僕が何処かに降る前のおはなし |
――――気が付けばそこにいた。目の前には虹色が印象的な、色才の少女がいた。
そいつは様々な世界、様々な次元で悲惨な死を遂げたとある女神の欠片が集まって生まれた概念集合体。
何らかを救う為に奔走していた様々な前世の記憶を持ったが故に根元が変わっておらず、僕を救おうとしたんだっけ。
「別に要らない」って言ったのだけど、「このままにしておいたら、これからも貴方は行く先々で関わる人達を無意味に、そして無自覚に不幸をばら撒く。」と言って襲い掛かってきた。
だから僕も敵と判断して迎撃したけど、そいつは僕の上位互換だった。だからとても苦戦した。
その上何故か僕の身の上やこれまでの行動、それによって生じた事等も戦ってる最中に言ってきて精神攻撃がキツかった。
けど自分のこれまでを一方的に否定されて、押し付けられた意見を受け入れられる程、僕は自分の運命を嫌っちゃいない。
確かに僕は無意味で無自覚に不幸をばら撒くだろう。それでも自覚の範囲内でちゃんとした意味で幸福を撒けるなら問題ない。
一宿一飯の恩義の為に、僕は圧制を強いる政府だって理不尽を強いる神様だって叩っ切れる。
そいつらを斬った後で困る事なんて、残った人達が後々持ち直せられるぐらいにたかが知れてる事を、僕はもう知っている。
「それでも何時かそこから争いが「なら僕が不幸とやらを撒こうが撒かまいが同じことさ」駄目だこの子聞く耳持たない!!」
「大体お前なんかに僕の事を言われたくない。僕は人として生きてきて今がある!!死んでいった奴の記憶があっても体験したわけじゃないお前にとやかく言われる筋合いはない!!!」
「なっ…!」
僕には確かな思い出がある。
遊園地で遊んだあの頃も、父さんを失って悲しんだあの頃も、「強くあれ」を引き継いで「俺」となったあの頃も、女神を憎んで殺したあの頃も、みんなと別れたあの頃も。
それら全てが僕を形作っている。それを生まれたばかりのほぼほぼ空っぽな奴に言われる筋合いは無い。
「僕には思い出がある。辛かった事、楽しかった事、色々なものが沢山ある……生まれたばかりのお前が!【何も無い】お前ごときが!!!僕を、僕の全てを語るな!!!」
言葉と共に剣をぶつける。相手の心と身体に己をぶつける。因果を超えて境界も超えて、ついでに世の果てとかそういった果ても越えて、敵の根幹に一撃を……
「ふぇ……」
「ふえ?」
「びええええええええええん!!!」
「え?え?へ?」
戦意を喪失していきなり泣き出した色才の少女。自分を語れる思い出が無い事を指摘された事で心的ダメージを負ったようだ。
そんな状態で様々な前世の力で戦いの最中に僕の思い出を覗き見た結果、自滅に近い形で心が折れた。本人は心が砕けたと言うが、砕けているなら泣くどころじゃない。
「そんなの知ってるわよ義理の親の死の報せで心が欠けたんでしょものの例えよ一々指摘するなぁあああぁぁあああ〜」
「というかさっきから変だとは思ってたけど僕の思い出覗いてたのか……」
「負の想いを司ってた前世も正の想いを司ってた前世もあるんだから出来るわよっ!?いった〜い……」
「そういう意味じゃない。人の思い出勝手に覗き込んでたのかって事だよ。流石にプライバシーとかそういうのがあるだろ」
「うるさいうるさいうるさーい!!女の子を殴るなんて最低よ!男失格よ!レディは優しくするものなのよー!!」
泣きながら物凄い剣幕……どうやらコイツ、未だに本気ではなかった様子。
争った理由も有耶無耶になって終わったので「救うのはどうした?」と掘り返してみたが、もうどうでも良いらしい。
数多の自分が救う事を念頭に置いていたから自分はその為に生まれたと思っていただけとの事。
生まれた時から課せられた使命もなく、生き甲斐も無く、真っ暗なこの場所にずっと独りぼっちだった所に僕が現れたから「この子を救うのが私の役目か」と解釈したようだ。
……まあこれまで数多の自分が一貫して救う為に奔走していたから無理も無いか。
「私、どうすればいいと思う?」
不意にそんな事を僕に聞かれても分からないのだが……とある旅人曰く、神様は人間より不自由だそうだ。
力とそれに関する使命を持って生まれたが為に生き方を決められているが、多くは自分の使命を生き甲斐としているから自覚も疑問も無いらしい。
だから神様だった生前の頃とは違って使命を持たずに生まれたコイツは、言わば右も左も分からない赤ちゃん状態という事になる。
そんな事を思っていたら、不意にある事を思いつく……また生まれ変わることは出来ないかと。
そしたら出来ないと言われたが、眠った時に一度だけ、夢を見るような感覚で別の誰かとして生きた事があると言った。
人間の男だったらしく、その時は誓いや約束等を使命代わりにしていたそうだ。
「今度は別にそんな事を考えずに生きて行くのはどうか」と言った。すると「生まれた理由や生きる理由を考えずに生きるなんて」と不安がった。
「理由や意味は後からその内出来るよ」と僕が言うと、震えながらも「やってみる」と答えた。
「貴方はあの子に似てる。生前の私が出会った強くて、年上で……そして幼いあの子に」と言われた。
「何だよそれ」と僕が返すと、「私が次起きるまで、恋について勉強なさい」と言って僕を押し出し、いつの間にか出来た穴に落とした。
落ちていく僕が最後に見た色才の少女は、光となって消えて行った。
後から分かった事だが、アイツは僕に神だった全ての前世の力と記憶全てを手放すことで、生まれ変わる事が出来た……みたいだ。
「みたいだ」と言うのは、僕が持っている剣にアイツの力を感じ取れたのと、一緒に感じ取れた感情エネルギーをアイツの力で読み取って分かったからだ。
あの時「出来ない」と言ったのは、どうやら僕に力を押し付けたく無かったらしいが、根拠の無い言葉で信じ込ませた責任を取らせる為にやった事らしい。
だったらあの才女が何故、僕の言葉を信じたのだろうか?女心は良くわからん。恋の勉強とやらをすれば、何時か分かる日が来るのだろうか?
今は未だ何も分からない……何事も経験と言うことだろう。正直、そっちの方が僕としても解りやすい。
メッセージの最後には、「また僕と友達になれたら良いね」という言葉があった。
一人称が「私」だったアイツが「僕」呼びだなんて……もしかして別の誰かとして生きてたアイツと会った事あったのかな……いや、まさかな。
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