紫閃の軌跡 |
〜鋼都ルーレ 上層〜
本社ビルへ戻ろうとしたところ、突然アスベルのARCUSの着信音が鳴り響く。鉄道憲兵隊からの情報が不確定である以上、今は少しでも情報はほしい……その思いを込めて、アスベルは通話ボタンを押した。
「トールズ士官学院、アスベル・フォストレイトです」
『よかった、通じたみたいだね!』
「その声はトワ会長ですか。何かありました?」
『あ、うん。実はね……』
トワからの情報によると、数日前からザクセン鉄鉱山に関する疑惑を調べており、その事実が判明したのでアンゼリカとジョルジュがトリスタからこちらに向かっているとのことだった。出発した時間から逆算すると、あと一時間ほどでルーレに到着する見込みらしい。
「……解りました。そっちも無理はしないでください。藪を突き過ぎてどこから蛇が出てくるかわかったものではないので」
『うん、解ってるよ。みんなも無理は禁物だからね』
トワとの通信が終わった後、そこにいる面々に説明をした。その間にセリカがARCUSで別方面との連絡を取っていたようで、アスベルからの言葉を聞き終えてからセリカが話し始めた。
「リィンさん達に話はしておきました。どうやらアリサさんが鉄鉱山に行くルートの心当たりがあるそうで」
「そっちは任せてもいいだろうな……一度、鉄鉱山に行ってみて状況を確認したほうがいいだろう」
「だね。何かわかることがあるかもしれないし」
「ですね」
アンゼリカ達が到着するまでの時間を有効に使う意味でも、アスベルら四人はザクセン鉄鉱山へと向かった。すると大方の予想通りの展開……入り口前に陣取っているノルティア領邦軍とそれと相対している鉄道憲兵隊という膠着状態。それを見たアスベルは
「領邦軍も存外頭が悪いというべきか……もう少し考えとけよ」
「え? でも、煙も出ていますし襲撃されたこと自体事実なのでは」
「占拠されたのは事実だろうね……正直、テロリストとグルかもしれない」
「成程、確かに昨日の一件と比較すると手際が『良すぎる』わけですし」
襲撃で爆発物を使うことは想定できなくはないが、こういう鉱山関係で爆発物を使うのは下手すると自滅しかねない諸刃の剣。どこからか噴出した可燃性ガスに引火する危険性を秘めている。既に掘り起こされている部分の見えないところからでも、経年による内部風化でガスが漏れ出す危険性もあるだけに、発破自体も本来慎重に扱われるべきものだ。領邦軍の配置は明らかにあの煙自体仕掛けられたダミーであることを理解している可能性が極めて高い。
「(連中の危険性を分かっていてやってるんなら性質が悪いんだがな)ともかく、状況は把握できた。一度街に戻ろう……最悪、俺とフィーとセリカで内部潜入して制圧も考慮に入れておこう」
「あのー、それを私の前でシレッというのはやめてもらえますか?」
「余計なこと言うとばれかねないし、それに対等に接しろと言ったのはステラのほうだろ? 今更撤回はなしだからな」
「ははは……(やっぱり、あの人の関係者なだけはありますね)」
ザクセン鉄鉱山の所有者はアルノール皇家……なので、ステラも無関係ではないのだが身分を隠している以上一学生として接するべきだというアスベルの言葉にセリカは内心かの国の英雄を脳裏に浮かべつつ、苦笑をこぼした。そしてルーレの市街地に戻ったところで一台の導力バイクが姿を見せた。それを運転していたのは
「おや、アスベル君たちじゃないか。両手に花とはこのことかな?」
「茶化すのはやめてください、アンゼリカ先輩。ジョルジュ先輩もお疲れ様です」
「ああ、流石に長時間の乗車は大変だったけど、そこは次の課題かな。ところで、クロウやリィン君たちの姿が見えないんだけれど……」
「いろいろありまして別行動中です。態々トリスタから来たということは、何かあったんですね?」
「ふふ、察しがよくて助かるよ」
アスベルはひとまずアリサ絡みで知り合った酒場に移動し、そこで別行動をとっていたリィンらと合流。改めてアンゼリカたちがルーレに来た目的を話してもらう形となった。
「―――鉄鉱石の横流しですか!?」
「ああ。一回当たりは若干量になるんだが、それが数年に渡って続けられていてね。管理者である侯爵家からは品質の低下、と言われていたが、実際にはそういったことなどなかったそうだ」
「しっかし、よくそんな事実を突き止められたな?」
「こればかりはトワのお陰さ。フフ、そんな天使を射止められた御仁は幸せ者だろう……一発お見舞いしたいところだが」
「(宣戦布告みたいな言いがかりじゃないですか……)で、その量は合わせるとどれぐらいになるんですか?」
「ざっと最新型戦車二千台分になるね」
帝国の屋台骨であり、莫大な鉄鉱石の若干量を積み上げた結果……『塵も積もれば山になる』とはよく言ったものだ。それはひとまず置いておき、この件でテロリストに捕らわれている鉱員を救出する。長引かせれば確実に帝国の土台そのものが崩壊しかねない。ルーファスやクレア大尉は釘を刺したものの、言い換えれば『崩壊するまで黙っていることが正しい』というようにも聞こえる。真っ先に声を上げたのはアンゼリカであった。
「幸い、鉱山でバイトしたこともあるから内部事情には詳しい。何より、身内がこの騒ぎに関わっている可能性がある以上、自分で落とし前はつけるさ」
「先輩らしいですね……なら、俺も動こう。休職中の身だが民間人の救出は遊撃士の本分だし、ザクセン鉄鉱山なら地の利はあるからな」
「アスベル……」
「珍しいね、普段は前に出たがらないのに自分から言い出すなんて」
「否定はしない。ま、連中の一人にどうしても聞いておきたいことがあるんだよ……最悪『殺す前』に」
「っ……」
「驚くことじゃないだろ……学生とはいえ士官候補生―――軍籍の末席に座していること。今すぐ覚悟を持てとは言わないけれど、これはある意味戦争なんだってこともな」
別に今すぐ自分の手でケリをつけるわけではない。最悪他の誰かによって殺害される可能性がある以上、聞ける情報はなるべく聞いておきたい。とはいえ、相手の性質上事細かに聞けるわけじゃないので、ぼかす形になってしまうが。それと、確固たる信念を持っているテロリスト相手にはこちらも確固たる意志と力をもって相対せねばならない。話し合いの余地のない単純な力の衝突……それはもはや“戦争”なのだ。
鉄鉱山への経路に関してはアリサのお手柄?で市街地から鉄鉱山までの直通ルートを経由して、内部にいる鉱員を助け出す方針で行くこととなった。そのための準備をするために一時解散となったのだが、その際にアンゼリカがアスベルに向き直った。
「それにしても、だ。トワの心を掴むだなんて大した御仁だよ」
「知っているのにも驚きですが、それにしたって褒めてるのか貶してるのかわかりません……で、何か言いたそうなんですが、何用でしょう?」
「大したことじゃないんだがね。恐らく、例の連中の幹部も出てくるだろう? できれば、私は君が戦ったという黒い鎧をまとった人物を相手にしたい」
「別に構いはしませんし、必要ならバックアップもしますが……何か理由でも?」
「可愛いトワのいる場所を砲撃させるよう作戦を立てた連中のリーダー格というじゃないか。是非お礼参りしたくてね」
これ、最悪正体ばれるんじゃないかと思いつつ、アスベルはそれに対して苦笑を零した。アンゼリカの気持ちが理解できなくもないだけにそれ以上は何も言わなかったが。
〜ザクセン鉄鉱山〜
一通りの準備が整ったところで、リィンらA班とアンゼリカは鉄鉱山への潜入を開始。本来なら班がまとまって行動すべきなのだが、ここでアスベルが一つ提案をした。
「俺とセリカ、それとフィーで先行する。連中がまかり間違って銃を突きつけたら厄介だからな。先輩も加えようかと思いましたが、道案内もなしに鉱山内を歩くのは自殺行為ですので」
「ふむ、確かにその通りだろうね。ああ、私の獲物はちゃんと残しておいてくれよ?」
「獲物って……何約束したのよ?」
「テロリストの一人とっちめたいって話」
「おっかねーな、オイ。そんな罰当たりのやつの顔を拝みたいぜ」
(……フラグでしょうか)
(それ以上はいけない)
ここにいる面子の中で確実に“C”のことを知っているのはアスベルとセリカだけ……何も知らないというのは本当に気楽だと思いながらも、三人で別行動を開始した。ある程度距離が離れたところで、フィーがアスベルに問いかけた。
「アスベル。あの“C”っていう人物に目星はついてるの?」
「ん? どうしてその質問を?」
「うまくは言えないけれど、団長から聞いたアスベルの印象だとこれぐらいの騒動ぐらい一人で片づけられるだろうし」
「はは……でも、アスベルの性分なら別行動で先導してもおかしくはないと思いましたよ」
「お前らなぁ……否定する材料は皆無だけれど」
確かにただ解決するならば昨晩のうちに忍び込んで制圧することも視野に入れていただろう。だが、それだけでは今の問題を解決できたとしても『この先』が安全であるという保証などない。ギリアス・オズボーンの描き出す『遊戯盤』によって彼が目指しているもの……その確証を得るためには、少なくとも来月末まで表だって動くことはできない。
「結論から言えばフィーの予想通りといってもいいかな。ただ、今ある危機を凌いでも根本的解決にはならないことも解ってるだろ?」
「……ま、そうなっちゃうよね。必要なら団長に連絡はしておくけれど」
「向こうは彼らもいますし、下手なことにはならないかと」
「一応伝手は当たっておくよ」
ひとまずは鉱員の解放に成功した。先発メンバー自体こういった対テロに特化した面々なだけに。しかし、アスベルという最大戦力がいながらその対策していないのは慢心なのか罠なのかは不明だが、ここからは慎重に行動していくことにした。
「―――ああ、了解した。お前らがいる場所のかなり先にいるが、伏兵の可能性は排除できない。くれぐれも気をつけてな」
「リィンさん達ですか?」
「ああ。クロウが人質だった鉱員を連れて別行動しているそうだ」
「……ま、これで再び人質になることはないかな」
リィンからの連絡を終えて必要な情報を交換したのち、セリカとフィーに聞いた情報を伝えたアスベル。ここでリィンらと合流を待つのも手だと思うが、相手はまがりなりにもテロリスト。定時連絡が入らないことに気付いた別の連中が荒事を起こさないという保証はない。結論としては
「このまま最奥部まで一気に行くぞ。テロリストが発狂して爆破なんてされたらたまったものじゃない」
「ですね。了解です」
「了解」
しばらく進んだところで突然の振動。アスベルら先発組がいるあたりには被害はなさそうだが、ここでアスベルのARCUSが鳴り、通信をつなげる。その相手はリィンからであった。
『アスベル、大丈夫か?』
「ああ。先ほどの振動はこちらにまで影響はないようだ。何かあったのか?」
「実は―――」
リィンからクロウが鉱員を送り届けて戻る途中に先ほどの爆破に巻き込まれたとのこと。幸いクロウ自身は無事で、迂回ルートを探して合流するとのことだ。
「了解した。こちらは間もなく最奥部に到達するんだが……悪い、リィン。アンゼリカ先輩には謝っておいてくれ」
『え、それってどういう』
「アスベル、どうしたのですか? いつものアスベルらしくないですよ?」
リィンが答えきる前に通信を切るアスベル。その行為を不審に思ったのか、セリカが尋ねる。それに対してアスベルは最近見ることの少なかった真剣な表情を浮かべた。
「セリカ、いまここでアイツの正体が晒されるような事態は避けたい。ま、このセリフの時点でフィーは薄々気づいてそうだけれど」
「……ま、何か考えがあるんだと思うから、何も聞かなかったことにしておく」
「ありがとな。まぁ、一番の理由はアイツが口うるさくなる可能性があるからな」
「あー、そういえばそうでしたね」
シナリオ的な意味合いも含むが、人の恋路云々に下手に首を突っ込むのは面倒事しか生まないので、彼らを生かす方向性にした。そして、アスベルは隠し持っていた携帯型爆弾を放り投げて、通路を一か所爆破した。
「迂回ルートはいくつかあるし、15分ぐらいは時間を稼げるだろう。普通に考えたら三人で多数相手にするのは無謀とか言われてもおかしくはないと思うが」
「アスベルだけで一個師団ぐらい相手にできると思う」
「父上も同じこと言っていましたね。『アスベル君ぐらいなら第四機甲師団とも互角に渡り合えるだろう』って」
「納得いかねぇ……」
セリカとフィーの『人間やめてます』発言に納得がいかないとアスベルは反論しつつも、気を取り直して最奥部へと向かうのであった。
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第107話 尊重したい理想、切り捨てる現実 | ||
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