一刀と華雄の真名
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ビュンビュン・・・。

練習場から唸るような低い音が聞こえる。

 

その音の発生源は、北郷軍の一員となった華雄だった。

自慢の戦斧を振るたびに、先ほどの唸るような音がしていたのだ。

一心不乱に、戦斧を振り続ける華雄。

近寄りがたい雰囲気を醸し出していたのだが、そこに1人近づく者がいた。

 

華雄の動きが止まった瞬間を見計らって声をかける。

 

「よぉ。」

「おお、北郷か・・・。」

 

その人物は、この陣営のトップ。

天の御遣いこと北郷一刀であった。

 

「こんなところにわざわざ来てどうしたのだ?」

「ちょっと華雄に聞きたい事があって、みんなに聞いたら練習場にいるっていうからさ。」

「私に聞きたい事とはなんだ?」

「ここじゃなんだから、場所を移動しよう。」

「うむ。」

 

華雄は、戦斧を肩にかけ一刀と共に練習場を後にした。

 

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向かった先は城の中庭にある休憩室のような場所だった。

ここは、武将たちがお茶をしたり雑談をしたりする時に使われているのだが、幸いなことに今は誰もいなかった。

 

「まあ、かけてよ。」

 

一刀に促され、戦斧を柱部分に立てかけて、華雄は座った。

その向かい側に一刀が座った。

 

「それで、私に聞きたい事とはなんだ?」

 

華雄の問いに少しだけ考えた一刀は話し出した。

 

「・・・華雄には真名がないよな?なんでだ?」

 

一刀の問いに一瞬表情が曇る華雄。

あわてて一刀はフォローをした。

 

「いや、色々事情はあると思うんだ。だから言えないのであればそれでもいい。」

 

華雄は少し考えて話した。

 

「北郷は、なぜ私の真名について聞きたいのだ?」

 

質問に質問で返してきた華雄に対し、一刀は素直に話した。

 

「俺ここにきてもうだいぶ経つけど、真名がないのって華雄しか会ったこと無いんだよね。俺は別世界から来たから真名がないのは当たり前だし、男性には真名を付けないというのも聞いた。だけど、女性には例外なく真名がある。だからなんで華雄にはないのかなと、ちょっと気になっただけなんだ。」

 

一刀の回答に華雄は腕を組んで考えた。

そして、話し出した。

 

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「私の両親が、真名というものに違和感を持っていたんだよ。」

「違和感?」

「知っていると思うが、真名というのは本人そのものを表す名前。じゃあ、普段使っている名前はなんなんだと。」

「・・・・・・。」

「人々には、姓も名もある。私の場合は華雄という立派なものが。それ以上でもそれ以下でもない。だが、真名があると親しい間柄には真名しか使われなくなる。それがおかしいと両親は思っていたようだ。」

「なるほどね・・・。」

「私は幼い頃から真名がないのが当たり前だったから、特に疑問にも思わなかったが、今思えば両親のわがままだったのかもしれない。子供の頃は真名がないというだけで、仲間外れにされた事もあったよ。」

「そうなのか!?」

「今更、真名を付けるわけにもいかない。だから、私は武の道へと進むことにした。武の道は体を、なにより心を鍛えられるからな。」

 

そういう華雄の顔は少し寂しげに感じられた。

子供の頃のそう言った記憶はなかなか忘れられるものではない。

ましてや、子供は加減を知らないから、相当酷い目にもあったのではないだろうか。

一刀はなんとなくだがそう思った。

 

「でも、今は真名が無いことに感謝している。」

「えっ、どういう?」

「真名が無かったから武の道に進む決意ができた。その結果、こうして今この場にいる事ができる。私を必要としてくれる人の為に、力を使う事が出来る。武人としてこれほど嬉しい事はない。」

「そうだな・・・。」

 

こう話す華雄の表情は、先ほどまでとは違い笑顔に満ち溢れていた。

一刀は、こんな表情もできるんだと華雄の新しい魅力に気付き嬉しかった。

 

「しかし不思議だ。」

「なにが?」

「私は自分の事はあんまり人に話したこと無い。月達にも。だが北郷、お前には話しても悪くないなと思ってしまう。」

「それが天の御遣いの力だよ。」

「なんだそれは。」

 

そう言って一刀と華雄は笑いあった。

と、その笑い声に気付いた者がいた。

 

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「おっ、一刀に華雄やん。珍しい組み合わせやな。」

「霞か。」

 

北郷軍の1人、張遼こと霞であった。

 

「2人して秘密の会話か?なんや、華雄も一刀の魅力にメロメロにされたんかいな。」

 

霞の発言に、華雄の顔がみるみる赤くなっていく。

 

「な・・・何言っているんだ!!そんなわけないだろう。」

「ドモるところを見ると、あやしいなぁ・・・。」

「そ・・・そんな事無いぞ。第一、北郷にとって私は仲間の1人でしかないだろう?」

 

華雄の言葉に一刀が答える。

 

「いや、俺は華雄の事好きだけど?」

「なっ!?」

 

一刀の止めの一撃に、先ほど以上に顔を赤くする華雄。

 

「そ・・・そんな恥ずかしい事言うなー!!」

 

華雄は立てかけてあった戦斧を持ち、思いっきり振った。

 

「ぐはぁ!!」

 

あわれ、戦斧は一刀にクリーンヒット。

 

「華雄、手加減せな死んでまうで。おーい、救護兵!!はやく一刀を救護室へ!!」

 

霞に呼ばれた救護兵によって一刀は運ばれていった。

 

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数日後、ようやく目を覚ました一刀は、そばに華雄がいる事に気付いた。

 

「華雄・・・。」

 

自分の名前が呼ばれ、一刀が目を覚ました事に気づく。

 

「北郷、大丈夫か?」

「ああ、なんとかな。」

「すまなかった。」

 

華雄は深々と頭を下げた。

 

「取り乱していたとはいえ、仲間でありここの主である北郷を殴ってしまった。これは万死に値する行為だ。」

「もしかして、死のうとしたとか?」

「したさ!!だが、皆に止められた。逆に霞には謝られてしまった。からかってすまんと。」

「そっか・・・。」

 

しばらくの沈黙ののち、華雄が顔を赤く染めながら話した。

 

「わ・・・私はお前の事嫌いではないぞ。」

「ありがとう。」

「その・・・す・・・好きと言ってくれた事も嬉しかった・・・。」

「そっか。」

「だからな、これは・・・その・・・お礼だ。」

 

そう言って華雄は、一刀に口づけを交わした。

ほんの数秒であったが、華雄にとっては永遠に近い時間だったかもしれない。

 

「目を覚ました事を皆に伝えてくるな。」

 

そう言ってあわてて部屋を出て行った華雄を、一刀はただ茫然と見送るだけであった。

 

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あとがき

 

華雄の真名はなんでないんだろうという事から、ちょっと書いてみました。

両親がどうこうという件は、作者個人の考えのものなので、原作側がどう考えて華雄に真名を付けていないのか分かりませんが、あり得ない事ではないかなと思ってます。

 

当初は、一刀が好きだと話し華雄に殴られて終わりにしようと思っていたのですが、華雄のデレ分をもう少し増やしたくて最後の追加になりました。

 

こうやって書いてみると華雄も可愛いものですね。

次回作があるのなら、もう少し活躍してほしいものです。

 

今回もご覧いただきありがとうございました。

説明
恋姫無双の2次小説です。

なんで華雄の真名が無いのだろうというのを作者なりに解釈して華雄に語らせています。
さらに、華雄のデレ分をちょっと追加しておきました。

舞台は原作のどのルートというわけではないですが、過去作と違い原作の世界となっています。

誤字脱字報告、感想、叱咤激励お待ちしております。
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コメント
いいですね照れる華雄は、とくに最後のキスなんて最高です。(ブックマン)
華雄はいいなぁ^^ オレも出してみたいです(リアルG)
華雄さんがトップって言ってますが・・・ うん、いいデレですね(ストー)
良きかな良きかな(cheat)
華雄がヒロインの一人だったらなかなかのハプニングがおきそうだよね〜。(motomaru)
華雄可愛い!  また華雄を出してもらいたいです。(キラ・リョウ)
面白かったです。ちょっとした疑問なんですがこの世界は無印の方の世界ですか?真の方は男にも真名がありますよ?(南華老仙「再生(リボーン)」)
とりあえず作品タイトルがkomanariさんの書いた「華雄の真名(前・中・後編)」と被るので少し変えてくれると判りやすくて助かります。(sion)
タグ
真・恋姫無双 恋姫†無双 一刀 華雄 張遼  

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