司馬日記外伝 凪さん酔っ払う
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「たいちょ。ちょっと来てんか」

溜め込んでしまった決裁書類を残業でチェックしていると、執務室の扉から眉根に皺を寄せた顔だけを出している真桜にちょいちょいと手招きされた。

「ん、どしたの」

「めんどくさいねん、ええからちょっと来てんか」

「めんどくさいって…」

それだけで仕事をほっぽり出させられても困る。決裁終わってないと詠や桂花は堂々急かしてくれるからいいが、最近の大人しい娘達は急ぎの決裁でもそっと決裁箱を見に来て決裁が終わってないと遠慮して黙って帰ってしまうのが申し訳ないから余り溜め込みたくはないんだが。

「自分の女が荒れてるんや、面倒見るんがたいちょの仕事やろ」

「まあそれはそうだけど。誰が荒れてるの?」

答えながら席を立つ。沙和が荒れるって事は考えにくいから凪か、まあほっとく訳にはいかない。帰ってきてから続きはやればいい。

 

「こっちや」

連れて行かれた先は、いつもの酒楼『三国一』だった事に少しほっとする。ここでは余りに官庁関係者が酔って放言する為、遂に一般人は入店不可となった店だ。

「今沙和と文聘がなんとかあしらっとるさかい、あとは隊長任したで。…沙和、隊長来たで!」

「やーっと来てくれたの、もう遅すぎるの隊長!ほら凪ちゃん隊長来たから、隊長に話聞いてもらってね」

「あ”?」

「…やあ、凪」

見上げてくる凪の目つきがやばい。これ完全に酔っ払いだ。でも大丈夫、俺この手の慣れてるから。…慣れてるから。

そそくさと席を立って真桜と店を出て行く沙和の代わりに凪の隣に腰掛ける。

 

「…これはようこそおいで下さいました」

「あーいやいや。顔上げてよ」

深々と頭を下げて妙な挨拶をする凪の頭を上げさせる。ところで四人掛けのテーブル席で、向かいに座ってる見慣れない娘が何故かいる。と言うか残っている。彼女は…確か。

「…文聘ちゃんも凪達と一緒に飲んでたの?あと(凪の事は)大丈夫だから帰ってもいいよ」

「あ、いえ…凪先輩、自分の直属の上司…その、指導員様ですから、もう少し御一緒します」

恐縮しながら会釈をされて、服との隙間から自然と見えそうになる突起からさりげなく視線を外す。この娘ちょっと服装気をつけたほうがいい。

「でも明日も早いんでしょ?体調崩すと凪に怒られるだろうし、今日は」

 

「いえ、自分明日休暇頂いてますんで…大丈夫です」

「あー…でも、寮の門限閉まっちゃうんじゃない?」

「…お邪魔でしたね。申し訳ありません…帰らさせて頂きます」

「いやいや邪魔なんてことはないよ!大丈夫か心配になっただけで!大丈夫だったら居てよ、折角だから!」

涙目で席を立とうとするのをなんとか押しとどめる。折角助け舟を出したつもりが思いの外粘られて、俺の言い方に帰れオーラが出てしまってたらしい。それよりは、問題はこっちだ。

 

「…折角ですから祥(文聘)にも居てもらいましょう、隊長と飲めるなんてそうあるもんじゃありません。祥(文聘)、隊長の分の箸と酒を」

「は、はい」

うんうんと頷きながら文聘ちゃんに指示を出している凪を見て、後輩とも上手くやっていそうだなと内心思うが今日はそれはおいておこう。

「ところでさ。真桜が凪が荒れてるって言ってたけど、どうかしたの?」

「……」

凪の表情が渋柿を食べたように歪む。

執務室に残してきた決裁書類が一瞬頭を掠めたせいか、少し雑な直球だったかもしれない。

 

「聞いて下さい!隊長!」

「うんうん」

凪は止める間も無く手元の角桝を呷り、ぷはーと一つ大きなため息を吐いた。

 

 

「本当に!最近、私は本当にダメダメで!本当に嫌になってしまって!」

「そうなの?廻りの娘とか、秋蘭とかからも良く頑張ってるとしか聞いた事がないけど」

信用がありそうな秋蘭の名前を出してみる。実際には最近秋蘭に凪の事を聞いてはいないけど間違いなくそう言うだろうとの確信を元に少し吹かしてみた。

「いえ!そんなの、ホント通り一遍の仕事をこなしてるだけでっ!もう、平和に馴れきってしまってるって言いますか!隊長の…そう、隊長の優しさに甘えきってしまってて!亞莎とか、仲達さんとかあんなにっ、美人で!可愛くて!えっちで!前向きなのに!私ときたら、何も成長していない!…こんなんじゃクビですっ、クビですよ!」

 

「いや、凪に将軍辞められたらもうなれる人なんて居ないって」

「そっちはどうでもいいんですっ、北郷警備隊副隊長がクビなんですっ」

「あーうんそっちも大事だね、将軍職も大事な仕事だけどね、うん」

ここ数年で学んだ事。酔っ払いの言う事を正面から否定してはいけない。そんな事も思いながら、中々難しい悩み方だなと頭を巡らす。

 

「…祥(文聘)」

「は、はいっ?」

俺の箸と酒を用意してくれた後は黙って聞いていた文聘ちゃんが突然凪に振られて背筋を伸ばす。

「私が副隊長をクビになったら。代わりにお前が務めてくれるか。…いや、務めるんだ」

「は、はい!?」

「いや凪、そんな事は無いって…」

「お前は腕は立つ、性根もいい。頭も決して悪くない。全身全霊で隊長を御助けするんだ」

「…はい!」

「うん有難うね文聘ちゃん、その気持ちは有難い。でも凪、そんな事無いってばさ」

「隊長の手となり足となり。知恵袋となれ」

「はい!」

「そして時には。…うん。時には犬となり」

「はい!」

「はい!?」

「夜には体でむぐもごご」

「職務の範囲内でね!ボディーガード的な意味でね!腕が立つ娘には体を張ってもらったりする事もあるけどね!!」

「…はい」

やばい事を口走りかけた凪の口を慌てて塞ぐが、私分かってます風に顔を赤らめた文聘ちゃんの返事を見て地方から来る娘って絶対何か間違った事吹き込まれて上京してきてる気がする。

 

「…なんにせよさぁ、凪は本当良くやってくれてるよ?」

「いえ全然です。ですが!ですが隊長が!隊長が今一度、昔みたいに厳しく!指導してくれたら…けふっ…頂けたら!」

 

「うんうん」

昔の俺、そんな厳しくしたことあったっけ。凪の手酌の酒が桝から溢れてるのも気になるが、涙目で唐辛子をそのまま齧っているのがマジヤバイ。

「私も立ち直れる…もう一度初心に帰って、進歩していける気がするんです!」

「うんうん、お酒こぼれるし凪の可愛い手に傷がつくから机叩くのはやめようね」

「わかりました。そんなわけで!…そんなわけでっ、隊長には!特訓!…特訓を!私につけて頂きたいっ…のです!うん!」

ひっく、と可愛くしゃっくりをして頭をふらふらと揺らしている。うん、純度百パーセントの酔っ払いだ。

「分かったよ、じゃ今度休みのときにやろうな。だから今日はもう帰」

「分かってますか!?特訓!隊長が…私につけてくれる特訓…特訓とは!」

「うん、まず演習場十周だろ?」

「違いますっ!隊長をおぶって二十周ですっ!」

「あ、ああ。でその後腕立て百回?」

「隊長に背中に乗ってもらって二百回です!そこで隊長には!『どうした背中が下がってるぞ』とか『お前の根性はそんなものか』とか激励して頂いて!」

「…そんな事言った事あった?」

「細かい事はいいんです!最近の隊長は優し過ぎるんです、特訓なんですから厳しくていいんです!それで、至らぬ私にっ…うん、活を。…活を入れて頂くんです」

「いや、俺が今更活なんて入れるまでも無く凪は自分に厳しいじゃない。ね、文聘ちゃんも見ててそう思うでしょ?」

「は、はい!凪先輩は本当に厳しく、御自身を律していらっしゃいます!」

文聘ちゃんに無難に振ってみる。

「…いえ!そうじゃないんです!」

どー違うんだ。

だん、と顔を伏せて再び両拳で机を叩いた後、むっくりと頭を上げた凪の瞳は今更ながら他人の話を聞く気がない人の目だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長のっ…ひっく。…隊長のっ、熱くて硬い!根性注入棒でっ!」

 

 

 

何言い出しちゃってんのこの子?

 

 

 

 

 

 

 

「私のっ、下っ腹に活もぼもば!」

「ああ!俺の部屋においてある『根性注入』って書いた警策ね!!こないだ凪が座禅やるって言った時はあっためて使ったっけねそうだったね俺忘れてたよ!!」

「あの活を入れて頂かないと!私の腹に一本ビシッと芯が入らないって言いますか、いっつもくよくよくよくよしてしまって!」

「そうかそうだなまたやろうな座禅、うん座禅ねあっはっは!そうだ文聘ちゃんもやろうか今度!?」

「…あ、あの…凪先輩、最近酔われるといつもその一刀様のエッ…その、『根性注入』は凄くって、無いと自分は駄目だとかわんこぷれいに溺れてる自分は情けないとか…その…」

「あっうんごめん下手な言い訳してホントごめん」

我ながら誤魔化し方がヤケクソ過ぎて、思わず文聘ちゃんにジャッジを求めてみたけど初めっからアウトでした。

 

「聞いてますか隊長!」

「ああ聞いてる。聞いてるが残りは凪の部屋で聞くよ、なっ?」

いや後輩に愚痴る凪が悪いんじゃない、ここまでストレスを貯めさせてしまった俺が悪いんだ。凪だって一人の女の子だ、首輪つけられてワンワン言ってお腹撫でられるだけで満足な筈が無い。反省したし明日からちゃんと凪の事フォローするから文聘ちゃんの前でこれ以上の羞恥プレイは勘弁して。

「いえいいんです、祥(文聘)にも是非聞いて貰いたい!隊長のっ…隊長のっ、根っ性注入棒は!熱くて!硬くて!」

「またそっからなんだ!?」

「隊長が、こう…『凪!根性が足りないお前に活を入れてやる!壁に手をつけ!』と私に命令して!」

「凪、部屋行こう!?真桜も沙和も心配してたしもうお店もカンバンだし!」

「あっ、一刀さん?私明日の仕込みがあって泊まりだから時間気にしなくていいよ?」

「杏(逢紀)さんお願いだから空気読んで!?」

 

 

 

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「やっと寝てくれた…」

酔い潰れて背中ですーすーと寝息を立てる凪を背負って、三国一の暖簾をくぐる。

「では私、寮なので…ここで失礼します。凪先輩の事お願い致します」

「ああ悪かったね文聘ちゃん、迷惑かけて」

「いえ…一刀様が来られて、凪先輩凄く嬉しかったと思います。嬉し過ぎてちょっとその…アレでしたけど」

さっきまでの凪の大放言を思い出す。と言うか、凪は酔った時後輩の子とどんな話をしてるのか少し恐ろしくなった。

 

「あの…誤解無い様に一応言っとくけど」

「はい?」

「俺達別にいつもそういう事ばっかしてる訳じゃないからね?」

「は、はひっ、大丈夫ですっ!」

慌てた様子で少し照れながらも素直に返事をしてくれた。うん、この娘は大丈夫かな。素直そうだし。

 

 

 

「わ、私も首輪と犬ミミ買ってありますし!元直さんからも『都に来るってそういう事だ』って聞いてますし、劉表様からも劉g様達より先になっても気にしなくていいって言われてますからっ、い、いつでも大丈夫ですっ、はい!」

 

 

 

 

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「ねえ元直、珍しく馬鹿ちんこが真面目な顔して荊州組の朝礼に出て訓示したいって言ってたんだけど何か知ってる?ボクか月が文書出しとくからいいんじゃないのって言ってた年末年始の綱紀粛正の訓示にも何故か警備部にだけは行ってたみたいだし…あっ、ちょっとあんた何か知ってるわね逃げるんじゃないわよ!」

説明
お久しぶりでございます。
その後の、とある年末の凪です。

ガチえっちの方も頑張ってますが難しいですね…
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コメント
更新きてたー!今回も最高です(文倉典玄)
この町に住んでる若い男性方にこの皇帝の評判聞いてみたい(牛乳魔人)
魏ってこんなにヤバい奴らの集まりでしたっけ(笑)(happy envrem)
次の日の朝、凪が酒の酔いから覚めて昨日……自分が言った事を思い出して一刀に全力で謝罪をして来そうだな(劉邦柾棟)
今日のわんこww(味野娯楽)
この外史の一刀さんほんと苦労人やなぁ・・・。(未奈兎)
凪は、わんこだけに同類には、鼻が利くんですねwww(HIRO)
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