艦隊 真・恋姫無双 132話目
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【 悲痛 の件 】

 

? 司隷 洛陽 都城内 予備室 にて ?

 

魂からの慟哭……と言っても可笑しくない華琳からの問いに、室内が重く暗く……まるで海の深い場所、深海に居るかのような沈黙の空間に支配されていた。 

 

一刀が目の前に膝付いた時より、華琳の覇気は弱まる。 普段の気が高ぶる時より、少し強いだけなのだが、これを止める者も諌める者も居ない。

 

何故なら記憶がある恋姫達にとって、泣きながら叫ぶ華琳の言葉は、自分達の代弁だったから。 

 

北郷一刀を知る者にとって問いたい質問であったのだ。

 

ーー

 

一刀「……………はっきりと……言わせて貰えば……俺は……」

 

華琳「………………」

 

一刀「俺は……………君達の事を………よく……判らなかった」

 

「「「 ───!? 」」」

 

ーー

 

華琳の問いに答える形で、一刀の重い口から発した言葉は……実に残酷な物であった。

 

 

一刀は華琳達の事を───『   』い。

 

 

該当する言葉は───思い当たらない、 見覚えの無い、面識がない、馴染みのない、 見当がつかない、心当たりがない。

 

 

──── つまり、総じて『知らな』い。

 

 

ーー

 

華琳「────っ!!」

 

一刀「…………ぐぅっ!!」

 

ーー

 

一刀の言葉を聞き、激しい怒りが華琳の身体に波及し、視界に一刀だけを見据え、怒りに駆られるまま動き出す。 

 

そして、纏う覇気も怒りに比例するかのように、急激に膨れ上がり、空気を動かし生じた風が一刀に吹き荒ぶ。 

 

だが────

 

ーー

 

冥琳「待てっ、華琳!!」

 

華琳「離してぇぇぇ! 離しな、さいよぉ! 冥琳っ!!」

 

冥琳「馬鹿者! 話の途中で暴走する奴があるかっ!!」

 

華琳「─────!!」

 

ーー

 

だが、横に居る冥琳が、華琳の腕を掴み引き止め、厳しく叱りつけて大人しくさせた。 孫呉のじゃじゃ馬を日頃から制する、冥琳の面目躍如たる見事な手綱捌きである。

 

無論、じゃじゃ馬が誰を指すのかは、本人の名誉の為に名を省かせてもらう。  

 

ーー 

 

??「………ん? 今、何か悪意を感じた気がするんだけど」

 

祭「気のせい……と思うがのぉ? おっ、おおっ、くぅーふっふっふっ! あーっはっはっはっ!」

 

??「ど、どうかしたの?」 

 

祭「あの生意気そうな曹孟徳と名乗る小娘を、冥琳が大声で叱りつけおったわぁ!!」

 

??「えっ、見たい見たいっ!! どこっ? どこに居るのよっ!?」

 

ーー

 

この二人の騒ぎを見て、一人の恋姫が溜め息を吐く。

 

『うちは思い出して良かったちうわけや。 あのままやったら、大将に何や言われるか判らんかったわぁ……』

 

そう小声で呟いた後、華琳達へ目を移すのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

【 過去 の件 】

 

? 都城内 予備室 にて ?

 

 

華琳は不満げな表情を隠さず、一刀を見つめる。 冥琳に叱られ我に返り、ようやく落ち着いたところか。 

 

冥琳も華琳の様子が静かになったのを見て、胸を撫で下ろし、少し荒く呼吸する一刀へ声を掛けた。

 

ーー

 

冥琳「すまんない、迷惑をかけた」

 

一刀「謝罪は……不要だ。 純粋に慕われる……北郷さん……の後釜が……この俺では……嫌悪感を抱かれても……仕方がない」

 

冥琳「北郷……いや、『彼』の後釜などと、自分を見下すような真似は止めて貰いたい。 お前は彼より……遥かに優秀だった。 現に、彼が持たなかった軍略の才がある」

 

ーー

 

だが、一刀はフルフルと頭を左右に振る。

 

そして、ある言葉を出した。

 

ーー

 

一刀「飛鳥……尽きて……良弓……蔵められ、狡兎……死して……走狗……烹らる……」

 

冥琳「史記の越世家だな。 それが……何だ?」

 

一刀「敵艦……沈みて……艦娘……戻らず、天敵……消えて……将星……堕ちる……」

 

冥琳「…………?」

 

ーー

 

一刀が新たに呟いた言葉を聞き、首を傾げる冥琳。 

 

そんな冥琳を見ながら、一刀は自嘲気味な笑みを浮かべる。 

ーー

 

一刀「自分の……才に溺れ……信じる仲間達を、強敵の蠢く海域……戦場へ向かわせた……愚かな者。 勝利という……名誉と引き換えに……大事な者達を失った……大馬鹿野郎……だよ」

 

冥琳「…………」

 

華琳「それが、何の言い訳になるの!? 貴方が今まで行った事に何の関係があるのよっ!!」

 

ーー

 

黙っていた華琳の怒声が、冥琳と一刀の会話に割り込む形で入る。 

 

感情的になった華琳は、曹孟徳としての為政者という仮面を取り払い、素の華琳が出てきてるせいか、自制がきかないらしい。

 

ーー

 

冥琳「だから、待てというのだ!」

 

華琳「ふん、他国の陪臣如きが、王である私を何回も止めれると思っているのっ!? それに、軍師である貴女と王である私、いざとなれば、実力で吹き飛ばしてでも───」

 

ーー

 

再度、冥琳は掣肘しようとするのだが、止まらない。 

 

寧ろ、曹孟徳の部分が華琳に力を貸しているようで、理屈と実力で冥琳を排除しようとする始末。

 

ーー

 

冥琳「いい加減に黙れ! さもないと──」

 

華琳「さもないと………どうする気? 貴女の出来る手数は限られているわ。 武でも無理、この場においては智も論外。 残されるのは、外部からの助けを借り打開するだけ」 

 

冥琳「……………」

 

華琳「そうなれば、冥琳の切る手札は于吉の介入が必然。 だけど、偏愛する左慈と組みする私を邪魔立てするのは、于吉ならば嫌がるでしょう。 つまり、万策尽きたってこと」

 

冥琳「……………」

 

華琳「どう? 他に、私を止める手立てなどあるの? あるのなら見せてみなさい! 言葉だけで私を止めようとしても無駄。 ハッキリ言って……無駄無駄無駄無駄なのよ!」

 

ーー

 

華琳は上機嫌で冥琳の手札を曝(さら)け、その無力振りを嘲笑う。 

 

だが、冥琳は冷静に言葉を返す。

 

ーー

 

冥琳「ふっ、こんな事もあるかもしれないと……」

 

華琳「…………?」

 

冥琳「『風』が教えてくれたのだ。 昔、華琳が仕出かしたという北郷に関する話を。 これ以上、騒ぐのであれば、この場にて皆に暴露してやるぞ!」

 

華琳「───はぁ? そんな訳ある筈……」

 

ーー

 

華琳が疑いの眼差しを向けたが、冥琳は気にせず近付き、腰を少し屈ませて、華琳の耳に端整な顔を寄せて、その話を始めた。

 

ーー

 

冥琳「ほほう、それでは……ゴニョゴニョ(冬の寒い朝、北郷が寝ていた寝具の中に潜り込み────)」

 

華琳「へっ!? な、何で……じゃなくってぇ! ま、ままま、待ちなさい! って言うか、駄目! 絶対、駄目っ!! 言っちゃ駄目ぇぇぇぇッ!!!」

 

ーー

 

耳元で囁かれた話を聞き、華琳の得意気な表情が一気に凍りつく。 華琳の目が大きく見開き、盛大に声を挙げた。 

 

その話は、間違いなく──華琳にとって黒歴史と言える、数少ない人生の汚点。

 

まだ、北郷一刀が魏に居る時、仕出かしてしまった出来事。

誰も知らない、誰にも知られてはいけない、秘密の行為。

だから、万難を排して強行した語れない過去の愚行。

 

それが何故、『程 仲徳』が把握していたのかは、判らない。 

だが、もし……風に問い質せば、こう答えるだろう。 

 

『ふふふ……魅力的な乙女には、そういう秘密が付き物なんですよ〜』

 

実に、大いなる謎であると言えよう。

 

ーー

 

冥琳「ならば、私を怒らせる行動は慎めることだな」

 

華琳「えっ? で、でも……そ、それじゃあ…………」 

 

冥琳「─────い・い・な?」

 

華琳「ぅぅぅぅ……………はぁい……」

 

ーー

 

勝ち誇る表情を浮かべ華琳を見る──冥琳。

 

その冥琳の前で失意体前屈をとる──華琳。

 

華琳を黙らせる事に成功した冥琳の側で、可笑しそうに笑う声が聞こえる。 冥琳が慌てて声が聞こえる場所を探れば、立ち上がって笑う一刀の顔を直ぐに捉える事ができた。

 

だが、とても嬉しそうに声を上げて笑う彼だったが、その双眸からは……とめどなく大粒の涙を溢れさせていた。

 

 

 

◆◇◆

 

【 自賛? の件 】

 

? 都城内 予備室 にて ?

 

 

冥琳「ほ、北郷………」

 

華琳「…………っ!!」

 

ーー

 

一刀が泣き笑いする状態に唖然とする二人。 

 

そんな二人に対して一刀は、慌てて袖でゴシゴシと涙を拭き、弱々しげな口調で理由を語る。

 

ーー

 

一刀「………俺の頭に記憶する二人の関係は……とても壮絶だった筈。 特に……赤壁の戦い。 智謀を、武勇を、そして……信頼する仲間達と共に……狂気と死闘を繰り広げた……」

 

冥琳「………」

 

華琳「………」

 

一刀「だけど、そんな君達を結び付けた……『あの人』は……偉大だった。 『北郷一刀』……俺と同姓同名ながら……この大陸を……一人で平和に導いた……真の御遣い……」

 

ーー

 

どうやら、華琳と冥琳のやり取りを見て、強敵を文字通りの友に変えた『北郷一刀』の偉業に感涙したらしい。

 

そう呟く一刀に、冥琳と華琳は互いに顔を見合わせ、打ち合わせした訳でもなく、小声で意見交換。

 

ーー

 

冥琳「(……言われば成る程と反論など出てこないが、こうも知っている『あの北郷』を持ち上げられると、何か違和感を覚えてしまうものだな……)」

 

華琳「(気持ちは、ねぇ……理解できるわよ。 実際に付き合いがあった私達からすれば、今の一刀の方が遥かに天の御遣いらしいもの……)」

 

ーー

 

人というのは、共通の話題があると、誰かに話して同意を得たいものらしい。 現に、冥琳達の後方で首を傾げる者、驚愕の表情を表す者が、少なからず出ている。

 

それだけ、この話は違和感があるようである。

 

ーー

 

一刀「それに比べ……俺は……君達から……『逃げる為に』……策を謀ったんだよ。 俺達との関係を……絶つ為に………」

 

「「「 ─────!! 」」」

 

冥琳「…………やはり、か」

 

ーー

 

唐突なる衝撃的発言に、静寂を緊張の糸が縦横無尽に縫っていく。 何名かの声なき悲鳴、哀しみ、驚愕が、静寂に見えぬ彩りを添えて、その場の雰囲気を暗き物へと変えた。

 

この場で動揺しなかった者は───

 

一刀の言葉に目を閉じ頷く、冥琳。

 

涙を流しながら顔を左右に振る月を、必死に慰めながら冥琳達の様子を注視する、詠。

 

そして、赤城と共に一刀の話を聞いていた、桂花。

 

艦娘を除けば、この三名のみ。

 

ーー

 

華琳「…………ッ!」

 

冥琳「華琳、判っているだろうが……」

 

華琳「し、しつこいわよ! 判っているわ……判っているわよっ!! 黙ってるから……声を……掛けないでっ!!」

 

ーー

 

冥琳から釘を刺され、思わず怒鳴り返す華琳。

 

だが、彼女の両手は色が変わる程に握りしめ、落ちそうな涙を溜めながらも、一刀を睨みつけたまま。

 

だが、とうの一刀の言葉は終わらない。 少しずつ少しずつ、その概容を語っていった。

 

 

 

◆◇◆

 

【 妖精 の件 】

 

? 都城内 予備室 にて ?

 

 

一刀「俺は昨日の戦いの後……鎮守府……俺達の本拠地から……青葉達を呼び寄せた。 その際に……青葉を王允の部屋内の見張りを……命じたんだ」

 

冥琳「……ふむ? その言い方だと、北郷達の苦戦は……ワザとではないのか?」

 

華琳「───!?」

 

一刀「白波賊の中に……複数の深海棲艦が……紛れていたんだ。 しかも……かなりの上位の強力な者達が……白波賊と共闘するかのように……挟撃された」

 

「「「 ────!! 」」」

 

ーー

 

ここで、一刀より初めて明かされる昨夜の戦いの真実。 何故、天の御遣いたる者が数百人足らずの賊に苦戦するのか。

 

華琳のように、考えあって苦戦を演じていたとの見方があったが、一刀自身により不定された事になる。

 

ーー

 

桂花「……………良かった……」

 

赤城「あっ! もしかして、あの私達への救援の手筈、桂花さんの手配でしたかっ!? 流石、桂花さんですっ!!」

 

桂花「───そ、そんな面倒な事! 私がするわけ……」

 

赤城「またまた〜、私も加賀さん達も危なかったんですよ! 慢心これ駄目って、つくづく思いました!」

 

桂花「ば、馬鹿っ! 誰もアンタの為なんか──」

 

赤城「ええ、判ってますよ! それは勿論、提督の為……ですよねぇ〜?」 

 

桂花「──そ、そんな事! 何で、赤城に話さなくちゃ──」

 

赤城「加賀さん、聞きましたかぁ!? 桂花さんから提督に向けて、実に流れるようにツンデレいただきましたー!!」

 

加賀「………………」

 

桂花「えっ!? ちょっ───あ、赤城ぃ!?」

 

ーー

 

一刀の話を聞き、最初に胸を撫で下ろしたのは……意外にも桂花である。 

 

彼女は、王允による一刀達抹殺の策謀と断じ、元三國の将達へ協力を要請、救援を果たした。 

 

これで、一刀達の目論見を壊したとなれば、かなり落ち込む事になったであろう。

 

だが、桂花の予感は、最悪の状態を迎えていた一刀達を、最高の機会で手助けし、壊滅の危機から救い出せたのだから。 

まさか、白波賊と深海棲艦が繋がっていたと、この時点で誰が信じていただろうか。

 

ーー

 

一刀「だから、俺は……俺達に出撃を命じた王允の……部屋を当たらせた。 必ず……繋ぎ役が……居る筈だと」

 

冥琳「だが、青葉殿だけで……大丈夫だったのか?」

 

一刀「大丈夫……だ。 青葉以外にも……何名か向かわせている。 俺達の仲間を支える……頼もしき……子達だ」

 

冥琳「ほう、あの青葉殿と並べる存在が居るのか? もし、可能であれば……名前を聞かせて貰えないか?」

 

一刀「ああ、その子達の名は───」

 

ーー

 

一刀は一呼吸おいて、その者達の名を教え、名を聞き説明を受けた者達は、顔色を一変した。

 

ーー

 

一刀「俺の本拠地で働く……『熟練見張員』と呼ばれる……頼もしい……『妖精』さん達だ。 この子達が……居てくれれば……暗闇だろうと……看破して見張ってくれる」

 

蒲公英「…………妖、精? もしかして、妖怪の類い……の?」

 

翠「───な、何ぃ!?」 

 

「「「 …………!? 」」」

 

ーー

 

その言葉を聞いて、外野より疑問が挙がる。 何故なら、大陸で『妖精』とは『妖怪』等の魑魅魍魎を指す為だ。 

 

魑魅魍魎と言えば、人に害なす凶悪な者から、逆に善をなす友好的な者も居る。 だが、人という者は未知なる者に恐怖を懐く。 

 

一刀の関係者といえ、先程の『知らない発言』で疑念を植え付けてしまった。 故に、華琳達が話を中断、下手をすれば……決別の恐れも出てきてしまう可能性も高くなる。

 

だが、そんな懸念が起こる前に、一人だけ……その話を聞いて質問する者が居た。

 

ーー

 

冥琳「北郷、もしかしたら………その者達の背格好は………」

 

一刀「かなり……小さい」

 

冥琳「───そ、それでは、洛陽の戦で報告にあった、城の上を飛ぶ乗り物で見た人物が!?」

 

一刀「あの時の艦載機は……九七式艦攻か、零戦……か。 どちらにしても、その乗り物を操縦する……妖精さんが……乗り込んでいる……」

 

冥琳「────ッ!!」

 

ーー

 

一刀の言葉を聞いて、冥琳は一瞬だけ目を見開き、驚喜に近い表情を顔面に漲(みなぎ)らした。 どうやら未知の者に遭遇できたと知り、非常に満足しているらしい。 

 

そんな冥琳を見て、口をすぼめて不満顔を見せる雪蓮は、殆ど定番の扱いであるのだが。

 

ーー

 

冥琳「……そうか……そうなのか。 ならば、あの者……妖精……か? その乗り物が飛んでいる最中に、丁度この様な姿勢を取り、私達へ向けていたようだが……」

 

一刀「それは……彼女達から味方への……挨拶であり礼だ」

 

冥琳「蓮華様が衝突を注意した呼び掛けに、礼で返した……という訳か……な、成る程、ぷっ、ふふっ、ふふふ………」

 

ーー

 

冥琳は更に上機嫌で軽く笑い声を立てる。 近くに居る華琳や遠くから眺める雪蓮達は、思わず目を丸くした。 

 

それだけ、こうも冥琳が声を出して笑うのは、珍しいようだ。

 

ーー

 

冥琳「…………す、すまな……い。 くくくっ……いやぁ、つい自分の馬鹿さ加減に……我慢出来なくて笑ってしまった」

 

一刀「…………?」

 

ーー

 

何故、あの行動をしたのかと、理由が判明できて余程嬉しかったようである。 その証拠に、少し緊張を残していた顔が完全に弛緩し、実に楽しげにと一刀へ語る。

 

ーー

 

冥琳「皆、心配は不要! 妖精なる者は善であり、友好的な者達だ! この周公瑾が保障しよう!!」

 

詠「…………本気、なの? 魑魅魍魎の類いって……恐怖の対象だって……昔、読んだことあるけど………」

 

冥琳「本気だとも。 ふふふ………詠を見ると、先程の私と同じで慎重過ぎるようだな」

 

詠「ど、どういう事よっ!!」

 

ーー

 

冥琳は、皆の疑問を挙げてくれた詠に感謝しつつ、その理由を流暢に述べた。 

 

各国の軍師達には、前の集まりにおいて情報共有をしている。 聡明な軍師達なら、ここまでの御膳立てで自ずと理解してくれると、冥琳は信じていたからの決断だった。

 

ーー

 

冥琳「とある理由で、別の妖精と交わる機会があってな。 その時に、私達からの警告に礼をもって返してくれた。 私達より遥かに戦力を上回る者が、だ」

 

詠「…………」

 

冥琳「同族である私達でさえ、互いに憎み何年も争い、地位に固執し、他人をわかりえなかった。 それを、一期一会かも知れない者に礼を返す尊き心、立派だと思わないか?」

 

「「「 …………… 」」」

 

冥琳「それに、だ。 確か……北郷、桃香達は三人は凪と共に本拠地へ向かったのだな」

 

北郷「ああ……」

 

ーー

 

現在、桃香達は『 益州 成都 』にて滞在中。 

 

あの洛陽の惨事の後、一刀達に保護され益州と移動し、現在、朱里達が先生となり、様々な学問を教わっている真最中であった。

 

ーー

 

冥琳「あの『愛紗』が、だぞ? 幾ら北郷の勧めにより本拠地に向かったと言えど、大人しくしている者かと思うか?」

 

翠「あっ、そうかっ!! もし、妖精って奴の存在を知ったら、あの愛紗だからなぁ。 絶対我を忘れて散々暴れまくり、周囲の建物を半壊……いや、全壊も──」

 

蒲公英「あのねぇ、お姉さま……愛紗の方を妖怪か何かと間違えてない? 幾ら何でも全壊は酷いよ。 せめて、最初の半壊程度の説明にしてあげないと」

 

詠「………そこで、怖がって洛陽に戻って来るという選択が何で無いのか、不思議に思うんだけど。 まあ、反論する理由もないわね、うん………」

 

冥琳「そこまで言われると同情を禁じ得ないが、つまり……そういう事だ。 あの愛紗が問題を起こさぬのなら、妖精という者は安全な存在だと、私は言いたいのだよ」

 

ーー

 

続けて語る冥琳からの『妖精さん安全宣言』は、その理由となる元同僚達からの酷い証言で、確かな物に変えていく。

 

愛紗を知らぬ、もしくは覚えていない者も、同じ国の者より説明を受け、妖精に関する否定的な考えは無くなった。

 

ーー

 

一刀「………ありがとう………」

 

冥琳「ん? いや、礼など無用だ。 私としては、もう少し理由を付けたかったのだが……」

 

ーー

 

一刀が冥琳に聞こえる程度の小声で感謝をすると、冥琳は軽く受け入れながらも、少々残念がっている様子。

 

その姿に思わず問い掛ければ、冥琳が薄笑いを浮かべて、一刀へ理由を述べた。

 

ーー

 

一刀「まだ、他に……か?」

 

冥琳「あるではないか。 北郷、お前の配下だという肝心要の理由が……」

 

一刀「………は?」

 

冥琳「益州や洛陽の事もそうだが。 …………北郷、お前は優し過ぎる。 今回も……」

 

一刀「今回……も?」

 

冥琳「おっと、これ以上のことを話すと、また華琳が臍を曲げるかもしれん。 また、後述するさせて貰うので、今は静かに控えさて貰うとしよう」

 

一刀「…………………」

 

ーー

 

冥琳は感慨無量の顔で一刀の顔を見て呟く。 流石に鈍感な一刀でも、この時ばかりは恥ずかしく、被っていた帽子のつばを掴むと、下に引いて冥琳の視線より隠すのであった。   

 

 

 

◆◇◆

 

【 物証 の件 】

 

? 都城内 予備室 にて ?

 

 

冥琳「さて、大分話が反れたが………結局、司徒の動き、協力者を掴み得たのか?」

 

一刀「ああ………青葉っ!!」

 

青葉「はいっ!」

 

ーー

 

一刀が横を向き、ある者の名を鋭い声で呼んだ。

 

その声に答えて現れたのは、青葉である。

 

ーー

 

冥琳「青葉殿か。 話を聞いていたと思うが……」

 

青葉「どーも恐縮です! 先程は失礼しましたぁ! 今度は皆様に納得できる情報をお届けしたいと思いますっ!!」

 

冥琳「ふむ、それでは早速だが───」

 

青葉「はい、それでは『何を』出しましょか?」

 

冥琳「────ッ!?」

 

ーー

 

冥琳は『掴んだ情報』の提示を求めたのだが、青葉は『情報の根拠である証拠品』を開示しようとしていた。

 

つまり、想定外の物を所持している、と。

 

ーー

 

青葉「何れにしましょうかぁ。 い、色々と……ありますよ? えーと、何処にしまったのかな………」

 

冥琳「そ、そこまで物証が……あるのか?」

 

青葉「………は、はいっ! 青葉、ですのでっ!!」

 

ーー

 

冥琳の言葉に対し青葉が『当然ですっ!』とばかりに気合いを込めて構える。 ようやく、自分の本領が発揮できることに喜んでいるようだ。

 

そして、目を輝かせながら背後の艤装よりゴソゴソと何かを探す。 『あーでもない』『こーでもない』と言いつつ、違う小道具を取り出しながら、また戻す動作を繰り返した。

 

何となく、某四次元の格納ポケットを持つ主人公を彷彿とさせる動作である。

 

ーー

 

青葉「あっ、ありました! ジャジャーン! これですよ、これっ!!」

 

冥琳「これは………写真、か? しかも、竹簡の文章が……ぜ、全文だとっ!?」

 

青葉「そうなんですっ! 今、御覧になったていただいた物が、軍事機密を書かれた竹簡の全文なんですよ!!」

 

冥琳「────!」

 

華琳「……………」

 

「「「 ───!? 」」」

 

ーー

 

見せられた写真を手に取り、掛けている眼鏡の位置を調節しながら内容を確認し、その後に華琳へ渡した。

 

竹簡の長さは、公文書ならば一尺(約30a)あたり。 写真に撮られた竹簡は、公文書より短めに見える。 

 

だが、そこには──幾つかの官軍の出撃内容が記載され、特に一刀達が出撃した時の内容が詳細に書かれている。

 

出撃時刻、人数、行き先、目的等、微に入り細を穿つ内容で、正に情報が筒抜けであったと判る文章だ。

  

ーー

 

青葉「くうぅぅぅ………いつやっても、独占スクープの一挙公開は気持ちいいですねぇ! これぞ、特ダネを得た者の特権ってものなんですよ『ガシッ』───えっ!?」

 

冥琳「────青葉殿っ!!」

 

青葉「は、はいっ、何でしょうっ!?」

 

ーー

 

何やらテンションが高くなっている青葉に、鬼気迫る様子で近づき肩に手を掛ける冥琳。 

 

冥琳と反対に、余りの迫力に青葉の顔のテンションは急落下を辿り、腰が思いっきり退いてしまう。

 

ーー

 

冥琳「これを、青葉殿がっ!?」

 

青葉「ええっと………これって、写真の事……ですか?」

 

冥琳「他に何があるっ!!」

 

青葉「きょ、きょう……しゅくぅでぇーす」

 

ーー

 

青葉が身を縮こませてボソボソと返事をすると、冥琳の端正な顔が更に接近する。

 

そして、日頃の冷静沈着な姿は何処にやら、速射砲のように熱弁を振るい、写真の利便性をとうとうと語る冥琳が居た。

 

ーー

 

冥琳「青葉殿っ! 貴女は革命的な事をされたのだぞ!!」

 

青葉「はっ、はい?」

 

冥琳「一人の命令を同時に複数へ伝える事の難しさ、その手間に掛かる金品と労力、どれほど私達の預かる国庫に、負担と責任を担わされていたか、ご存知かっ!?」

 

青葉「うっ、い、いや………」

 

冥琳「それが………それが、このような小さき薄い物で済まされる………これが天の技術と言わず、何とするんだっ!!」

 

青葉「え、ええ……そ、ソウデスネェ……」

 

冥琳「それに、竹簡より嵩張らず軽い! 輸送に送り届ける手間と人員が削減できる! 素晴らしい! 素晴らし過ぎるっ!! これは是非とも、この地に───」

 

??「───待ちなさい!」

 

ーー

 

だが、そんな興奮状態の冥琳に、冷淡な口調で釘を刺す者が一人。 

 

冥琳と青葉が、同時に声を掛けた者へと目を合わす。

 

ーー

 

華琳「『詩経』に曰く『殷鑑遠からず』……貴女なら、この意味……よく判るでしょ?」

 

冥琳「────!」

 

青葉「そ、それって……どんな意味なんですか?」

 

ーー

 

言葉の意味が理解できない青葉は、冷や汗を流しながら、『?』マークを何個も頭上に浮かべた。

 

そんな青葉の様子を見て、華琳は微笑みながら……どこか悲しそうに理由を説明して見せた。

 

ーー

 

華琳「天の国だと……『人の振り見て我が振り直せ』というらしいわよ。 昔、似たような事で一刀を咎めたら、意味が判らないって言われ、説明したら……そう答えてくれたわ」

 

青葉「…………あ、成る程。 先に御自分が犯し───はわっ!!」

 

華琳「………………何?」

 

青葉「そ、そうですよね! しゅ、取材には……守秘義務が……あぅ……あ、ありますので………軽々……説明なんて……で、できませんよね。 あ、は……ははは……」

 

ーー

 

青葉が手をポンと叩き、何かを言い掛けるのだが……急に慌てて両手を口に当てて塞ぐ。 

 

もう察しられていると思うが………横から強烈な視線、そして鋭い覇気が相互に突き刺さり、青葉を恐怖で圧したからだ。

 

震えながら青葉が黙ると、その隙に冥琳は反論を華琳に出そうと口にした。 

ーー

 

冥琳「華琳の言いたいことも判る! だがな、このような画期的な物を───」

 

華琳「その話は後でも出来るわ。 今は一刀の話を聞くのが先決かつ重要な要件。 だいたい、一刀が無理して説明しているのに、私達が引きずられては話にならないわよ!」

 

冥琳「……………」

 

華琳「どうするの? 自分の過ちを認めるのなら、素直に謝罪を行うべきではないの? 誠意ある謝罪は、次の件に対する磐石な信頼関係を築くことだと思うけど……」

 

冥琳「……………だ、だが……しかし……」

 

華琳「それとも、孫呉の将は……基本的な礼儀も知らない恥知らずな者なのかしら? そんな事で、先代の孫文台が掲げた宿願に、貴女が報いる事が出来ると思っているの?」

 

冥琳「ぐぅっ! ───わ、わかった!!」

 

ーー

 

逆に痛烈な批判を華琳より繰り出されて駄目押しされ、冥琳は顔を曇らせながらも瞬時に思案。

 

そして、冥琳は……深々と腰を曲げて、青葉へ謝罪の言葉を述べるのであった。

 

 

 

◆◇◆

 

【 残心 の件 】

 

? 都城内 予備室 にて ?

 

 

冥琳「………… 申し訳なかった、青葉殿。 私とした事が、つい思いがけない出来事で、高揚してしまったようだ」

 

青葉「は、はい、それは……どうも……です」

 

ーー

 

冥琳の謝罪に対し、先程までのやり取りで青菜に塩の状態である青葉は、片言の言葉を述べるだけ。 

 

艦娘側では、普段の様子とは違う青葉を見れて、可笑しそうに笑っいる。 何時もは青葉に翻弄される側なのだ。 たまには、逆になっても悪くはないだろうとの事で。

 

青葉としては疲れきった顔を上げ、ジト目で艦娘側を睨み付ける。 その顔は『一度味わって下さいよ! 青葉は二度と繰り返したくありませんっ!!』と雄弁に物語っていた。

 

冥琳の謝罪を見届けた華琳は軽く溜め息を吐いた後、顔を俯かせる冥琳へ声を掛ける。

 

ーー

 

華琳「………全く、人を悪し様に言った割に、その態度はどういうこと? 私の顔を見てキチンと説明して貰いたいわ」

 

冥琳「ぐっ……華琳から言われるとは、実に屈辱的だ……」 

 

華琳「あら、羞恥に苛む冥琳の顔も魅力的だけど、今は必要なのは違うでしょう?」

 

ーー

 

華琳は冥琳に勝ち誇った表情で見据え、華琳の口許が本の少し上がった。

 

その反対に、冥琳の片眉が上がる。

 

ーー

 

華琳「私も自由に口を挟ませてもらうわよ? 冥琳を見張らないと、また暴走してしまうもの」

 

冥琳「わ、私とした……事……が」

 

華琳「だから、ねぇ? 相互監視・相互規制が一番いい態勢だと私は思うのだけど……どうかしら?」

 

冥琳「し、白々しい! それしか……あるまいッ!!」

 

華琳「そう………じゃあ、これで行きましょう!」

 

ーー

 

冥琳が何やら呟くが後の祭り。 華琳は冥琳に一瞥すると、先程の狂乱が鎮まり理性的な視線を一刀へ意識を向ける。 

 

冥琳との口論が、華琳の精神を落ち着かせた様子だ。

 

ーー

 

華琳「……さて、待たせたわ───!?」

 

一刀「あ……ああ。 こちらとしても………身体を休ませて貰う……いい機会だったよ」

 

華琳「か、一刀……………!」

 

一刀「………何か?」

 

華琳「な、何でもないわ!」

 

ーー

 

落ち着いた華琳が、一刀を改めて見て愕然とする。 顔が青ざめ身体が小刻みに震えていた。 

 

まるで、あの哀しみの別れを……再現するような姿だったからだ。

 

そんな華琳の視線に気付き、一刀は少しだけ笑顔になるが、無理をしているのは明らかだったからだ。

 

 

『───私は、何を───』

 

 

先程までの華琳では、視野に入らなかった一刀の容態を改めて見て、華琳は心の中で自分を罵り、激しく後悔した。

 

だが、『身体が心配だから』と強制的に中止を求めても、何となく却下される予想が華琳の頭に浮かぶ。 

 

 

『………自分が苦しいのは……全部、横に置いたまま……私達を助けに来てくれたものね。 最後の……最後まで………』

 

 

一刀の笑顔に、天の国に帰った少年の笑顔が重なった。 

 

そうなれば、自分が行う事は、ただ一つ。 

 

それは───

 

 

最適かつ最速に、質疑応答を行い、一刀を解放する事。

 

あの時の笑顔を思い出し気弱くなるが、それを叱咤し華琳は普段通り一刀へ質問を行う。 一刀が無理をしているのなら、早く終わらせるのが大事だと決断したのだ。

 

 

『…………一刀……ごめんなさい……』

 

 

だがら、自分の惰弱な心を、一刀を案じているなどと、誰にも知られないように。

 

 

『……………………………』

 

 

ただ、心の中で……小さく小さく激励の念を送りながら。

 

 

 

 

説明
遅れ馳せながら、明けましておめでとうございます。 
後、2話か3話で次の話へ移りたいと思います。
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コメント
mokiti1976-2010提督 コメントありがとうございます! 口を挟む理由は……御想像にお任せとなりますが、早いとこ纏めて黄巾の戦いに移りたいと思います。(いた)
一刀の話の途中で華琳と冥琳がちょいちょい口をはさむのは一刀に休憩を取らせる為なのか、単に一刀の存在を置き去りにしているだけなのか…とりあえず、続きをお待ち申し上げております。(mokiti1976-2010)
未奈兎提督 コメントありがとうございます! それだけ動揺していると言えば聞こえはいいのですが、こんな華琳様も見てみたい作者の趣味趣向もあります。(いた)
華琳と冥琳が揃ってあーだこーだ言ってるのが新鮮だけど、華琳様ちょいと周囲に弱み握られ過ぎでは・・・w(未奈兎)
クラスター・ジャドウ提督 コメントありがとうございます! 作者がシリアスよりギャグが好む為かと。 戦の場面では色々と活躍してくれる予定です。(いた)
・・・何と言うか、恋姫勢がドイツもコイツも揃ってポンコツ化してるな。それにしても、愛紗に対する評価が総じて酷い、本来の関羽は知勇兼備の猛将の筈なのに、如何してこうなった?!(クラスター・ジャドウ)
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