紫閃の軌跡 |
〜ザクセン鉄鉱山〜
鉄鉱山の最奥部……そこで待ち構えていたのは数人の武装したテロリストと、夏至祭の時にアスベルが圧倒した<帝国解放戦線>の幹部の一人―――“V”であった。彼はアスベル、セリカ、そしてフィーという少数でここまで来たことに何とも言えないような表情を見せていた。
「てっきり鉄道憲兵隊が先に来るかと思えば、まさかアンタが先に来るとはな<紫炎の剣聖>。俺の予想では他にいた小僧らが来るかと思ったが」
「アイツらは後詰めみたいなものだが、人質救出に力を温存してほしくてな……それに、アンタにも聞きたいことがあってな。ま、それに関してはそちらの元職場の流儀に乗っ取らせてもらおう」
「フ……油断も隙も無い佇まいなのに、そこまで律儀とはなぁ。敵でなければ、酒を飲み交わしたかったよ」
「思い出した。猟兵団『アルンガルム』……その生き残りだったりしない?」
「ほう、流石<西風の妖精>。とはいえ、お前さんが活躍するころにはもうなくなっちまってたがな」
各々幹部クラスが<帝国解放戦線>に与する理由………自らの思想を否定されたギデオン、強引に敷かれた鉄道によって故郷を奪われた“S”ことスカーレット。そして目の前にいる元猟兵、“V”ことヴァルカンはその理由を“仇討ち”と発言した。
猟兵団『アルンガルム』……ランクはそこそこであったが、思想的には『翡翠の刃』に近しい部分を持ち合わせていた。だが、貴族派の依頼で当時宰相になりたてのギリアス・オズボーンを脅すだけの任務を請け負った。だが、結果は団長を残して全滅……という報告とのことだが、その際に約一名の生死が確認できなかった。そのこと自体は目の前にいる人物自身知らないのだろう。
「団長も気にはしていた。貴方のような強者がそう簡単にやられるわけがないと」
「かの<猟兵王>にそう言ってくれるのはありがたいことだ。だが、俺は…俺らは止まるわけにはいかねえんだ!」
「<鉄血宰相>ギリアス・オズボーン……というわけですね」
「ああ、そうだ。俺らはあの怪物の“焔”の煽りを食らっちまった。なら、それすら飲み込む“焔”になるしかねえんだよ!!」
そうしてヴァルカンが発するのは黒いオーラ……一流の猟兵が纏うことができるその勢い……だが、対峙している三人にしてみれば、『すでに通った道』と言っても過言ではない。
「あなたの言うことも尤もだ。だからと言って、目的のために手段を選ばず罪のない人にまで害をなす行為は決して許されない。トールズ士官学院特科クラス<Z組>、アスベル・フォストレイト。アンタ方を圧倒させてもらう!!」
「同じくセリカ・ヴァンダール。エレボニアに害をなす輩を排除させていただきます」
「同じくフィー・クラウゼル。久々に本気で行くよ」
そうして三人が纏っているオーラ……それを見たヴァルカンは笑みをこぼした。
「こんなときに久々だぜ、この滾りはよぉ!! その刃、微塵もなく破壊してやる!!」
先手を仕掛けたのはヴァルカン。得物であるガトリング砲を自在に操り、三人を狙い撃つ。その狙いも当然読めている。
「セリカ、フィー! 人質のこともある。二分で決めるぞ!!」
「了解」
「解りました!」
三人は散開し、セリカとフィーで戦術リンクを結ぶ。ヴァルカンだけでなく、十数人のテロリストらが彼の補助をするように三人に向けて銃撃を放つ。
(ヴァルカンの補助をするように、正確な射撃。これは、相当鍛え上げたとみるべきだな)
回避しつつも、冷静に彼らの陣形を解析するアスベル。元々猟兵の育成スキルが高いとレヴァイスがそう評していたのを聞いておいてよかったと思う。瞬く間に周囲の岩肌が銃撃によって蜂の巣へと変貌する。多分二人や三人削ったところでその場凌ぎにしかならない。
(なら、ここは搦め手かな)
その意図を察したのか、フィーがスモークグレネードをヴァルカンの足元へ転がるように投げる。それを見たヴァルカンが意図を察して蹴り飛ばそうとした瞬間、グレネードに斬撃が刺さり周囲は煙に包まれる。
「ちっ、そう来るとは……上かっ!?」
「はあああああああっ!!!」
「ぐうっ!?」
セリカがその勢いのままに大剣を振り下ろし、ヴァルカンと他のテロリストを引き離した。ヴァルカンは急いで戻ろうにも煙で状況はわからず、下手に射撃すれば味方を巻き込むという詰みの状態。時間が経つと次第に煙が晴れる……視界がはっきりしたところでヴァルカンは驚きを露わにした。倒れこむテロリストたちと、静かに対峙するアスベル、セリカ、フィーの姿がそこにあったのだから。
「……なっ!? あれだけの人数をたった三人でだと!?」
「少なくとも、ここにいるのはあなただけになったね」
「ククク……だが、まだ俺は戦えるぜ! さぁ、来い! トールズ士官学院<Z組>!!」
「なら、せめての礼儀に“本気の五歩手前”でいくぞ」
そう呟いた瞬間にヴァルカンの目前まで到達したアスベル。構えることはおろか驚く間も与えず、アスベルはその剣をふるう。
―――二の型“疾風”が極式、<瞬諷(しゅんぷう)>
全身の力を余すことなく一点集中させることにより爆発的加速を掛け、その速力を一片も余すことなく太刀の振るうスピードに合わせることで神速の剣技へと昇華させたアスベルの奥義により、ヴァルカンの持っていたガトリング砲は完全に破壊され、ヴァルカン本人はその余波で岩盤に叩きつけられ、その反動で足場に倒れこんだ。この状況では彼に戦闘続行はかなり厳しい状況だろう。
「へへ……情けでもかけたつもりか?」
「そういうつもりじゃないよ。言っただろ、聞きたいことがあるって?」
「……一個ぐらいなら、答えられる範囲でいいぜ」
戦う前にそう啖呵を切った以上、それを守っただけに過ぎないとでも言い放ったアスベル。それを聞いたヴァルカンは何かを諦めるようにその場に座り込み、彼の質問を待った。
「こちらが聞きたいのは一つだけだ。当時宰相を脅すために雇われたアンタの元職場―――猟兵団『アルンガルム』を雇ったのは貴族派と言っていたが……その雇い主は現在の<四大名門>、いや、『アルバレア公爵家』という認識で間違いはないか?」
「えっ!?」
「……ま、その認識で間違ってはねえ。詳しい雇い主の情報は知らされなかったが、おおかたアルバレア公だろうとは思ってるさ。さて、どうせなら一思いにやってくれ」
「いや、どうやら……アンタのお仲間がそうさせてくれないみたいだな」
聞きたかった質問……その答えがアスベルにとって何を齎したのかはセリカとフィーには理解できなかった。満足そうなヴァルカンの言葉に、迫りくる殺気を感じてアスベルはそう呟くと、太刀に力を込めた。
『はあっ!!』
「ふっ!!」
二人の間に割って入ったのは黒い甲冑に身を包んだ人物―――“C”当人であった。容赦なく振るわれたダブルセイバーの刃をアスベルは片手だけで握っている太刀で受け切っている。
「“C”!?」
『ここで死なれては困る同志“V”。“G”と立て続けに失うわけにはいかないのだ』
「……先に撤退する」
ヴァルカンの後を追いかけようとしたところ、“C”が懐から取り出したのはフラッシュグレネード。その突発的な閃光に三人は“C”と距離をとった。その光が収まると、“V”はおろか“C”の姿も見えなかった。周囲に気配はないと判断し、アスベルは太刀を鞘に納めてセリカとフィーのもとに近寄った。
「大丈夫だったか?」
「まぁ、無傷ですよ」
「にしても、アスベルもそうだけれどセリカも大概だよね」
「流石にレイアほどじゃありませんが」
「あれはもはや人間のカテゴリーじゃないから」
すると突如鳴り出す駆動音。姿を見せたのはラインフォルト社製の高速飛行艇。そして響き渡る“C”の声。だが、アスベルは無論のこと、武を嗜んでいるセリカも気付いていた。飛行艇の中には『生きている人間が誰も乗っていない』ことに。すると雪崩方式でリィンらだけでなく、ノルティア領邦軍と鉄道憲兵隊まで姿を見せ、飛行艇を撃ち落そうとする鉄道憲兵隊と止めようとする領邦軍の混戦状態。これではリィンらに説明どころではない……と次の瞬間
「えっ……」
「全員伏せろ!!」
何かによって飛行艇が墜落し、爆発を起こす。何も知らない人間からすれば『テロリストの自爆』と見ることしかできない。この状況でも一触即発……それに待ったをかけたのは、他でもないオリヴァルト皇子であった。
「いやー、アスベル君。君の連絡がなかったらもう少し到着が遅れるところだったよ。感謝の言葉は後日にしておく」
「この状況ですし、そうしていただいたほうが宜しいかと……クロウも、案外悪運強いんだな」
「それ、褒めてるようには聞こえねえよ」
「フフ、その言葉遣いと賭け事さえ直せばもっとモテそうな気がするけどね」
「うるせぇゼリカ! ケンカ売ってんのか!?」
「ハハハ……」
―――こうして今月の特別実習は幕を閉じることとなった。
〜トールズ士官学院〜
特別実習からトリスタに戻って数日。学院祭に向けての準備を進めていく中で、夕方のHR……サラは疲れたような表情を浮かべつつ、教壇に立っていた。
「どうしました、教官? とうとう教頭から『お見合いでもして身を固めろ』とでも言われましたか?」
「なんでそっち方面なのよ。まぁ、言われたことは事実だけれど……」
「マジで言われたんですか」
「そんな話はいいわ。みんなは明日授業なし。朝一番で『リヴァイアス』が迎えに来るわ。服装は制服でいいけれど」
皇族専用の巡洋戦艦にてお出迎えというのはかなり豪勢なことだが……その続きを話すようにサラは呟いた。
「えっと、何かあったのでしょうか?」
「―――先月のガレリア要塞の一件。そして今月のザクセン鉄鉱山の一件で皇帝陛下が君たちを表彰したいとのことよ。むろん、アスベルとルドガーは拒否権なしだから」
(そういや、鉄鉱山の一件はどうしたんだ?)
(無理やりこじつけてリィンらの手柄に仕立て上げた)
本来なら真っ先に表彰されるべき対象なのはアスベル、セリカ、フィーなのだが、いろいろ面倒なことになりそうなのは解りきっていたので、テロリストを追い払って人質救出したという名目でリィンら他のA班メンバーを主体にして功績を被せたのだ。その辺はオリヴァルト皇子にも根回しはしており、彼もかの御仁のことを思慮に入れてくれたおかげでそうなったという経緯だ。
というか、リィンらはまだしも先月も今月も目立った功績をあげていないのに『拒否権なしの皇城招待』というのは腑に落ちない。その理由をサラが答えた。
「で、教官。俺とアスベルはなぜに拒否権なしなんだ?」
「……あんたたちと直々に会いたいそうよ。皇帝陛下とオズボーン宰相がね」
「ええっ!?」
「後者に関してはめっちゃ断りたいんですが……その様子ですと、かなり無茶吹っかけられたようですし、いいですよ」
「いいのか?」
「まぁな。それに、聞いてみたいこともある」
元々強引な手腕を発揮しているだけに、アスベルとルドガーとの面談を申し入れたのはそのあたりの捻じ込みといったところだろう。なので、下手に断れば余計面倒な展開になるのもある程度は読めていた。どうせアスベルとルドガー両名の“裏の顔”などとうに知っている可能性が極めて高いので、大方釘を刺す可能性もあるのだろう。それ以上に、どうしても聞いておきたいことがあっただけに、彼らの申し出はある意味好機ともとらえられるだろう。
「ただ、万が一こちらを不当に拘束しようと相手が武力とかに訴えてきたら最悪バルフレイム宮上層が消えますので、そのようにお伝えください」
「君が言うと冗談にすら聞こえないぞ」
武器の持ち込みはできなくとも、アスベルには八葉一刀流“無手”皆伝、ルドガーは<痩せ狼>から教わった物も含めた格闘術を会得している。その時点でアスベルの言い放ったこと自体現実になりかねないとマキアスがツッコミを入れた。
「流石にそのようなことはないと思うけれど……解ったわ。きちんと伝えておいてあげる。ルドガーも同じ旨でいいかしら?」
「ああ、構わない。というか、嬉しそうだな?」
「フフフ、日頃のストレスを少しでも発散できることに感謝するわ」
「この様子ですと、サラ教官に春が来るのはいつになるのでしょうか…」
「ちょっと、それどういう意味よアーシア!?」
「あはは………」
この一件はどうやらただ事で終わるような状態ではないと、勘の鋭い一部の面々は気づいていた。
さて、ここからはちょっとオリジナル展開です。ユミル絡みはネタ残し的な意味で省きますのでご了承ください。
V発売以前はテスタ=ロッサの一件から騎神に対して『根源に至るための鍵』ではないかという考えで、その対抗策として<聖天兵装>を考えてましたが、あれの正体からして“外の理”あたりに突っ込まないといけない気がしてます(汗)
当時から荒事を潜り抜けてるからミュラーさんは強いのだと感じました(小並感)
説明 | ||
第108話 仇と信念 | ||
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1992 | 1800 | 2 |
コメント | ||
そういえば夫婦でしたね。サラ教官に春はくるのか的な話があったので気になりました。真実を知ってる人が少ないのですね。(夜桜) 感想ありがとうございます。 夜桜様 付き合っているというか夫婦ですね。とはいっても、スコールの両親が帝国に所縁のある人間なので身分制度による被害や批判を避ける意味合いで「師匠と弟子」みたいな感じを演じている塩梅です。(kelvin) サラとスコール付き合ってなかったっけ?(夜桜) |
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