真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 52
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「ぶぇっくしょっ!」

 

 張飛と孔明に会うため、どこから行こうかと考えていると急にくしゃみが出た。

 

「なんだ、誰か噂でもしてんのか?」

 

 まぁ、風邪ではないとは思うが。そう思いながら鼻を2,3度こすってむず痒さを取り除くと、もう一度どこへ行こうか考えをめぐらす。

 

(確か、馬車に引かれかけたって言ってたから、大通り近くだよな。そうなると、西側の服屋と乾物屋の間か、南の出店の多い辺りだよな)

 

 張飛が一緒だという事を考えれば、出店の方にいる気がする。

 

「とりあえず南に向かうか」

 

 目的地を決めて、足を運ぼうとした時ふわっといい匂いがしたので出しかけた足を止めた。

 

(……今のうちに、軽く腹ごしらえしておくか)

 

 一応、軽く朝飯は食べたが、この後で昼飯を食べる時間があるかどうかも分からないし、さっき本気で動いたのもある。今のうちにしっかりと食べておくのも悪くはない。

 

「まっ、腹が減っては大事はなせぬってな」

 

 俺はその匂いに釣られるようにして店の中へと入っていった。

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「ごっそさん」

「まいどありぃ!」

 

 店主にあいさつをし、店を出て一度伸びをする。

 

「さてと、行くか」

 

 当初の予定通り、南の出店のあたりへ向かう。

 

(……今更だが、出店で食った方がよかったか?)

 

 移動している最中にふとそんな考えがよぎったが、後の祭りだ。

 

(まぁ、俺がラーメン一杯食った時間でそこまで移動はせんか)

 

 もし、張飛がそこで食べていたなら山盛りラーメン4杯ぐらいは食べているはずだ。急ぎ足でいけば十分探せる。

 

「うしっ」

 

 善は急げ、俺は急ぎ足で南へ向かう。

 

(さて、どんな挨拶をすべきか……)

 

 張飛の方は割とすんなりいくような気がするが、問題は孔明だ。

 

(……いつぞ、鳳統を傷つけないって約束したんだよな)

 

 だが、結局はその約束を破ることになってしまった。正直、いくら平謝りしたところで許されるようなものでもない。

 

(どうするかなぁ……)

 

 先に鳳統に会うべきかとも考えたのだが、それはそれでなんだかなと思ってやめようと決めたのだが……

 

(……いや、でもなぁ)

 

 やはり、傷つけてしまった方にこそ先にあいさつをすべきではないだろうか?

 

「やはり、そっちの方がよかったか?」

 

 とはいっても、鳳統の場所は星からは聞いていないし……

 

「……我ながら情けねぇな」

 

 無意識に口からため息が出てしまう。

 

「…………やめやめ。一度決めたんだ、ならやり通さねぇと」

 

 そう思って意識を頭の中から外へ戻した時だった。

 

「ん?」

 

 ふと、視界に水色の髪が見えた気がした。自然とその見えた方角へ顔が向く。

 

「あれは、本屋?」

 

 そして、その髪は店内へ消えていく。

 

(まさか、鳳統か?)

 

 もしそうなら、ここであいさつをしておくべきではなかろうか。

 

(……………よし)

 

 きっと、これは仏様やら神様がやっぱ謝っとけって言ってるんだ。そうに違いない。そう思い込んで俺は後を追って本屋の中へ入る。

 

「さて……」

 

 店に入ると俺は本を探すふりをしながら本棚の合間を見ては少女を探す。大きい本屋なので、少し時間はかかったが、店の奥まったところでさっきの色が見えた。

 

「……いた」

 

 そこにいたのは、やはり鳳統だった。何かの本をためらいつつ手に取っていた。

 

(……覚悟を決めろ、俺!)

 

 俺は短く息を吐いてから、彼女に声をかけた。

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 時は少し遡る

 

「あ、あわわ……」

 

 先程、玄輝の想いを奪うために手札を増やそうとした雛里だが、彼女は肝心なことを忘れていた。

 

「……はぅぅぅ」

 

 そう、一人で街に出たことが全くなかったことを。

 

 いつもは大抵、朱里か北郷と出るのだが、勢いのままに出てしまったため北郷どころか配下の人に一言伝えただけで出て行ってしまったのだ。

 

(どどどど、どうし、どうしよう……)

 

 とりあえず、人の目に入らないように物陰に隠れてしまったが、彼女の混乱は止まらない。

 

(い、一回戻ってご主人様に……)

 

 いや、それはダメだとすぐに思い直す。

 

(ご主人様と桃香様は“準備”があるし……)

 

 かと言って星にはどうにも頼みづらい。朱里と鈴々は視察、愛紗はあの子を探しに行っている。

 

(わ、私がどうにか、しなきゃ……)

 

 でも、怖いものは怖い。だが、そんなとき彼女を勢いづかせたあの言葉が頭をよぎる。

 

(実らぬならば、奪ってしまえ……)

 

 奪おうとしているのに、こんな臆病でいいのか、彼女の心に闘志が宿る。

 

「こ、こんなんじゃ、駄目……!」

 

 帽子を目深にかぶり、目をぎゅっとつぶって覚悟を決める。

 

「……っ!」

 

 そして、物陰から出て通りへ出る。たくさんの人、自分よりも大きい人が歩く道。怖い、でも……

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 

 彼女は精一杯の勇気で目的地の本屋へ向かう。

 

(怖くない、怖くない、怖くない……)

 

 心の中で何度も何度もつぶやいてひたすら歩く。永劫とも思えるような恐怖に耐えていたが、その時間は思った以上に早く終わった。

 

「あっ」

 

 たどり着いたのだ、本屋に。

 

「は、はふぅ……」

 

 思わず地べたに座り込んでしまいそうになるが、頭を振って足に力を入れる。

 

「……うん、大丈夫」

 

 しっかり歩けることを確認して店の中へ入る。

 

 店の中は本の匂いで満ちていた。その匂いが彼女の心を落ち着かせる。

 

(まずは、恋愛物語とかかな?)

 

 そう考えて奥へ向かう。この本屋には一度朱里と来ていたので、どこに何の本があるかは把握していた。目的の本棚へたどり着くと、見上げながらざっと背表紙を確認する。

 

(……どれがいいかな?)

 

 そう思いながら彼女が手に取ったのは、

 

(“桃色楽園恋愛譚?”)

 

 奇妙なタイトルの本だった。ここまで奇妙だと逆に気になる。

 

(え〜と……)

 

 とりあえず読み進めてみよう。そう思ったが、その考えは数分もせずに桃色に支配される。

 

(あ、あわぁ〜〜〜〜〜!!! こ、こここれ艶本!?)

 

 “桃色楽園恋愛譚”は店主が間違えて置いてしまった艶本だった。

 

(こ、ここここんなの、間違えて子供が読んじゃったら……)

 

 そう、ある意味大惨事である。ある意味。

 

(……そ、そう、これは検閲、検閲は大切です)

 

 子供がどうして読んではいけないかを的確に話すにはまず自分が内容を知っていなければ、そう言い訳を心の中でしながら彼女は読み進めていくが、そこである単語に目が留まる。

 

(…………房中術?)

 

 一瞬、思考が止まる。

 

(ぼ、ぼぼぼぼぼぼ、ぼう、ぼうちゅ、房中術!?)

 

 房中術、それは彼女の中では強烈な桃色用語(まぁ、本来は健康法の一つなのだが)である。

 

(こ、こここここここれはだめっ! 子供が、子供が読んじゃいけないやつだよぉ〜〜〜!)

 

 慌てて本棚に本を戻そうとして、気が付いてしまった。

 

(こ、ここで同じところに戻したら……)

 

 そう、子供が読んでしまう可能性がある。

 

(……も、戻さなきゃダメ、だよね。うん、ちゃんとしたところに置かないと)

 

 そう思い彼女はそこからさらに奥へ視線を向ける。

 

(あそこは……)

 

 禁忌の場所。最初に来たときは一瞬で悟り、危険領域と判断した、その場所は……!

 

(成人向けの、本棚!)

 

 思わず生唾を飲み込んでしまうが、彼女の覚悟は決まっている。一歩一歩足を進め、そして本棚の影からその領域を除く。

 

「誰も、いない……」

 

 それを確認すると素早くそこへ入り込み、周囲をうかがいながらさっきまで持っていた本をそれらしい位置に入れる。

 

(これで、大丈夫)

 

 そう思ってふと隣の本を見ると……

 

(“誰でも簡単! 房中術! 〜これであなたも夜の支配者!〜”)

 

 彼女の目は釘付けになり、そして……

 

「はぷぅ……」

 

 思わずよろめいた。

 

(ど、ど、ど、どうしてこんな時に限ってぇ〜〜〜……!)

 

 そう思ってしまう鳳統だが、人生なんてそんなものである。出会うときは出会ってしまうものだ。

 

 しかし、彼女にはそんなことを考える余裕などありはせず、突然入ってきた情報に混乱してしまう。

 

(で、でも、こんな時だからこそ、読むべきなのかな? う、ううん、玄輝さんはきっとこんな本を読んでる子なんて、だけど……)

 

 そう思考すること数分。彼女が出した答えは、

 

(て、手札を増やさなきゃ……!)

 

 そう、当初の目的のため、手に取ることだった。震える手を本に伸ばし、そこから引き抜く。

 

(あ、あわわ……)

 

 震える手は止まることを知らず、そのまま表紙を……

 

「鳳統」

「はびょぶぺぴゅΦ×ζσэю!??!?!??!??!?!?!??!???!?!」

 

 さっきも言ったが、人生なんて出会ってしまう時は出会ってしまうのだ。どんな状況であろうと。

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「鳳統」

 

 彼女の名前を呼んだ。だが、想像していたものとは別の事態が発生する。

 

「はびょぶぺぴゅΦ×ζσэю!??!?!??!??!?!?!??!???!?!」

「鳳統?!」

 

 彼女が、壊れた。

 

「にゃ、にゃにゃにゃにゃんでぎぇ、玄輝さんが!?」

「本屋に入っていくのが見えたから……」

 

 そう言って何となく彼女が手にしている本に視線を向けると、題名が少しだけ見えた。

 

「“誰でも簡単”……?」

「ひゃ、ひゃわぁああああああああ!」

 

 普段の声量からは考えられない大声を出しながら彼女は本を叩きこむようにして元の場所に戻す。

 

「な、なんでもありまひぇん!」

「いや、そんな慌てて戻さんでも」

「ありまひぇん!」

「あ、はい、ナンデモナインデスネ」

 

 にしても、どうしてそんなに慌てているのか分からないな、そう思って本棚に視線を向けようとしたら。

 

「玄輝さんっ!」

「ごふるっ!?」

 

 おそらく、鳳統の全身全霊であろう当て身がちょうど俺の腹に叩きこまれ、何の構えもしていなかった俺は押し倒されてしまう。

 

「いてて……」

 

 とりあえず、受け身だけは取れたから頭は打たなかったものの……

 

「鳳統、さっきからどうしたんだ……?」

 

 俺はいまだに腹の上にいる鳳統に視線を向けると、

 

「……………………」

 

 涙目になりながら顔を真っ赤にして呆然とした表情をしていた。

 

「ほ、鳳統?」

「…………はぷぅ」

 

 だが、耐えられなかったのかそのまま意識がどこかへ行ってしまった。

 

「ほ、鳳統〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 

 この大声で店主から怒られたのは、まぁ、この際どうでもいいとして。とりあえず、気絶した彼女をおぶさり、俺は近場の茶店で休ませてもらった。

 

「う〜ん……」

 

 長椅子で俺の膝を枕に意識が戻らない彼女は赤い顔のままうなされていた。

 

「…………どうすっかねぇ」

 

 この後の事を考えながら茶をすする。

 

 さすがに店の人に預ける訳にもいかないし、かといっておぶさったまま移動するのも他人の目を引きすぎる。

 

(鳳統、人見知りだもんな……)

 

 目覚めたのにすぐに背中で気絶されるのは勘弁願いたい。

 

「……ん?」

 

 そこである事に気が付いた。

 

「鳳統、そういや一人で本屋にいたな」

 

 いつもなら必ずと言っていいほど誰かと一緒に行っていた彼女が一人で本屋にいた、それは大進歩とも言えることではないか?

 

「……にしてもどうして」

 

 一人で本屋にいたのだろうか? どうみても戦術書を読んでいた雰囲気ではなかった。

 

「まぁ、それは目が覚めてから聞けばいいだろう」

 

 そう思って再び茶をすすったところで、二人の少女が店に入ってきた。

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GW2回目の更新、どうもおはこんばんにちわ。作者の風猫です。

 

「あれ、雛里って玄輝の後に出ていなかったっけ?」と思った方へ。

 

答えは玄輝がラーメンを食べていた間に雛里が追い抜いてしまった、です!

 

ミスではないよ!

 

と、本文に書こうと思ったけど説明臭くなる気がしたのでこちらに書かせていただくことにしました。

 

さて、これにてGW2回目の更新は終りです。

 

もし、何かミス等がありましたらコメントをお願いいたします。

 

では、また次回

 

説明
オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。
大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。































ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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コメント
良かった、ここのホウ統は腐らずに済みそうだ(突っ込むところそこ) 話し次第ではついていきそうな気もしないではないですが、玄輝君説得ガンバレー(はこざき(仮))
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オリジナルキャラクター 鬼子 蜀√ 真・恋姫†無双 

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