Oxymoron 3 |
「ゲルス、下がってろ!」
突然カースが扉の前で呪文の詠唱を始めたので、ゲルスは少し離れた場所で耳を塞いで伏せた。青い閃光が迸り、激しい爆風が起こった。しかし扉には傷一つ付いていない。
「兄貴、俺もありったけの魔力をぶっ放すぜ!」
続いてゲルスが呪文の詠唱を始め、赤い閃光が迸った。辺りに立ち込める爆煙が引くと、少し焦げ跡が付いていたが、やはり扉にはヒビ一つ入らなかった。
「ちくしょう!俺が遺跡を探検しようなんて言い出さなければ、こんなことにはならなかったのに…」
「過ぎたことを悔やんでも仕方がないだろ?一旦、引き返して大人たちに知恵を貸してもらおう」
「百年に一度の天才と謳われてる兄貴にも解決できないのに、大人たちに解決策がわかるとも思えないけど…」
「大人たちには経験がある。僕はまだ子供だからわからないこともあるさ」
「でもこの遺跡に無断で入ったことがバレたら退学になるかもしれない…」
「退学になることとクラリスの命、お前はどちらが大事だ?」
「そんなのわざわざ聞かなくてもわかってんだろ?」
「ああ、答えは一つに決まっている…」
二人は遺跡を脱出するとアカデミーへ向かった。休日出勤している講師を捕まえると、理事長室に通してもらった。大理石のテーブルの前には豪華な革張りのソファーが置いてある。
「大事な話があるとは一体、何かね?」
「僕は規則を破って森の遺跡に弟と友人を連れて行きました」
「兄貴ッ!それは違うだろ?」
「お前は黙ってろ!」
カースはゲルスが何も言えないように、口に手を押し当てた。
「ふむ、あの遺跡に君たちが入ったと言うのかね?」
「はい、そして友人が遺跡の中に取り残されました。僕たちの力では友人を救い出すことができません。どうかお力を貸してください…」
「わかった…。すぐに捜索隊を派遣しよう。君たちの処分は追って連絡する。下がりたまえ」
ゲルスは言いたいことを噛み殺しながら理事長室を後にした。二人が並列飛行しつつアカデミーから帰宅する途中、ゲルスは思いの丈をカースにぶつける。
「兄貴…。どうして俺の罪をかぶるようなこと言ったんだ?」
「最悪、罰を受けるのは僕だけで済ませたいと思ったからだ」
「そんなの俺は嫌だ!兄貴に罪をなすりつけて、自分だけ罪を逃れようなんて考えたくもない…」
「僕とお前が二人とも退学になったら、翼を持たないクラリスを誰がアカデミーへ連れて行くんだ?」
「そんなの俺一人が退学にされれば済む話だろう?兄貴はアカデミーの成績だって歴代最高だし、理事長も悪いようにはしなかったはずだ…」
その後は二人とも押し黙って無言で飛び続けた。その頃クラリスは遺跡の中で一人ぼっちで途方に暮れていた。
「二人とはぐれちゃった…。もうお家に帰りたいよ」
「…クラリス…そのまま真っ直ぐだよ」
「またこの声…。二人には聞こえないって言ってたけど、誰の声なんだろ」
「…そっちじゃない…その先は罠があるから気をつけて」
「ねぇ、答えて!あなたは敵なの?それとも味方なの?」
「…そう…そのまま先に進んで…もうすぐ会えるよ」
「会えたらあなたのお名前を教えてくれるの?」
「…僕には名前がないんだ…ごめんね…教えてあげられない」
「名前がないってどう言うこと?」
「…でも人は僕を矛盾≠フ者と呼んでいる…」
「ム・ジュン?じゃあジュン君って呼ぶね」
「…クラリス…君は優しい子だね…こんな僕に…名前をつけてくれるなんて…ありがとう…嬉しいよ」
薄暗がりの遺跡の中でも一人ではないと言う安堵感で、クラリスはなんとか耐えることができていた。
to be continued
説明 | ||
オオカミ姫の二次創作ストーリー、第三話です。 | ||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
308 | 307 | 0 |
タグ | ||
リュートさんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |