ビーストテイマー・ナタ35 |
審判が片手を高らかに挙げて、掛け声を叫びます。
「では、位置について、礼。両者、構えて…。始め!」
前半、フォンが果敢に攻めて来ました。ゲイザーは防戦一方で、フォンの優勢です。まばらだった観客席は、どんどん空席が埋まって行きます。
「フォン様にゲイザーと言う男がフラウを賭けて、決闘を申し込んだ、だと?」
「おい、どっちが勝つと思う?」
「そりゃ、フォン様に決まってるだろ?獣人最強の男だぞ」
「オッズはどうなってる?」
「ゲイザーは大穴だから五倍だ」
「よし!俺はゲイザーが勝つ方に賭けるぞ?」
「その博打、乗った!」
ゲイザーの観客席にも意外な事に獣人が何人か詰め掛けて、ゲイザーの事を応援しています。
「おい!ゲイザー?俺の今月の小遣い、全部ぶっ込んだから、絶対に勝てよー」
ゲイザーは野次馬を無視して、フォンの爪を受け止めるだけで、精一杯でした。一撃一撃が重く、受ける度にビリビリと剣を持つ手が痺れます。フォンはいきり立って、我を忘れているようです。
「どうした?攻めて来んなら、次で終わりにするぞ!」
フォンが大きく振りかぶって、渾身の一撃を繰り出そうとした時でした。ゲイザーの投げたナイフが、フォンの左目に深く突き刺さります。
「勝負あった!勝者、ゲイザー」
フォンは左目に突き刺さったナイフをすぐ様、引き抜いて左目から血の涙を流しながら吠えます。
「審判よ?納得がいかぬ…。わしはまだ負けておらん!試合はポイント制だから、わしの勝ちだったはずだ?」
「あのまま続けていたら、あの男は今度は右目も狙いました。フォン様の両目が潰されては困ります」
「おのれ!姑息な奴だ…。卑劣な手を使いおってからに?」
「フォン様と私では実力に差があり過ぎましたので、少々、反則スレスレの技を使いました。申し訳ございません…」
「認めん、わしは負けを認めぬぞ!」
「フォン様、潔く負けを認めたらどうです?男らしくありませんよ?」
フラウに言われてフォンは項垂れました。獣人たちは観客席で興奮気味に大騒ぎしています。その夜、フォンの邸の客間でフラウはゲイザーと話していました。
「今日の試合、見事な勝利…。おめでとうございます」
「無理やり私があなたを賭け事の賞品にしてしまって、怒っておられるのではありませんか?女性を物のように扱ってしまった…」
「いいえ、私はむしろ嬉しかったのです。それにあなたが勝つと信じていましたから…」
「あの時の私は破れかぶれでした。騎士としての筋を通してフォン様を説得するには、私にはああするしか他に道は残されていなかった…」
「これで私は晴れて、あなたのものになりました」
「あなたはものではありませんよ?」
「ええ、でも私の心はあなたのものです」
「物のように扱われるのがお嫌いではなかったのですか?」
「不思議ですね…。他の男が言えば腹の立つ言葉でも、ゲイザー様が言えば腹が立たないのです」
「こんな私で良ければ、私の妻になってくれますか?」
「はい、喜んで…。その言葉をずっと待ち望んでいました」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第35話です。 | ||
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