屍の眠る丘で |
悪夢にうなされて飛び起きたのは、まだ月が空高く浮かぶ頃合いだった。
クルザスにしては珍しく晴れた夜空は満点の星に包まれていたけれど、その光も今の私には届かないようだ。
ふと気づいて隣を見る。
彼──オルシュファンはどうやら起こさずに済んだようだ。
再三召喚された蛮神タイタンの討伐依頼を受けたのが昨日のこと。
正直気乗りはしなかったのだが、他に討伐に赴くものも居ない以上選択の余地は無かった。
再びコボルト族のエーテライトを使って飛ぼうとした瞬間、いつものめまいが起きた。
蛮神討伐を始めた頃から常に見るようになった幻視。
見えるのは、幾つもの……数えきれないほどの自分の死の瞬間。
圧殺。
焼死。
鏖殺。
溺死。
爆殺。
凍死。
轢殺。
墜死。
いくつもの、何回もの、死の瞬間の恐怖。
それが心臓を鷲掴みする感覚は、何度味わったとしても慣れることはないだろう。
この幻視がなんなのか、ずっと考えないようにしていた。
考えて、そして答えに気づいてしまったら、心が壊れてしまう気がして……。
そうして、討滅が終わる度に、私は彼の待つドラゴンヘッドを訪れた。
彼はいつも笑って出迎えてくれて……私の願いを聞いてくれる。
思えば、彼が居なければとうに私の心は折れて砕けてしまっていただろう。
それぐらい……気がつけば彼に縋っていた。
そんな私の弱い部分を知ったら、彼はなんと答えるだろうか。
枕元の水差しをぐいと煽って、自虐的な考えごと飲み込んだ。
薄暗い部屋の中で、手探りに彼の手を探す。
私と違ってとても大きく、剣を握るゆえに固くなった手のひら、節くれだった指に指を絡める。
伝わってくる体温は、とても心落ち着くものだった。
「やはり眠れないのか?」
不意にかけられた声にびくりと体を震わせる。
それを落ち着けようとしてか、手を優しく握り返されて、どうやら彼はすでに起きていたのだと気づいた。
「気づいてたのね」
「いつも、こうして寝床まで甘えに来る時のお前は、大きな戦いの後の不安を忘れたがっているようだったからな。それが何なのか私には分からないが……お前にとっては重要なことなのだろう?」
「……そうね」
肌寒さを感じてベッドに潜り込み、彼に体を重ねる。
鍛え上げられた彼の体は体温が高くて寒さを忘れるにはちょうどよかった。
そっと抱き寄せられたのでそのまま身を委ねれば、軽く唇を奪われる。
それが心地よくて、また少しだけ心のなかの不安が溶けていった気がした。
きっと、明日にはまた杖を握れる。
でも、今だけは……。
「ねえ、オルシュファン……」
「なんだ?」
「生きているって……どういうこと、かな」
私の何気ない、けれど不安の根本的な部分の質問に、彼は小さくふむと考えを巡らせてから、唐突に私を抱きしめた。
「こうして、お前を感じていられるという事だな」
彼の答えは単純明快で、すぐに私にも伝わるものだった。
抱きしめられて触れ合う肌が、否応なく彼を感じさせてくれる。
そのせいか、私は思ったよりもすんなりと、その答えを受け入れることが出来た。
これが生きているということならば、私はちゃんと生きているんだと、そう思える。
幾度も見た自分の死の瞬間は、やはり夢なのだと、そう受け止められる。
「もう、眠れそうか?」
「……うん、おやすみ、オルシュファン」
「ああ、良い夢を」
彼の腕の中で、私は程なくやってきた微睡みに、私は安らかに身を委ねた。
説明 | ||
2016-07-14にぷらいべったーに投稿したものの転載になります。 コンテンツのリスタート解釈。 精神的に追いつめられてオル様に慰められればいいと思う。 夢のなかで自分が死ぬ夢を見ると不安になりますよね、っていうのがネタ元。 |
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