ビーストテイマー・ナタ12
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そこにシスターが現れました。倒れているゲイザーに駆け寄ります。ゲイザーはもう虫の息で今にも命が消えてしまいそうでした。

 

「おやめなさい!このお方は何も罪を犯していません。それどころか私の命を救ってくださった恩人です」

 

「フラウじゃねぇか?久しぶりだな!まだ人間の服なんか着て、人間の街に住んでるのか…」

 

「私は元々、人間です。人間としてアラヴェスタの街で暮らしていきたいの…」

 

「お前が獣人だとバレたら、人間どもに殺されるぞ?悪いことは言わねぇから帰って来い!」

 

シスター・フラウは答えずにゲイザーの首元に唇を近づけました。フラウの小さな牙がゲイザーの首に突き刺さります。

 

「まさか…その男に血の契約を施す気か?アラヴェスタの回し者だぞ!」

 

「忘れもしない、この懐かしい匂い…。街道を行進している騎士たちの中に、この人を見つけて、私を助けてくれた剣士はこの人だと気付いて、ここまで跡をつけて来たのです」

 

「血の契約は本人の意思が尊重されるのは知っているよな?望みもしない者を獣人の仲間に引き入れてはいけないと言う、マルヴェールの掟を破る事になるぞ!」

 

「私も子供の頃に私の意思など関係なく、フォン様に血の契約を施されました」

 

「フォン様はマルヴェール国王だ!きっと深いお考えがあって、なさった事であって…」

 

「国王ならば掟を破っても許されると言うのですか?」

 

「フォン様はお前を妃に迎えようとお考えだったのかもしれない。フォン様が亡くなった後は次期女王の座はお前のものだ。なぜマルヴェールに戻りたくない?みんなお前の帰りを待っているんだぞ」

 

「好きでもない男の妃になどなりません!父親と娘ほど年の差が離れていると言うのに、恋愛感情など持った事もありません」

 

フラウの腕の中で息を吹き返したゲイザーが、フラウの膝枕で寝息を立てているのを、愛おしそうに見つめています。

 

「フラウ、その男に惚れていると言うのか…」

 

「ずっとお慕い申し上げておりました…」

 

フラウの昔話はここで終わりました。物音がしたので、ゲイザーは慌てて部屋の出入口の方へ走ります。身なりの良い服装の子供が走り去って行くところでしたが、腕を掴んで捕まえました。

 

「離せ!凶悪な獣人め…」

 

「シスター・フラウが獣人であると言いふらすつもりか?」

 

「そんな事しない!お前が獣人だと騎士団に密告に行くだけだ」

 

「そいつは困った事になるな…。私の手配書があちこちに貼り出されると旅がしづらくなる」

 

「僕を殺す気なの?野蛮な獣人が!」

 

「エディ君、何をしているの?」

 

フラウが後からやって来たので、身なりの良い少年は大きな声を張り上げます。

 

「シスター・フラウ!こいつは悪い獣人だから騙されちゃいけない」

 

「話は全部聞いていたのでしょう?私も獣人です」

 

「シスター・フラウは悪い人じゃない…。でもこいつは悪い奴だ!」

 

「エディとやら…。お前、シスター・フラウに惚れているのだな?」

 

「な、な、な、何を言う?僕は別に惚れてなんかいない…」

 

「お前は孤児ではないだろう?その服を見れば分かる。なぜシスターの講義を受けていた?」

 

「シスター・フラウは聡明な人だ。僕はシスターを尊敬している…」

 

「なるほど、ではシスターの教えに背いてはいけない」

 

「女の獣人は人を襲わないが、男の獣人は人を襲うから危険だ!お前なんか信用出来ない…」

 

「例えそうだとしても、シスターの講義をちゃんと聞いていたなら、その考え方が間違いだとわかるはずだが?」

 

「エディ君、約束してちょうだい。騎士団には決して獣人の話はしないって…」

 

「あの授業の事も大人に話すと、もう行っちゃダメだって言われる…。シスターは頭がおかしいってみんな言ってる。どうしてなの?」

 

「人間って言うのは、愚かな生き物だからな。どんなに正しい事を言っている人がいても、それを認めたくないから、その人が悪いって噂を立てて、真実を捻じ曲げてしまうんだよ」

 

ゲイザーとフラウはエディを説得すると、家に帰しました。

 

…つづく

説明
昔、書いていたオリジナル小説の第12話です。
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