ビーストテイマー・ナタ10
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八年前、アラヴェスタの夜の街にある酒場にゲイザーは初めて足を踏み入れました。ステージの上では踊り子が露出度の高い衣装で舞を踊っています。酔っ払いがゲイザーに話しかけて来ました。

 

「兄ちゃん見かけない顔だね。この店は初めてかい?」

 

「はい、今日実家を出て独り立ちしたんです」

 

「ほお、歳はいくつだ?」

 

「今年で二十歳になりました。酒を飲むのは今日が初めてです」

 

「若ぇなぁ…。その顔なら女にだってモテるだろう?」

 

「女性には興味がありませんので…」

 

「そんなチビチビ飲んでねぇで、ほれ奢ってやるから、一気飲みしろ!」

 

「酒に弱いので遠慮しておきます…」

 

「俺の酒が飲めねぇって言うのか?」

 

近くの席にいた酔っ払いの傭兵仲間らしき男が慌てて止めに入りました。

 

「そのくらいでやめとけ!若い兄さんが困ってるじゃねぇか?」

 

「ありがとうございます。助かりました」

 

「あんた、ここに何しに来たんだ?ここは酔っ払いの溜まり場だから、あんたには楽しい場所じゃねぇはずだ」

 

「傭兵になろうと思うのですが、まだ経験がないので仲間を探しに来たんです」

 

「そっか!じゃあ俺たちのチームに入るかい?歓迎するぜ」

 

「本当ですか?よろしくお願いします!」

 

こうしてゲイザーは傭兵仲間と行動を共にする事になりました。夜が明けて、役所に行って掲示板の手配書をみんなで吟味しています。

 

「この獣人の討伐が一番報酬が良いなぁ」

 

「けど獣人って奴らは恐ろしく強ぇから、やめといた方が良くないか?」

 

「一匹だけで仲間とはぐれてるのを見つけたら袋叩きにして、首を持ち帰ればたんまり報酬ゲットだぜ?」

 

「そいつはうまそうな話だな!行ってみよう」

 

ゲイザーは何も意見せず、黙ってついて行きました。新入りの自分にはまだ発言する権利などないと思っていたからです。

 

「この辺りは獣人の国の近くだから、獣人に出くわすかもしれない…。気を付けろよ?」

 

「けど獣人はいきなり襲って来る事はないって聞いたけどな?獣人に会ったら目を合わせていれば、向こうから逃げて行くらしい」

 

「なんだ?獣人なんて臆病者のただの腰抜けじゃねぇか…」

 

日が暮れて来たので、野宿をする事になりました。テントを張って、その近くで焚き火を囲みます。空には綺麗な満月が出ていました。月明かりで夜なのに明るく見えます。

 

「おい、みんな!獣人がいたぞ?寝てるから今なら簡単に殺れる…」

 

松明を持った仲間が小声で叫びます。息を潜めて獣人のいると言う洞穴に向かいました。まだ身体の小さな獣人が丸くなって眠っています。

 

「なんだ?獣人って言っても、まだガキじゃねぇか…」

 

「あんなチビなら万が一、起きても大丈夫そうだな!俺たちが負けるわけねぇ」

 

「待ってください…。あのように小さな子供まで殺めると言うのですか?」

 

ゲイザーはついに耐え切れなくなり、思わず意見してしまいました。傭兵仲間は少し気を悪くしたような表情でした。

 

「今は子供でもいつか大人になったら凶暴化する。今のうちに駆除しておいた方が良いに決まってるだろ?獣人は生かしておいちゃいけない存在だ」

 

「無抵抗な相手をいたぶるのが傭兵の仕事ですか?騎士道精神に反していると思います」

 

「あんた、新入りの癖に生意気なんだよ!騎士道精神なんかじゃ飯は食えねぇよ?」

 

ゲイザーは剣を抜くと獣人の子供の前に立ち塞がりました。

 

「あの子供を殺したいなら、私を倒してからにしてください!」

 

「裏切ったな!この事は他の傭兵仲間にも話しておくからな。もう他のチームに入れると思うなよ?」

 

「好きにしてください…。私は私の信じる騎士道精神に背く事は出来ない!」

 

傭兵はゲイザーに一太刀を浴びせましたが、剣で受け止めます。激しい小競り合いをしていると、獣人の子供は目を覚まして、慌てて逃げて行きました。

 

「あの時の子供がシスターだったのですか?」

 

「はい、あなたは私の命の恩人なのです。私はあの頃まだ十二歳の子供でした」

 

シスターの昔話はゲイザーが半年前、獣人討伐隊に入った時まで遡ります。

 

…つづく

説明
昔、書いていたオリジナル小説の第10話です。
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