真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 55
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「孔明、張飛」

「んにゃ!? 愛紗! 寝てないのだ!」

「落ち着け、俺だ」

「なぁんだ、玄兄ちゃんかぁ」

 

 ほっとしたような表情をする張飛だが、すぐに疑問の表情に変わる。

 

「あや? でも、今日出発じゃなかったっけ?」

「出立は夕刻って話しただろうに」

「あや〜、そうだっけ?」

「……まぁ、いいや」

 

 どうでもいいっちゃどうでもいいし、そう思い込んで俺は本題に入ろうとしたのだが……

 

「……じ〜」

「ん?」

 

 張飛の視線が左肩の雛里に移っていることに気が付いた俺は慌てて雛里に話しかける。

 

「すまん、雛里。すぐに降ろす」

「は、はぃ〜」

 

 彼女をゆっくり地面に降ろすか降ろさないかのところで、張飛が大きな声を出した。

 

「あぁ〜! 玄兄ちゃん、雛里を真名で呼んでいるのだ!」

「あ、ああ、そのことなんだが」

「ずるいずるいずるい〜! 鈴々も真名で呼んでほしいのだぁ〜!」

「あ、いや、そのことをだな」

「む〜」

 

 ご立腹の張飛の前で色々話すのは意味がなさそうだ。

 

「……本当に呼んでいいのか?」

「もう預けてあるのだ!」

「わかったよ、り、鈴々」

 

 その瞬間、いつも見せている“にゃはは”という笑顔を見せてくれた。

 

「うんなのだ! やっと呼んでもらえたのだ!」

 

 と、鈴々が飛び跳ねながら喜んでいるところへ騒ぎに気が付いた孔明がやってくる。

 

「玄輝さん? それに雛里ちゃんまで、どうしたんですか?」

 

 と、彼女の目がすっと鋭くなる。

 

「“?”」

 

 二人して首をかしげるが、俺はハッとなって雛里の顔を見る。

 

(し、しまったぁ! 目がまだ赤い!)

 

 そう、人は泣くと目の周りが赤くなる。しかも、雛里は泣き止んでまだそんなに時間がたっていない。

 

「あ、いや、孔明これはだな……」

「…………」

 

 ぐぅ、視線が冷たい! 仕方ないけど!

 

「これは、その、雛里と話していていろいろと」

「……玄輝さん、今、なんて?」

「へ? 雛里と話していて……」

 

 それを聞いた孔明は全速力で雛里の方へ向かっていったかと思うと、そのまま彼女を連れて俺たちから距離を取る。

 

 で、そのまま彼女と二人だけで話を始めてしまった。

 

「……たの? ほん……?」

「……うん。それで……」

 

 一体何の話をしているのだろうか、ものすごく気にはなる。だけど、どうにも入ったらまずい気がする。

 

 で、おとなしく待つこと3分。

 

「玄輝さん」

「な、なんだ?」

 

 話が終わり、彼女は俺に声をかけた。

 

「雛里ちゃんから話は聞きました。みんなの真名を呼んでいるですね」

「……ああ」

「それはどうしてですか?」

「……俺の、覚悟だ」

「その覚悟とは?」

「必ず戻ること、それと」

「それと?」

「……俺自身と、向き合うためだ」

 

 今まで復讐だけ考えていたが、愛紗に言われて変わらないといけないと思った。自分についてあれこれ考えて、色々なことに向き合わなければいけない、そう感じたんだ。

 

「……まぁ、あとは迷惑をかけたのもある」

 

 一応、それも最初から入っていたのだが、詠の話を聞いてその思いはだいぶ強くなった。

 

「そうですか……」

 

 俺の話を聞いた孔明は一度目を閉じてから、もう一度開いて言葉を口にする。

 

「約束、覚えてらっしゃいますよね」

「ああ」

「でも、玄輝さんはそれを破りました」

「……そう、だな」

 

 “傷つけるな”その約束は確かに守れていない。

 

 そのことに顔を歪ませていたが、孔明の吐いた一息でゆがみを直す。

 

「でも、その傷が癒えてしまった以上は明確に破った、とは言い切れません」

「孔明?」

「……だから、今回は不問にしてあげます」

 

 そう言ってぷぃとそっぽを向いてしまう。

 

「納得は、してないって感じだな」

「当たり前です。傷つけたことには変わりないんですから」

「そりゃそうだ」

「でも、2回目はありませんよね?」

 

 その言葉に、一瞬だけ息が詰まる。

 

「それは、すまん。約束できない」

「……どうしてですか?」

「…………その、どうにも俺には抜けているところが多いようでな」

 

 星に愛紗のことを指摘され、雛里の時にはどうしたらいいかわからずに手をこまねいていた。それを考えると抜けていると十分言える。

 

「だから、その、知らぬ間にやってしまうような気がしてな……。明確に約束できる自信がな……」

「そういうことでしたら、約束してもらいます♪」

「話が飛んだ!? というか、約束が」

 

 だが、彼女は俺の言葉を最後まで聞かず、手で制してから続きを口にする。

 

「前の玄輝さんなら納得できますけど、今の玄輝さんであればできるって思いますから」

「それは……」

「買い被りでも何でもありません。それに」

「それに?」

「傷つけても、きっとそれ以上の何かをしてくれるって信じていますから」

 

 その言葉に、俺はため息を吐いて頭を掻いた。

 

「………………たはぁ〜、信頼には答えるもんだよな」

「ふふっ」

「…………全力は尽くす」

「はい♪ 尽くしてくださいね」

 

 笑顔で言われちゃそうするしかあるまい。

 

「それで、その」

「……真名でしたら、すでにお預けしているんです。お気兼ねする必要なんてないですよ」

「では、お言葉に甘えて」

 

 心の中でこぶしを握って、その名を口にする。

 

「朱里」

「はい♪」

 

 こうして、6人目の真名を呼ぶことができた。

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 だが、そのことに安堵しているわけにもいかない。

 

「そうだ、二人は夕刻は空いているか?」

「あ〜……」

「えっとですね……」

 

 ……二人してなんか妙な反応だな?

 

「別に、空いていなかったら空いていなかったでいいんだが……」

「いえ、そうですね。空いていますよ私も鈴々ちゃんも」

 

 ならば……

 

「じゃあ、すまないが正門のところに二人とも来てもらえないか? みなに話したいことがあるんだ」

「話したい事、ですか?」

「ああ」

 

 その言葉に若干悩むそぶりを見せる朱里。

 

「えっと、本当に大丈夫か?」

「え? あ、ひゃい! 大丈夫ですよ!」

「…………何故慌てるか」

 

 …………なんだろう、心配よりも疑いの気持ちがふつふつと湧いてきたぞ?

 

「え、えっと、ナンデモナイデスヨ?」

「じー」

「は、はうぅぅぅぅ……」

「……孔明さん、何を隠しておいでか?」

「ど、どうして真名じゃないんですか?」

「さて、何故であろうな?」

「ど、どうしてそんな普段使わない口調なんですかぁ……」

「ナニユエデアロウナァ?」

 

 必死で目を逸らす朱里を視線だけで追い詰めるが、その手を引いて鈴々が脱兎のごとく走り去る。

 

「三十六計逃げるにしかずなのだぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

「あ、鈴々!」

「ごめんなのだぁあああぁぁぁぁぁ…………」

 

 そしてそのまま遠ざかって行ってしまった。

 

「……なんだったんだ」

 

 呆然とするしかない俺は少しの間、二人が逃げ去っていった方向を見ていたが、頭を振って考えを切り替える。

 

「そろそろ北郷と劉備の所に行ってみるか」

「あ、あの、玄輝さん」

「ん? 雛里?」

「今日はその、お二人とも仕事が……」

「……そんなに溜まってるのか?」

 

 日の高さを見るに正午はとっくのとうに過ぎている。大体三時半ごろだろうか?

 

「出立まであまり時間がないんだが……」

「……遅らせることは、できないですか?」

「出立をか?」

 

 俺の問いに雛里は小さく頷く。

 

「むぅ……」

 

 まぁ、確かに少しぐらい遅れても問題ないが……

 

「仕方がない、そうするしかないか」

「ほ、本当でしゅか!?」

 

 突然の大声に思わずたじろいでしまったが、咳払いをしてから先を続ける。

 

「北郷たちに話ができなかった時はな」

「……夜になってしまったら?」

「…………今夜って、新月だったか?」

「え〜と、確かそうだったかと」

 

 新月かぁ……

 

(さすがに、動けんか)

 

 夕刻、五時ごろならある程度進んで、野営の準備ができると思っていたのだが新月となると話が変わってくる。

 

「……そん時は明日出立するしかないな」

「そ、そうですか」

 

 そう言って目深に帽子をかぶってしまう雛里だが、その直前に見えた表情はどこかうれしそうに見えた。

 

(……たく、小言の一つも言えねぇや)

 

 盛大に溜息を吐いてから俺はこれからどうするかを考える。

 

(むぅ、みんなを正門に待たせて北郷たちを呼びに行く、って形になるか?)

 

 そうなると、本当に明日出立になりかねないな……

 

(……なったらそうなったで仕方ないか)

 

 あんまりずるずると長居することにだけはしたくないが、事情が事情だ。明日になる可能性も考えておかないと……

 

(……こんな時に限ってまじめに仕事しやがって)

 

 愛紗が聞いたら間違いなく鬼神が如き眼光で睨まれかねないことを考えるが、しょせん脳内でのこと。さっと浮かんではさっと流れる。

 

「これからどうするかね……」

 

 二人以外はあいさつを終えている。出立する夕刻ぎりぎりまであいさつできないとなると、時間が空いてしまう。

 

「あ、そうだ」

 

 そういや、さっき……

 

「なぁ、雛里」

「はい?」

「どうせなら本屋に行くか? さっき色々あったが、本屋にいたってことは何か本を買うつもりだったんだろ?」

「ひゃ、ひゃい!?」

 

 いや、そんなに驚かなくても……

 

「一冊くらいなら買う余裕もあるから……」

「大丈夫れしゅ!」

「あ、はい」

 

 この押しをするときはさっさか引いた方がいいな。

 

(まぁ、悪いわけじゃないけど何か後ろめたいことがあるんだろ)

 

 何となくそんな気がする。でも、そうなると……

 

「なら、どこかの茶屋にでも行くか?」

「そ、そうでしゅね……」

 

 さて、じゃあ適当な茶屋を探すか。

 

「行こうか」

 

 そう言ってつい無意識に手を差し出していた。

 

「あ……」

 

(やべっ! いつも雪華とやっているからつい……)

 

 とは言ってその手を戻すのもどうかと思った俺はとりあえずそのままにしてみる。

 

 雛里は若干顔を赤らめながらも手を取ってくれた。

 

「……よろしく、お願いしましゅ」

「あ、ああ」

 

 あれ、なんだこの気まずさ。いや、悪い感じはしないのだが。

 

(……まぁ、悪い感じがしないならこのままでいいか)

 

 こうして俺は小さくも暖かい手を握りながら茶屋を目指すことになった。

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はい、どうもおはこんばんにちわ。昨日の雨で傘を差していたにもかかわらずびしょ濡れになった作者の風猫です。

 

……いや、昨日の雨が本当にやばかったんですよ。帰っている途中からドワーッって降り出しまして、でも、その時イヤホンで音楽を聴いていたのでその変化に気づかず、

 

「ん? なんか妙に濡れるな?」

 

なんてぼんやりとおもっていたらイヤホン越しでも分かる大降りになりまして……

 

もうほんとぐっしょぐしょでしたわ……

 

皆さまもこの急激な気温の変化やら何やらでお体を壊すことないようお過ごしください。

 

では、ここらでまた次回。

 

何かありましたらコメントの方にお願いいたします。

 

 

説明
オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。
大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。































ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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オリジナルキャラクター 鬼子 蜀√ 真・恋姫†無双 

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