真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 57 |
俺の生まれた村は、日本の山奥の村だった。本当にのどかな村だった。自然が豊かで、村の人は農業で生計を立てていた。本当に平和で、何もない村だった。
「あ〜、なんか起きないかなぁ……」
だから、当時の俺は退屈で仕方なかった。冒険しようにも11歳にもなれば大抵のところは冒険済みで、やることと言えば虫取りや魚釣り、後は秘密基地づくりぐらいだ。
「なんかってなにさ?」
で、そんなことをぼやくと決まって友達のケイタに突っ込まれていたっけな。
「いや、こう、悪い怪獣がやってきてさヒーローがドカーン!っとやっつけるみたいな」
「いやいや、玄ちゃんそんなこと言ってたらこまねぇちゃんにまた馬鹿にされるよ」
「別にあの年増の前で言わなきゃいいだけだって」
「へぇ〜、玄ちゃんはそんな汚い言葉、どこで覚えたのかなぁ〜?」
「……げっ」
ああ、それと神出鬼没のこまねぇちゃんって自称“世界一の姉”って人もいたんだ。こいつがひどい奴でさ。
「わ・た・し・は・まだ17歳だぁ!」
「信じられるか、このとし、うぎゃぁああああああああ!!!」
「秘技“オルトロスドリル!”」
「た、ただのこめかみグリグリ、いただだだだ! じゃねぇかぁ!」
あれやこれやにかこつけてこめかみを拳骨でグリグリしてきやがるのさ。ひどいだろ? え? 年増っていう方が悪い? いやいや、そうはいっても俺が5歳のころに村に来た時から17歳って言ってるんだぜ?
「もぉ、玄ちゃんもいい加減こまねぇちゃんの耳が地獄耳だってわかったほうがいいと思うよ?」
「いいからたす、いいたた! 助けろよケイタ!」
「え〜、後が怖いからヤダ」
「薄情者〜!」
「ほんと、どこでそんな小難しい言葉覚えるのかしらねぇ〜。年増とか年増とか!」
「同じ言葉じゃ、いだだだぁ!」
そう。本当に穏やかな時間だった。そこから帰るときにかよこと、その祖母の三谷のばぁちゃんに話して、こまねぇちゃんを叱ってもらって、そこにハヤシのじっちゃんがやってきて採れたての野菜や果物をもらってみんなで食べて家に帰る。
「ただいまぁ〜!」
「お帰り、玄輝」
「ただいま〜、あれ、母さんは?」
「ん? 今は社だよ」
「あ〜、お祈りの時間か」
ん? ああ、そうか。俺の家はこの村にある神社、いや、今考えると何だったのかな、あれは……。まぁ、とにかく神事を行う家系だったんだよ。“御剣”って名前は神様を守る剣って意味で付いたそうだ。で、俺の母さんはその巫女をやっていた。
「じゃあ、夕飯は?」
「俺が作っておいた。今晩は、何と!」
「何と?!」
「ビーフカレーだ!」
「ほんとに!? 豚じゃないの!?」
「ちっちっち、侮るなかれ息子よ。この御剣竜弥(たつや)、嘘は言わぬ」
「…………嘘は言わないけど、たまに誤魔化すよね」
「うぐっ! 息子の視線が痛い! だがっ! 今回は真の真!」
「……やったぁ! 一回でいいから食べたかったんだぁ!」
……ああ、そうだよ北郷。俺はお前と同じ時代、いや、大体同じというべきか? まぁ、平成の生まれだよ。
……黙っていたこと、今まで騙していたことは頭を下げるしかない。ただ、お前と初めて会ったときは下手に馴れ合いをするのは避けるべきだと考えたんだよ。……だから悪かったっての。続けるぞ。
「ふぅ〜、ん? なんかいい匂い」
「あ、母さん!」
「玄輝帰ってたのね」
「うん!」
「ん? あっ! アンタ手を洗ってないわね!」
「んげ」
「んげ、じゃない! 手をまずは洗ってきなさい!」
「はぁ〜い」
俺の母さん、御剣雪(ゆき)はまぁ、厳しいといえば厳しかったけど、優しい母親だったと思う。雪華?
……ああ、そうだ。お前の名前の雪は母さんからもらったんだ。お前を見た時のイメージ、連想したこともあるがな。
てか、やっと話しかけてくれたな。……本当にすまない。あとでお前の言葉はちゃんと聞く。ただ、今はこの話をさせてくれ。
「ん〜! やっぱり竜弥さんの料理はいいわねぇ。さすが元料理人」
「お褒めにあずかり光栄の至りにございます」
「うむ、良きに計らえ、何てね」
……ああ、今なら懐かしくて、暖かい思い出にできる。こんなくだらないけど、暖かい空気が俺は大好きだった。
でも、そんな日は突然終わりを迎えた。そう、本当に突然だった。
ガラスが割れたような、あるいは何かが爆発したような、とんでもない音がその空気をぶち壊した。
「っ! 竜弥さん!」
「……まさか、壁を越えて何かが?」
「父さん、母さん? どうしたの? 今の音、何なの!?」
「玄輝、母さんと一緒にいろ、いいな?」
「竜弥さん!?」
「……大丈夫さ」
それだけ言って父さんは刀を掴んで外に飛び出していった。その数分後には叫び声が聞こえ始めた。そう、“断末魔の叫び”だ。
「か、母さん……? ねぇ、これ、何かおかしいよ! 警察呼ぼうよ!」
「……玄輝、付いてきなさい」
「母さん!」
「……ごめんね。多分、警察にはどうにもできない。私たちがどうにかするしかないの」
そう言って母さんは俺の手を引いて社の奥に俺を隠した。
「母さん!」
「玄輝、これを」
そういって俺に渡したのは御剣家に代々伝わる家宝の腕輪だった。そう、愛紗。君に預けてあるあの腕輪だ。
「これ、母さん!」
「いい? 必ずあなたを助ける人がここに来る。その人と一緒に逃げなさい。あなたがいれば、あなたがいれば世界は死なない」
「世界? ねぇ、何のこと!? 分からないよ母さん!」
その時、抱きしめられた暖かさと、涙の冷たさは今でも覚えている。
「……元気でね?」
最後の母さんの言葉だったよ、それが。その後扉が閉じられたけど、俺は何度も出ようとしても出られなかった。多分、何かしらの鍵をかけたんじゃないかと思う。
扉の中で泣きじゃくるのにも疲れた頃、扉が開いた。
「玄ちゃん!!!」
「……こまねぇちゃん?」
「よかった! よかった!」
何度もそう言ってこまねぇちゃんは俺を抱きしめていた。でも、その後ろの光景を見ていた俺には何も感じることができなかった。
「燃えてる……。村が、燃えてる……」
「っ!」
「ねぇちゃん、村が」
「……逃げるわよ」
「でも、村が」
「逃げるのっ!」
「っ!」
「逃げなきゃ、いけないのよ……」
頷くしかなかった。俺自身もその言葉の中にある感情を感じ取っていたんだと思う。彼女に引かれるまま、夜の森を駆けた。
村は、赤に包まれていた。何人か地面に伏せている人もいたし、そこにケイタとハヤシのじっちゃん、かよこを守るように覆いかぶさってかよこごと貫かれた三谷のばぁちゃんも見えた。
そして、その周りには、白装束の連中がうろついていた。
「ねぇちゃん、なんでみんな地面に寝ているの?」
「玄輝」
「あんなところに寝たら風邪になっちゃうよ。あのへんな格好の人に起こしてもらおうよ」
「気をしっかり持って!」
「あ、あはは、村が赤い」
「玄輝っ!」
ひっぱたかれた痛みが、現実に引き摺り下ろした。目から涙が溢れ出てきた。
「ひぐっ、うぅうう〜〜〜……」
「あとでいくらでも恨んでいい。だから、今はお願い……!」
それに返事を返すことはできなかった。でも、こまねぇちゃんは俺を必死に引っ張って、入っちゃいけないって言われていた洞窟まで連れてきた。
「ねぇちゃん、ここは」
「……いい、玄輝よく聞いて」
「ねぇちゃん?」
両肩を掴んで彼女は、俺の未来について話を始めた。
「あなたはこれから他の世界に飛ばされる。どこに行くかは分からない。でも、一つだけわかっていることがあるの」
「ねぇちゃん、何を言ってるの?」
「あなたは最初に出会う人に習いなさい。その人が何をやっていようが、悪人だろうが習いなさい。そして、生きるの。そして、そして……」
まさしく苦痛、というべき表情でその続きを口にした。
「また、旅立つ」
「旅立つ? ねぇ、何の事なの? 全然わからないよ!」
「いいの、今は分からなくて。それとこれを見て」
彼女の手にはくの字型の破片がのっていた。
「いつか、これを持った人があなたの前に現れる。その時が旅立ちの時よ」
「ねぇちゃん!」
「……ごめんね」
それだけ言うとこまねぇちゃんは聞きなれない呪文を唱え始めた。今でもその呪文だけは思い出せない。
覚えているのは唱え終わると同時に光が俺を包んでいき、こまねぇちゃんが洞窟の外に駆けていった後ろ姿だけだ。
そうだよ、愛紗。俺の世界には、墓もなければその場所に戻ることすらできない。存在しないんだ。
はいどうもおはこんばんにちわ。作者の風猫です。
やっとこさ書くことになった玄輝の過去話です。
玄輝が当時の事を思い出しながら話す、という事をイメージして書いたのですが……
うまくいっているかどうか若干不安な面がありますが、お楽しみいただけましたでしょうか?
では、ここら辺でまた次回。
何かありましたらコメントにお願いいたします。
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オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。 大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。 ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・) |
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