ビーストテイマー・ナタ2
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階段を昇り切ると目の前に大きな扉があったので、剣士はノックすると大声を張り上げます。

 

「魔法使い・ユリアーノ様はおられますか?」

 

「おや、どちら様かな?」

 

「私の名はゲイザーと申します。ユリアーノ様に知恵を貸していただきたく、参上しました」

 

「うむ、中に入りなさい。詳しく話を聞こう」

 

剣士がドアを開けると、ローブを着て獣の顔をした人物が立っていました。

 

「ユリアーノ様は獣人であらせられましたか」

 

「わしが獣人だと何か問題でもあるのかね?」

 

「いえ、獣人の方が身体能力の高さは人間よりも優れておりますので、知能も人間より高いと言う可能性は十分あります」

 

「ほほう、なかなか良識のあるお方のようじゃのぉ。わしの姿を見て剣を向ける愚か者もおったが…」

 

「むしろ、貴方が獣人で良かった。実は私の相談と言うのが、獣人に関しての悩みなのです」

 

「はて、獣人に関する悩みとな?ソファーに腰掛けなされ。ゆっくり話を聞くとしよう」

 

ユリアーノに促されてゲイザーはソファーに腰掛けました。ふかふかでとても座り心地が良いソファーでした。

 

「私はズルをして、この塔を昇り切りました。ユリアーノ様に認めてもらう資格はないのかもしれません」

 

「ズルをしたとは…。わしの弟子のナターシャが案内をしたようじゃが、あの子をどうやって手なづけた?あの子は人間には懐かない子でのぉ」

 

ナタは部屋の隅っこで、待っていました。大人が大事な話をしている時は邪魔をしてはいけないと、子供ながらに理解していたからです。

 

「そうなのですか?随分と人懐っこい子供だなぁと思っておりましたが…」

 

「お主が普通の人間ではないことをあの子も見抜いておったのかもしれぬのぉ。あの子は人間には心を開いたことがないんじゃよ。あの子自身は人間じゃと言うのに…」

 

「ユリアーノ様にはわかるのですか?私の身体の異変が…」

 

「うむ、獣人は嗅覚が優れておる。ナターシャは人間じゃが、尋常ではない魔力の持ち主でのぉ。お主の魔力の波動を感じ取ったのじゃろうて」

 

「私は魔法は使えません。魔力の波動などあるのでしょうか…」

 

「今は鎮まっておる。しかし内部に何かが燻っておるのは魔力の波動で感じ取れる…。一体、何があったんじゃ?話してみなさい」

 

「実は数ヶ月前、国王からの依頼で獣人の討伐に大勢の傭兵が雇われました。私はその中の一人です。獣人は我々、人間の勝てるような相手ではなく、我が隊はほぼ壊滅しました…」

 

「ふむ、お主だけは生き残ったのかね?」

 

「それがわからないのです。私は死んだはずでした。いえ、死んだと思っていたら、目が覚めて生きておりました」

 

「生きておったのなら何も問題はなかろうて?なぜここに来たんじゃ…」

 

「私も最初はそう思いました。生きていたのは幸運だったと…。しかし私は月に一度、記憶喪失になる日があります。そしてその日、私の滞在している街に必ず獣人が現れたと言って、騒ぎになっておりました」

 

「なんと!それはもしや…」

 

「獣人に襲われた者は殺されるか、運が良ければ獣人の仲間にされると聞いた事があります。ひょっとして私の身体は満月の夜になると、獣人になってしまうのでしょうか?」

 

「なるほど、お主の身体から微かに獣人の匂いがしたのはその為か…」

 

「獣人になってしまう身体を元の人間の身体に戻す事は出来るのでしょうか?」

 

「それはいくらわしでも出来ないのぉ。一度、獣人になった者は永遠に獣人のままじゃ」

 

「そうですか…。ならば私をユリアーノ様の手で殺してください!」

 

「このわしに殺してくださいとは…。穏やかではない相談じゃのぉ」

 

「今のところ私の滞在した街では死人は出ておりませんが、私の記憶がない時に私が人を殺めてしまったとしたら…考えただけでゾッとします」

 

「話を聞くに、記憶を失う事が問題なだけじゃな。お主の意思があれば、人を殺めることはあるまい」

 

「しかしどうしても思い出せないのです。街の噂では獣人は暴れていたわけではなさそうでしたが…」

 

「わしは完全な獣人じゃから、記憶がなくなることはない。お主は今、半獣人状態にある。そこに問題があるのじゃから、完全な獣人になれば問題は解決するはずじゃよ」

 

「さすがユリアーノ様だ…。私には及びもしないお考えに感服致しました。ところで完全な獣人になる為にはどうすれば良いのです?」

 

「お主を獣人に変えた獣人を探しなさい。獣人になる為には獣人と血の契約を交わす必要がある。お主を半獣人にした獣人にしかお主を完全な獣人にすることは出来んのじゃよ」

 

「私を獣人に変えた獣人とは、一体誰なのでしょう?」

 

「それはお主自身が探すしかない。わしにはわからぬことじゃから」

 

「顔も名前も知らない相手を、一体どうやって探せば良いのです?」

 

「血の契約をした者を見つければ、わかるやもしれぬ。今のお主なら嗅覚で見つけられるはずじゃよ」

 

「わかりました。その獣人を探す旅に出ます」

 

ゲイザーがソファーから立ち上がったので、ユリアーノは慌ててゲイザーを引き留めました。

 

「待ちなさい!わしに一つ良い提案があるのじゃが?」

 

…つづく

説明
昔、書いていたオリジナル小説の第2話です。
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