英雄伝説〜灰の軌跡〜 閃V篇 |
その後アルトリザスに戻って来たリィン達は大聖堂から聞こえて来るバイオリンの演奏が気になり、報告するついでにバイオリンの演奏を観賞する為に大聖堂の中に入った。
〜七耀教会・アルトリザス大聖堂〜
「ぁ……………………」
「うわぁぁ〜〜っ………!」
リィン達が聖堂に入ると何と、エリオットがたった一人でバイオリンの演奏をし、多くの人々がエリオットの演奏を観賞していた。
「あの方は……」
「……やっぱりか。」
「フフ、話には聞いていましたが、まさかこれ程の腕前だったなんて。」
「え―――」
エリオットを知っているような口ぶりで呟いたアルティナやリィン、セレーネの言葉を聞いたユウナは呆けた表情でリィン達に視線を向けた。その後も演奏は続き、エリオットが演奏を終えると観賞していた人々は大喝采をし、大喝采を受けたエリオットは恭しく頭を下げた後リィン達に気づくとウインクをした。
「い、今のって……」
「聞いた事がある……帝都でデビューしたばかりの天才演奏家がいるって。―――察するに教官達のお知り合いですか?」
「ああ……―――エリオット・クレイグ。トールズ旧Z組に所属していた君達の先輩にあたる人物さ。」
その後リィン達は観賞していた人々がが帰路についている中、エリオットにユウナ達を紹介した。
「―――初めまして。新しいZ組のみんな。前のZ組に所属していたエリオット・クレイグだよ、よろしくね。」
「……お噂はかねがね。Z組出身とは知りませんでしたが。」
「よろしくお願いします……!演奏、とっても素敵でした!」
「あはは、ありがとう。君達のことは先週、リィン達から聞いたばかりでね。アルティナとは実際にこうして顔を合わせるのは久しぶりだけど……うーん、ずいぶん雰囲気が違うねぇ?」
興奮している様子のユウナの言葉に対して苦笑しながら答えたエリオットはアルティナに視線を向け
「まあ、1年半前と比べると身体的に成長していますし、服装も若干異なりますので。」
視線を向けられたアルティナは静かな表情で答えた。
「それにしても、まさかこんな場所で改めて再会できるなんて思いもしませんでしたわ。巡業旅行で回られているのでしょうか?」
「うん、さっきアルトリザス駅に到着したばかりでね。この大聖堂を拠点に数日ほど活動する予定にしているんだ。リィン達の演習に重なったのはちょっとラッキーだったかな?」
セレーネの問いかけに頷いたエリオットは笑顔を浮かべ
「ああ、そうだな。……ラッキーというにはタイミングが良すぎる気もするが。」
「た、確かにそうですわね……」
「ステラさんとフォルデさんがセントアークを訪れている事を考えると、あまりにもタイミングが良すぎますね。」
リィンも頷いた後苦笑し、リィンの言葉にセレーネとアルティナはそれぞれ同意した。
「ギクッ……あはは、何のこと?」
「???」
「………………」
リィン達の言葉に対して一瞬表情を引き攣らせた後苦笑で誤魔化したエリオットの様子をユウナは不思議そうな表情で見つめ、クルトは静かな表情で見つめていた。
「まあ、それはともかく今はちょうど忙しくてさ。改めて連絡するけど会う時間は作れそうか?」
「うん、大丈夫だと思う。夜になっちゃいそうだけど。実はこれからここで―――」
「すみません、エリオットさん。子供達がそろそろ……」
リィンの問いかけに頷いたエリオットが説明をしようとしたその時シスターが近づいてきてエリオットに話しかけた。
「あ、はい。こちらは大丈夫です。――実はアルトリザスの子供達に演奏のコツを教える事になってさ。」
「わぁ……演奏教室ですか!」
「そうか……子供達も喜ぶだろうな。」
「ええ……先程の演奏もきっと観賞していたでしょうから、皆さん、首を長くしてエリオットさんをお待ちしているでしょうね。」
「ふふっ、君達は特別演習――――じゃなくて”特務活動”だったっけ。初日みたいだし、無理しすぎないように頑張ってね?」
その後エリオットは聖堂にある日曜学校で使われる教室を借りて子供達に演奏について教え始めた。
「大盛況ですね。」
「デビューしたばかりなのにあんなに人気があるなんて……」
「レコードの売り上げもかなり良いとは聞いたけど……」
エリオットの演奏教室を見守っていた生徒達はエリオットの演奏教室に多くの子供達や保護者達が集まっている様子を見て驚き
「ああ、先月出たデビューアルバムのことだな。」
「わたくしやお兄様も購入して観賞しましたけど、とても癒される演奏でしたわ。」
リィンの言葉に続くようにセレーネは微笑みながら答えた。
「ふふ、まさか皆さんがお知り合いだったなんて。―――お願いしていた物も無事採取されたそうですね?部屋で大司教がお待ちですのでよろしくお願いしますね。」
「あ、はい!」
「それじゃあ届けるか。」
その後薬草を依頼人である大司教に届けたリィン達はパルムに向かう為に駅に向かったが、脱線事故が起こった為しばらく列車は動きそうになく徒歩でパルムに向かおうとしたが、そこにセレスタンが現れ、列車の代わりの移動手段としてリィン達の為にハイアームズ侯爵が馬を用意したとの事で、リィン達はハイアームズ侯爵の好意に甘えて馬に騎乗してパルムに向かい始めたが、途中経過を報告する為に演習地に寄った。
午後12:50――――
〜演習地〜
「チッ……まさか人形兵器が本当にうろついていたとはな。しかもその中年オヤジ、どう考えても只者じゃねえだろ。」
演習地に戻って来たリィン達の報告を聞いたランディは舌打ちをした後厳しい表情をした。
「ええ、飄々としてましたけどそれが逆に底知れないっていうか……人形兵器を倒したってことは結社関係じゃなさそうですけど。」
「そうか……―――1年半前の内戦で放たれた可能性もあるんだよな?」
「ええ……今までも何件か各地で報告されていますね。その意味で、結社の関与を決めつけるのも早計ですが………」
「―――それはどうかしらね?」
ランディの問いかけに頷いたトワが答えを濁したその時、レンは静かな表情で意外な事を口にした。
「え………」
「ほう?それは一体どういう意味だ?」
レンの指摘にトワが呆けている中ランドロスは興味ありげな様子でレンに訊ねた。
「うふふ、だってリィンお兄さん達は”アルトリザスで既に結社関係と思われる人物とも会っているもの。”」
「ええっ!?あ、あたし達がアルトリザスで……!?」
「一体誰の事―――いえ、それ以前に何故レン教官はアルトリザスで僕達が会った人物達を把握しているのですか?」
「レ、レン教官、まさか……」
「”例の能力”を使ったんですか……」
「幾ら教官とはいえ、わたし達に許可なくその能力を使うなんて、プライバシーの侵害だと思うのですが。」
レンの答えを聞いたユウナは驚き、クルトの質問を聞いてレンが自分達の記憶を読み取った能力を使った事を悟ったセレーネは表情を引き攣らせ、リィンは疲れた表情で溜息を吐き、アルティナはジト目で指摘した。
「レン教官の”例の能力”……ですか?」
「一体どんな能力なんですか?」
「うふふ、それはヒ・ミ・ツよ♪―――それよりもリィンお兄さんとセレーネは空港で出会った人物をみんなにも教えてあげたら?特にその人物がアルトリザスにいる事はランディお兄さんにとっても他人事じゃないし。」
クルトとユウナの疑問を小悪魔な笑みを浮かべて誤魔化したレンはランディに視線を向けて意味ありげな笑みを浮かべ
「へ……ランディ先輩にとって他人事じゃないって、どういう事なんですか??」
「おい、まさかとは思うが………」
レンの言葉にユウナが首を傾げている中既に察しがついていたランディは目を細めてリィンとセレーネを見つめた。
「はい………”任意”の要請の最中にアルトリザスの空港方面でシャーリィさんと会いましたわ。」
「クソッ………演習初日早々で奴かよ。」
「ほう?パティとルイーネにボロ負けしたというあの小娘か。」
そしてセレーネの答えを聞いたランディは厳しい表情である人物の顔を思い浮かべ、ランドロスは不敵な笑みを浮かべた。
「え、えっと……?」
「空港方面と言うと………仔猫の捜索の時に助言をしてくれた女性の事ですか。教官達はその女性の事を知っている様子ですが、一体何者なのでしょうか?」
ランディとランドロスの様子にユウナが戸惑っている中クルトは真剣な表情で訊ねた。
「”シャーリィ”という人物にオルランド教官が関係している………―――なるほど。という事はあの人物が”赤い星座”の”血染めのシャーリィ(ブラッディシャーリィ)”だった為、教官達は彼女を警戒していたのですか。」
するとその時アルティナは静かな表情で呟き
「あ、”赤い星座”ですって!?しかもあの人が”血染めのシャーリィ(ブラッディシャーリィ)”だったなんて……!」
「えっと……その様子だとユウナちゃんは”赤い星座”について知っていたの……?」
アルティナの話を聞いて血相を変えて立ち上がったユウナの反応を見て、ユウナが”赤い星座”を知っている事を意外に感じたトワは目を丸くしてユウナに訊ねた。
「あ、当たり前ですよ!”赤い星座”………”D∴G教団”事件後にクロスベルに居座り始めた猟兵団で、”西ゼムリア通商会議”の件でクロスベルから追い出された後黒月(ヘイユエ)や結社の猟兵達と一緒にクロスベルを襲撃したクロスベルにとって超極悪人の集団です!しかも”血染めのシャーリィ(ブラッディシャーリィ)”はその超極悪人の集団の中でもとんでもない極悪人で、クロスベルの鉱山町であるマインツ襲撃の際に多くの警備隊の人達の命を奪った挙句、クロスベル襲撃の際アルカンシェルにまで襲撃して”炎の舞姫”の二つ名で世界的に有名なアーティストでもあるイリアさんに重傷を負わせたんですよ!?」
「その話は聞いた事がある………ディーター・クロイス元大統領が雇った猟兵達によるクロスベル襲撃の件でアルカンシェルのイリア・プラティエも重傷を負った話は知っているが、まさか彼女が”炎の舞姫”に重傷を負わせた張本人だったとは……それにしても、何故教官達がその人物の事を?」
ユウナの答えを聞いたクルトは静かな表情で呟いた後リィンとセレーネに訊ねた。
「事情があって、俺とセレーネは短期間だったけどクロスベル警察のランディと同じ部署に所属していたんだが……俺とセレーネは直接戦った事はないが、ランディ達はディーター・クロイスからクロスベルを解放した直後に突如現れた”碧の大樹”の攻略の際、クロイス家に雇われていた彼女とも剣を交えた事があったんだ。」
「ちなみにシャーリィさんの本名は”シャーリィ・オルランド”で、ランディさんにとって従妹にあたる方ですわ………」
「あ…………」
「………なるほど。」
「ランドルフ教官……」
「―――ま、そう言う訳だ。まあ、”赤い星座”自体叔父貴を含めた多くの猟兵達がリア充皇帝達によるクーデターで”六銃士”や六銃士派”の連中に殺害されたんだが……あの虎娘は悪運だけは強いようで、そこの超物騒な”天使”の暗殺の刃から逃れた後、”六銃士”達との戦いで逃げ延びて僅かに生き残った猟兵達と共にクロスベルから撤退したのさ。その後壊滅的な被害を受けた事によって衰退した”赤い星座”の立て直しをしながら、最高幹部達の死で崩壊したはずの結社と手を組んだという情報を耳にしていたんだが………」
「超物騒とは失礼ね〜………ホント、あの時”道化師”に邪魔をされて止めを刺せなかったのは残念だったわ。あんなことになるんだったら”煌魔城”で”道化師”の相手をオリビエお兄さん達に任せずに、レン達の手で”道化師”を殺しておくべきだったと何度か思った事があるわ。」
リィンとセレーネの説明を聞いたユウナは気まずそうな表情で、クルトは静かな表情で、トワは心配そうな表情でそれぞれランディを見つめ、ランディは静かな表情で説明し、レンの話を聞いたその場にいる多くの者達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「だから、そういう所が物騒だって言っているだろうが。それにしても、初日で俺達があの虎娘に関わる事になるかもしれない情報を知るなんて、先が思いやられるぜ……」
「あの小娘の動向も気になるが、問題は人形兵器共の出現とあの小娘が関係しているかだな、」
ランディは呆れた表情でレンに指摘した後疲れた表情で溜息を吐き、ランドロスは真剣な表情で呟き
「ええ。パルム方面にも人形兵器の件で2件、似たような報告が上がっています。警戒するに越した事はないでしょう。」
「だな……」
リィンの話にランディは静かな表情で頷いた。
「そういえば……ミハイル教官の姿がありませんね。」
「あ、ホントだ。いつもガミガミうるさいのに。」
「……ひょっとして先程起きた脱線事故の関係で?」
ミハイル少佐がいない事に気づいたアルティナの言葉を聞いたユウナが不思議そうな表情をしている中クルトはランディ達にミハイル少佐の状況を確認した。
「あはは……うん。現場に顔を出してくるって。落石が原因らしいけどケガ人も殆どいないみたい。」
「そうですか……良かった。」
「ええ……本当に良かったですわ。」
「……脱線事故と聞くと前にクロスベルでもありましたね。」
「そうだな……ありゃ、重傷者が何人も出たが。―――しかしまあ、特務科も頑張ってるみたいじゃねえか?」
「ふふっ、そうですね。教官に頼りきりにならずにみんな頑張ってるみたいだし。」
「うふふ、本当にどこかの警察の”某部署”みたいに見えてきたわね♪」
「クク、雛鳥でありながら初日で結社の人形兵器を撃破するなんざ、中々やるじゃねぇか。」
「えへへ……そうですか?」
「まあ、それほどでも。」
「まあ、まだ半分です。あまりほめると気が緩みそうですし程々にしておいてください。」
「ふふっ、そうですわね。気が緩む事もそうですが、調子に乗って分不相応な事までする可能性も考えられますものね。」
ランディ達教官陣に褒められたユウナとアルティナが得意げな様子でいる中リィンは謙遜した様子で指摘し、リィンの指摘に対してセレーネは苦笑しながら同意した。
「って、何ですかその子供扱いみたいなコメントは!」
「不本意ですね。油断などしませんし、緊急事態以外自分達では不可能と思われる事に挑むような事はしません。」
「―――教官達の評価はともかく。”Z組”に”特務活動”――――どういう背景で設立されたのか何となく見えてきた気がします。」
リィンとセレーネにユウナとアルティナが文句を言っている中、ある仮説が頭に浮かんだクルトは静かな表情で答えた。
「ええっ……!?」
「へえ……?」
「……………」
「演習地周辺での情報収集、そして民間の依頼への対応―――哨戒だの、現地貢献だのもっともらしい理由が最初に説明されていましたが………要は”遊撃士協会(ブレイサーギルド)”と同じことをさせているんでしょう?」
「ああっ!?い、言われてみれば……」
「”遊撃士協会(ブレイサーギルド)”――――大陸全土にある民間の治安維持・調査組織ですね。エレボニアにも存在しますが、現在、活動が制限されているという。」
クルトの推測を聞いたユウナは声を上げて目を丸くし、アルティナは静かな表情で答えた。
「あはは……鋭いねぇ、クルト君。」
「うーん、聞いた時から俺も既視感(デジャヴ)があったんだが。」
「はは……エリオット達――――旧Z組の面々も”特別実習”という名前だったそうだが、同じことに気づいたそうだ。」
「うふふ、だけど演習初日早々で気づくなんて、ずいぶん鋭いわね?」
「別に……心当たりがあっただけです。―――察するに、この”Z組”を提案したのはオリヴァルト・アルノール殿下……皇位継承権を放棄された第一皇子その人なんでしょう。」
「そこまで………」
「ほう?」
「そういや、ヴァンダールって確か皇子の護衛をしてた……」
クルトの推測が完全に当たっている事にトワは驚き、ランドロスは興味ありげな表情をし、ある事を思い出したランディは目を丸くした。
「ランドルフ教官もご存知でしたか。自分の兄、ミュラーの事でしょう。―――皇子殿下が以前より遊撃士協会と懇意にされているのは自分も聞き及んでいます。1年半前の”七日戦役”の件で遊撃士協会自らがエレボニアから完全に撤退しようとした件を知った時も、様々な”伝手”に頼って思いとどまらせた事も聞き及んでおります。」
「うふふ、ちなみにレンもオリビエお兄さん―――オリヴァルト皇子の頼みでエレボニア帝国との縁を切ろうとしていた遊撃士協会を仲裁してあげたのよ♪」
「ええっ!?レ、レン教官が!?」
「どうせ、その嬢ちゃんの事だから、絶対何か”見返り”を求めてから仲裁したんじゃねぇのか?」
「ア、アハハ………」
クルトの説明を補足したレンの答えにユウナが驚いている中呆れた表情でレンを見つめて呟いたランディの言葉を聞いたセレーネは苦笑していた。
「何らかの理由で、トールズ本校が”あのような形”に生まれ変わって……理事長を退かれた皇子殿下がせめてもの”想い”を託された。……違いますか?」
「うん……そうだね。」
「はっきり聞いたわけじゃないが多分、間違いないだろう。」
「そうですわね……旧Z組の設立理由も考えると、間違いないでしょうね。」
クルトの推測を聞いたトワやリィン、セレーネはそれぞれ静かな表情で肯定した。
「なるほど……そういう背景でしたか。」
「オリヴァルト皇子……そんな人がエレボニアにいるんだ。」
「ああ、とても尊敬できる方だ。―――もっとも、この件については”自己満足”にしか思えないが。」
「えっ………」
「ク、クルトさん……?」
「………………………」
「ほう〜?”アルノール家の懐刀”と謳われた家の出身にしては、中々辛辣な指摘じゃねえか。」
「うふふ、”元”がつくけどね。―――ああ、もしかして”その件”も関係しているから、リィンお兄さんに嫁いだアルフィン夫人と違って今もアルノール皇家の人物であるオリビエお兄さんに対しても辛辣になったのかしら?」
クルトの意外な指摘にトワとセレーネが戸惑っている中リィンは真剣な表情で黙ってクルトを見つめ、口元に笑みを浮かべたランドロスに指摘したレンは小悪魔な笑みを浮かべてクルトに問いかけた。
「別に……あの件とは一切関係していません。”Z組”に”想い”を託したオリヴァルト皇子殿下に対しての指摘は僕個人が感じた事です。」
「ちょっ、それって遊撃士を見習うことがってこと?エレボニアじゃ知らないけどギルドは正義の味方として―――」
「当然、知ってるさ。……多分君と同じくらいは。だが、理想と現実は違う。現にエレボニアのギルド支部の殆どは閉鎖されたまま再開されていない。彼らに共感し、協力しようとしていたオリヴァルト殿下や”光の剣匠”、そして――――………志を共にした者達も今のエレボニアでは無力な存在だ。そんな流れにあるのが”特務活動”で”Z組”なのだとしたら……”自己満足”以外の何者でもないと思わないか?」
「………っ…………」
「………………」
「クルト君………」
「………ふむ………」
「――――ま、確かにそういう見方もあるわね。」
「……だな。」
クルトの指摘に反論できないユウナとアルティナが黙り込んでいる中トワは複雑そうな表情をし、ランディは真剣な表情でクルトを見つめ、静かな表情で肯定したレンの言葉にランドロスは頷いた。
「――なるほど、学院に入る前に色々思う所があったみたいだな。大した慧眼だが、クルト……一つ忘れていることはないか?」
一方リィンは動じることなく静かな表情でクルトに問いかけた。
「?……何です?」
「殿下の希望とは関係なく―――Z組の特務活動が第Uの正式なカリキュラムとして各方面から認められていることだ。」
「ええ……今のエレボニアでのオリヴァルト殿下の立場はとても厳しいものなのですから、そんな立場のオリヴァルト殿下が分校とはいえ士官学院のカリキュラムに介入できないと思いますわ。」
「……!」
リィンとセレーネの指摘を聞いたクルトは目を見開き
「シュミット博士や帝国政府の思惑も確実に特務科設立と絡んでいるだろう。それぞれ、俺達を”駒”として見込んでいるのかもしれない。多分、殿下の希望は”きっかけ”に過ぎないはずだ。」
「そ、それは……―――もっとタチが悪いと言う事じゃないですか!?」
リィンの正論に一瞬反論できなかったクルトだったがすぐに気を取り直して反論した。
「物事には両面がある……決めつけるなということさ。君は随分頭が切れるがどうも考え過ぎるところがある。今日、半日かけてやったことをどうして否定的な側面だけで判断しようとするんだ?」
「………っ………」
しかし更なるリィンの正論に反論できなかったクルトは唇を噛みしめて顔を俯かせた。
「その、あたしも同感っていうか……やり甲斐はあったし、重要な情報もゲットできたから無駄なんかじゃないと思うよ?」
「まあ、総合的な結論を出すには早いのではないかと。」
「……納得はしていませんが詮無い愚痴はやめておきます。いずれにせよ、務めである以上、第U分校の生徒として―――ヴァンダールに連なる者として全力で当たるだけです。」
ユウナとアルティナの指摘を聞いて少しの間考え込んだクルトは自身の結論を口にした。
「ああ、今はそれでいい。俺達に言われたくはないだろうがその先は自分で見つけてみてくれ。」
「……っ……了解です……!」
「うふふ、同じヴァンダールに連なる者でも、フォルデお兄さんとは大違いよねぇ?」
「レン教官……フォルデ先輩は色々な意味でヴァンダールに連なる方として変わっている人ですから、比較対象にする事自体が間違っていますよ……現にフォルデ先輩の弟であり、俺やステラの同期であったフランツもミュラー中佐やクルトのように、とても真面目な人物なのですから……」
「確かにフォルデさんを比較対象にするのは色々な意味で間違っていますね。」
「というかお二人は正確に言えば”先祖がヴァンダールの人物”なだけですけどね……」
クルトの様子を見て小悪魔な笑みを浮かべたレンの言葉にリィンは疲れた表情で指摘し、アルティナはジト目でリィンの指摘に同意し、セレーネは苦笑していた。
「………?」
(”フォルデ”……話に聞いていたかつてリィン教官達と同じ”特務部隊”の所属にして、1年半前の内戦を終結させた僕達の先祖―――ロラン・ヴァンダールの妹君の子孫であり、ロランの死によって失われた”ヴァンダールの槍”を受け継ぎ続けた”もう一つのヴァンダール”の家系の人物か……一体どのような使い手なのか、ヴァンダール家の者として気になるな……)
レン達の会話を聞いていたユウナは何の事かわからず不思議そうな表情で首を傾げ、クルトは真剣な表情でリィン達を見まわした後考え込んでいた。
(Z組か……ユウ坊が入るっていうのはちょっとばかり心配だったが。……やっぱり教官達も含めてなかなか面白そうじゃねえの。)
(クク、見ている方にとっても、当事者にとっても退屈はしないだろうな。)
(ふふっ、そうでしょう?)
一方リィン達の様子を興味ありげな様子で見守っていたランディとランドロスの小声の言葉を聞いたトワは微笑みながら答えた。
その後報告を終えたリィン達は馬でパルムへと向かい始めた――――
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