双子物語84話
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【エレン】

 

 雪乃のサークルに入ったものの、私は気まぐれで色んなところを気分次第で

見て回っている。今日は大地くんとこの野球部の練習を見ていた。

所々で大地くんに向けて黄色い声をあげている女子もいたんだけど練習後、

本人にそれを言うと驚いていた。

 

「けっこう鈍ちんだよね、大地くん」

「うっ、まぁ…鈍いのは自分でもわかってるけど。てっきり他の奴のことかと…」

 

 ちょっと恥ずかしそうに頭を掻く姿を見ると微笑ましくなる。

それから打ち上げでみんなでどこか食べに行こうと着替えた後、外を歩いていると

雪乃や彩菜と他いつもの子たちが楽しそうにお喋りしながら歩いているのを見た。

 

 雪乃の綺麗に輝く白髪が目立つのか私以外の男子たちも見惚れて誰が声をかけようか

とか相談していたのを大地くんが止めていた。

 

「あの子たちはやめとけ。断られるのは目に見えてる」

 

 知り合いである私と大地くんならよく知ってるから、話しかけるだけ無駄なのだ。

なにせ向こうはもう既にカップルで固まっているから。一人、先輩だけはフリーだけど。

あの人も男には興味なさそうだしね。

 

 適当に止めてもそれ以上の説明はしない。しなくても他の男子たちは大地くんの言葉を

信じてくれるし、それ以上に詮索はしなかったから。

 

 それよりもああしてまとまった人数で歩いているのが珍しいから私の興味も

雪乃たちの方へ向いていて、私は男子たちの中から抜けて小走りで雪乃たちの元へ向かう。

 

「ゆきのーん」

「あら、エレン」

 

 いつもアパートで顔を合わせて話をしているものの、大学内では最近あまり顔を

出していないせいか久しぶりな感じがする。

 

「何の話してたのー?」

「ちょっとみんなで食事しながら今後のことについて話し合おうと」

 

「私もついてっていいー?」

「うん、いいわよ」

 

 私の言葉に雪乃は頷いてくれた。すると美沙先輩は私に気づくとすぐに抱きついて

髪の毛をもふもふしてきた。

 

「久しぶりのエレンちゃん。すごく毛がふわふわして太陽の香りがして気持ちいい〜」

「ちょっ、くすぐったいですヨ〜」

 

 二人でじゃれあってると、傍にいた春花が冷めた眼差しで私たちを見て一言。

 

「早くしないと行っちゃうわよ〜」

 

 と言ってから一人早足でさっさと進んでしまう春花、それについていくみんな。

私と美沙先輩は慌ててみんなの後を追うのだった。

 

 有名なファミレスに入ってそれぞれ自由に注文をする。ゆきのんと叶ちゃんは

ガッツリ系を躊躇なく注文。他3人はコーヒーの他、軽食を。そして私一人だけ

パフェを注文してしまって浮いちゃうかなぁとちょっと心配していたら隣にいた

ガッツリ系な二人の方が見た目のインパクト強かった。

 

「いつも思うけど君らいっぱい食べるネ〜」

「お腹空いちゃって」

 

 ほぼ同時に同じことを言う二人。仲良しさんだね〜。微笑ましく二人の大食いを

見ていると正面に座っていた美沙先輩が私に声をかけてきた。

 

「エレンちゃん、口にクリームついてる」

「え、どこでス?」

 

 急に言われたので慌てて拭こうとするとそれよりも先に先輩が私の顔に近づいてきて…。

 

ペロっ

 

ぴゃーっ…!

 

***

 

 少しふらついた足取りで家に戻ると鍵が開いていて中へ入ると妹が私の部屋にいた。

 

「おかえり、姉さん…。ちょっ、どうしたの。顔赤いよ!?」

「ちょっと恥ずかしいことがあって…」

 

 口についたクリームを先輩が舌で直に舐め取りに来たのはすごく衝撃だった。

嫌だったわけではないけど、あまりに驚いて未だ興奮が冷めず。

舐めた本人は何事もないように笑顔でいたから先輩にとっては普通のことなのだろう。

 

「今日はどこ行っていたの?」

 

 妹のエリスは散らかってるものを片付けながら今日の私の行動を聞いてきた。

まるで奥さんのようである。そう考えると口元緩みそうになる。この可愛い妹が…

私のお嫁さん…にゅふふ…。

 

「えっとね…。みんなとファミレス行きながら卒業後のことをね…。仕事のこととか」

「…姉さんは何かしたい仕事とかあるの?」

 

「…特にないねぇ。とはいえ、何もしないわけにはいかないから。それが偶然とその辺り

は彩菜ちゃんと一緒でね〜。とりあえずは今してるバイト続けて〜。

いいとこあれば彩菜ちゃんと同じとこ働ければな〜って思ってるんだ〜」

 

「ふぅん…」

 

 少しつまらなそうに口を尖らせるエリスに私は言葉を続ける。

 

「それに…少しでもお金貯めていって、いつかエリスと二人で暮らせるように

なった時のための資金にしたいなぁとか思ったり…」

「…」

 

 えへへと笑いながら語ると急に黙り込むエリス。

私は自分が言ったことに気づいて慌てた。

 

「あ、あの…エリスが嫌だったら別にいいんだけど。お姉ちゃん的にはその方が

嬉しいなって!」

「べ、別に…私も一緒に暮らせるようになったらいいなって思ってるけど…」

 

「えっ…」

「その方が今より多く見張ってる時間多くなるしね!」

 

 そう言われるとさっきまで幸せ気分が少し暗くなるというか、何というか…。

 

「その…エリス?」

「…」

 

 覗き込むと怒ってるかと思いきやすごく赤くなって照れてる表情を見て私の胸に

何かが突き刺さる。その後、ものすごいドキドキと高鳴っていた。

私の妹、か、可愛すぎる…!

 

「な、なによ!」

「エリスも喜んでくれてるの?」

 

「それは…まぁ、好きだし…。姉さんのこと…」

「はう…!」

 

「変な声だすなぁ!」

 

 私の一言一言に反応してぽかぽか叩いてくるところとかたまらなく愛しい。

そうか、エリスも私と同じ気持ちなのかもしれない。

そう思うと俄然貯める気持ちが強くなってくる。

 

 みんなやりたいこととか決まっていて私だけが取り残されてる気がして寂しかったけど

こうして仕事以外の目標があってもやる気が湧けばその内、ちゃんとしたことが見つかる

かもしれない。それまで精いっぱい頑張ればいいや、そう思えたのだった。

 

「あ、でも」

「ん?」

 

 私を見る目がいつも通り冷静になった妹は眼鏡をくいっと上げて厳しい眼差しで

私を見つめる。

 

「姉さんの計画だけだと不安しかないので、働けるようになったら私がガッツリ働いて

稼ぐからね」

 

 そういえばエリスは学校の勉強以外でも法学の本を読んでいるところを見かけた。

そっち方面に向かうのだろうか…。

 

「頭のいい妹を持ってお姉ちゃん嬉しいわ〜」

 

 そう言って私はよしよしと妹の頭を撫でると顔を真っ赤にした妹は私のことを

長い時間叱り続けるのであった。

 

 でも避けられていた時期を考えると叱られている時間も幸せに感じられた。

私はバカで先のことを考えられない性格をしてるけど、妹とはずっとずーっと

一緒にいたいと思うし、一緒にいるためなら何でもできると思うのだ。

 

「なによ、ニヤニヤして」

 

 エリスは叱るのを止めて私に聞くと私は笑顔を浮かべながら。

 

「ん、やっぱりエリスのこと好きだなぁって思って〜」

「…うん」

 

 不意打ちを受けたような顔をしてから少し赤らめると妹も同じように頷いて

私に叱るのを止めた。それから二人で片付けをした料理をしたりして過ごす。

この普通の生活が長く続けられるよう私はがんばろうと強く思うのだった。

 

続。

 

説明
今回は双子の友人の姉妹、エレンとエリスのお話。
ちょっとツンデレな妹にデレデレな姉に少しでもほっこりしてもらえたら幸いです><
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