―――Side　刑天―――

刑天「（・・・はあ、情けないな）」

刑天は生き埋めになっているこの状況を、どこか他人事のように評した

刑天「（ん？・・・この声は）」

遠くから聞こえるのは、鬨の声　玄崩に向かう呉の兵の声だった

刑天「（・・・あいつら）」

そして、今の自分を恥じた

刑天「（あいつらは、諦めていないというのに・・・俺はなんてザマだ・・・）」

では、このまま諦めるか？生き埋めのまま全てが終わるのを待つか？

刑天「（否・・・断じて否！）・・・ここで、諦めたらあいつらの父親としても恋人としても失格だろうがぁ！」

そして、刑天は立つ　自分を『家族』『恋人』『父親』として受け入れてくれた者たちのために

―――Side　狂骨―――

狂骨「（まんまとしてやられたな・・・）」

狂骨は、遠くに聞こえる仲間の声を聞いていた　自分がどうなったかもある程度理解していた

狂骨「（・・・だからってこのまま、黙ってみているか？あいつ等を守るのが俺の役目だろうに）」

ならば、立ち上がれ　

狂骨「（上等・・・やってやるぜ）」

傷だらけ？それがどうした　腕がないわけでもない　隻眼だが、もう一つの目を失ったわけではない　まだ命がある・・・あいつらを守ることはできる　狂骨は立つ　仲間を、恋人を守るために

―――Side　華琳―――

玄崩「おや？先ほどの威勢のよさは・・・どこへ行ったのか」

雪蓮「強いわね・・・」

玄崩は圧倒的だった　春蘭や思春といった猛将が束になってもかなわなかった　それは何故か　それは、玄崩の能力と、白装束にあった

玄崩「私は、数秒先の未来を読む「サトリ」の力を持つ　それで、君たちの行動をある程度読み、そこに白装束を配置すれば動きを止める事ができる」

今まで、狂骨たちの攻撃を避けていたのはその能力を使っていたからである

華琳「やるわね・・・」

玄崩「いやいや、それほどでもない　さて、そろそろ終わろう「待てよ・・・」ん？」

その声に、全員が振り向くと血まみれで童子切を杖にしている狂骨が歩いてきた

玄崩「おや？動けたのか・・・」

雛里や美影たちが必死で抑えようとしているが、それでも歩みは止まらない　さらに―――

刑天「・・・ったく、俺としたことが」

岩が突然『何かに喰われた』ように崩れた　その中から現れたのは刑天だった

蓮華「刑天！？」

刑天「行けるな？狂骨」

狂骨「はっ！当然・・・お前こそ行けるな？」

そして、二人は並び立つ　ボロボロだが、以前よりも強い覇気を纏い

桃香「なんで・・・？」

泣きはらした桃香が、二人に問いかける　

狂骨「さてな？」

刑天「言っておくが、俺らは『皆が笑って暮らせる世』とかはどうでもいい」

愛紗「な・・・？」

狂骨「仲間を守る・・・惚れた女と幸せに暮らす　俺らは、それぐらいしか考えていない」

刑天「お前らのような大層な理想は必要ない」

狂骨「自分が幸せに暮らしたいから、乱世を治める・・・それだけでいいだろ？」

桃香「で、でも！」

刑天「俺らはそう思っている・・・ま、人それぞれ考えは違うが・・・」

狂骨「思うことは一つ」

刑天「自分が思い描く世を作る」

玄崩「クックック・・・ま、人間は全員自己中心的なもの・・・自分の欲を満たす・夢を叶えるために歯向かう者を潰す」

刑天「だからこそ『自分を律すること』そして」

狂骨「『他の人間に、理想を否定される事』を覚悟しなければならない」

玄崩「さらに言えば、『理想のために払う犠牲を覚悟しなければならない』ね　それが、できなければ乱世に飛び込む資格はない　そこらへんが、蜀には・・・劉備には足りなかったかな？　だが、今はどうでもいいだろう」

狂骨「ああ・・・今は―――」

刑天「今は―――」

三人「「「殺しあうとき！」」」

刑天「狂骨、飲んどけ」

そういって差し出すのは、太公望から調合法を教えられもしものために作っておいた霊薬

狂骨「サンキュ・・・ｺﾞｸ」

玄崩「・・・いいかね？」

そして、狂骨は童子切を構え

狂骨「起きろ・・・酒?童子　俺の体を貸してやる・・・だから、力を貸せよ」

その言葉に応えるように、童子切が狂骨の右腕を侵食し始めた　狂骨の愛刀『童子切安綱』

鬼の王『酒?童子』を斬り、その血を受けその身に酒?童子を宿す妖刀　そして、狂骨の体を侵食する事により鬼の力を貸し与える刀　

刑天「餓虎・・・遠慮はいらん・・・喰え」

刑天の言葉に、餓虎の切っ先が変化した　それは、まさしく餓えた虎がその口を開けているかのような姿

華琳「・・・狂骨」

狂骨「心配するな・・・俺は、死なねえよ」

右腕が鬼の腕に変化した狂骨は、華琳たちにそういい　変化した右腕を引き左手を突き出し弓を引き絞るように構え、玄崩を見据えた

狂骨「さて・・・仙人狂骨、推して参る！」

そして、名乗りを上げ向かっていった

刑天「ふう・・・これをやると、疲れるんだが・・・仕方ないか」

雪蓮「刑天・・・」

刑天「・・・ま、お前らの父親としても恋人としても止まるわけには行かないんだよ」

心配そうに見てくる呉のメンバーに向かいそう言い、餓虎を蜻蛉の型で構える刑天

刑天「さて、玄崩　黄泉路への案内はこの刑天が仕る・・・逝くぞ？」

そして、刑天も走り出した

華琳「・・・全将兵に告ぐ！私たちは、白装束を駆逐する」

雪蓮「我らにできる事をやるのだ！」

華琳・雪蓮「「進め！」」

全員「「「「応！」」」」

―――Side　狂骨・刑天―――

玄崩「む？・・・これは」

玄崩の顔に初めて焦りが見えた　

狂骨「どうした？余裕がなくなってきてるぜ？」

侵食される代わりに酒?童子の強大な力を手にした狂骨と、七星剣から出す火や雷を餓虎に悉く食わせている刑天　この二人は狂骨が攻撃、刑天が防御という連携で玄崩を追い詰めていく　さらに言えば、刑天を戦闘不能にしようと氣をこめようとすればすかさず狂骨が攻撃してくるのでなかなかうまくいかない

―――Side　桃香―――

桃香「すごい・・・」

桃香は、目の前の二人の戦いを見てそう呟いた

桃香「なのに・・・私は・・・」

ただ、こうやって後ろで見ているだけ　そして、決めたと思った覚悟も仕組まれたもの　私は無力だ

華琳「情けないわね」

桃香「曹操さん・・・」

いつの間にか、曹操と雪蓮が横に立っていた

雪蓮「で？あなたは、ただそこで嘆いているだけ？」

桃香「・・・え？」

華琳「関羽も？」

愛紗「・・・」

愛紗は答えずに下を向いた

華琳「はあ・・・軍神関羽がここまで、弱かったなんて」

普通なら、言い返すところだがその気力もない

華琳「それだから、あいつに付け入られるのよ・・・狂骨たちを見なさい　一回負けたけどあなたみたいに落ち込んでいる？」

答えはNOだ　

雪蓮「私なんて、何回刑天に負けていると思う？数え切れないわよ」

華琳「私だって、何回狂骨を見て自信を無くした事か・・・でもね？だからって、いじけている暇はないの　見なさい」

そして、指したほうを見ると傷だらけになっても玄崩に斬りかかる二人の姿

雪蓮「あの二人が、傷だらけになってまで戦うのは私たちを信じているから・・・だから、その信頼に応える為にも止まっている暇はないの」

何回も、打ち砕かれた自信　華琳は、狂骨の考える政策や狂骨の圧倒的な武力に　雪蓮は、自分たちを守り、導いてきた刑天に　だが、止まらなかった　二人がそこまでするに相応しいものになるために努力してきた

華琳「あなた達も、自分の無力を嘆く前に行動しなさい・・・負けたのなら、次にどうするのかを」

雪蓮「それが、人を率いる者の責任よ？」

目の前にいるのは、狂骨や刑天に何回も折られてきた、しかしその度に強くなってきた者

桃香・愛紗「「・・・はい」」

華琳「なら、戦え！『私は・・・』とか甘えたこと言ってるなら今すぐに消えなさい！」

雪蓮「今の私たちにできる事・・・それは、あの二人のところに雑魚を行かせない事　行くわよ！曹操」

華琳「ええ」

そして、二人の王は歩き出す　自分の戦いをするために

桃香「私は・・・」

愛紗「桃香様・・・」

朱里「・・・劉備玄徳！いつまで、呆けているんですか！」

桃香「朱里ちゃん」

普段の朱里とは思えない口調

朱里「私たちが、あなたたちを止められなかったからこうなってしまったんです！なら、私たちも同罪です・・・あなた達の罪を一緒に背負います！」

紫苑「だから、進みましょう」

愛紗「・・・ああ」

桃香「・・・うん・・・皆、行くよ！」

全員「「「「御意！」」」」

ここに、本当の意味での蜀が完成した

―――Side　狂骨・刑天―――

狂骨たちは傷を負っていたが、確実に玄崩を押していた

玄崩「ここまでとは・・・」

刑天「ま、今までお前に負けてきたのは認めるさ」

狂骨「でも、もう負けられないんでね」

玄崩「くっ・・・」

玄崩のサトリには弱点があった　それは、サトリを使用するためには集中しなければならない事　今の状況で集中しようものならすぐにやられる　幻術も、一度使用すれば２４時間は使用できない上に、狂骨や刑天といった『迷いがない』者に対しては効果がない

そして、狂骨が右腕を螺旋のように捻った掌底を玄崩に叩き込んだ

玄崩「くっ・・・おのれ」

玄崩が初めて膝をついた　二人の隙のない連携が競り勝った

真桜「やった！」

その姿に、戦っていた全員が笑みをこぼす　さらに、二人は追撃を掛ける

玄崩「な！？」

刑天「・・・逃さんよ」

餓虎を背中にしまい、玄崩をベアハッグの状態で拘束した刑天　そして、狂骨が二人の周りに火薬を撒き散らす

狂骨「オラァ！」

今までとは比較にもならないほどの爆発が二人を包み込んだ

刑天「よっと」

しかし、刑天は無傷　回復能力と、自分の体に薄い強力な水の膜を形成し防御したのだ

狂骨「・・・やったか？」

刑天「さて・・・」

しかし、姿が見えないので警戒を緩める事はしない二人

玄崩「ガハッ・・・やってくれる」

黒煙の中から出てきたのは、左腕がもげ全身から血を流している玄崩だった

春蘭「あれで、まだ生きているのか・・・」

玄崩のしぶとさに驚く全員

玄崩「私の負けか・・・なら、死体は残さない・・・そう、決めているのだよ」

そういい、七星剣を掲げ何かを呟く玄崩

狂骨「あいつ・・・自爆だと！？」

刑天「ここら一帯を巻き込む気か！」

玄崩が何をするか見当がついた二人は、一気に距離を詰める　すると―――

玄崩「ククク・・・私は死ぬ、が　君たちも一緒にどうかね？」

刑天「遠慮しておこう」

狂骨「貴様だけ逝っておけ！」

その言葉と共に、通常状態に戻した童子切と餓虎を突き刺す二人　だが―――

玄崩「ヌウ・・・」

餓虎の能力で玄崩を喰ったが、七星剣の暴走は止まらず二人を光が包み込んだ

狂骨「な！？これは―――」

刑天「しまった！七星剣は、儀式にも使われる剣―――」

そして、二人はこの外史から消えた

―――Side　華琳たち―――

華琳「消えた・・・？」

雪蓮「嘘・・・でしょ？」

光が収まると、そこには狂骨と刑天の姿はなくただ折れた七星剣があるだけだった

―――Side　狂骨・刑天―――

狂骨「・・・ん？」

狂骨は、目を覚ました　そして、横にいる刑天を起こし状況の把握に努めた

刑天「ここは・・・」

すると、前のほうから軍隊がやってきた　それは、袁紹軍だった　そして、先ほどまで全力を出していた事もあり、なすすべもなく拘束された二人

麗羽「呂刀さん・・・この方たちですの？」

麗羽は、傍らにいる男に問いかけた　

呂刀「ああ、そうだよ麗羽・・・斗詩、猪々子　二人の拘束を解いて」

斗詩「いいんですか？」

呂刀「うん　この二人は親友だからね」

そういって、呂刀と呼ばれた男は二人に声を掛けた

呂刀「久しぶり・・・状況は俺も察している　だから、一緒に来てくれ」

狂骨「お前は・・・」

刑天「一刀・・・？」

呂刀と呼ばれていた男は、かつて誓いを交わした親友「北郷一刀」だった　そして、二人は新たな外史で親友と共に戦う事になる

「舞台裏」

呂刀「北郷一刀改め呂刀（りょとう）です！俺のこと、覚えてるー！？」

狂骨「テンション高け〜・・・」

刑天「というか、新シリーズ！？」

フフフ・・・予想外だったでしょう？

狂骨「いや・・・それはそうだけど」

刑天「残された奴らどうするの？」

呂刀「作者曰く『華琳が太公望に頼んでいた事』が重要になってくるとか」

まあ、そこら辺はいずれ出てくるから　ちなみにこの麗羽、原作ほど無能ではありません　お飾り君主ですけど・・・

狂骨「何！？」

すでに、呂刀が落としているし、救済もされています　そこら辺は拠点で書くけどね

刑天「反董卓連合は？」

ちゃんとあるよ　まあ、内容は違うけど

狂骨「・・・とにかく、新シリーズに入った『恋姫無双異聞録』」

刑天「次回からもよろしくお願いします」

呂刀「やっと、オマケではなく本編に出られた・・・俺もよろしくお願いします！」

嬉しそうだね〜