真雪はそれが風のことなのだと気づいた。
一刀の意味のわからない行動にただ一人落ち着いていた風が、誰よりも早く一刀の策を知らされ賛同していたことをここで知った真雪。
「ちゃんと準備していたのね」
「まぁ、そのためにみんなに迷惑を掛けているけどね」
自分の身勝手さで招いたことに反省をしている一刀だが、今は立ち止まる事は出来なかった。
「二人とも、この戦が終われば酒でも呑もう」
「はいでしゅ」
「アタシ……酒呑めないんだけど」
まさかの下戸発言に一刀は本当なのかと思った。
「何よ?酒が呑めないからって何か問題でもあるの?」
「い、いや、ないけど……なあ?」
真雪の方を見ると彼女は困ったような顔をしていた。
呆れるようにため息をつく梅花は不快な気持ちにはならなかった。
「いいわよ。それまでに酒を呑めるようにしておくわ。その代わり、一刀」
「なんだよ?」
「その時はアタシに酒を注ぎなさいよ」
どことなく照れくさそうにする梅花に一刀達は笑顔で頷いた。
「そうと決まればさっさと準備にとりかかるわよ」
「おいおい、そんなに焦っても仕方ないだろう?」
「なによ、さっさとしないと余計な犠牲が出るでしょう?」
やる事が決まっている以上、ここでいつまでも留まっているわけにはいかないと梅花は思っていたが、一刀はすぐには行動をしようとしなかった。
「とりあえずはもう少し様子を見なければどうなっているのかわからないんだから、下手に動けは何もかもが上手くいかなくなるぞ」
どこまでも慎重な一刀。
予定ではすでに山越の本隊に行き、交渉を始めている頃なのだが未だ一歩前に進んだけだった。
「梅花は先にいってその平和を望む人達に話をしておいてくれ。俺達は君が戻ってきたら山越の本隊に行く」
「わかった。真雪、アタシが戻ってくるまで一刀を頼んだわよ」
「はいでしゅ」
二人は頷き約束を交わした。
「梅花」
「なに?」
「死んだらダメだからな」
「当たり前よ。大体、あんたを殺しに行って手篭めにされたなんて言ったらそれこそ命がいくらあっても足りないわよ」
「手篭めって……」
今度は一刀が呆れ顔になる。
「かずさまは女の人には目がないのでしゅか?」
追い討ちをかけるように真雪に言われ落ち込む一刀。
「あんた……女たらし?」
「知るかよ!」
つい大声を出した一刀は肩の痛みで一瞬、表情を顰めた。
「ほら、あんたは傷を癒してな」
「ああ」
一刀に手を添える真雪を見ながら梅花は立ち上がった。
「それじゃあ、行ってくるわ」
「気をつけてな」
「いってらっしゃいでしゅ」
二人に見送られて梅花は洞穴から出て行った。
静かになっていく中で一刀は身体を倒して少し休むことにした。
真雪は梅花が出て行った方を見てからゆっくりと一刀を見る。
自分達以外に誰もいない。
そう思うと真雪は妙に一刀を意識し始めた。
今がどういう状況下ということぐらいは真雪でもわかっていたが、誰にも邪魔をされないと思い彼女を少し大胆にさせていく。
「か、かずさま……」
「うん?」
「かずさまは……私や子義ちゃんも側室……でしゅ」
「うん」
モジモジさせる真雪に目を閉じて気づかない一刀。
「か、かずさまと……ね、眠ってもいいのでしゅね?」
「うん…………うん?」
そこで何か変だと思った一刀が目を開けると、服を脱ごうとしている真雪が写った。
「な、何しているんだ?」
半分脱ぎかけている真雪は動きを止めて恥ずかしそうに一刀を見る。
「あ、あう〜……」
自分の行動に頭が混乱し始める真雪はどうするべきかわからなくなった。
それでもゆっくりと服を脱いでいく。
「かずさま……」
上着だけを脱いだ真雪は一刀の横にいきゆっくりと寄り添うように身体を倒していく。
「真雪ってもしかして大胆?」
「あ、あう……」
少しからかう一刀に顔を紅くしていく真雪だが、彼の温もりを感じるだけで安心していった。
「こうして真雪や京ともゆっくりと過ごしたいな」
「はい」
このまま時間が止まって欲しいと真雪は思った。
自分達の心を救ってくれようとしている一刀と触れ合い、彼女がもっとも求めていた温もりがここにあった。
「かずさまはとても温かいでしゅ」
不安が消えていく。
真雪はゆっくりと眠りの世界へ落ちていった。
一刀は小さな彼女の髪を撫でながら左手を動かしてポケットの中に突っ込んであるものを出した。
それは娘達が一刀に書いた文だった。
『ぱぱ だいすき』
たったそれだけなのに一生懸命に書いたのだと一刀にはわかった。
娘達からも好かれていることは一刀にとって嬉しい限りであり、こんなところで横になっている場合ではなかったが、梅花が戻るまでもう少しだけ休むことにした。
「紹、循、それにみんな。会いたいなぁ」
ここにきて妻達や娘達がいる建業に早く戻ってあの賑やかで穏やかな日々を送りたいと思った。
「もう少し頑張ろうか」
全てが上手くいけば何もかもが元に戻る。
その為に今、こうして一生懸命になっているのだと自分に活を入れる。
「蓮華……」
次に取り出したのは蓮華の髪が入った小袋。
これのおかげで命拾いしているのだろうかと思うと、そのご利益に感謝した。
「今頃、心配しすぎて政務を疎かにしてないだろうな」
蓮華は一刀に対して異常なまでに心配性になることがあり、建業では一刀が心配したとおり政務が時折、滞ることがあった。
一刀は色々と違うところを心配しながら眠りについた。
翌日、一刀は起きるとすぐに洞穴を出て今自分達がどこにいるかを確認しようとした。
見覚えのない場所のせいでどこなのかわかるはずがなかった。
「梅花が戻るまでは動かない方がいいかな」
下手に動けば遭難、そして最悪の場合は山越に見つかって問答無用に討ち取られる。
そんなことになってしまえば何もかもが無駄になってしまうため、一刀は慎重になっていた。
「かずさま」
洞穴から出てきた真雪はそんな彼の気持ちを知ってか、手をそっと握ってきた。
「大丈夫だよ」
本当は口で言うほど楽観できる状況でないことはわかっていた。
だが、それを口にしてしまえば余計な不安を感じさせてしまうため笑顔でいる一刀。
と、そこへどこからともなく悲鳴が聞こえてきた。
「なんだ?」
二人は耳を済ませて声のする場所を探す。
「恋殿〜〜〜〜〜お助けくだされ〜〜〜〜〜!」
近づいてくるにしたがって声の主が誰なのかがわかってきた一刀は、
「ねね!」
大声で声のする方に呼びかけると、悲鳴が一刀の方へ向かってきた。
しばらく待っていると目の前の草林が激しく揺れ始めた。
「ねね!」
もう一度呼びかけると草林から勢いよく音々音が飛び出してきた。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
涙ながら音々音は勢いを止めることなく一刀に突っ込んでそのまま押し倒した。
「いっ…………ねね?」
「ぐすん……ぐすんっ……」
震える音々音の髪を撫でていると、草林からもう一つの影が出てきた。
「なっ!」
「か、かずさま!」
二人が見たのは音々音を執拗に追いかけてきた白い虎だった。
「と、虎!?」
普通に考えればこんなところにいるはずはないと思ったが、今はそんなことなどどうでもよかった。
下手をすれば全員、虎の胃袋に納まってしまうという危機感に一刀は起き上がろうとしたが、音々音は思った以上にしがみついており、それができなかった。
「ね、ねね、離れるんだ」
一刀の声にすら恐怖で反応を示さない音々音。
ゆっくりと迫ってくる白い虎はまっすぐ一刀の方を見据える。
「く、来るな!」
何とかこの危機から抜け出そうとするが、青スの剣は洞穴の中に置いてあり武器らしいものは周りになかった。
「真雪、逃げるんだ」
せめて彼女だけは逃がさないと思ったが、とうの本人も恐怖で動けなかった。
白い虎は今まさに一刀と音々音に飛びついてきた。
(喰われる!)
そう思って目を閉じて音々音を守るように力強く抱きしめた一刀だが、いつまでたっても噛み千切られる感覚が伝わってこなかった。
恐る恐る目を開けると、白い虎の顔が目の前にあった。
(な、なに……?もしかして美味そうなのかどうなのか見ているのか?)
視線を逸らすことも出来ず、目をつぶることもできない一刀は静かに白い虎が次の行動に移すのを待った。
白い虎は一通り時間をかけて一刀を観察すると口を開けた。
(今度こそ喰われる!)
覚悟を決めた一刀が感じたのは顔を下から上にべっとりと嘗められる感触だった。
何度も何度も嘗めていく白い虎はそれをやめると今度は頬擦りをしていった。
(な、何なんだ?)
何がどうなっているのかさっぱりわからない一刀を他所に白い虎は彼に愛情表現をしていた。
「ヒクッ……ヘボ主人」
ようやく音々音は顔を上げて久しぶりに再会した一刀に先制攻撃をかけた。
「しばらくねね達を弄ばなかったせいでとうとう他の生き物に手を出すとは失望ですぞ」
「出してない出してない」
人外で深い関係になるつもりなどまったくない一刀にとってとんでもない誤解だった。
「グスッ……ではなぜヘボ主人には噛み付かないのですか?」
「そう言われてもな……」
白い虎の頭を恐れながら撫でると気持ちいいのか一刀から離れて律儀にお座りをした。
「やっぱり手を出したのですな」
「だから出してないって」
起き上がる音々音の涙と鼻水、それに泥で汚れた顔を布で拭いてやりながら一刀は白い虎の方を見た。
(どこかで会ったことあるのか?)
猛獣といえば主に蜀の南蛮軍を思いだすがそれ以外で知っている猛獣は……。
一刀は頭の隅に小さく埋もれていたものを発掘し始めた。
そしてそれを引き上げると、閃いた。
「シャオのペットだ」
「「はい?」」
音々音と真雪は目が点になった。
小蓮と一緒にいるところを何度か見たことがあることを思い出した一刀だが、まさかその白い虎がここにいて、なぜか音々音を追いかけていた事に驚いた。
「しかしなんで追われていたんだ?」
「そ、それはですな……」
さすがに一刀だと思って必殺技を放ち命中したなどと口が裂けても音々音は、
「というわけなのです」
言ってしまった。
「ほ〜〜〜〜〜」
不適な笑みを浮かべる一刀に音々音は半泣きになる。
「グスン……それもこれも全部、ヘボ主人がいなくなるからですぞ」
恋のためにと探していた音々音だが、心の中では自分も彼女に負けないほど心配をしていた。
こうして運良く再会できたことで音々音はこの数日、一人で空腹に耐えながら頑張ったことが報われた。
「恋殿もヘボ主人がいないと悲しそうなのです。だからさっさと城へ戻りますぞ」
怒りと悲しみによって染められた恋を見ているだけに一刻も早く、一刀の元気な姿を見せたかった音々音だが、一刀はやんわりとそれを断った。
「ヘボ主人のくせに断るとはどういうことですか!」
「俺はまだやらないとならないことがあるんだ」
「それはなんですか?」
「ねねには言えない」
一刀には風達に自分の無事を知らせる役目を頼んだ。
そしてまだ自分のやろうとしていることを黙っておく必要があった。
「なら意地でも連れて帰るまでですぞ」
白い虎からの恐怖が抜けていくと、いつもの音々音らしさが戻ってきた。
「ダメだ。まだ帰れない」
今度は強く断る一刀。
そして音々音の抵抗を無視して彼女をそっと優しく抱きしめた。
「ねねにはこれから城に戻って俺が無事だという事だけを伝えて欲しいんだ」
「無事だけを?」
「うん。俺はまだやらないといけないことがあるから戻れない。でも安心してくれ。それが終わったらすぐに戻るから」
音々音はしばらく一刀に抱かれていたが、やがて両手を使って少し離れた。
「ヘボ主人のくせにどれだけ恋殿に心配をかければ気が済むのですか」
「ごめんな、ねね」
「ねねに謝ったところで恋殿が許すはずがないですぞ」
恋なら理由を話せば納得するぐらいは音々音はわかっていたが、自分がそれでは納得したくなかった。
泣くことを必死になって我慢している音々音に一刀は頭を撫でる。
「みんなに心配を掛けているはわかっている。でも、今回ばかりは我慢して欲しいんだ」
全てが終わればいつもの幸せな日々に戻れる。
そう確信していただけに今は耐えて欲しいと一刀は切に願った。
「なら恋殿に誓うのです」
「うん?」
「無事に帰ってくることを恋殿に約束するのです。ねねはそれを伝えるために城に戻りますぞ」
涙を手首で拭き取り胸を張るその姿は一刀にとって勇ましいものを感じさせた。
「約束するよ。恋にもねねにも」
「……」
音々音は一刀を睨みつけながら顔を近づけていき、両手で彼の頬を掴んで初めて自分から口付けをした。
「ねね……?」
「ふん。今日だけは特別ですぞ」
「いや、そのなんだ……人前でよく出来たな?」
「人前?」
音々音は何を言っているのだといわんばかりに周りを見ると、顔を真っ赤にしている真雪がまっすぐ視線をそらさず二人を見ていた。
ゆっくりと離れていき、さっきまで自分を追いかけていた白い虎に向かってこう言った。
「ねねを上に跳び上げてくだされ」
白い虎は自分の顔面を蹴った音々音を睨みつけていたが、一刀の仲間である事を確認して仕方なく応えた。
「とう!」
音々音の足元からすくい上げた白い虎。
そして上空から必殺技にもっていく音々音。
「ちんきゅーきーーーーーっく!」
高々と叫びながら『ちんきゅーきっく』は見事なまでに一刀の顔面を捉えた。
「ぐはっ」
成す術もなく後ろへ倒れていく一刀。
「ヘボ主人め、人がいるのなら初めから言うのです」
「言う暇を与えなかったのはお前だろうが」
「ねねは何も悪くないですぞ」
ああいえばこういう音々音に一刀は笑いを噛みしめながらそれに付き合った。
「それだけ元気なら、頼むよ」
両手をあわせて音々音に改めて自分の願いを聞いてくれるようにと頼んだ。
「ふん、仕方ないのです。そこまでねねを頼るというのであれば今回だけはヘボ主人の言うことを聞くとするです」
音々音はそう言って一刀に白い虎の背中に乗りある事を託されて城へ戻っていった。
音々音を戻してから少しして梅花が傷を負って戻ってきた。
「どうしたんだ?」
洞穴に着くと梅花は力尽きたかのように倒れこんだ。
「一刀……まずいことになったわ」
「何があったんだ?」
梅花が落ち着きを取り戻すまで待って、彼女から驚愕の事実を知らされた。
一刀の命を受けて山越に戻った梅花だが、すでに彼女は死んだものとして扱われており、また捕虜になったことも山越の恥さらしだといって討ち取られかけた。
そして命からがら逃げ出してきたが執拗に追いかけてくる追っ手を振り切るまでに時間がかかってしまっていた。
「これで山越の本隊にいっても和平なんか結ばれることはなくなったわ」
平和など夢のまた夢になってしまったと梅花は悔しがる。
一刀はそれを聞いて自分の中にあることを二人に言った。
「ならこれから山越の本隊に行こう」
「かずさま?」
「ば、馬鹿!そんなことしたら殺されるわよ」
山越の一員である梅花ですら襲ってきた山越に和平を求めるなどもはや無謀としか言いようがなかった。
「それでも行く。絶対に成功させたいんだ」
最悪、自分の命と引き換えになっても和平を結ぶ。
一刀の並々ならぬ決意に梅花も真雪も反論を抑えていく。
何を言っても一刀は行くとしか言わないのならせめて守ることはしようと、梅花と真雪は思った。
「もし俺が討たれたら二人は逃げてくれ。俺の後追うなんて馬鹿なことは考えないでくれよ」
「いやでしゅ」
「お断りよ」
それに対しては二人は反対をした。
どうせ殺されるのならば一刀と一緒の方がいい。
二人はそのことを言うと一刀は困った顔をする。
「なら、死なないようにしないとダメだな」
「当たり前よ。死んだら何もかも終わりよ」
「最後まで頑張るでしゅ」
呉や山越という枠を超えた二人の協力に一刀は感謝して、山越の本隊へ向かうことにした。
「でもその前に傷の手当てと腹ごしらえをしておこうか」
その意見には真雪も梅花も進んで頷いた。
その夜。
建業では蓮華が夜空を見上げていた。
一刀達が出陣して一月になるが、毎日のように夜空を見上げていた蓮華は火の消えたような自分達の屋敷に戻ることがあまりなかった。
それでも娘の孫登に会いにいって月や詠とお茶をする時間を持つことはあった。
「蓮華さん」
夜着姿の月が蓮華の横に立って夜空を見上げる。
「お義兄さまのことを考えていたのですか?」
「ええ。月も心配でしょう?」
自分達の夫が無事に戻ってきてくれる事を願うのは当たり前だった。
月も主人のいない部屋を丹念に掃除をしては無事に戻ってきてくれる事を願っていた。
「そういえば雪蓮お義姉さまもそろそろ荊州から戻られますね」
「そうね。何かと走り回っているわ」
全ては一刀のためだと言って建業を飛び出して他の二国に色々と働きかけており、それがようやく一段落したようで戻ってきている最中だった。
「江賊の方もどうにか鎮圧できたみたいだし、あとは一刀達のほうだけね」
先日、江賊討伐を終え、祭、思春、穏の三人も帰還中だった。
「ねぇ月」
「はい」
「一刀はどうして私を行かせたくなかったのかしら」
王である自分がいけば士気は上がり討伐も容易ではなかったのだろうかと思う蓮華。
それを強く反対した一刀。
「きっと蓮華さんを危ない目にあわせたくなかったのだと思います」
月は一刀らしい優しさだと答える。
「わかっているわ。でも、王である私が行くべきだと思っているのよ」
「お義兄さまは言っていました。男は好きな女をどんなことがあっても守るべきものなのだと」
月は一刀から以前、そう言われたことを思い出した。
「大丈夫よ」
そこへ詠が眠たそうな顔をして部屋から出てきた。
「あの男がボク達を置いて逝くような奴なら好きになんかならないわよ」
「あら、詠はいつも文句ばかり言っていたから好きだとは思わなかったわ」
蓮華の意地悪な質問に顔を真っ赤にする詠。
「べ、別に嫌いだなんて言ってないわよ!」
今では好きで好きで仕方ないほどの詠だがはやりもって生まれた性格なのか、それを素直に表すことは出来なかった。
「ほ、ほら、中でみんなが待っているわよ。さっさと入りなさいよ」
顔を紅くしながら部屋の中に入っていく詠を二人は笑みを浮かべ、その後についていった。
同じ夜。
風も同じように夜空を見上げていた。
「そんなに眺めるほどのものなのか?」
護衛に華雄が付いており、同じように夜空を見上げていた。
「華雄さん」
「なんだ?」
「お兄さんの星がどれだかわかりますか?」
一刀の星。
それがどれなのか華雄にはわからなかったが風にはしっかりとわかっていた。
一つの光り輝く星に無数の星達がまるでその光りに包まれるかのように集まっているところを風は指差した。
「あれか?」
「はい。お兄さんの星の周りには風達の星があります」
光り輝く星はその強さを示しており、周りの星々を導いているように見えた。
「あの星がある限りお兄さんが死ぬことなどないのですよ」
「そういうものなのか?」
星と人は無関係のように思えるが、風は結びついていると思っていた。
「ならお前のいうことが正しければ一刀様はどこかで生きているんだな」
「はい」
一度は一方的に感情をぶつけて怒りをあらわにしていた華雄は風の言葉を信じた。
「無事に帰ってこられるだろうか」
「帰ってきますよ。お兄さんのことですから今頃、どこかで新しい女性を口説いていると思いますよ」
「お前……そんなことが雪蓮様や呉王に知れたら一大事だぞ?」
もちろんその制裁は一刀に向けられることになるのだが、さすがにそれは可哀想過ぎると華雄は思った。
もちろん風もそう思っていたが、それ以上に自分達を散々苦しませている一刀に少しお仕置きが必要だと悪魔的なことを考えていた。
「まったく……。それよりもそろそろ休め。そこまできている山越が何時攻めてくるかわからないから、休める時には休んでおけ」
「華雄さんもそのことは言えますよ」
今だ恋が戦闘できる状態でない以上、傷が癒えてない華雄と京に頼るしかなかった。
「ああ、私も少し休むさ」
無理をしても何も得をすることはない。
一刀さえ戻ってきてくれたら全てがいい方向に動く。
そう信じるしか華雄には出来なかった。
「なんなら一緒に寝るか?」
「おお、華雄さんのそのおしとやかな胸に抱かれるといい夢が見られそうですね」
「悪かったな、小さくて」
文句を言いながらも華雄は笑い、風も同じように穏やかなものを感じていた。
そして未だ、森の中を彷徨っていた葵は一つの洞穴を見つけた。
周りに警戒しながらその洞穴の中を見るとついさっきまで誰かがいた形跡が会った。
「もしかして一刀さん?」
そうであれば近くまで来ていることになる。
葵は嬉しさを噛みしめながらも一歩違いを悔しがった。
「でもねねさんはいったいどこにいったのかな?」
ここに来る間に別の道を通って城へ戻る最中の音々音とは会うこともなかったため、それも残念そうにしていた。
「もしかしたらもう城へ戻っているかもしれない」
そう思うと一度城へ戻るべきか悩んでいると空腹を訴える音が葵のお腹から聞こえてきた。
背負っていた袋から取り出したのはあの華雄が作った物だった。
「ねねさんも見つからないし、仕方ないよね」
心の中で華雄に謝りつつ包みを開けていくとそこには大きなおにぎりが二つ入っていた。
「日持ちするといってもそろそろ食べないともったいないから食べちゃいますね」
一刀に教えてもらった手をあわせて「いただきます」と言っておにぎりを食べていく。
始めは快調に食べていたが真ん中辺りから妙な感触が葵を襲っていく。
そして、
『ボリッ』
それを噛み砕いた葵は動きを止めた。
ゆっくりとおにぎりを口から離してその中身を見ると、青い梅が埋め込まれていた。
そう、華雄は梅干を干さずに梅だけをおにぎりの中に入れていたのだった。
「か、華雄さん……これをねねさんに食べさせようとしたのですか?」
何の加工もしていない梅を入れているだけのおにぎり。
葵はもう一つのおにぎりを手にして手で解剖していくと、唐辛子が二本、そのまま入っていた。
「華雄さん……これ違う……」
予想通りの展開に葵は思わずため息をつき、具材の周りだけを食べて残りは手を合わせて燃えかすの中に入れた。
「何も知らずに食べていたら間違いなく火を噴いていましたね」
華雄の料理音痴に一通り一人愚痴をこぼしてから一刀達の捜索を再開した。
「近くならきっと見つかる。待っていてくださいね、一刀さん、魯粛さん」
葵が求める先には危険が待っていることを知らずに一刀達の足取りを追っていった。
(座談)
水無月:夏休み最終日!私が子供の頃はまだ宿題が終わっていませんでした!
穏 :それはいけませんね〜。
亞莎 :宿題を残すのはダメだと思います。
水無月:だって、せっかくの夏休みですよ。最後の一日まで遊びつくさないと。
冥琳 :だから中途半端な成績しか取れなかったのね。
水無月:大丈夫。成績が全てではない。本当に必要なのは思い出です!(どーん)
穏 :はいはい、そういうのはきちんとこのお話を仕上げてからにしてくださいね。
冥琳 :そうよ。この山越編が終われば私達の娘達の話は待っているわよ。
亞莎 :でもできないと書けませんから、頑張ってください。
水無月:九月から少しエンジンを回していきます!というわけでいよいよ山越編も終盤に入ります。最後までお付き合いしていただければ幸いです。
説明 | ||
山越編も残り三話まできました。 自分でも難しい話だとわかっていますが、ここまできた以上は引き返すつもりはありません。 今回はオリキャラと一刀が主に話の中心となっております。 最後まで読んでいただければ幸いです。 山越編が終われば一刀とその家族のお話なのでそれまでは倒れるわけにはいかないんです! |
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コメント | ||
華雄のおにぎりって料理になるんかな?(杉崎 鍵) ある意味で風の言ってることは的を射ているわ(杉崎 鍵) 確かに夏休みの宿題は最後にいっきにやりますよねw 続きが楽しみです!!(キラ・リョウ) リアルG様>あれは凄い味ですからね(−v−;(minazuki) jackry様>山越編は長いですからそろそろ変革を!(minazuki) Poussiere様>がんばります(><9(minazuki) st205gt4様>そろそろ動き始めるかもしれません!(minazuki) まーくん様>恐るべし華雄の料理です。(minazuki) motomaru様>い、入れてみたかったんです(ノノ)(minazuki) kanade様>いよいよ自戒から終盤戦です!(minazuki) munimuni様>こういうオチを用意してしまいました!(minazuki) nanashiの人様>全力で只今、製作しておりますのでもう少しお待ちください(><)(minazuki) フィル様>そろそろ出てくるかも?(minazuki) 青い梅はダメだ!www(リアルG) はははは! 関係ないが、面白いぞ! ははは! 次回も愉しみにしてますぞ^^w(Poussiere) まだまだwwwこれからwww(st205gt4) 華雄さんwww梅花さんも喰われましたな(精神的な意味で(まーくん) まったく関係のないところからオチがでてくるとは・・・やるね〜〜(motomaru) 続きが〜楽しみだなー(kanade) ほうほう 予定は立っていると・・なら言うべきはこれしかないなw 続きマーダー?(# ・∀・)っ/凵⌒☆チンココチンココ⌒☆チンチンチン(nanashiの人) 雪蓮の活躍が今か今かと待ち遠しいですw(フィル) |
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