ビーストテイマー・ナタ37 |
翌日、ゲイザーはフォンから直々に呼び出されました。
「わしもそろそろ歳だ。隠居しようと思っておる」
「フォン様はまだまだ現役でご活躍を期待されますよ」
「ゲイザーに敗北してから、わしへの不信任案が出始めておってな…。わしもとうとう潮時のようだ」
「あれは私の実力ではないです。フォン様はいつもより冷静さを失っておられましたし、そうでなければ私に勝機はありませんでした」
「言い訳は通らぬ…。審判の下した判断は絶対だ。例え国王であっても正式な試合で敗北宣言を受けたら、強さを重んじる獣人の国民からの信頼は失墜する」
「それほど深刻な事態に発展していたとは…」
「そこで相談なのだが、次期国王の座をお前に譲ろうかと考えておる」
「私には国王になれる才覚はございません。フォン様のようなカリスマ性も持ち合わせておりませんし、よそ者の私を国王にしても国民が納得しないと思いますよ」
「わしに勝利したお前が次期国王になるのが妥当だと考えていたが、フラウを次期女王にすると言う話も幹部から出ておってな…」
「その方がよろしいかと思われます。私はフラウを支える補佐官に就任させてください」
「女が上に立つ事に不満は持たないか?」
「私は男が女より偉いとは思っておりません。子供を産めるのは女だけです。出産は本当に大変な事だと、私の母から聞いております」
「しかし獣人は妊娠が出来ない。何度やっても無理だった」
「そのようですね。フラウもその事で悩んでいるようです」
「おそらく、我々がこの世界を牛耳る事を畏れた魔導師が、獣人を生み出した際に繁殖能力を取り除いたのであろう」
「フォン様の政の手腕は、この国を一目見た時から悟っておりました。自然と調和して共存している街並み、何年にも渡ってアラヴェスタ軍の目から国の存在を隠し続けた…。誰にでも出来る芸当ではございません」
「その為に厳しい掟を作ったから、反発を覚える者も多いがな…。フラウからも嫌われてしまった…」
「私は旅の途中に色んな国を見てきましたが、この国に永住したいと初めて思ったのが、獣人の国・マルヴェールでした」
「お前にはマルヴェール国民となって永住する事を許可する。フラウとの婚礼も近いうちに執り行う予定だ。幸せにしてやってくれ…」
「私はフォン様が本当に素晴らしい王だと思っております。繁殖能力さえあればアラヴェスタよりもマルヴェールの方が栄えていた事でしょう」
「フラウがなぜお前を選んだのか、今ならわかる気がする。わしの完敗だ…。女一人の心も奪えぬような者には、王の資質などありはせぬ」
「私には今でも信じられません。フォン様のような完璧な男に、私が勝利するなど有り得ない事でしたから…」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第37話です。 | ||
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