英雄伝説〜灰の軌跡〜 閃V篇 |
〜パルム間道〜
「さっきの人の話だとこっちの高台みたいだけど……」
「これは、門(ゲート)……?」
目撃情報があった場所に到着したユウナは周囲を見回し、クルトは目の前にある巨大な門を見つめて不思議そうな表情をした。
「……なにこれ。ずいぶん思わせぶりな感じだけど。」
「これは……山中に続いているのか?」
「……?地図に何もありませんね。この門も、その先の道も。」
「大昔に打ち棄てられた廃道かもしれないが……いや、そこまで古くもなさそうだ。」
地図を確認したアルティナが困惑の表情を浮かべている中推測を口に仕掛けたリィンだったが、門に据え付けられている警告に気づいて門に近づいて確認した。
”警告”
この先、崖崩れのため危険。関係者以外の立ち入りを禁ずる。
「な、なんか素っ気ないわねぇ。―――クルト君、こんな場所があるって知ってた?」
「いや……聞いた事もないな。手前のコンテナは昔からあったから気づかなかっただけだと思うけど。」
(お兄様……もしかしてと思うのですが……この先は”ハーメル村”なのでは……?)
(!……そう言えば、1年半前”特務部隊”結成時に”和解条約”の詳細について教えてもらった際、メンフィルから貰った情報に書いてあった”ハーメル村”の位置は…………)
ユウナとクルトが謎の門の先について話し合っている中、ある事に気づいたセレーネはリィンに念話を送り、セレーネの念話を受け取ったリィンは目を見開いて真剣な表情で門を見つめた。
「いずれにせよ、人形兵器が目撃された場所ではなさそうですね。」
「………ああ、見た所相当、頑丈に施錠されているようだ。地面が荒らされた跡もないし、別の場所を―――」
アルティナの言葉にリィンが頷いて指示をしかけたその時、何かの気配や音を感じ取ったリィンとセレーネは集中して周囲を警戒した。すると人形兵器が木々の中から現れてリィン達へと向かい
「―――戦闘準備。ちょうど向こうから来てくれたみたいだぞ?」
「しかもタイプは違いますが、先程戦った人形兵器と同格と思われますから、気を引き締めて下さい。」
「なっ……!?」
「木々の間から……!」
「クラウ=ソラス。」
リィンとセレーネの忠告に驚いたユウナ達がそれぞれ武装を構えると人形兵器が3体木々の間から現れてリィン達の退路を塞いだ!
「な、な、な……」
「これも……人形兵器なんですか!?」
「ああ……!かなり特殊なタイプだ!」
「奇襲・暗殺用の特殊機―――”パランシングクラウン”です!」
「あの人形兵器は先程戦った人形兵器とは真逆―――攻撃に特化しているタイプですから、気をつけてください!」
驚いているユウナとクルトにリィンとアルティナ、セレーネはそれぞれ説明をした。
「くっ……こいつら、本当に”人形”なの!?」
「いいだろう……返り討ちにしてくれる!」
「ギミック攻撃に気を付けろ!毒や麻痺が仕込んであるぞ!(3体か……俺とセレーネだけでは生徒達をサポートしきれないかもしれないな。だったら………)来てくれ――――メサイア!」
生徒達に助言をしたリィンはメサイアを召喚した!
「へ……っ!?お、女の人が教官の身体から……?しかも名前が”メサイア”って事はもしかしてあの人が局長の……」
「クロスベル帝国皇女にしてリィン教官の婚約者の一人――――メサイア・シリオス皇女殿下……!」
「―――今は私の事よりも、目の前に敵に集中してください!」
自分の登場に驚いているユウナとクルトに指摘したメサイアは”匠王”の娘達が作成し、今でも愛用し続けている”聖剣ガラティン”を構え
「――来ます!」
アルティナの言葉を合図にリィン達は人形兵器達との戦闘を開始した!
「「「……………」」」
人形兵器達は先制攻撃代わりに刃をリィン達に解き放ち
「甘い!」
解き放たれた刃に対してリィンが前に出てクラフト―――弧月一閃を放って襲い掛かる刃を全て弾いた。
「逃がさないわよ……!――――ヤァァァァッ!!」
「ブリューナク、照射。」
「―――――」
「ハァァァァ……セイッ!!」
反撃にユウナはクラフト――ジェミニブラストで、アルティナはクラフト――ブリューナクで、そしてクルトは双剣から光と闇の斬撃波を放つクラフト――双剋刃で遠距離からの攻撃を叩き込んだ。
「アークス駆動――――エクスクルセイド!!」
「浄化の炎よ、邪を焼き尽くせ――――贖罪の聖炎!!」
3人の攻撃が終わるとセレーネは地面から光の十字架による衝撃波を発生させるアーツを、メサイアは浄化の炎を発生させる魔術を発動して人形兵器達に追撃して怯ませた。
「オォォォォ……唸れ――――螺旋撃!!」
「えいっ!やあっ!」
「ハアッ!」
人形兵器達が怯んだ隙にそれぞれ人形兵器達に近づいたリィンは炎を宿した太刀で螺旋を描くような斬撃を叩き込み、ユウナとクルトはそれぞれ通常攻撃を叩き込んだ。
「「「…………」」」
リィン達の攻撃を受けた人形兵器達は反撃にそれぞれの両腕から鋼糸(ワイヤー)を放ち
「!」
「キャッ……!?か、身体が……!」
「ぐっ……ワイヤーに麻痺毒が仕込まれていたのか……!」
人形兵器達によるギミック攻撃をリィンは人間離れした動きで回避したが、ユウナとクルトは回避が間に合わず攻撃を受け、人形兵器達の鋼糸には麻痺毒も仕込まれていた為更に麻痺状態に陥った。そして麻痺状態に陥ったユウナとクルトに人形兵器達は追撃をしようとしたが
「二の型―――疾風!!」
「闘技―――月影剣舞!!」
リィンの鎌鼬を纏った電光石火の攻撃とそのすぐ後に放たれたメサイアの美しき剣舞を受けた事によって妨害され
「闇に呑まれよ―――ティルワンの闇界!!」
更にアルティナが発動した広範囲の魔術を受けて再び怯んだ。
「浄化の光よ――――オーディナリーシェイプ!!」
リィン達の攻撃の間に魔術の詠唱を終えたセレーネは浄化の光の魔術で二人の麻痺状態を治癒し
「ありがとうございます!お返しよ!ハァァァァ……クロスブレイク!!」
麻痺状態が回復したユウナはトンファーに電撃を流して人形兵器達に強烈な一撃を叩き込んでダメージを与えた。
「ヴァンダールが双剣――――とくと味わえ!行くぞ――――うおおおおぉぉぉぉぉ……っ!!」
するとその時止めを刺す為にクルトは双剣を凄まじい速さで振るって何度も斬撃を人形兵器達に叩き込んだ後跳躍し
「止めだ――――たあっ!ラグナ――――ストライク!!」
空中で双剣を振るって人形兵器達の周囲に雷撃を発生させた後最後に全身に雷撃を纏って人形兵器達に突撃し、クルトのSクラフト――ラグナストライクによるダメージに耐えきれなかった人形兵器達は爆発を起こしながら消滅した!
「はあはあ………た、倒せた……」
「……”邪道”を使う人形……どこまでだ、”結社”というのは……」
「……さすがに体力も限界近くかもしれません。」
戦闘が終了し、安堵や今までの特務活動や戦闘等による疲労によってユウナ達はそれぞれ息を切らせた後武器を収めた後周囲を警戒した。
「………ふふ………」
「先程の反省を早速生かしていますわね……」
ユウナ達の様子を微笑ましく見守っていたリィンとセレーネも周囲を探った後、何かに気づいてユウナ達に警告した。
「―――まずいな。少し読み違えたみたいだ。」
「ええ……しかも先程よりも数が多いですわ。」
「へ………」
「………!」
リィンとセレーネの言葉を聞いたユウナが呆け、クルトが目を見開いたその時反対側から先程戦った人形兵器達の倍の数がリィン達に近づき
「反対から―――」
「ああ……しかも数が多い!」
更にリィン達の退路を防ぐ位置に陣取った1
「っ、退路を……!」
「僕達を弄るつもりか………」
「ほ、ほんとに性格悪すぎない!?」
「―――すまない、3人とも無理をさせすぎたみたいだ。この場は俺達に任せてくれ。セレーネ、メサイア。」
「「はい。」」
疲労がピークの生徒達にこれ以上戦闘させない為にリィンはセレーネとメサイアと共にユウナ達の前に出た。
「え………」
リィン達の行動を見たユウナは呆けた声を出し
「コオオオオオオッ………!」
「「ハアアアアアアッ………!」」
「ま、まさか――――」
それぞれの”力”を解放しようとしている様子のリィン達を見たクルトは驚きの表情で呟いた。
「神気合――――」
「―――その必要はない。」
そしてリィンが鬼の力を解放した姿になろうとしたその時、娘の声が聞こえてきた!するといつの間にか人形兵器達の背後に大剣を構えた蒼髪の娘とライフルを構えた腰まで伸ばした漆黒の髪の娘、そしてそれぞれ槍を構えた金髪の青年と中性的な容姿を持つ金髪の青年がいた!
「あ………」
「貴女達は……」
「まさか―――!」
蒼髪の娘達の登場にユウナとアルティナが呆けている中、蒼髪の娘に見覚えがあるクルトは信じられない表情をした。するとその時人形兵器達はそれぞれ鋼糸の攻撃を娘達に放ったが娘達はそれぞれ回避し
「無駄です―――――」
漆黒の髪の娘が正確無比かつ凄まじい速さの射撃で人形兵器達を攻撃して怯ませ、その隙に蒼髪の娘達はそれぞれ凄まじい一撃を次々と人形兵器達に叩き込んだ!
「………ぁ………」
「ええ……っ!?」
娘達の圧倒的な強さにクルトが呆け、ユウナが驚きの声を上げたその時最後の一体となった人形兵器に漆黒の髪の娘がライフルによる狙撃で怯ませた後蒼髪の娘が一瞬で詰め寄って回転斬りを叩き込んだ跳躍し
「喰らうがよい――――!」
最後の一撃に人形兵器を豪快な一刀両断して滅した!
「…………」
「”アルゼイド”の絶技……それにヴァンダールの剛剣術や双剣術の面影があるあの槍術はまさか………」
「……皆さん、戦闘力が以前とまるで違うような。」
娘達の圧倒的な強さにユウナは口をパクパクさせ、クルトは驚き、アルティナはジト目で呟いた。
「はは………”遥か昔に失われたヴァンダールの槍術を受け継ぎ続けた家系の人物”を迎えに行った凄腕の臨時師範代”………まさかエリオットに続いて君ともここで再会できるなんて。」
「フフ……」
苦笑しながら近づいたリィンの言葉に対して微笑んだ蒼髪の娘は静かな笑みを浮かべた後何とリィンを抱きしめた。
「って――――」
「ラ、ラウラさん……!?」
「クク、何だ〜?俺達の知らない所で”光の剣匠”の娘までハーレムに加えていたのか〜?」
「フォルデ先輩……」
「こんな時に茶化さないでよ、兄さん……」
娘の行動にリィンとセレーネは驚きの声を上げ、その様子を見守っていた金髪の青年はからかいの表情で呟き、青年の言葉を聞いた漆黒の髪の娘ともう一人の青年は呆れた表情で溜息を吐いた。
「このくらいは我慢するがよい。文のやり取りがあったとはいえ、顔を合わせるのは久しいのだから。しかしそなた、背が伸びたな?正直見違えてしまったぞ。」
「はは……ラウラこそ。1年ちょっととは思えないほど凛として、眩しいほど綺麗になった。」
娘に抱きしめられたリィンも娘を抱き返して娘に微笑んだ。
「フフ、世辞はよせ。そちらの修行はまだまだだ。」
リィンの言葉に苦笑した娘はリィンから離れ、今度はセレーネを抱きしめた。
「ふふっ、そなたと顔を合わせるのも久しいが、あれからまた更に綺麗になって、見違えたのではないか?」
「フフ、わたくしは1年半前の時点で既に”成竜”でしたから身体的な成長は止まっていますから、皆さんのように背が伸びたり等はしていないはずなのですが……」
「フフ、どちらかというと雰囲気だから、身体的な成長は関係ないと思うぞ。こうして顔を合わせて感じたが、そなたと同じ性別の身として、ますます離されたような気分に陥ったぞ。」
「フフッ、お世辞でもそんな風に言ってもらえるなんて嬉しいですわ。」
そして蒼髪の娘に抱きしめられたセレーネもリィンのように娘を抱き返して微笑んだ後娘から離れた後、アルティナに近づいてアルティナを抱きしめた。
「お久しぶりです。」
「ふふ、そなたのそういう所は相変わらずだな。しかしそなた、1年半前と比べると随分と見違えたのではないか?背もそうだが、雰囲気も1年半前とは比べものにならないぞ。」
抱きしめられても特に何の反応も見せずに冷静な様子で答えたアルティナの様子に苦笑した娘はアルティナの成長を興味ありげな様子で見つめていた。
「雰囲気に関してはよくわかりませんが、身体的な成長をしている事は肯定します。………わたしが皆さんのように成長できたのも、リィン教官のお陰です。」
「そうか……”ミリアムと同じ存在”であるそなたが成長した話に興味はあるが、ゆっくりと話す機会ができた時に聞くとしよう。」
アルティナの答えを聞いた娘は静かな笑みを浮かべて頷いた後アルティナから離れた。
「え、えっと……」
「……お噂はかねがね。」
一方その様子を見守っていたユウナは気まずそうな表情をし、クルトは静かな表情で会釈をした。
「ふふ、見た顔もいるが改めて名乗らせてもらおう。レグラムの子爵家が息女、ラウラ・S・アルゼイドという者だ。トールズ”旧Z組”の出身でもある。見知りおき願おうか―――後輩殿たち。」
そして蒼髪の娘――――旧Z組の一人であるラウラ・S・アルゼイドはユウナとクルトに自己紹介をした。
「エリオットさんと同じ”旧Z組”の………という事はもしかしてそちらの人達も………?……ぁ…………(あの人達はリィン教官達と一緒にいた……)」
ラウラの事を知ったユウナは漆黒の髪の娘達へと視線を向けた後漆黒の髪の娘や金髪の軽そうな雰囲気を纏っている青年の容姿を見て何かに気づき、呆けた声を出した。
「フフ、残念ながら私達は”旧Z組”ではありません。――――初めまして。メンフィル帝国領ケルディック地方の領主予定の子爵家の当主、ステラ・ディアメルと申します。メンフィル帝国軍”特務部隊”の”副将”を務めていました。よろしくお願いします―――新Z組の方々。」
「”特務部隊”……それに”ディアメル”という事は、貴女が唯一生きている”ディアメル伯爵家”の血を引く人物にしてリィン教官の婚約者の一人でもある方ですか。」
漆黒の髪の娘―――かつて1年半前のエレボニアの内戦に介入し、内戦を終結させる為にメンフィルが結成し、リィンやセレーネ、アルティナが所属していた”特務部隊”の副将を務めていたステラ・ディアメルの自己紹介を聞いてある事を思い出したクルトは真剣な表情でステラを見つめた。
「ええっ!?それじゃあ、貴女がセレーネ教官やベルフェゴールさん達と同じ8人いるリィン教官の婚約者の一人でもあるんですか……!?」
「はい。リィンさんの妻の序列は最下位の9位になりますが、私もリィンさんの婚約者の一人です。」
「くくっ、ステラがエリゼちゃんみたいに積極的か、もしくはリィンが鈍感じゃなかったら、少なくても序列はエリゼちゃんの次だった可能性が非常に高かった程、リィンのハーレムメンバーの中でエリゼちゃんの次にリィンと付き合いが長い女なんだぜ〜。」
「に、兄さん。」
クルトの説明を聞いて驚いている様子のユウナにステラは頷いて答え、からかいの表情で答えた軽そうな青年の言葉にもう一人の青年が冷や汗をかき
「えっと………リィン教官達の昔の事を知っているという事は貴方達もリィン教官と同じ”特務部隊”の……?」
「おう。――――俺の名はフォルデ・ヴィント。メンフィル帝国領オーロックス地方の領主予定のしがない男爵家の当主だ。そんでこっちは俺の弟のフランツだ。」
「―――フォルデの弟のフランツ・ヴィントです。僕は”特務部隊”の所属ではなく、メンフィル帝国軍の所属で、訓練兵時代のリィンやステラの同期だよ。よろしくね、リィンの教え子達。」
ユウナに視線を向けられた軽そうな青年――――リィン達と同じ”特務部隊”に所属し、ステラと共に”副将”を務めたフォルデ・ヴィントは自己紹介をした後もう一人の青年に視線を向け、もう一人の青年――――フォルデの弟にして訓練兵時代だったリィンとステラの同期生の一人でもあるフランツ・ヴィントは軽く自己紹介をした。
その後リィン達はラウラ達と共にパルムへと戻って行った。
〜パルム・ヴァンダール流・練武場〜
「そうか………子爵閣下から。」
「うん、免許皆伝に至った後、師範代の資格も与えられてな。こうして各地を回りながら備えて欲しいと頼まれていたのだ。」
「まあ………ふふっ、子爵閣下もラウラさんの力をとても頼りにしていらっしゃるのですね。」
ラウラの事情を知ったセレーネは目を丸くした後微笑んだ。
「フフ、期待に沿えるといいのだが。」
「”アルゼイド流”でしたっけ……物凄く有名な流派なんですよね?」
「エレボニアでは”ヴァンダール流”と双璧と言われているみたいです。」
「ああ、規模も格式も互角……どちらも軍の武術師範を正式に務めているくらいだ。」
「それは………」
ユウナの質問に答えたアルティナの答えに頷いたリィンはアルティナの説明を補足し、リィンの説明を聞いたクルトは複雑そうな表情をした。
「フフ、面映いがそう呼ばれることは多いな。マテウス・ヴァンダール閣下―――お父上からそなたの話も聞いている。ヴァンダールには類稀なる双剣術の使い手―――会えて光栄だ。」
「そんな―――滅相もありません!自分など、未熟の極みで……父や兄の足元すら見えぬくらいです。まして、その歳で”皆伝”に至った貴女と比べるなど―――」
ラウラに視線を向けられたクルトはラウラの高評価に対して謙遜した様子で答えた。
「ふむ……?剣の道は果てしない。皆伝など通過点に過ぎぬであろう。此の身は未だ修行中……精々リィンと同じくらいの立場だ。」
「いや、さすがにラウラと俺を一緒にするのは無理があるような……」
「フフ、謙遜は止めるがいい。それに世には真の天才もいる。そなたらの分校の責任者のように。」
謙遜している様子のリィンに苦笑しながら指摘した後に呟いたラウラの言葉を聞いてリアンヌ分校長を思い浮かべたリィン達は冷や汗をかいた。
「ああ、まあ……確かに。」
「天才というより化物ですね。」
「というか天才をも遥かに超える”至高の武”の存在ですものね……」
「えっと……あの人、そんなに凄いの?」
リィンやアルティナ、セレーネの話を聞いたユウナは不思議そうな表情でリアンヌ分校長の事について訊ねた。
「あの結社”身喰らう蛇”でも”結社最強”と呼ばれていた使い手にして、ヴァイスハイト皇帝陛下達――――クロスベルの”六銃士”が全員揃って互角の強さと言えばわかるだろう?」
「って、聞くだけで滅茶苦茶凄そうなんだけど……というか、分校長って”結社”の出身だったの!?」
「ええ……色々と事情があって、今は結社を抜けてメンフィル帝国に所属していますが。」
リィンの指摘を聞いたユウナは表情を引き攣らせた後驚きの声を上げ、ユウナの反応にセレーネは苦笑しながらリアンヌ分校長について軽く説明をした。
「ふふっ、天才といえばフォルデ先輩もそうですよね?」
「うむ。”アルゼイド流”と”ヴァンダール流”の皆伝に至った今は亡きオーレリア将軍閣下のように、フォルデ殿はヴァンダール流の剛槍術と連槍術の皆伝に至っているのだからな。」
「これで、普段の態度がカイル先輩みたいに真面目だったら、文句なしなんだけどね……」
「おいおい、俺があの”超”がつく程の堅物人間になって欲しいだなんて、冗談でも止めて欲しいぜ。あんな人間になったら、人生、楽しめないぜ?」
ステラの言葉にラウラは静かな笑みを浮かべて頷いてステラと共にフォルデに視線を向け、疲れた表情で呟いたフランツに呆れた表情で指摘したフォルデは軽そうな態度を見せて答え、フォルデの答えにリィン達は冷や汗をかいた。
「え、えっと……ラウラさんがフォルデさんが”ヴァンダール流”の使い手みたいな事を言っていたけど、もしかしてフォルデさんやフランツさんもクルト君と同じ流派の……?」
「ん?ああ、俺とフランツは単に先祖が”ヴァンダール”の家系の人物なだけで、何の因果か俺達の代まで”ヴァンダール流の槍術”が受け継がれてきただけで、”ヴァンダール流”とは関係ないぜ。」
ユウナの問いかけに軽い調子で答えたフォルデの答えにリィン達は冷や汗をかき
「いや、十分関係あるじゃないですか……って、先祖が”ヴァンダール”って事はもしかしてフォルデさんとフランツさんはクルト君にとって、遠い親戚になるんですか!?」
「アハハ……一応そうなるね。まあ、実際こうして僕達が”本家”の人物と会うのは初めてになるけど。」
「……初めまして。ヴァンダール家の次男、クルト・ヴァンダールと言います。お二人のお話は叔父ゼクスや兄ミュラーから伺っています。」
驚いている様子のユウナに苦笑しながら答えたフランツに視線を向けられたクルトは会釈をして答えた。
「俺達の話をね〜?大方、1年半前の”七日戦役”の件で俺達の事を知って、先祖が自分達と同じ”アルノール家の懐刀”の血を引いていながらメンフィルに所属していたから”ヴァンダールの恥晒し”とでも伝えられていたんじゃないのか〜?」
「に、兄さん。そんな事を言われても彼が困るだけだよ………」
「へ………ど、どうしてそこで”七日戦役”の話が出てくるんですか?」
からかいの表情で問いかけたフォルデの問いかけにリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中フランツは困った表情で指摘し、ユウナは困惑の表情でリィン達に訊ねた。
「その………”七日戦役”の際、貴族連合軍によって幽閉の身であったアルフィンさんがわたくし達―――メンフィル帝国に捕縛された後様々な事情によってリベール王国に保護され、その後”七日戦役”に調印した話は知っていますわよね?実はアルフィンさんを捕縛したのはフォルデさんなんです………」
「ちなみにクルト達の実家――――”ヴァンダール家”はフォルデ先輩も言っていたように”アルノール家の懐刀”という異名通り、エレボニア皇家の守護職に就いていたんだ。」
「ええっ!?フォルデさんがアルフィンさんを!?しかも、クルト君の実家がそんなとんでもない役職についていたなんて……」
「……守護職は既に解任されているから、”元”がつくけどね。――――それはともかく、叔父や兄も貴方達の事に対して悪感情を持っているような言い方はしていませんでした。むしろ、機会があれば先祖ロランの死によって失われた”ヴァンダールの槍”を教わり、以後門下生や子孫達に受け継がせたいと仰っていました。それに、ウォルトンさん達にお二人が先祖代々受け継いで来た”ヴァンダールの槍術”を教授して下さるとの事ですから、それを叔父たちも知ればきっと、今もお二人に感謝している僕のように喜び、お二人に感謝すると思います。お二人の貴重な時間を割いて頂き、お二人が先祖代々受け継ぎ続けてきた”ヴァンダールの槍”をウォルトンさん達に教授してくださること、ヴァンダール家を代表し、心より感謝を申し上げます。」
セレーネとリィンの説明を聞いて驚いているユウナに視線を向けられたクルトは静かな表情で答えた後フォルデとフランツに会釈をした。
「アハハ……”ヴァンダール流”の宗家を受け継ぎ続けてきた実家の人にそこまで言って貰えるなんて、光栄だね。」
「こりゃまたカイルとも良い勝負をする堅物男だね〜。やれやれ、死んだ親父といい、フランツやクルトといい、”ヴァンダール”の血が混じっている家系は堅物になりやすい傾向でもあるのかね?」
「むしろ先輩は何で、クルトやフランツとは真逆のような人格なんですか………」
「今まで出会った”ヴァンダール家”の人物と比較するとまさに”ヴァンダールの突然変異”と言ってもおかしくない人格ですね、フォルデさんは。」
「ア、アルティナさん。」
クルトの言葉にフランツが苦笑している中呆れた表情で呟いたフォルデの発言にユウナ達と共に冷や汗をかいて表情を引き攣らせたリィンは疲れた表情で指摘し、ジト目で指摘したアルティナの言葉を聞いたセレーネは冷や汗をかいた。
「そう言えば……フォルデ先輩から聞いたよ、フランツ。エイリーク皇女殿下の親衛隊所属の騎士に昇進した上、アメリアとも婚約したんだって?遅くなったが祝福の言葉を言わせてくれ。―――おめでとう。二人の同期として2重の意味で祝福するよ。」
「ありがとう。でも、その言葉は僕のセリフでもあるよ。リィンの出世や婚約は色々な意味でも驚いたけど、一番驚いたのはリィンがステラの気持ちにようやく気づいた事かな?」
「え”。その口ぶりだとフランツ達もステラの気持ちについて気づいていたのか……?」
フランツを祝福したリィンだったが、フランツの口から出た予想外の話に表情を引き攣らせてフランツに訊ねた。
「クク、むしろ訓練兵時代お前の同期や俺やカイルのようにお前達を指導する騎士達、それにセシリア将軍も全員気づいていて、気づいていないのは当の本人のお前だけだぜ?ステラのお前に向ける気持ちはアメリアよりもわかりやすかったしな。」
「ええっ!?」
「……そんなにわかりやすかったなんて、初めて知りました。」
「ア、アハハ………」
からかいの表情をしているフォルデの指摘にリィンが驚いている中ステラは疲れた表情で溜息を吐き、セレーネは苦笑し、その様子を見守っていたユウナ達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
(ねえねえ、アルティナ。もしかしてリィン教官って、恋愛に関してとんでもない鈍感なの……?)
(もしかしなくてもその通りです。しかも、とんでもないどころか”致命的”と言ってもおかしくないかと。実際そのお陰で、アルフィン様や1年半前の内戦でリィン教官との関係が親密になった事で婚約関係になった旧Z組の女性―――アリサさんも苦労し、エリゼ様のように”最終手段”を実行してようやく自分達の気持ちに気づいてもらえたとの事です。)
(さ、”最終手段”って一体どんな”手段”を実行したのよ……)
(というかよくそれで、教官は皇女殿下を含めた多くの女性達の気持ちに応えて、将来を共にする事を決められたな……)
(し、視線が痛い……)
それぞれジト目で話し合っているアルティナとユウナ、呆れた表情のクルトの視線に晒されたリィンは疲れた表情で溜息を吐いた。
「フフ………しかし此の地にサンドロッド卿が来ておらぬのはさぞ見込み違いであっただろうな。」
一方その様子を微笑ましく見守っていたラウラは気を取り直して話を変えた。
「……ああ。リウイ陛下やメンフィル帝国政府の意向ではないみたいだ。そして、3種類の人形兵器がこの地で確認されたことの意味――――」
「や、やっぱり”結社”の残党が何かしようとしてるんでしょうか?」
「現時点では断言できぬ。陽動の可能性も否定はできまい。この地に注目を集めながらまったく別の地で事を為す――――そのくらいの事は平気でやりそうな連中のようだからな。」
「確かに、謀略のレベルはレン皇女殿下やメンフィル帝国の諜報部隊並みかもしれませんね。」
「って、アンタねぇ……」
「ふう……君が言うか。」
「はは………」
(というかレン皇女殿下やメンフィルの諜報部隊はもっとえげつない事をしているから、比較対象にならないんじゃね?)
(に、兄さん。)
ラウラの推測に同意したアルティナの話を聞いたユウナとクルトは呆れた表情でアルティナを見つめ、その様子を見守っていたリィンは苦笑し、からかいの表情で呟いたフォルデの小声を聞いたフランツは冷や汗をかいた。
「―――お互い、何かわかったらすぐに連絡し合うことにしよう。エリオットもそうだが……ラウラ達がこの地にいてくれるのは何よりも心強いと思っている。まあ、女神達の導きとはちょっと違う気もするけど。」
「ふふっ、そうですわね。」
「フフ、何のことかな?こちらも同じだ――――頼みにさせてもらうとしよう。トールズ第U、そして”Z組”の名を受け継ぎしそなたたち全員に。」
その後ラウラ達と別れたリィン達は練武場を出た。
〜パルム〜
「はぁ……なんていうかカッコよすぎるヒトだったなぁ。背が高くて凛としててそれでいて滅茶苦茶美人だし。ステラさんはステラさんで、まさに”深窓のお嬢様”のような女性でスタイルも抜群で、ラウラさんと比べても互角の美人だし。」
「ユウナさん。目がハートになってます。」
練武場を出て憧れの表情で感想を口にしたユウナにアルティナは静かな表情で指摘し
「……まさかあの方まで”Z組”とは思いませんでした。」
「はは、そうか。――――ラウラも、エリオットも、フォルデ先輩達も”Z組”や”特務部隊”は全員、俺の誇りだ。みんなそれぞれの事情でそれぞれの道を歩むことになったが……その誇りに支えられながら俺も、今までも、そして今もこうして自分の”道”に迷う事無く歩み続けていると思う。」
「お兄様………はい、それわたくしも同じ気持ちですし、勿論その誇りにはロイドさん達――――”特務支援課”の皆さんも入っていますわよね?」
「ああ、当たり前だ。」
「あ………」
「…………………」
「………ミリアムさんも、ですか?」
リィンとセレーネの話を聞いたユウナが呆けている中クルトは静かな表情で二人を見つめ、アルティナは二人に訊ねた。
「ああ、大切な仲間だ。そしてその仲間の中には当然アルティナも入っているぞ。」
「………ぁ…………」
(リ、リィン様、また”いつもの癖”が早速ですか……)
(まあ、リィンだものね……)
リィンに頭を撫でられたアルティナは呆けた声を出し、その様子を見守っていたメサイアは疲れた表情で呟き、アイドスは苦笑していた。
「勿論、かつての”Z組”と新しい”Z組”は同じじゃない。君達は君達の”Z組”がどういうものか見出していくといい。――――初めての特務活動も無事、完了したわけだしな。」
「ふふっ、しかも”任意”の要請の対応も全て終えましたから、まさに完璧の対応でしたわね。」
「そ、そういえば………」
「………今日中に3箇所の調査と必須の要請への対応でしたか。」
「正直、ギリギリでしたね。」
リィンとセレーネの指摘を聞いてそれぞれ我に返ったユウナは目を丸くし、クルトとアルティナは静かな表情で答えた。
「まあ、正確には演習地に帰るまでだが。―――それじゃあ、そろそろ町にでよう。何とか日没前に演習地に戻りたいからな。」
「はい!」
「了解です………と言いたい所ですが、教官。その前にメサイア皇女殿下にもご挨拶をしておきたいのですが………」
「ああ、そう言えばさっきは色々あって、お互い自己紹介はしていなかったな。――――メサイア。」
クルトの言葉を聞いてある事を思い出したリィンはメサイアを召喚した。
「あ…………さっきの時の…………」
「ふふっ、クロスベル皇女にしてヴァイスハイト・ツェリンダー皇帝と第4皇妃マルギレッタ・シリオスの養女、そしてリィン様の婚約者の一人のメサイア・シリオスと申します。先程は色々あってご挨拶もせずにリィン様の身体の中へと戻るという失礼をしてしまい、申し訳ありませんでした。」
「い、いえいえ……!むしろ、失礼をしたのは助けてもらったのに、お礼も言わなかったあたし達の方ですよ。えっと……ユウナ・クロフォードです。よろしくお願いします、メサイア皇女様。」
「お初にお目にかかります。ヴァンダール家が次男、クルト・ヴァンダールです。先程は助太刀をして頂き、本当にありがとうございました。」
メサイアに微笑まれたユウナは緊張した様子で答えた後自己紹介をし、クルトもユウナに続くように自己紹介をした後感謝の言葉を述べた。
「フフ、私は大した事はしていませんから、そんなに気になさらないでください。皆さんの”教官”であるリィン様の役目の一つは生徒である皆さんを守る事なのですから、リィン様の使い魔の一人として当然の事をしただけですわ。」
「えっと……メサイア皇女様の事を知ってから気になっていたんですけど、メサイア皇女様が教官の使い魔をしている事は色々と不味くありませんか?メサイア皇女様はクロスベルの皇女様なのに、いくらリィン教官と婚約関係とはいえ、”使い魔”―――主従関係を結んでいるんですから……」
メサイアの話を聞いたとユウナは気まずそうな様子でリィン達に訊ねた。
「フフ、お父様達からもリィン様の使い魔を続けて行く許可は貰っていますから、大丈夫ですわ。」
「そもそもメサイアさんはメンフィル帝国の”客将”でもありますから、メサイアさんがお兄様の使い魔である事を問題にしたら、そっちの方が問題にされますものね……」
ユウナの質問にメサイアとセレーネは苦笑しながら答え
「へ……じゃあ、メサイア皇女様もベルフェゴールさん達と同じメンフィル帝国の”客将”なんですか!?」
「ああ。元々メサイアと俺が出会った時期はヴァイスハイト皇帝達とメサイアが出会う前だったからな。その時点のメサイアもメルキア帝国の元皇女だったから、リウイ陛下達―――メンフィル帝国もメサイアを”客将”扱いしたんだ。幸い実力もあったしな。」
「”メルキア帝国”………聞いた事がない国ですが、もしかして異世界の……?」
ユウナの問いかけに答えたリィンの答えを聞いてある事が気になったクルトはリィン達に質問した。
「はい。そして私は今より遥か昔のメルキア皇帝だったヴァイスハイト・フィズ・メルキアーナとその妾である元アンナローツェ王国女王であったマルギレッタ・シリオスの娘だったのです。」
「へ………メサイア皇女様が、遥か昔のメルキア帝国っていう異世界の国の皇女様って…………」
「しかもご両親の名前がメサイア皇女殿下の養親である今のご両親の名前と非常に似ていますが……何か関係があるのですか?」
メサイアの説明を聞いたユウナは呆け、クルトは困惑の表情でメサイアを見つめた。そしてリィン達はメサイアが謎の転移門によって過去の並行世界から現代に迷い出た人物で、それを知ったヴァイスハイト皇帝達がメサイアを養子にした事を説明した。
「へ、並行世界で、しかもタイムスリップって………色々と非常識過ぎよ……」
「……まあ、教官の周りは”非常識”だらけなので、”今更”かと。」
「ア、アハハ………」
「別に意図してそうなった訳じゃないんだけどな……」
事情を聞き終えたユウナは疲れた表情で溜息を吐き、ジト目で呟いたアルティナの言葉を聞いたセレーネは苦笑し、リィンは疲れた表情で呟いた。
「……なるほど。だからヴァイスハイト皇帝陛下達は、自分達とそれほど年が離れて―――いえ、自分達よりも年上のメサイア皇女殿下を養子に迎えたのですか。」
「ちょっと、クルト君?女性に年齢の事を指摘するなんて、失礼なんじゃないの?」
「あ…………失礼しました。」
納得した様子で呟いたクルトの言葉を聞いたユウナはジト目で指摘し、指摘されたクルトは一瞬呆けた後メサイアに謝罪をした。
「ふふ、私は気にしていませんから、どうかお気になさらないでください。今後はリィン様に呼ばれれば、共に協力する事もありますでしょうから、よろしくお願いしますね。」
「はい!」
「こちらこそよろしくお願いします。」
「ハハ……―――さてと、今度こそ町を出て演習地に向かおうか。」
その後リィン達は町を出て演習地へと向かった―――――
今回出て来た新キャラフランツはフォルデやステラと違って、パーティーメンバー化する予定はないですから出番は今後あるかどうかわかりません(ぇ)それと暁の軌跡、まさかのアルティナ登場には驚きましたねwちなみに、私はアルティナゲットの為に回したアルティナの確率が高くなっているガチャでシャロンが来るという奇妙な出来事が起こりました(汗)マジでどうしよう……メインは月姫とフィー、紅騎士にマジレンだから、シャロンの入るスペースが(汗)
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第17話 | ||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
1800 | 1622 | 3 |
コメント | ||
白の牙様 原作のあのシーンを見ても邪推してしまいますよねww(sorano) この小説のラウラはリィンに惚れているのか?う〜〜む謎だ(白の牙) |
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