獏 悪夢を見るサプリ |
獏に悪夢を食べてもらっていて、それで毎日見ていた悪夢がなくなったので、僕は嬉しいのだけれども、獏はだんだん太ってきているらしく、僕の夢にそんなに栄養価があるのかと思って感心する。
獏は四十センチ四方のトロ箱の中で飼っていて、夜寝る時に枕元に持ってきて、獏が自由に夢を食べられるようにしてやる。僕が眠り始めると、獏はその長い口を僕の頭にくっつけて、夢を吸い出してもしゃもしゃと食べるのだ。寝入りばな、獏のちょっとひんやりとした口が額にペタッと押し付けられるのを感じると、ああもうすぐ僕は寝てしまって、意識がなくなるんだろうなと思うその一瞬の感じが、僕は何となく好きで、それが獏を飼っている理由の大半であるような気がするし、悪夢を食べてもらうというのは便宜上の話で、本当は僕はその寝入りばなに口を額に押し当てられてああ僕はもう寝落ちするのだなと自覚する、その狭間の瞬間を意識できるというのが一番僕が獏を飼ってやってみたかったことなのだと今では思ったりもする。
獏が太ってきたので、僕はしばらく悪夢を食べさせるのを止めようと思って、寝る時になっても獏の巣箱を枕元に寄せないようにすると、獏はトロ箱の中で怒ったように暴れるので、お前は食べ過ぎであるのだから、もっと節制しなくてはだめだというようなことを言い聞かせると、あんたの悪夢を食べてやっているのに、その言い草はなんだと返す。確かにその通りで、僕は獏には感謝しても感謝しきれることはないのだけれども、でもそんなに太ってしまっては心臓病で死んでしまうかもしれないよ、と僕が諫めても獏は聞かない。仕方がないのでその晩も枕元に巣箱を寄せて、獏の口がぺとっと額に張り付くのを感じて、僕はまた自分が悪夢を見るんだろうなというのを思う。
ある日、家に帰るとアマゾンから宅配便の不在者通知がポストに入っていて、頼んだ覚えもないのに何だろうと思って宛名を見ると獏で、商品名を見ると「悪夢を見るサプリ」と書いてある。そんな馬鹿なと思い、昼寝をしていた獏に、この薬はどういうことだと問い詰めると、最初は獏もしらを切っていたけれども、とうとう泣きながら白状し、実は僕が順調に悪夢を見ていたのは最初の方だけで、それを食べてしまったらもうちっとも悪夢を見なくなってしまったので、獏としては腹が減って仕方がなく、獏界隈では有名な悪夢を見るサプリを試しに僕に飲ませてみると、面白いように栄養価の高い美味い悪夢を見るので、それで止められなくなってしまったのだ。たとえて言うならものすごくギトギトしたとんかつみたいな夢ばっかり見てくれるのだという。
そして獏がごめんなさいもうしませんと謝るのを見て、僕は何となく獏が哀れになってきて、そんなに美味しい悪夢を食べられるのだったら、たまにだったらこのサプリを飲んでやらないでもないよと言って、今では一週間に一度は、悪夢を見るサプリを飲んで、悪夢のさわりだけ見てうなされては、獏に食べられるような生活を送っている。
説明 | ||
オリジナル小説です あと11月23日(木祝)に開催される文学フリマに出ます スペースはウ-16です 小説の本が出る予定です |
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