真・恋姫無双〜魏・外史伝39 |
第十六章〜悲劇と喜劇は終幕へ・完結編〜
桃香と姜維が対面するすこし前・・・。
成都の街の一角にある、仮設診療所にて・・・。
「具合の程は如何ですか?」
「ええ、幾分と良好ですよ。」
仮設診療所の一部屋で、桃香は愛紗、鈴々と共に傷の療養していた廖化の元に訪問していた。
「おっちゃん、背中の傷はもういいのか?」
そういいながら、鈴々はまるで廖化の娘の様に、彼の横に駆け寄っていく。
「こら、鈴々!申し訳ない、廖化殿・・・。」
礼儀もなにも無い鈴々の態度に代わって謝る愛紗。それを見て、廖化は愛想笑いをする。
「いえ、構いません・・・。それより、今日は何用でしょうか?私が思うに・・・、見舞とは
また別の目的があるではないでしょうか?」
廖化は愛紗から桃香に視線をずらしそう言うと、桃香は気まずそうな表情に変える。彼の指摘通り、
彼女が彼の元に赴いた目的は、見舞以外にもう一つあったのだった。
「え、えぇ・・・と、ですね。」
口ごもる桃香。そんな彼女を見て廖化は一つ思い当たる節があった。
「姜維の事・・・、ですかな?」
「・・・はい。」
「そうですか。」
廖化の言葉に、苦笑いで肯定する桃香。
「姜維君の・・・、彼の村の事は・・・、愛紗ちゃんと朱里ちゃんから本当の事を聞きました。私は
当時、八珂村の件は山火事による焼失と報告で聞いていました。だからそれを聞いた時、ようやく彼が
私を憎んでいる理由が分かりました・・・。」
「あの時、八珂村での出来事は入蜀して間も無かった我々にとって、致命的な不祥事だった。それが明る
みになる事は、益州の民達の信用を著しく損なう恐れがあった・・・。そのため、表上は山火事として事実
を伏せる事とした。そして情報漏洩を防ぐため、様々な工作もした・・・。」
桃香に代わって愛紗が当時の状況を説明した。廖化はこれといって驚くわけもなく聞いていた。
「でしょうな・・・。当時、私も八珂村について耳にした覚えがありません。あいつの村がそれだと知った
のは、それからしばらく経った後でした。」
桃香と廖化の間に少しの沈黙が生じる・・・。先に口を開いたのは桃香だった。
「・・・私は、これから彼に会いに行こうと思っています。」
「・・・今更、あいつに会って如何なさるつもりですか?」
「八珂村の件は・・・、私には蜀の王として責任を果たさなくていけない。そのために・・・。」
「蜀の王として・・・ですか。それは立派な事だとは思いますが、それで奴をどうするつもりです?」
桃香の話に遮り、問い詰める廖化。その目は獲物を狙う獣のような、威嚇的な目をしていた。
「そ、それは・・・。」
その廖化の目に、桃香はすくんでしまう。
「もし本当にそう蜀の王としての責任を果たそうと言うなら、ここに来る必要は無いはず。すぐにでも
姜維に会いに行けばいい。でもそうしないのは、他にもならぬ・・・、あなたが姜維に会う事を躊躇
している、いや・・・恐れているからだ。」
「廖化殿・・・。」
廖化の度の超えた発言に、愛紗は二人の間に割って入ろうとしたが、それを桃香の手によって未遂に終わる。
「劉備殿・・・、奴は武においては、正和党の中でも上位に入る実力を持っている。それは実際に剣を
交えた関羽殿なら分かるでしょう・・・。」
「・・・・・・。」
愛紗は黙っている。
「しかし、それでも奴は如何せんまだ子供です。その無垢な心に負った、決して消える事のない傷を抱え
ながら今までずっと生きてきた。その傷を癒す術を持たない奴がどれだけ苦しんできたか・・・。」
廖化の拳に力込められる・・・。
「我々も我々なりに奴の心を救おうとした。しかし我々では、本当に意味で奴の心を救う事は出来なかった
・・・。奴の心を救えるのは、他でもないその心に傷を負わせた張本人、劉備、あなたしかいないのだ。
もし、あなたが生半可な覚悟で奴の心を救おうと思っているのならば、それこそただの偽善者の自己満足で
終わってしまう。いたずらに奴の心の傷を抉るだけだ・・・。」
直接の原因が桃香達にない事は廖化も分かっていた。しかし、国を治め、人の上に立つ者として、桃香には
その責任があるのだ。だが、桃香にはその責任を全うする術を持っていなかったのだ。額を地面につけて土下座
して謝罪の意を示したとしても、それで必ずしも解決するとは限らないからだ。例え、生涯をかけ、心血を注い
だとしても・・・。そして桃香は口を開く。
「・・・正直に言えば、私は彼に会うのが怖いです。私を憎んでいる彼の目が怖い・・・。
でもだからと言って、彼から逃げては、今までと何も変わらない。知らなかったとはいえ、彼を放って
置いた自分と・・・何も変わらない。だからこそ、私は彼に会いに行こうと決めたんです。愛紗ちゃんでも
朱里ちゃんでもない・・・この私が。そう決めたんです。」
自分の心の内を吐き出すように、言葉を紡ぐ桃香。彼女の大きな瞳に不思議と迷いは無かった。
「彼に会う事は、蜀の王としてだけでなく、自分自身のために私は会いに行きます。
彼から憎まれようとも、罵られようとも、つばを吐きかけられようとも、私は彼の憎しみ全てを背負って行く
・・・その覚悟は出来ています!」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
再び二人の間に沈黙が生じる・・・。廖化は桃香の瞳の奥を見ていた・・・。桃香は決して臆する事無く、
凛とした態度で立っていた。
「劉備殿。最後に一つだけ・・・。」
確認するように、廖化が沈黙を破る。
「姜維の事、お願いいたします・・・。」
そして廖化は桃香に向かって、深く頭を下げた。桃香はそれに首を縦に振る事で答えるのであった。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
子供達の姿はなく、そこには姜維と桃香が数歩分の距離を取っていた。大事な話があるからと桃香に言われ、
翠と蒲公英が子供達を連れてその場を離れたせいで、先程までの賑やかさは消え、沈黙が流れる・・・。
桃香が現れてから、姜維は不快そうな顔をしている。
そんな二人の様子を家の角からうかがう愛紗、鈴々の二人の姿があった。
「あの二人、さっきからずっとだまっているのだ・・・。」
「桃香様・・・。」
桃香を心配する二人・・・。本当なら、すぐにでも彼女の傍に行きたい・・・、しかし彼女が一人で行くと
言った以上、それを反故する事は彼女の信頼を裏切る事になる・・・。そして何より、桃香自身のためにも
ここは彼女が一人でやらなくてはいけない事なのだと、理解していた・・・。
「・・・こうして、面と向かって会うのは初めてだよね?」
先に口を開いたのは桃香だった。
「・・・ええ。こうやって言葉を交わすのは今日が初めて・・・です。」
姜維は桃香に会わせるように会話をするが、やはりと言うべきかどこかぎこちない。
「最初、会った時・・・君が私に言った言葉・・・。」
「え・・・?」
「・・・流石は蜀の王様!奇麗事だけは一丁前だな!!って言われた時、私、どきっとしちゃったよ・・・。
まさか、あんな事を言われるとは・・・、思ってもみなかったから。」
「あ、あぁ・・・、それは、その・・・、すいません。」
申し訳なさそうに答える姜維。
「ううん・・・、謝らなくていいよ。君からすれば、私の言っている事はただの綺麗事・・・。
怒るのも無理ないよ・・・。」
「・・・・・・。」
「君の村の事・・・、愛紗ちゃん達から聞いたの。君が私を憎んでいる理由も・・・。」
「・・・・・・。」
「私は・・・、自分がしてきた事は間違っていなかったって思っていた・・・。たくさんの人達が私に力を
貸してくれた。皆で築いてきたこの国を守り、そしてこの大陸を平和するために・・・。」
「頬笑みながら他の相手を力でねじ伏せてきた。」
桃香の言葉を遮って、姜維が喋る。
「どんな建前を作ったって、綺麗な言葉を吐いたって、あんたがして来た事は結局、それなんだ・・・。
相手をさんざん傷つけた後、自分にとって都合のいい綺麗事を並べて、傷ついた相手をあんたの言葉で
洗脳して、自分の理想の糧にする・・・。」
桃香のやり方を批難する姜維。
「今回だってそうだ。最初は俺達を助けようとか言って来て、偽善者の戯言を言いながら近づいて来て、
それで俺達があんたに戦を仕掛けたら、今度は手のひらを返すように、戦いで対応した・・・。戦う以外
にも方法はあったはずだし、その機会もたくさんあった。でも、あんたは戦うという選択を選び続けた。」
姜維の言っている事は一方的なものであったが、確かに一理ある・・・。
「・・・そうだね。君の言う事には一理ある。戦わないっていう選択は確かにあった。あったはずなのに
私はそれを選ぼうとはしなかった・・・。皆仲良くって言っているくせに、自分でその仲を壊しているんだ
もの。笑っちゃうよね・・・。」
そう言って、桃香は自分自身を自虐的に笑った。
「今までだってそう・・・。話合えば、いくらでも違う道があっただろうに。でもそれが出来なかった。
自分は何もできないって思って・・・、皆に甘えて・・・、皆にやってもらって・・・、結局の所、私は
ただ理想を追い求めていただけだった・・・。ううん、違うね・・・。追い求めていたんじゃない、逃げ
ていたんだ、自分が見たくない現実から・・・。見たくない現実を朱里ちゃんや雛里ちゃんに押し付けて
私は自分で掲げた理想を追い求める振りをして、逃げていたんだ。だから、私は君の存在に気が付く事が
出来なかった。」
「ぁ・・・。」
「私が皆に甘えてばかりいないで、少しでも現実を見ようとしていたら、君をここまで苦しめる事は無
かったのかもしれない・・・。と言っても、こんな事言った所で何の意味もないけれど・・・。」
姜維は気まずそうに、桃香から視線を逸らす・・・。
「仕方が無かったって事は俺だって分かっている。あんた達はただこの国の人間に受け入れられて、
それでこの国のためにって事も・・・。でもあんた達は村で起きた出来事を偽って隠した。俺には
それが耐えられなかった。自分達の存在が否定されたような気分で、だから許せなかったんだ。」
「分かってる・・・。私は、あなたに許してもらえるとは思っていないし・・・、許して貰おうとも
思っていない・・・。私が憎いのなら、憎んでくれても良い。」
「え・・・っ。」
桃香の言葉に、視線を戻す姜維。どうしてこの人はそんな事が言えるんだ、彼はそう思った。
「もう逃げない・・・って決めたから。あなたからも、現実からも、自分からも・・・。私はこの国の王
として、その責任を全うする。」
この言葉・・・、桃香自身のものではない。あの時、一刀が桃香に言った言葉である。
「私はきっとこれからも理想のためと言って、誰かを傷つけていくと思う。あなたの様な人をまた現れる
かもしれない・・・。だからせめて、私はその人から逃げず、あなたの様に怒り憎しみ悲しみ全部を受け
入れる。その人とちゃんと向き合って行きたいから。」
「・・・・・・・・・。」
そう言い切った桃香の目に戸惑いは無く、凛としたその姿はまさに一国を担う王の姿そのものだった。
そんな彼女の姿を見た姜維は項垂れてしまった・・・。
「・・・あんたは本当にすごい人だ・・・。」
「え・・・っ?」
「最初会った時は、綺麗事しか言えない様な甘ちゃんだと思ったのに。今は人の上に立つ王様になって
いるんだ・・・。俺には無理だ。怒りにまかせて剣を振るうしか出来ない俺には・・・あんたみたいに
器用に生きていけない。」
「それは違うよ。」
「・・・?」
姜維が言った事をはっきりと否定する桃香。姜維には少し怒っているように見えた。
「私だってただの人間だよ。何処にでもいるような小娘だもん。あなたと何も違わない。
それに今の私がここにいるのは、皆がいたから・・・。」
「皆・・・?」
「そう、皆・・・。私が関わった人達、皆がいたから、私は今こうしてここにいる。姜維君もその皆の
一人なんだよ?」
「俺も?」
そう言って、自分を指でさす。
「うん!もし誰かが一人でも欠けていたら、今の私はきっといなかった。そして、私がこうして君の前に
立てるのは、皆が私を導いてくれたから。良い意味でも、悪い意味でも・・・、だから私はそんな皆の
ために頑張る事が出来るんだよ。」
そう言って、桃香は初めて満面の笑みを見せる。姜維はその笑顔に魅了される・・・。そして悟った。
言葉では言い表せない何かを心で悟った・・・。
「・・・そっか。」
「・・・?」
「何であんたの周りに色んな人間がたくさん集まってくるのか・・・。何となく分かった気がするよ。
やっぱりあんたはすごい人だよ・・・。」
一人で納得する姜維・・・。桃香は何々?と言いながら、彼の顔を窺っている。
「劉備さん、一つ聞いてもいいかな?」
「何かな?」
「俺も・・・、劉備さんみたいになれるかな?」
「うん!」
即答だった、屈託のない笑みで迷う事無く答えた。
二人の間にあったはずの見えない壁が、崩れ始めた・・・瞬間だった。
それは少し離れた家の角から様子を窺っていた愛紗と鈴々、そしていつの間に来ていたのか、他の蜀の武将達
にも・・・それが見て分かった。
説明 | ||
こんばんわ、アンドレカンドレです。 明日から大学が再開するとあって、急ぎ書きました。 今回は前回書けなかった部分の補完という形で第十六章・完結編を投稿します。この辺りの展開、僕はあまり自信が無くて・・・。自分で組み上げてきたはずなのに、いざ書こうとするとむずかしい・・・。 では、真・恋姫無双 魏・外史伝 第十六章〜悲劇と喜劇は終幕へ・完結編〜 |
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コメント | ||
何も成長してない何も学ばない上から目線の劉備(鼻癒える) 桃香の成長に感激!!(キラ・リョウ) スターダストさん、報告感謝します。(アンドレカンドレ) 2p 「方法はあったはずし」 ちょっと変 キョウイの憎しみを解かした桃香も成長してるな、一刀の言葉がすごく効いたみたいだな、一刀の方はこれからどんな風に成長していくんだろう、とても楽しみだ!早めのアップを願う(スターダスト) せっかくの決め台詞も一刀の受け売りかよ・・・(ヒトヤ) これからは一刀が活躍ですかね?次回を楽しみにしています。(もっさん) ふ〜、やっと解決したな。うん。これからどうなるのか楽しみです。(cielo spada) |
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