ポケモンDPt 時空神風伝 37 |
3つの湖への奇襲
キッサキシティのキッサキジムに勝利したクウヤは、次の目的地を考えていた。
「これでバッジは七個全部そろったぜ」
「あと一個で、シンオウ地方のジムを全制覇ですね」
「ああ!」
バッジケースを覗いて今まで集めたバッジを見返していたクウヤに声をかけるスモモ。
最後のジムバッジをとるために、次の目的地を探そうとしたクウヤに、スズナが声をかけてきた。
「そうだクウヤくん、急ぎの旅じゃないというなら、エイチ湖によっていかない?」
「えいちこ?」
初めて聞くワードに、クウヤは首を傾げた。
「エイチ湖はシンオウ3大湖のひとつ、知恵を司る湖よ。
そこには人々に知恵を授けたという伝説のポケモンがすんでいるという伝承もあるの。
実はこれからジムリーダーとしてそこの見回りをしようと思ってるんだけど・・・最近物騒だから、正直二人に手伝ってほしいのよねー」
「二人・・・って、あたしもですか?」
「ええ」
スズナに指名された二人は一度お互いの顔を見ると、ふっとその顔に笑みを浮かべてスズナと向かい合う。
「おれでいいなら一緒にいくぜ」
「あたしも手伝わせていただきます」
「ありがと!
二人とも優秀だから、心強いわ!」
二人の返事を聞いたスズナはにっこり笑って二人をエイチ湖へ連れて行った。
「実はおれ、リッシ湖にも立ち寄ったことがあるんだ。
そこもなにかあるって話を聞いたことがあるぜ」
「ええ、リッシ湖もシンオウ3大湖ですから」
「さぁ、もう少しよ!」
リッシ湖のことをはなしているうちに、3人はエイチ湖に到着した。
「!?」
だが、そこで彼らが目撃したのは荒れた湖と、へし折れた木々、えぐれた地面。
そして、二人の人間の姿。
予想していなかった光景に3人は驚くしかなかった。
「ジュン!?」
どちらもクウヤが知っている人間だったが、特に大きく反応したのは少年の方だった。
クウヤは少年の姿を確認したあとでもう一人の人物の方を向いて叫ぶ。
「それにお前、ギンガ団のおばさん!」
「・・・そういうあんたは・・・以前我々の邪魔をした憎々しい坊やじゃないの・・・」
「ギンガ団・・・!」
どうやらその存在を知っているらしいスズナは、そこにいたギンガ団の幹部の女性ジュピターをにらみながら片手にボールを構える。
ギンガ団と交戦したことがあるスモモもスズナと同じ動きをする。
「私達のボスを倒したんですってね、あんた」
「だからなんだよ」
ジュピターと向かい合うクウヤも、ベルトに付いているボールから一切手を離そうとしない。
「ここであんたを始末すればボスの計画もうまくいくでしょうし、ボスを侮辱した仕返しもできる・・・さっきこのワタシをおばさん呼ばわりした仕返しもできる・・・一気に気持ちがすかっとするわ」
「・・・」
クウヤとにらみ合っていたジュピターだったが、スモモとスズナに気づくと立ち去るような動作をとった。
「とはいえ、あんただけじゃなく、ジムリーダーが二人もこの場所に居合わせていると、いくらワタシでも分が悪いわね・・・。
ここは寒いし、さっさとここから去るとしましょうか」
「あ、まて・・・」
「そうそう、そこのあんた」
立ち去る前にジュピターはジュンの方を向いて言葉を放つ。
「あんたのポケモンはまぁまぁだったけど、あんた自身が弱いわよ。
もっとワタシを楽しませてくれるのかと期待して損したわ・・・暇つぶしにもならない。
そんな程度の実力でチャンピオンを目指してたなんて、愚かだわよ」
「て、てめぇっ!」
友人を侮辱されクウヤは怒り、ジュピターに殴りかかろうとしたがとたんに放たれた煙幕によってその拳は当たることなく、さらに煙幕がはれた頃にはジュピターの姿もなくなっていた。
「えんまくで逃げられたわね」
「ええ・・・」
悔しがるスモモとスズナ。
同じように悔しがりながらも、クウヤはジュンに歩み寄った。
「ジュン・・・」
「・・・だよ・・・」
「え?」
声をかけると、かすかにジュンは声を出した。
直後、ジュンは顔をあげてクウヤに向かって言った。
「そうだよ、ギンガ団相手になにもできなかったんだよオレは!
あの湖にいたポケモン・・・ユクシーって呼ばれてたポケモン・・・とてもつらそうで苦しそうで、オレに助けを求めていたのに・・・!
なのにオレはあいつを助けてやれなかった! それどころかあのギンガ団の幹部にも勝てなくて・・・ポケモン達はがんばってくれたのに・・・オレなにもできなかった!!」
「ジュン・・・」
そう叫ぶジュンの目には、涙がたまっていた。
その顔から、彼がどんなに悔しい思いをしているのかがよくわかり、クウヤは彼にかける言葉が思い浮かばなかった。
「・・・っ」
ジュンはクウヤから視線を逸らすと顔をうつむかせたままムクホークを出した。
ここから立ち去ろうとしたジュンをクウヤは彼の腕を掴んで止めた。
「・・・まてジュン、何があったんだよ!?」
「・・・」
「ジュン!」
クウヤの方を一切みようとせず自分の腕を掴んでいた彼の手を振り払い、ジュンはムクホークに乗って飛んでいってしまった。
ジュンが飛んでいった方向をただ黙ってみていたクウヤの肩をスズナが軽くたたく。
「クウヤくん、一度キッサキシティに戻りましょう。
ポケモンセンターの電話で、さっきの男の子の知り合いに電話して、事情を聞いてみた方がいいかもしれないわ」
「スズナさん・・・わかった」
一方ここは、シンジ湖。
「・・・」
あの美しさの面影がなくなりすっかり荒れてしまっていたその場所で、ヒカリはうずくまっていた。
「ポケモンの回復、もうすぐおわるそうだぞ」
「そう、ですか・・・」
ナナカマド博士が、ポケモンセンターに預けられた彼女のポケモンが回復していることを告げるが、ヒカリは未だ暗いままだ。
するとナナカマド博士のポケギアに、通信が入った。
「こちら、ナナカマド・・・」
「ナナカマド博士!」
「うむ、クウヤくんか」
電話の相手はクウヤだった。
彼の名前を聞いたヒカリはぴくっと反応したが、音を立てずにそこを離れていった。
「あ、もしかして今って忙しい?」
「いや、構わん・・・それで、私に何か用かね?」
「ああ・・・実はさぁ」
クウヤは電話越しに全て話した。
キッサキシティにいることも、エイチ湖でジュンとギンガ団に遭遇したことも。
その話を聞いたナナカマド博士は、手順を追って話すことにした。
「まず私は、シンオウ三大湖の調査の手伝いを3人に頼んだのだ。
私の研究・・・ポケモンの進化の秘密に近づくためにな。
そこで、エイチ湖にはジュンくんを、リッシ湖にはコウキくんを、そしてシンジ湖を私とヒカリでそれぞれ調査することになったのだ」
「分担してたってこと?」
「そうだ」
彼らはその調査に喜んで協力してくれた。
「だがそこで、シンジ湖を私とヒカリで調査していたらギンガ団に遭遇してな・・・そのときヒカリはギンガ団相手に戦ったんだ」
「!」
「確かにヒカリは頑張ってくれた・・・ポケモン達も、一生懸命に戦ってくれていた。
だが、相手が悪かった・・・私達の目の前で湖は一気に荒れてしまった。
伝説のポケモンが奪われてしまったからだ」
クウヤは話を聞いて、ナナカマド博士に気になってたことを問いかける。
「ヒカリ、大丈夫か?」
「怪我もなく戦ったポケモンも今はポケモンセンターで休ませている。
だが、内心のショックは大きいかもしれんな・・・」
「そうか・・・」
話を聞いたクウヤはなにかを決めたように、画面越しにナナカマド博士の顔を見て言う。
「状況はだいたいわかった、教えてくれてありがとう博士!
じゃあおれ、ここできるな!」
「お、どういうことだ、いったい・・・」
ナナカマド博士が彼に詳しい話を聞こうとしたとき、クウヤはじゃあなとだけ言い残し一方的に電話をきってしまった。
「・・・まさか・・・」
急いできってしまったクウヤに呆れつつも、今彼がなにをしようとしているのか大体察したナナカマド博士は嫌な予感を巡らせる。
そして、調査協力を3人にたのんだことに罪悪感を感じていた。
「・・・ヒカリにコウキくんにジュンくん・・・彼らには、申し訳ないことをしてしまったな・・・」
最初は危険なことになるなんて予想していなかった、こんな思いをさせたいわけじゃなかった。
ただポケモンのことを知り、彼らにもその不思議にふれさせて成長してほしかった。
そこには悪意など少しもない。
だが自分の頼みで、3人の子供達を傷つけてしまったことは変わらない。
そのことにたいしナナカマド博士は、自分を責め始めていた。
「・・・」
そのときヒカリはマサゴタウンのポケモンセンターで、回復中のポケモン達をみた。
確かにポケモン達は順調に回復が進んでいる。
「あのマーズって幹部に、私・・・勝てなかった・・・。
みんなは一生懸命戦ってくれたのに・・・私は全然指揮をとれていなかった・・・。
そのせいで・・・あそこにいたポケモン・・・エムリットも・・・」
一度ギンガ団におそわれて、捕まってしまったことがあった。
そのときは知り合いに助けてもらった。
だがそのとき彼女は自分の無力さを知り、今度は自分が助けになろうと思って、知識を生かしてポケモンバトルの練習にも力を入れることにした。
「・・・」
目の前がにじむ。
今までの努力を否定された気持ちに陥ったからだ。
「・・・私・・・まだ・・・全然、弱いんだ・・・!」
ヒカリはスカートの裾を握りしめて、その双眼からぼろぼろと涙を流していた。
「・・・ごめんなさい、エムリット・・・みんな・・・」
エムリットや博士、ジュンにコウキ、そしてポケモン達に向かって謝罪の言葉をつげながらヒカリは泣き崩れる。
そのとき一瞬だがその少女の脳裏を、クウヤの顔がよぎったのだった。
そしてリッシ湖。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「くそぉーっ!」
ドダイトスの体にもたれ掛かる少年から逃げていくギンガ団の下っ端。
少年の周りには、その少年の手持ちポケモンがいて、去っていくギンガ団を威嚇していた。
「大丈夫だったかい、みんな」
その少年は、コウキだった。
彼はこのリッシ湖で、ずっとギンガ団の下っ端相手に戦い続けていたのだ。
そして今逃げていったのが、リッシ湖にいたギンガ団の、最後の一人だったのだ。
「・・・なんということだ・・・。
リッシ湖が、こんな姿になってしまうなんて・・・まさか、ボクが下っ端相手に数で圧倒されている間に計画が進んで、伝説のポケモンを奪われてしまうなんて・・・」
今のリッシ湖の姿を見て、コウキは愕然とした。
あの美しい湖の面影はすでになく、湖なのに、水などない。
底のほうでは弱ったコイキングがわずかな水につかって力なくピチピチとはねていた。
あらわとなった洞窟には、生物の気配もない。
そうなった原因は、ギンガ団がこのリッシ湖で爆弾を起爆させたからだった。
「ボクはなんのために・・・ポケモンと一緒に旅して、強くなろうと決めていたんだろうな・・・」
最初にその光景を見たとき、コウキは頭に血が上り冷静さを忘れてギンガ団相手に攻撃を繰り返した。
普段の冷静さを捨ててただ怒り狂ってしまっていたのだ。
だから、幹部のサターンがリッシ湖を襲った目的に気づかなかった。
彼がリッシ湖を爆発させたのは、そこに住む伝説のポケモン、アグノムを確実にとらえるため。
そして、湖が一気に廃れたのはその湖を守っていたアグノムがギンガ団に捕らわれてしまったから。
それに気づいたときには遅く、サターンは逃げられ自分たちには下っ端軍団が襲いかかっていた。
「ドォウ!」
「わっ!」
自責の念にかられているコウキに喝をいれるように、ドダイトスはいきなりコウキに頭突きした。
「いっつつつ・・・」
「ドォォォダァァァイ」
痛そうに背中をさするコウキに、ドダイトスはうなり声をあげる。
そばにいたポケモン達も、ドダイトスと同じ目でコウキをみた。
その視線と、ドダイトスの行動の意味を悟ったコウキは、彼らを見つめ返した。
「・・・そうだね、ドダイトス、みんな。
ボクが、しっかりしなくちゃ」
ドダイトスに慰められ、ポケモン達ににらまれ、自分のしなければいけないことを考え直したコウキは顔を軽くたたき顔を上げた。
「取り戻そう・・・伝説のポケモン、アグノムを・・・!」
コウキは帽子をかぶりなおして、遠くを見た。
ギンガ団を追いかけるという気持ちを、その瞳に光として宿して。
そして、キッサキシティにいるクウヤはただポケモン達の回復を待っていた。
「・・・」
ナナカマド博士との通信で、ギンガ団が3つの湖を襲ったことがわかった。
そしてジュンの言葉からしておそらく、ギンガ団はその3つの湖から伝説のポケモンを奪っていったのだろう。
アカギが動き出したと思ったクウヤは一刻も早くギンガ団の本拠地へ向かい戦い、彼らの野望を阻止したいと思っていた。
拳を握りなおしたとき、ちょうど回復完了の合図が響いた。
「はい、クウヤさん、あなたのポケモンはみんな元気になりましたよ」
「ありがとう!」
クウヤはジョーイさんからポケモンを受け取り、ベルトにそれを全部つけるとポケモンセンターを飛び出した。
「クウヤくん!」
「クウヤさん!」
「スモモ、スズナさん」
彼が出てきたことに気づいたスモモとスズナは彼に駆け寄る。
二人がなぜ自分に声をかけてきたのかに気づいたクウヤは笑って自分の目的をそのまま言った。
「おれ、まずはリッシ湖にいってみるよ。
もしかしたら奴らの本拠地とかわかるかもしれねーし」
「ギンガ団と正面から戦うんですか」
「ああ・・・あいつらの分までやってやんねぇと・・・それに、自分勝手な気持ちで破壊ばっかするような奴らはゆるさねぇんだよ。
シンオウの人達やポケモン達も、助けたい。
だからおれは、ギンガ団と戦う!
こいつらも、おれの気持ちにこたえてくれるしな!」
そう言いボールベルトに手を添えるクウヤ。
彼の緑色の目が、本気だと伝えていることを見抜いたスズナは腕を組んでうなずいて笑う。
「・・・うん、気合い十分ね、いいわ!
あなたがそう決めたなら、それを実行しちゃいなさい!」
「ありがと、スズナさん!」
「わたしが全国のジムリーダーにギンガ団のことを伝えておくわ。
みんなきっと、ギンガ団に迷惑してるはずだもの、協力してくれるはずよ。
約一名をのぞいてね。」
「・・・そ、そっか・・・じゃあ、スズナさんにそこを頼んでもいい?」
「ええ、任せて!」
約一名をのぞいて、という箇所になにかドスのきいたものを感じクウヤは若干顔をひきつらせた。
「クウヤさん、気をつけてくださいね」
「ああ、スモモもな」
自分の心配をしてくれているスモモに対しクウヤは笑ってみせ、ズーバに捕まって空を飛んでいった。
ギンガ団との戦いが、始まる合図だった。
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