後ろから見る景色 |
春は好き。寒かった冬から暖かくなって気持ちが良いから好き。でも夏になると今度は暑くなっちゃうからずっと春だと嬉しい。
ずっと春ならずっと一緒にいられるのかな?
音ノ木坂学院での生活も残すところ後1年になりました。去年はスクールアイドル活動で色んな経験をして忙しかったから、今年はもう少し学生生活を楽しめるといいなぁなんて思っています。
μ'sとしての活動はとても充実していたけれど、やっぱり私はいつもの3人でいる時間を今年はもっと増やしていきたいなぁ。
大好きな2人と私。
海未「ことり、あなたにお話があります。今日の夜、いつもの公園に来てください」
そう言って海未ちゃんは私を誘った。どうやら誘われたのは私だけではないみたい。海未ちゃんからの連絡の後、すぐに穂乃果ちゃんからも連絡があったから。
穂乃果「海未ちゃんから話があるってきたんだけど、ことりちゃんのとこにも連絡きてる?」
ことり「うん、さっき来たよ。いったいなんだろうね」
穂乃果ちゃんにはこう言ったけど、実は大体想像はついてる。海未ちゃん最近ずっと考えこんでいたから。多分先生に言われた話についてかな。
今の季節は夏。春はあっという間に私の前から姿を消してしまって、暑さが顔を覗かせ始めています。
いつもの公園に着くと、そこには迷いのない瞳をした海未ちゃんが待っていました。
長い艶のある髪、しなやかな体型、透き通った綺麗な声。私の大好きな大切な人。
悩みに答えを出した海未ちゃんは、その真っ直ぐな気持ちを私と穂乃果ちゃんにぶつけてくれました。
ずっと待っていた海未ちゃんの気持ち。穂乃果ちゃんと一緒に聞けて本当に嬉しかった。
だけど、海未ちゃん。
私は海未ちゃんが思っているような人じゃないかもしれないよ。
だって私は・・・
数日後
海未ちゃんは私たちに話してくれた後、大きく変化することはありませんでした。いつもの海未ちゃんがそこにいてくれて、ことりとしても今まで通りの3人でいられることがとても嬉しかった。
だけど、だからこそ私は自分の気持ちを隠し続けた。
海未ちゃんに話してほしいなんて言っておいて、自分は話さないなんて本当にズルいと思う。ことりはズルい子。
海未「・・とり、ことり、ことり!」
突然意識の中に入ってくる声。私の大好きな声。
海未「ことり大丈夫ですか?先ほどからぼーっとしているようでしたので」
ことり「ごめんね海未ちゃん、ちょっと疲れてるのかもしれないね」
海未「何か困りごとですか?だったら・・・」
ことり「困りごとってほどのことじゃないんだけどね。でも、ちょっと前の海未ちゃんみたいになってるのかも」
海未「ちょっと前の私というと、ことりも進路で悩みがあるのですか?」
ことり「うーんとね、そうじゃないんだ。」
海未「ことり、前に話した通り私はことりの味方です。ことりの話したいときにでも私と穂乃果には話してください。」
ことり「うん、ありがとう海未ちゃん」
ほら全然臆病者なんかじゃない。海未ちゃんは私が海未ちゃんを支えているって言ってたけど、その逆もあるんだよ。
穂乃果「ことりちゃーん、お願い!宿題見せてーー」
ことり「穂乃果ちゃん、私はいいのだけど、その、えっと・・・」
穂乃果「良かったー、ありがとうことりちゃん」
海未「穂乃果?」
穂乃果「う、海未ちゃん!?あはは、海未ちゃんもいたんだねー」
海未「これだけ近くにいて気づかないとは、相当お困りのようですね」
穂乃果「そうなんだよー、今日提出できないと居残りさせられちゃう・・・って海未ちゃん?」
海未「ことり、行きましょう。まだ休み時間はありますので」
そういって私の手を掴む。
ことり「えっ、でも穂乃果ちゃんが・・・」
海未「最近また、たるんできています。少し厳しくしなくてはいけません」
穂乃果「そんな、海未ちゃん待ってよー。次からしっかりするからー」
海未「そのセリフはもう聞き飽きました」
穂乃果「ことりちゃーん、ううう・・・」
私は海未ちゃんにバレないように穂乃果ちゃんに合図を送ります。
ことり「カバンの中に入ってるよ、海未ちゃんは任せて」
穂乃果ちゃんが九死に一生を得たような顔でこちらを見ている。海未ちゃんの言うとおり私は穂乃果ちゃんに甘いのかもしれない。
海未ちゃんに手を引かれ私たちは屋上へと向かう。海未ちゃんの手はお稽古や弓道をしているにも関わらず綺麗。こうして手を握られると女の子同士なのに少しドキドキしてしまうのは内緒です。
屋上はいろんな思い出がある場所。μ'sのみんなとの思い出、ちょっとつらい思い出、その他にも色々。あの特別な日々はもう戻らないけれど、それでも鮮明に覚えている。
海未「私はこの場所が好きなんです」
急に海未ちゃんが話し出す。
海未「μ'sでの思い出があるのはもちろんですが、一番はあんなに悩んでいる穂乃果を見ることが出来たのが大きいでしょう。」
そう、あれは私が海外に行こうか悩んでいた時、私は穂乃果ちゃんを追い詰めてしまった。大切な人を傷つけてしまった。
海未「あの時は私もどうすべきか悩みました。穂乃果とことりは私にとってとても大切でした。ですが2人のことに私がどこまで突っ込んでいいのかと考えることを先にしてしまい、行動に移せませんでした」
ことり「あれは私が穂乃果ちゃんにしっかり話しておけば良かっただけだよ」
海未「ことり、始めに言っておきますが私はあの時のことをもう一度話したいわけではありません。ただ、私の思ったことは伝えると決めました。だからことりには話します」
海未ちゃんは本当にしっかりしてる。自分の言い出したことを投げ出したりしない。
海未「あの時の私は、正直穂乃果とことりが羨ましかったです。お互いを想い、考え行動するあなたたちが。私はことりから話を聞いていましたが、あなたを引き留めたのは穂乃果です。いえ、穂乃果しかいなかったのです」
海未「私は投げやりになっている穂乃果をあなたのもとに向かわせることしかできなかった。ことりの話を聞くことしかできなかった。その時の私はそれしか出来なかったからです」
海未「だからこそ、羨ましかったのです。穂乃果とことりの結びつきが」
穂乃果ちゃんを傷つけただけではなかった。もう1人の大切な人にも私は迷惑をかけていた。
海未「ことりは優しいですから、私にも迷惑をかけてしまったと思っているでしょう。確かにその時は羨ましくも思いましたが、私の中で変化がありました」
海未「今まで以上に穂乃果とことりのことをもっと知りたい、もっと話して、もっと一緒にいて、もっと私を知ってもらいたい。そう思えるようになりました」
海未「結果として最近気づくまで、2人に私が頼りきりの状況になってしまっていましたが、穂乃果とことりの拠り所でありたいと、2人のためにまだまだ私はできることがあるはずと決心した出来事だったのです」
海未「私はまだまだ未熟者です。ですが、μ'sでの活動や学校生活、そしてまだ見ぬこれからの世界で起こる一つ一つの出来事で成長できると思っています。」
海未「だからこそ、そんな思い出の沢山あるこの音ノ木坂が、今いる屋上が、私は大好きです」
海未ちゃんは私とは違う、こんなにも輝いていて、まっすぐで。
自分が恥ずかしくなるほどに。
でも海未ちゃんはそうは思ってないんだよね。こんな私でも大切に想ってくれるんだよね。
ことり「私も大好きだよ、海未ちゃん」
海未「それは良かったです。ではそろそろ戻りましょうか」
ことり「うん、話してくれてありがとう」
なぜかは分からないけれど、
教室に戻るときも、私の心は揺れ動いていた。
なんで私はこんなにちっぽけなんだろうと。
放課後の生徒会室は3人でいられる大切な場所、そう思っているのは私だけかもしれないけれど。
今日は海未ちゃんは弓道部へ、穂乃果ちゃんは家の用事で先に帰ったから1人で海未ちゃんを待っています。
アイドル研究部の部室でも良かったのだけど、なんとなく1人になりたいときもありますよね。
もうすぐ夏休みだから、夏も終わって秋がじきに顔を覗かせる。
そしたら冬になって、春が来たら・・・
1人だと色々考えてしまうのは海未ちゃんだけではなく私も同じ。
ことり「このままでいいのか・・・」
1人でいる生徒会室はいつもの賑やかな場所とは違い、静かな別の場所のように感じる。
ことり「穂乃果ちゃん、海未ちゃん、私。3人でずっと」
自分に問いかけるように独り言を話す。ほとんど無意識に。
そんなとき生徒会室のドアがノックされた。
???「どなたかいますか?」
どこか聞き覚えのある声。そう思いながらドアを開けると
絵里「ことり!」
ことり「絵里ちゃん!?」
金髪を見慣れたポニーテールでまとめた女の子。服装はもちろん制服では無く、その容姿から1つ上とは思えない綺麗な女性がそこにはいた。
絵里「良かったー、ことりがいてくれて。実は生徒会室に私物が残っているのよ」
ことり「ええと、それならたぶんこれのことかな」
棚の中から写真たてを取り出す。
絵里「そうそれよ!さすがことり、しっかり分けておいてくれたのね」
その写真は絵里ちゃんがバレイをしているときの写真だった。
ことり「絵里ちゃん、それを取りにわざわざ?」
絵里「ええ、だけどなぜか在校生につかまっちゃって困ってて。隙を見て生徒会室に避難がてら写真を取りにきたのよ」
絵里ちゃんは相変わらず生徒に人気があるみたい。美人さんだし、憧れの的って感じかな。
絵里「ことり今、時間ある?だったら少し話でもしない?」
ことり「うん、大丈夫だよ。海未ちゃんの部活が終わるのを待ってただけだから」
絵里「海未は弓道部ね。なら私も海未が来るまで待ってようかしらね」
ことり「絵里ちゃんがいたらきっと海未ちゃんびっくりするだろうね」
絵里「ふふ、そうね。ところでことり、あなた卒業したらどうするつもり?」
唐突な質問に少し戸惑った。その様子を見て間髪入れず
絵里「ことり、あなた以前話のあった海外へ行くんじゃないの?」
まさか今日ここでその話題になるとは思っていなかったからか上手く返事ができない。
ことり「ええと、うん・・・そうしようかなって思ってる」
絵里「それにしてはあんまり乗り気じゃないようね」
絵里ちゃんは何かを知っているかのような口ぶりで続ける。
絵里「ことり、あなた海外に行くべきなのか悩んでいるでしょう?」
その質問に答えることは出来なかった。
ことり「ははは・・・どうしたの絵里ちゃん。ことりの話はいいから違う話をしようよ」
絵里「いいえ、今日はことりとも話したいと思ってきたのよ。1人でいてくれるとは思っていなかったけどね」
絵里ちゃんが私に?
絵里「ことり、穂乃果や海未にはいずれ話さなければならないと思う。もし、それがまだ難しいのであれば、私にまずは話してくれないかしら?」
ことり「絵里ちゃん、いったい何のこと?私は何も困ってないよ」
絵里「海未は逃げなかった。自分の気持ちから逃げなかった。そうよね?」
絵里ちゃんはやっぱり知っている。私のこと、海未ちゃんのこと。
絵里「どうしても話せないというのなら無理には聞かない。でも、あなたは以前も言い出すタイミングを逃してしまったときがあったはずよ」
どうしてこのタイミングでその話がでてくるかなぁ。ついこの間海未ちゃんと話した内容なのに。
絵里ちゃんは、ふー、とため息をついた後
絵里「海未からの相談なのよ。正確には海未から話を聞いた希からのお願いなの」
海未ちゃん?希ちゃん?どうゆうことなの。
絵里「海未は最近進路について悩んでいたみたい。それで機会があって希と凛が相談に乗ったらしいの。海未はそこでことりと穂乃果に伝えるべきことを見つけたみたいね。」
そっかぁ、希ちゃんと凛ちゃんが手助けしてくれてたんだね。
絵里「その時、海未の口からはことり、あなたのことも出たみたいよ。聞いてる?」
ことり「ううん、海未ちゃんが希ちゃんと凛ちゃんに相談してたのも今知ったことだから・・・」
絵里「そう、なら内容を知らないものとして話すわ。海未はことりの夢を応援したいと言っていたの。」
それについては知ってる。海未ちゃんは自分の言葉で私に伝えてくれたから。
絵里「だけど、ことり自身が海外へ行くことに前向きではないのかもしれない、それがなぜなのかは私には分からない。だからこそ力になりたいと言っていたそうよ」
ことり「海未ちゃんが・・・なんで・・・」
隠してきた気持ち、海外には少なくとも数年いることになって日本にいられる時間は極端に少なくなってしまう。穂乃果ちゃんや海未ちゃんに会えなくなるのもつらい。けれど、本当に不安なのは
絵里「ことり、誰に対して遠慮しているのかしら?」
まるで心を読まれたかのように、絵里ちゃんは核心をついてきた。
絵里「これは私の想像だから、間違っていたら聞き流してほしい。ことり、あなたは海外に行くということよりも、自分が自分の夢に向かっていいのか分からなくなってしまっているんじゃない?一度話を断ったこともそう、海未の件もそう、もしかしたら穂乃果も何かあるのかもしれないわね」
ことり「っ!!??」
絵里「私からすれば、あなた達3人はとても信頼しあい、助け合い、尊敬すらしている関係なのだと思う。だけど、その結びつきは時に自分自身の判断を迷わせる結果になっている」
やめて
絵里「穂乃果がいて海未がいてことりがいてその状態はとても素晴らしいと思う。もし、それが2人になって1人だけ別になってしまったらその1人はどうなってしまうのかしら」
もうやめて
絵里「自分がいない場所で、2人が仲良くしている姿を想像する。そしたら・・・」
ことり「やめて!!」
絵里「いいえ、やめない。ことりが素直になるまで私は聞き続けるわ。」
ああ、絵里ちゃんにも迷惑かけている。こんなこと絵里ちゃんもしたくないだろうなぁ。
絵里「ことり、自分が許せないのよね。そんなことを思ってしまう自分が許せないのよ」
ことり「違う!!私は・・・私は・・・」
絵里「2人の傍にいられない自分が嫌なのではなくて、自分がそこにいられないのに2人は一緒にいられることが嫌なのよ」
やっぱりバレてたんだ。私の本当の気持ち。絵里ちゃんは話を聞いただけで見抜いちゃうんだもん。敵わないよ。
絵里「責めているのではないのよ、ことり。あなたはあの2人を大切にしているからこそ、そういった考えが生まれてしまったのよね。それに気づいてしまって、どんどん自分を責めてしまった。」
そう、私は最低なの。穂乃果ちゃんや海未ちゃんに対して、自分がその場にいないことへの悲しみをぶつけてしまったから。一度でもそう思ってしまった私はもうあの2人とは一緒にいられないよ。
絵里「ことりしっかりしなさい。あなたは南ことりであってそれ以上でもそれ以下でもないの。高坂穂乃果と園田海未、この2人の幼馴染みはあなた1人しかいないの。南ことりはそれすらも投げ出してしまうような子だったの?あの2人が大切にしている南ことりはそんな簡単につながりを断つことが出来るの!?」
ことり「断ちたくなんかない!!断ちたくなんか・・・ない」
絵里「だったらあなたはどうするの?海未はどうしたの?そんな海未を見てあなたはどう思ったの?」
ことり「でも、私は穂乃果ちゃんと海未ちゃんを羨んでしまったの。大切な2人を私は自分のことだけ考えて、2人を傷・・・」
その瞬間、私はぬくもりに包まれた。絵里ちゃんの香りがする。
絵里「ことり、穂乃果と海未はあなたがそう思ったからと聞いて、あなたから離れるような人かしら?私はそれについて答えを持っているつもりだけど、ことりも分かっているんじゃないかしら。」
私だって分かってる、分かってるからこそこんな自分が情けなくてしょうがないの。
絵里「私はあなたが羨ましいのよ。こんなにも大切に思える存在がいることはとても素晴らしいことよ。私はあなた達3人ほどではないにしてもことり、あなたがとても大切なの、大事な大事な後輩で、同じ時を分かち合った仲間だから」
絵里ちゃんは私を抱きしめながら最後にこう言った。
絵里「Примите мужество」
ロシア語じゃ分からないよ。あんまりロシア語知らないはずなのに。
絵里「じゃあ、私は帰るわね。海未とも話したかったけど宜しくいっておいて」
ことり「絵里ちゃん、私、まだ分からないよ」
絵里「それでいいわ。あとはあなたが思うようにやってみて。最後に決めるのはことり自身なのだから」
そう言って絵里ちゃんは生徒会室を後にした。
1人になった生徒会室は絵里ちゃんが来る前と同じ静けさ
変わったのは私の・・・
海未「すみません、遅くなりました」
後ろから聞こえる大好きな声、振り返ればそこに大好きな人。
ことり「海未ちゃん、お疲れ様。帰ろっか」
海未「ええ、帰りましょう」
ことり「ちょっと穂乃果ちゃんの家に寄ってもいいかな?」
海未「かまいませんが、穂乃果は用事でいないかもしれませんよ」
ことり「だいじょーぶ、きっと穂乃果ちゃんはいるから」
海未「???」
確信があったわけじゃない。でもきっと穂乃果ちゃんだからいてくれる。だって穂乃果ちゃんだもん。
ー穗むら前ー
穂乃果「結局用事はお母さんと雪穂で行っちゃうから店番だなんて、何のために早く帰ってきたのか分からないよー」
海未・ことり「こんにちは」
穂乃果「あれ?2人ともどうしたのー?」
海未「いえ、ことりが穂乃果のところに寄っていきたいというものですから」
ことり「ほらね海未ちゃん、穂乃果ちゃんいたでしょう?」
穂乃果「よく分からないけど、とりあえず部屋にいこっか」
海未「店番はいいのですか?」
穂乃果「大丈夫大丈夫、こうやってお知らせ残しておけばなんとかなるよ」
そう言って穂乃果ちゃんは、御用の方はお呼びくださいのお知らせと呼び鈴をレジの前に置いて、部屋へと上がっていった。
何度も来たことのある穂乃果ちゃんの家は大体はお店側から入ることが多い。それでいてまるで自分の家のように落ち着く。
穂乃果「はい、海未ちゃん。ほむまんの残りがあるから食べて」
海未「いいのですか、なんならお店にあるものを買いますよ」
穂乃果「どうせ、お店に出せない残り物だから大丈夫。穂乃果はもう飽きちゃってるからさー」
海未「どうしてこんなに美味しいほむまんを飽きたなど言えるのでしょうか」
穂乃果「毎日食べてたらそりゃあ飽きるよ」
海未「私からすれば羨ましいことなのです。毎日ほむまんが食べられるなんて夢のようです」
ほむまんに飽きちゃった穂乃果ちゃんに、ほむまんが大好きな海未ちゃん。こういった会話もいつもの風景。
穂乃果「それでことりちゃん、どうして穂乃果の家に来ようと思ったの?」
穂乃果ちゃんは綺麗な瞳で不思議そうにこちらを見ています。
ことり「えーとね、ちょっとだけ真面目な話をしてもいいかな」
穂乃果「うん、分かった」
海未「分かりました」
大きくひとつ息を吐きだし、私は話し始める。
ことり「穂乃果ちゃん、海未ちゃん。私は2人に謝らなければいけないの。私は2人に対して嘘をついたり、隠していることがあるの。それはね・・・」
海未「話の途中にすみません、ことり、それはあなたにとってつらい話になるものではありませんか?だとすれば無理に話す必要はありませんよ」
穂乃果「そうなの?ことりちゃん」
ことり「うん、私にとっては凄く辛いことでもあるよ。でも、あくまで私がしたことで私自身が辛いだけのこと。今まではそれを押し込めていたのだけど、ある人とお話してこれではダメだって気づいたの。辛いことから逃げてちゃダメなの。だから2人にはしっかり話したいんだ」
海未「そうですか、ことりがそこまで言うのなら私は真剣に聞きたいと思います。穂乃果も問題ありませんね?」
穂乃果「穂乃果はいつでも準備万端だよ!」
ことり「2人ともありがとう。長くなると分かりにくいだろうから、伝えたいことだけ話すね」
目を閉じて一度深呼吸をする。私はこれから2人を傷つける。
ことり「私は、音ノ木坂を卒業したら海外で服飾の勉強をするって2人には言ってたよね。それ自体はその通りで私は海外に行って勉強したいって思ってる。だけどそうしたらしばらくは日本に帰ってこられないと思うの」
ことり「そうしたら穂乃果ちゃんと海未ちゃんにも今のようには会えなくなっちゃうんだ」
ことり「それは私にとってとっても辛いことで、2人がいない生活はやっぱりまだ考えられなくて。最近はそんなことばっかり考えてた。3人で遊ぶようになって、小学校、中学校、そして高校。ずっとずっと一緒だったから。特に高校ではスクールアイドルを通じて、もっともっと2人のことを好きになった」
ことり「きっかけは廃校から救うことだったとしても、自分たちで最後までやりきることが目標になって、そしてやりきった穂乃果ちゃん。ぶつかったこともあったし、いっぱい泣いたこと、笑ったこともあった。いつでも前向きでちょっと抜けたところもあるけど、そんな穂乃果ちゃんが大好き」
ことり「礼儀正しく、しっかりもの。部活も勉強も生徒会もぜーんぶこなす海未ちゃん。女の子なのにそのしぐさや言動にドキッとすることもあったの。私が支えになってるって言ってくれて嬉しかった。私たちの前ではみんなの知らない姿を見せてくれる海未ちゃんが大好き」
ことり「だけど」
覚悟は決めた、あとは絵里ちゃんの言っていたこと。絵里ちゃんが言いそうなことを考えたらきっとこれだ。
ことり「Примите мужество」
海未「ことり、何を・・・」
ことり「私はそんな大好きな2人が私のいないところで楽しく、仲良くすることが嫌だった。私のいないところで私をのけ者にされるのが嫌だった。そんな未来が来るのが嫌だった。私は2人を羨んでしまった」
ことり「2人はそんなこと思うわけないって何度も言い聞かせた。だって絶対そうだもん。そしたら、私がどんどん醜く見え始めた」
ことり「こんなに大切に想ってくれる2人を、いつでもなにがあっても傍にいてくれた2人を、大好きな2人を私は!!」
ことり「だから私は2人と一緒にいることはできないよ」
ことり「大好きだなんていっても、心には醜い私が潜んでいる。これが本当の私なの」
ことり「だからね、もう私は・・・」
この時2人は俯いていた。そうだよね、こんな私はもうダメだよね。
海未「こと・・・」
海未ちゃんが話そうとした、その時
穂乃果「そんなことりちゃん、私は嫌いだよ。大嫌いだよ」
海未ちゃんは驚いた表情をしている。あーあ、穂乃果ちゃんに言われちゃった。嫌いって
穂乃果「穂乃果はそんなことりちゃんは本当に嫌い。」
海未「穂乃果なんてことを言うのですか!ことりは、ことりは・・・」
ことり「いいの海未ちゃん、穂乃果ちゃんがそういうのも当たり前だよ」
穂乃果「そんなことで私たちから離れようとすることりちゃんなんて嫌いだよ!!」
そんなこと?そんなことってどうゆうこと?
穂乃果「ことりちゃんの中に醜い存在がいる?私たちのことを羨んだ?だから一緒にいられない?」
穂乃果「ふざけないで!!穂乃果を馬鹿にしないで!!!」
私はなんで穂乃果ちゃんがそんなことを言うのか理解できなかった。
穂乃果「穂乃果はことりちゃんの全部を知ってるわけじゃないよ。今聞いた話も穂乃果には想像できないことだった。ことりちゃんがそんなことを考えているなんて多分穂乃果には一生分からなかったと思う」
穂乃果「でもさ、ことりちゃんも海未ちゃんも穂乃果の気持ちを全部知ってるわけじゃないはずだよ。それって当たり前だと思う。だって穂乃果の気持ちは誰かに伝えないと知っているのは穂乃果だけなんだから」
穂乃果「そういった気持ちを含めて穂乃果があるの。それが高坂穂乃果なの」
ここまで聞いても私は穂乃果ちゃんが何を言いたいのか分からなかった。
穂乃果「ことりちゃんに嫌いって言われたら穂乃果は辛い。とっても辛い。でもそれはきっと何か理由がある。穂乃果に悪い点があるからことりちゃんに嫌われてしまったのだから」
穂乃果「私がことりちゃんを嫌いなのは、穂乃果と海未ちゃんがことりちゃんをどれだけ好きなのか、大切なのか気づいていないから」
ことり「知ってるよ。2人は私のことを本当に大切にしてくれてるから。だからこそ、醜いことりは傍にいられないんだよ」
穂乃果「ことりちゃんは穂乃果にこう言っているんだよ」
穂乃果「私は2人の前にいないほうがいい。大切な2人にこんな醜い私はふさわしくないってね」
だってその通りだもん。何も間違ってないよ。
穂乃果「それはことりちゃんが勝手に言ってること。だったら穂乃果はこう言うよ」
穂乃果「どんなことりちゃんでも、私はことりちゃんと一緒にいたい。どんなことがあっても穂乃果と一緒じゃなきゃ嫌だよって」
ことり「でもそれじゃあことりの気持ちはどうなるの?」
穂乃果「ことりちゃんも分かってるじゃん。そのまま返すよ、ことりちゃんがいなくなったら穂乃果の気持ちはどうなるの?海未ちゃんの気持ちはどうなるの?」
穂乃果ちゃんの返しに私は答えることができなかった。
穂乃果「誰だってわがままは言うよ。自分の気持ちを優先して、相手の気持ちを考えないことだってある。穂乃果だってそう、ことりちゃんも分かるでしょう」
穂乃果「何度だっていうよ。穂乃果がことりちゃんを嫌いなのは穂乃果たちがどれだけことりちゃんを大切に想っているか気づいていないから」
穂乃果「大切な人が自分のことを考えて、いっぱい考えたうえで離れることを選ぶことがどうしてその人のためになるの!」
穂乃果「ダメな部分も良い部分もまだまだ知らない部分も、これから新しく知ることだって沢山あるんだよ」
穂乃果「それを知りたい、知ってもらいたい。相手のことをもっともっと分かりたい、関わりたい」
穂乃果「そう想える人が自分にとって大切な人なんだよ」
穂乃果「穂乃果には大切な人が沢山いるよ。家族、学校の皆、μ'sのメンバーだってそう。でもね」
穂乃果「海未ちゃんとことりちゃんより大切な人は穂乃果にはいないよ。今までもこれからも」
穂乃果「そんなことりちゃんから穂乃果はこれ以上関わることを止めるって言われちゃった」
穂乃果「こんなに辛いことってないよ。穂乃果のことを知るのを止められちゃったんだから」
そこまで聞いてやっと分かった穂乃果ちゃんの気持ち。
穂乃果「羨んだから何?醜いから何?そんなことりちゃんを穂乃果は知らない。だって今知ったのだから」
穂乃果「私にもっと教えてよ。南ことりって女の子のことを。もっと知りたいよ。ずっとずっと教えてよ」
穂乃果「離れてたって、傍にいれなくたって、ことりちゃんが穂乃果を、海未ちゃんをどんなふうに思ったって」
穂乃果「穂乃果はことりちゃんのことをずっと大好きでいさせてください」
穂乃果「穂乃果にことりちゃんを嫌いにさせないでください」
そういって穂乃果ちゃんは黙ってしまった。
穂乃果ちゃんは私を嫌いと言った。
それは2人を大切に想っているふりをして、自分を守ろうとする南ことりのことだ。
2人を羨んだ私は結局のところそれを盾にして、2人を理由にしてその2人から離れようとしている。
そんな南ことりは穂乃果ちゃんに嫌われて当然だ。
自分の気持ちをぶつけて、自分の間違いを認めて私を引き留めてくれた穂乃果ちゃん。
今の私は、自分の間違いを引き合いに自分の気持ちをぶつけて穂乃果ちゃんから離れようとしている。
何をやっているんだろう。
結局全部自分のためだったんだ。
2人の為、それはただの言い訳だったんだ。
ことり「穂乃果ちゃん、海未ちゃん」
ことり「私に、南ことりにもう一度チャンスをください」
ことり「さっきまでここにいた南ことりにチャンスをください」
ことり「私に2人を大好きでいさせてください」
簡単なことだったんだ。よくある話。
ダメな部分もいい部分も全部含めて、その人が作られていく。
色んな事を経験して、色んな感情を持って、色んな人と出会って
1日として同じ自分はいないんだ。
2人を羨んだ南ことり。
2人を大好きな南ことり。
2人に助けてもらった南ことり。
沢山の私で私は作られている。
自分の一部で自分を決めてしまった私を穂乃果ちゃんは嫌いだといってくれたんだね。
その人の全部が好きになることはきっとだれにもできない。
それでも一緒にいたいと想える人が
本当に大切な人なんだ。
翌日
穂乃果「待ってよー、海未ちゃん、ことりちゃーん」
海未「どうしてそういつも集合時間に遅れるのですか!?」
穂乃果「いやー、何で夜遅くってあんなに面白い番組があるんだろうねぇ」
ことり「穂乃果ちゃん、夜遅くまで起きていたってことは宿題やったんだね」
穂乃果「宿題?あー宿題ねぇ・・・」
海未「穂乃果?」
穂乃果「ことりちゃーん、お願い。ノート見せて!」
海未「穂乃果!!」
穂乃果「う、海未ちゃん・・・」
海未「何度言ったら分かるのですか、宿題は自分のためにやるものであって、誰かに見せてもらうものではありません」
穂乃果「こうなったら教室の誰かにみせてもらうまでだー」
海未「待ちなさい!穂乃果ーー」
2人はいつものように走り出す。
何度も見慣れた後ろ姿。
私だけの風景。
これを見るために、ずっと2人を大切にしよう。
まだ私もしらない私を知ってもらうために。
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前作「隣と隣」のその後をことりちゃん視点で綴ってみました。 | ||
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