英雄伝説〜灰の軌跡〜 閃V篇
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特務活動の必須要請の一つである市内の店舗調査で、リィン達はある調査対象の一つである会社の建物の前に到着した。

 

〜中央広場〜

 

「ここが次の調査対象の一つである”インフィニティ”ですか………」

「何だかこの建物はクロスベルの他の建物とは色々と違うように感じるわね……」

”インフィニティ”という看板をつけた建物の前に到着したクルトは建物を見上げ、ゲルドは不思議そうな表情で首を傾げて呟いた。

「クロスベルの他の建物と色々と違うと仰いましたが、ゲルドさんはどういう違いに気づいたのですか?」

「う〜ん……ハッキリとした違いはわからないんだけど………この建物からは何だか暖かい雰囲気を感じるわ。」

「へえ……」

「暖かい雰囲気………以前来た時もわたしはそういうのは感じませんでしたが………」

「………………」

セレーネの質問に首を傾げながら答えたゲルドの答えを聞いたリィンは感心した様子でゲルドを見つめ、アルティナは不思議そうな表情を浮かべ、ユウナは複雑そうな表情で建物を見つめた。

「ハハ、アルティナもいつかわかる時が来るさ。――――それよりもこうして”インフィニティ”に来る機会ができたのだから、せっかくだからセティ達に”いつもの”を頼んでおくか?」

「……そうですね。第U分校に派遣中の今の状況では次はいつクロスベルを訪れる事ができるかわかりませんし。」

リィンに話を振られたアルティナは頷き

「?教官達はこの会社に以前も立ち寄った事があるのですか?」

「ああ、それについては中に入ってから説明するよ。」

クルトの疑問に答えたリィンはユウナ達と共に建物の中へと入って行った。

 

〜総合工匠会社”インフィニティ”〜

 

「お邪魔しま――――あ。」

建物の中に入って挨拶をしたゲルドは室内の奥にある長いテーブルで話している人物達を見つけると呆けた声を出し

「あ、お客様みたいだよ、キーアちゃ――――え。」

「あら、貴女達は………」

一方テーブルで碧い髪の少女と談笑していた黒髪の少女はリィン達に気づくと呆け、少女達と一緒にいる妊婦の女性は目を丸くしてリィン達を見つめ

「わぁぁぁ……っ!リィン、セレーネ、おっかえり〜――――!」

碧い髪の少女は目を輝かせた後リィンとセレーネにタックルをした。

「おっと……!ハハ、まさかクロスベルに来て早々キーアの”これ”を受け止める事になるなんてな。」

「フフ、久しぶりの”ただいま”です、キーアさん。」

セレーネと共に碧い髪の少女のタックルを受け止めたリィンは苦笑し、セレーネは微笑みながら答えた。

「教官達はそちらの少女とお知り合いのようですが………まさかとは思いますがそちらの少女もマキアスさんと同じ……」

「いやいや、さすがにそれはありえないから。」

「―――彼女はキーアさん。教官達が以前クロスベルに派遣された際に所属していたクロスベル警察の部署――――”特務支援課”が保護していた少女です。」

リィン達の様子を見たクルトの推測を聞いたユウナは苦笑しながら否定し、アルティナは静かな表情で碧い髪の少女―――キーアの事について軽く紹介し

「!!なるほど、”そちら”の方か………」

「その娘が”キーア”………」

アルティナの説明を聞いたクルトは目を見開いて興味ありげな表情で静かな表情を浮かべたゲルドと共にキーアを見つめた。

 

「あっ!アルティナにユウナ!二人とも、リィン達と一緒にクロスベルに帰ってくるなんて、どうしたの?もしかして、ブンコウを”クビ”になって、サイシュウショクをする為にクロスベルに帰って来たの〜?」

「いやいや、例え第U分校を退学や退職処分になったとしてもあたしはともかくメンフィル帝国出身―――それもメンフィル帝国の大貴族になる事が内定している教官達が、再就職する為にクロスベルに帰ってくるなんておかしいわよ!」

「というかキーアさんは一体どこからそのような普通の子供は学ばないような事を学んでいるのでしょうか?」

キーアの推測にその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ユウナは苦笑しながら否定し、アルティナはジト目で指摘した。

「もう、キーアちゃんったら…………えっと……お久しぶりです、リィンさん、セレーネさん、アルティナさん。……それとゲルド義姉(ねえ)さんも。」

そこに妊婦の女性と共にリィン達に近づいてきた黒髪の少女は溜息を吐いた後リィン達に挨拶をし

「ゲルドが義姉(あね)………という事はまさかそちらのお二人がゲルドの――――」

「うん。黒髪の女の子はシズクで私の義妹(いもうと)。そしてシズクの隣にいる今お腹の中に赤ちゃんがいる女性は私のお義母(かあ)さんのセシルお義母(かあ)さん。」

クルトの推測に頷いたゲルドは黒髪の少女――――ゲルドの義妹であるシズク・M・パリエと妊婦の女性――――ゲルドの義母にしてリウイの側妃の一人であるセシル・パリエをリィン達に紹介し

「フフ、貴方達がゲルドのクラスメイトね。ゲルドとシズクのお母さんのセシルよ。よろしくね。」

ゲルドに紹介されたセシルは微笑みながら自己紹介をした。

「ただいまー。3人とも、留守番ありがとう。…………え。」

「どうしたのですか、シャマーラ。玄関で立ち止まったりして――――――あ。」

「まあ……!フフ、クロスベルを訪れている事はエリィさん達から伺っていましたが、もうここに顔を出してくれたのですね。」

するとその時リィン達の背後から魔族の娘が現れた後リィン達に気づくと立ち止まって呆けた声を出し、魔族の娘に続くように現れた天使族の娘は魔族の娘のように立ち止まって呆けた声を出し、二人の背後にいたエルフ族の娘はリィン達を見ると驚いた後微笑んだ。

「ハハ、3人とも久しぶりだな。」

「皆さんお出かけだったようですが……ちょうどいい時に訊ねる事ができたようですわね。」

新たな娘達の登場にリィンは懐かしそうな表情を浮かべ、セレーネは微笑んだ。その後リィン達は奥のテーブルの席についた。

 

「初めての方達もいらっしゃるようですからまずは自己紹介からですね。―――――若輩者ではありますが総合工匠会社”インフィニティ”のトップである”匠貴”を務めさせて頂いておりますセルヴァンティティ・ディオンと申します。親しい方達には私の事を”セティ”と呼んでもらっていますので、どうか皆さんも私の事は”セティ”とお呼びください。」

「次はあたしだね!”インフィニティ”のナンバー2の”副匠貴”でセティ姉さんの妹のシャマーラ・ディオンだよ!よろしくね!」

「同じく”インフィニティ”の”副匠貴”を務めるセティ姉様の妹の一人―――エリナ・ディオンと申します。よろしくお願いします。」

エルフ族の娘――――セルヴァンティティ・ディオン―――セティと魔族の娘―――シャマーラ・ディオン、そして天使族の娘―――エリナ・ディオンはそれぞれ自己紹介をし

「”ディオン”……という事は貴女方があの”匠王”の……」

「?クルトはセティさん達のご両親を知っているようだけど……”匠王”って一体どんな人なの?」

セティ達を驚きの表情で見つめて呟いたクルトの言葉が気になったゲルドは首を傾げて訊ねた。

「――――”匠王”とはあらゆる技術分野を取り扱っている”工匠”の中でも最も優れ、彼の技術力は誰も敵わない事から”匠の王”を意味する二つ名を付けられた最高峰の技術者――――ウィルフレド・ディオン卿の事さ。」

「そしてセティ先輩達がその”匠王”の娘にして、クロスベルの英雄である”特務支援課”の一員だったのよ!しかも”特務支援課”が解散した後も故郷に戻らずクロスベルでゼムリア大陸の”工匠”達を育てる為に会社を設立した上、クロスベル政府の頭を悩ましていた旧市街を”工匠特区”へと発展させる礎を作った超凄い人達なのよ!」

「そこで何故ユウナさんが自慢げに語る必要があるのでしょうか?」

「まあまあ。」

クルトの後に自慢げに説明したユウナをジト目で指摘したアルティナをセレーネは苦笑しながら諫めた。

 

「アハハ、さすがに褒めすぎだよ〜。」

「……そうですね。私達はあくまで旧市街の人達で”工匠”になりたい人達に”工匠”になる為のお手伝いをしただけで、旧市街を発展させたのは旧市街の人達の努力の賜物ですよ。」

一方ユウナの賛辞にシャマーラとエリナは苦笑し

「―――それよりも貴方はお父様の事をご存知のようですが、どなたからお父様の事を伺ったのでしょうか?」

「あ……名乗るのが遅れてしまい、申し訳ありません。――――ヴァンダールが次子、クルト・ヴァンダールと申します。皆さんの父君―――ウィルフレド卿や母君であるセラヴァルウィ夫人については兄ミュラーから伺っています。」

「あら……」

「あ、クルトさんはミュラー中佐の弟さんなんだ。道理で父さんやあたし達の事を知っている訳だね〜。」

「……今までの様子からして、クルトのお兄さんは顔が広いのね。クルトのお兄さんはセティさん達のご両親やクロスベルの王様とも知り合いみたいだし。」

セティの質問を聞いて自己紹介をしたクルトの話を聞いたセシルとシャマーラは目を丸くし、ゲルドは興味ありげな表情を浮かべてクルトを見つめた。

「兄が巻き込まれた”とある事件”でたまたま、ヴァイスハイト陛下達も巻き込まれて、その時に兄が知り合ったようなんだ。」

「フフ、ちなみにその事件にはわたくしのお姉様やレン教官も巻き込まれたとの事ですから、クルトさんのお兄さんであるミュラー中佐はお姉様達とも知り合いですわ。」

「そうなんだ………えっと……それで貴女が”キーア”なのね?」

クルトとセレーネの説明を聞いて目を丸くしたゲルドはキーアに視線を向け

「うん!ゲルドの髪、雪みたいに真っ白でとってもキレイだね〜♪」

「フフ、わたしも最初ゲルド義姉さんの髪を見た時は見惚れちゃった……」

「髪もそうだけど容姿もとっても綺麗だから、ゲルドは男の子達にモテモテなんでしょうね………―――ハッ、もしかしてもう恋人ができたから私達に紹介する為にクロスベルに来たのかしら?お相手はやっぱりリィン君?それともクルト君かしら?」

視線を向けられたキーアは興味ありげな表情でゲルドを見つめ、キーアの言葉にシズクは微笑みながら答え、セシルもシズクの意見に同意したがすぐにセシル独特の”天然”らしさをさらけ出し、それを見たその場にいる全員は冷や汗をかいて脱力した。

 

「お、お義母さぁん……」

「ア、アハハ……久しぶりに出ましたね、セシルさんの”天然”っぷりが。」

「フフ、懐かしいですわね。」

「というか”やっぱり”ってなんですか、”やっぱり”って!?ヴァイスハイト陛下といい、セシル様といい、俺をどんな風に見ているんですか……」

(間違いなく多くの女性を虜にする男性である事は理解していて、言っているのでしょうね……)

我に返ったシズクは疲れた表情を浮かべ、ユウナは苦笑し、セレーネは懐かしみ、リィンは疲れた表情で指摘し、その様子を神剣から見守っていたアイドスは苦笑していた。

「そう言えば……演習地でも気になっていましたが、もしかしてユウナさんはセシル様とお知り合いなのですか?」

「うん。セシルさんの実家があるアパートはあたしの実家があるアパートでもあるから、セシルさんはご近所さんで昔からの付き合いなの。」

「そうだったのか………」

アルティナの疑問に対して答えたユウナとセシルの意外な関係を知ったクルトは驚きの表情を浮かべた。

「それで今日はどのような要件で我が社に?リィンさん達――――第U分校が”特別演習”の為にクロスベルを訪れている事は知っていますが……」

「っと、そう言えば先に要件をすまさないとな。」

セティの疑問を聞いたリィンはセティ達に必須要請の中にある店舗の聞き取り調査で訊ねた事を説明した。

 

「なるほど……その為にわざわざ我が社に。ヴァイスハイト陛下の事ですから、私達とリィンさん達を再会させる為に敢えてこの要請をリィンさん達に回したのでしょうね……」

「アハハ、確かにヴァイスハイト陛下だったらありえそうだね〜。それにしても”特務活動”って、何だかどこかの活動と非常に似ていて、親近感が湧いてくるよね〜。」

「ん〜〜〜〜………あっ!キーア、わかった!ユウナ達は今、ロイド達やミシェル達の真似っこをしているんだ!」

事情を聞いたエリナとシャマーラが苦笑している中首を傾げて考え込んでいたキーアは無邪気な笑顔を浮かべて答え、キーアの推測を聞いたその場にいる全員は冷や汗をかいた。

「相変わらず普通なら口にしにくい事を躊躇わずにストレートに口にする方ですね。」

「キ、キーアちゃん!そういう事はわかっていてもせめて、ユウナさん達の前では言ったらだめだよ。」

我に返ったアルティナはジト目でキーアを見つめ、シズクは焦った様子でキーアに指摘した。

「ハハ……そういう訳だから、忙しい中悪いとは思うが、少しだけ教えてくれないか?」

「ええ、構いませんよ。―――エリナ、収益のデータを持ってきてくれる?」

「わかりました、姉様。」

リィン達はエリナからアンケートの答えを受け取った。

 

「ありがとうございます。……えっと………」

「必要な情報は揃っていますね。」

「………ここまでの収益と来客者数があるんですか。帝都(ヘイムダル)にあるRFストアを凌駕しているような……」

受け取った情報が予想以上である事にクルトは驚き

「ま、何といってもゼムリア大陸で”工匠”達が集まっているのはクロスベルだけだからね。わざわざ外国から工匠(あたし達)の商品を手に入れる為にたくさんのお客様が”工匠特区”もそうだけど、あたし達の会社にも来てくれるんだ。」

「加えて私達の場合父様―――”匠王”の娘が直々に作った商品というネームバリューもあって、今の所毎年収益が上がっている状況です。……ただ親の七光りみたいに感じますから、素直には喜べませんが……」

「う〜ん、実際にセティ達の恩恵を受けた事がある俺達からすれば、そうは思わないけどな……」

「……そうですね。それに幾ら親が優秀な技術者とはいえ、子供まで優秀な技術者であると限らない事は実際にセティさん達が作った商品を買う人達も理解しているでしょうし。」

「フフ、二人ともありがとうございます。」

シャマーラの後に困った表情で答えたエリナの推測を聞いてそれぞれフォローの言葉を口にしたリィンとアルティナにセティは微笑みながら答えた。

「アンケート、お疲れ様。それとついでにアルティナとクラウ=ソラスの件で頼みたい事があるのだが………」

「あ……そう言えば、そろそろの時期だね。」

「ええ。―――エリナ、シャマーラ。私はリィンさん達に対応をしているから、貴女達二人で”いつもの”をお願いしてもいいかしら?」

リィンの言葉を聞いてある事を思い出したシャマーラは目を丸くし、セティは頷いた後シャマーラとエリナに指示をし

「は〜い!」

「わかりました、姉様。それでは、アルティナさん。」

「――――了解しました。皆さん、少しの間だけ席を外させてもらいます。」

指示をされた二人はアルティナと共に地下室へと入って行った。

 

「えっと……?」

「アルティナは何の為に二人と一緒に地下室に行ったの?」

一方その様子を不思議そうに見ていたユウナは首を傾げ、ゲルドはセティに訊ねた。

「クラウ=ソラスのメンテナンスと、後はクラウ=ソラスを操っているアルティナさん自身の定期健診ですね。」

「へ……”クラウ=ソラス”って、確かアルの……って、セティ先輩達があの黒い傀儡のメンテナンスをしていたんですか!?」

セティの説明を聞いたユウナは呆けた後驚きの表情でセティに訊ねた。

「ええ。他にはクラウ=ソラスの強化や改良等も行っています。アルティナさんがクラウ=ソラスとシンクロした時の追加武装をアルティナさんに頼まれていて、それが完成した為確かアルティナさんの入学時に送ったはずですが……」

「ハハ、ちゃんと届いていたさ。実際に実用できるようになったのは2週間くらいかかったようだけど……」

セティとリィンの話を聞いたユウナ達は冷や汗をかいた。

「それにしてもよくメンテナンスができましたね………僕達はアルティナの出自についてあまり詳しくありませんが、確かアルティナは”貴族連合軍”が雇っていた結社のような”裏”の勢力に所属していたんですよね?そんな所が開発した未知の人形を解析して、メンテナンスまでできるなんて……”工匠”についても兄上から伺っていましたが、話に聞いていた以上のとてつもない職人なんですね。」

「フフ、それはさすがに褒めすぎですよ。」

「ねーねー、セティ。セティ達はクラウ=ソラスみたいなお人形さんは作れないの?キーアも欲しい。」

「キ、キーアちゃん。クラウ=ソラスさんはただのお人形さんじゃないよ?」

クルトの賛辞にセティが謙遜している所に問いかけたキーアの問いかけを聞いたシズクは冷や汗をかいて指摘し

「う〜ん、”工匠”としては是非チャレンジしてみたいけど、保護者であるロイドさんの許可がないとダメよ。」

「そうね。それにキーアちゃん、お人形さんなら既にたくさん持っているでしょう?」

「む〜。でもクラウ=ソラスはキーアの持っているお人形さんと違って、ちゃんとおしゃべりができるよ?ロイド、シュッチョウからまだ帰って来ないから、ロイドの代わりにおしゃべりできるお人形さんがあったらいいなって思っていたんだけど……」

「え……ロイドさんは今、クロスベルにいないのですか?」

セティとセシルの指摘に不満げな表情を浮かべて呟いたキーアのある言葉が気になったセレーネはセティ達に訊ねた。

 

「……………」

セレーネの問いかけにセティ達は僅かな間黙り込み

「ええ、ロイドさんもそうですけど課長やルファディエルさんも今、オルディスやルーレに出張中なんです。その為、今キーアちゃんは私達が預かっているんです。」

「そうだったんですか………機会があればロイド先輩達にも挨拶しておこうと思っていたんですが………」

(今の間は一体何なんだ……?)

セティの答えにユウナが残念そうな表情をしている中僅かな間黙り込んだセティ達の様子が気になったリィンは考え込み

「挨拶といえばユウナちゃん………せっかくクロスベルに帰って来たのだから、リナさん達にも挨拶をしてきたらどうかしら?リナさん達もユウナちゃんが今日演習の為にクロスベルに一時的に帰ってくる事は知っているから、ユウナちゃんが元気な姿を見せてくれる事を首を長くして待っているわよ?」

「アハハ、この後教官達の事を紹介するついでに顔を見せに行くつもりです。」

セシルの指摘にユウナは苦笑しながら答えた。

 

その後セティ達と談笑していたリィン達は検査が終わったアルティナと合流した後、セティ達に見送られて次々とビルから出て行った。

 

「――――キーア。ちょうどいい機会だから、お礼を言っておくね。」

「ほえ?キーア、ゲルドに会うのは今日が初めてで、おレイを言われるような事はしていないよ〜?」

リィン達がビルから次々と出て行く中最後に一人だけ残ったゲルドはキーアを見つめ、ゲルドの言葉を聞いたキーアは無邪気な様子で首を傾げた。

「………それでもお礼を言っておくわ。例え世界は違っても、貴女のお陰で私は”2度目の人生”を歩む事ができて、幸せで暖かい未来を手に入れる可能性ができたもの。だから―――――私を蘇生させた上この世界に転移させてくれてありがとう。例え、それが貴女の目的の為でも私は貴女に心から感謝しているわ。」

そしてゲルドは優し気な微笑みを浮かべて感謝の言葉を述べた後ビルから出て行き

「ぁ……………………」

「キーアちゃん………」

「……………」

一方ゲルドの説明で事情を察したキーアが呆けた後複雑そうな表情で黙り込んでいる中、キーアの様子をシズクは心配そうな表情で見つめ、二人の様子をセシルは静かな表情で見守り

「……エリナ、シャマーラ。”黒の工房”によって取り付けられていたアルティナさんとクラウ=ソラスの”例の設定”は………」

「うん、並行世界のアルティナさん同様バッチリ解除しておいたよ♪」

「少なくてもこれで、こちらの世界のアルティナさんは並行世界のアルティナさんの時のような出来事は起こらないかと。」

一方真剣な表情を浮かべたセティに訊ねられたシャマーラとエリナはそれぞれ答え

「そう………さてと、それじゃあ仕事を再開しましょう!」

「は〜い!」

「はい!」

二人の答えを聞いたセティは静かな表情で頷いてリィン達の後ろ姿を見つめた後気を取り直してシャマーラ達と共に仕事を再開した。

 

その後リィン達はユウナの実家に挨拶する為にユウナの実家があるアパートの一室を訊ねた。

 

〜西通り・アパルトメント”ベルハイム”〜

 

「ここが君の実家か………」

「あはは、狭いけどね。えっと、それじゃあ………」

実家の扉を見つめて呟いたクルトの言葉に苦笑しながら答えたユウナはインターホンを押した。

「―――は〜い、今出ますよ。はいはい、どちらさま――――………あ………ユウナ………?」

扉を開けて姿を見せた女性はユウナに気づくと呆け

「お母さん……あはは……来ちゃった。」

「まあ………まあまあまあ!本当にユウナなのね!?ああもう、お母さんびっくりしちゃったわ!今日帰るとは聞いてたけど、まさかこんないきなりだなんて!」

我に返ると嬉しそうな表情でユウナを見つめた。

「ゴメンね、何時に行けるとかわからなかったから。でも元気そうでよかったよ。」

「うふふ、あなたもね。ちょっとだけ痩せたかしら?――――おかえりなさい、ユウナ。」

「うん―――ただいま。」

(この方がユウナさんの……)

(はは………似ているな。)

(ああ……優しそうなお母さんじゃないか。)

(うん……それに明るい所もユウナにそっくりね。)

(ふふ、そうですわね。)

「あらっ、そちらの方達は……もしかしてクラスメイトの方?それに――――」

ユウナの後ろで小声で会話しているリィン達に気づいた女性――――ユウナの母親のリナがユウナに訊ねかけたその時

「今の、ねーちゃんの声じゃない!?」

「今の、おねーちゃんの声なのー!!」

リナの背後から二人の子供の声が聞こえた後リナの背後から現れた男の子と女の子がユウナに抱きついた。

「ねえちゃあああん!!」

「おねえちゃあああん!!」

「わあっ!?」

「おっと………」

「これは……」

「あ、もしかしてその二人がユウナの話にあった……」

突然の出来事にユウナとクルトが驚いている中アルティナとゲルドは目を丸くした。

 

「ちょっと、ケン、ナナ!いきなり抱きつかないの!」

「わーい、ねーちゃんだ!ねーちゃんが帰って来たー!!」

「ほんものなの〜!ひさしぶりなの〜!!」

ユウナの注意に対して男の子と女の子――――ユウナの弟と妹であるケンとナナは無邪気な様子で喜びながらユウナに抱きつき続け

「……も、もう、あんたたちは。ホント甘えん坊なんだから……―――ただいま、ケン、ナナ。」

弟と妹の様子に苦笑したユウナは二人の頭を優しくなでた。

「えへへ、おかえり!」

「おかえりなの〜!」

「この子たちが……」

「ユウナさんの弟妹(きょうだい)ですね。」

「もしかして双子……?」

「あはは、うん、双子なの。」

「ふふ、よかったら皆さん、上がって行ってください。今、とっておきのお茶とお菓子を出しますからね。」

そしてリィン達はユウナの実家であるクロフォード家にお邪魔し、お茶を御馳走してもらった。

 

「改めまして――――リィン・シュバルツァーです。ユウナさんが所属しているZ組の担任教官を務めています。」

「同じくユウナさんが所属しているZ組の副担任を務めているセレーネ・L・アルフヘイムと申します。どうかお見知りおきを。」

「まあ、そうだったんですか……では貴方達があの。……そう、なるほどね。何度聞いても手紙に書いてくれなかったのはそういうわけだったのね。」

「う………」

リィンとセレーネがそれぞれ名乗るとリナは目を丸くした後一人納得した様子でユウナを見つめ、見つめられたユウナは気まずそうな表情をした。

「ふふ、でもこうして皆さんに会えて嬉しいわ。クルト君にアルティナちゃん、それにゲルドちゃんも、ユウナがいつもお世話になっているみたいね?」

「いえ、そんな。」

「むしろ意外にこちらの方がお世話になっているような……あ、でも座学のノートなどは確かにフォローしていますね。」

「私はみんなよりたくさんユウナにお世話になっているわ……そのお礼に時々聞いて来る明日の天気や夕食の内容とかユウナが知りたいちょっとした先の未来の出来事を教えてあげているわ。」

「あ、ちょっとアル!?それにゲルドも!?」

リナの言葉にクルトが謙遜している中それぞれ余計な一言を口にしたアルティナとゲルドをユウナは気まずそうな表情で見つめ

「君はゲルドの”予知能力”をそんな些細な事に使っていたのか……」

「まさに”予知能力”の無駄遣いですね。」

クルトとアルティナは呆れた表情でユウナを見つめた。

 

「はは……とにかくご家族の方にご挨拶できてよかった。演習での活動中なのであまり長居できないのは残念ですが。」

「そうですねぇ、できれば主人が帰ってくるまでいてもらえたらよかったんですけど。勤め先がミシェラムなので最近、いつも帰りが遅いんですよ。」

「ああ、例の賑わっているテーマパークがある……」

「そちらにお勤めなんですか?」

「うん、リゾートホテルの企画営業部門に勤めててね。ふう、さすがに今回はお父さんと会う暇はないか……」

父とは会えない可能性が高い事にユウナは残念そうな表情を浮かべて溜息を吐いた。

 

「いや、最終日だったら外泊許可も取れるかもしれない。ミハイル主任の判断しだいだが俺達の方からも掛け合ってみよう。」

「はい。それとゲルドさんの外泊許可もですわね。」

「あ……フ、フン。それじゃあお願いしますっ。」

「ありがとう、リィン教官、セレーネ教官。」

リィンとセレーネの申し出を聞いたユウナは呆けた声を出した後やや複雑そうな表情を浮かべて静かな笑みを浮かべているゲルドと共に感謝の言葉を口にした。

「やれやれ、この子ったら。ふふっ、ふつつかな娘ですがこれからもよろしくお願いします。」

「ねーねー、それよりさぁ。さっきから気になってるんだけど。」

「どっちがおねーちゃんのカレシさんなのー?」

「………え”。」

興味ありげな表情をしているケンとナナの疑問を聞いたユウナは少しの間固まった後ジト目になった。

 

「やっぱこっちの黒髪のにーちゃんじゃないかー?」

「でもでも、ナナはあっちのキレーなおにーちゃんだと思うー。」

「えっと……」

「キ、キレーなおにーちゃん?」

ケンとナナの自分達に対する言葉にリィンとクルトは戸惑い

「マ、マセたこと言ってないの!どっちも違うからっ!」

我に返ったユウナは真剣な表情で反論した。

 

「きゃははっ……」

「にげろー!」

ユウナの反応を見たナナとケンは無邪気に笑って別室に向かった。

「まったくもう……」

「キレーなおにーちゃん……」

その様子を見守っていたユウナは呆れ、クルトは疲れた表情で肩を落とし

「?褒められているのに、どうしてクルトは残念がっているの?[組や\組の女子達もクルトの事を反則過ぎるくらい”綺麗”だって褒めているわよ?」

「ぐっ………まさか他のクラスの女子達まで僕の事をそんな風に見ていたなんて……」

「ゲルドさん、フォローどころか追い打ちになっていますよ。」

クルトの様子を不思議そうな表情で首を傾げて見つめて呟いたゲルドの言葉にクルトが唸り声を上げている中アルティナはジト目でゲルドに指摘した。

「はは、賑やかですね。」

「ふふ、ウチでは日常茶飯事なんですよ。」

(……これが”家族”………私もお義母さん達とこんなにも暖かくて賑やかな生活ができるのかな……?)

リィンの言葉にリナが苦笑している中ゲルドは興味ありげな表情をしていた。

 

こうして少しの間、クロフォード家で休息を取った後、特務活動を再開するのだった。

 

「それでは失礼します。」

「お茶とお菓子、ご馳走様でした。」

「……お世話になりました。」

「……ありがとうございました。」

「お茶もお菓子もとても美味しかったです。」

「ふふ、それはよかった。是非また来てちょうだいね。ユウナも、しっかり頑張るのよ?」

「ん、任せといて!」

リナの応援の言葉に対してユウナは力強く頷いた。

「おねーちゃんたち、もーいっちゃうのー?」

「ちぇっ、つまんないのー。そうだ、こんど帰ってくるときは”あの人”のことも教えてくれよなー!」

「ちょっ、ケンっ………!」

「あの人……?」

「一体誰の事なのかしら……?」

ナナと共に残念がっているケンが呟いた言葉を聞いたユウナが焦っている中クルトとゲルドは首を傾げた。

 

「あれー、にーちゃんたちエレボニアのヒトなのに知らないの?スッゲー強くてカッコイイんだぜ?」

「うんうん、あのとき、ナナたちのことも――――」

「ケン、ナナッ!」

「ふぇっ?」

「ふぇ……?」

ケンとナナが昔の事を口にしようとしたその時ユウナは声を上げて制止した。

「今度、家に帰ったらちゃんと話してあげるから。エレボニアのお土産もあるから、それまでいい子で待っててね?」

「わわ、ホント!?」

「楽しみなのー!」

「……………………」

(…………?)

ユウナ達の様子をリナが優しそうな表情を浮かべて見守っている中リィンは首を傾げて見守っていた。

 

「……いいご家族だったな。」

「ええ、どこまでも暖かくて居心地がいいというか……」

「……ご弟妹もなんというか抱きしめたくなりました。あれが”愛らしい”ということなんでしょうか。」

「ふふ、そういうアルティナもお人形さんみたいに可愛いから、”愛らしい”と思って抱きしめたくなる人はいると思うけど……」

その後クロフォード家を後にしたリィンとクルトがユウナの実家についての感想を口にしている中ユウナの弟と妹についての感想を口にしたアルティナの言葉を聞いたゲルドは微笑みながらアルティナに指摘し

「……まあ、約1―――いえ、2名実際に私の事を”可愛い”と言って抱きしめて来たことはありますから、否定はしません。――――最も”可愛い”事について異常とも思える程執着しているあの二人にユウナさんのご弟妹を会わせない方がいいと思いますが。」

「ア、アハハ……(アルティナさんが言っている人物は間違いなくアネラスさんとエオリアさんの事でしょうね……)」

ゲルドの指摘に対してジト目になって答えたアルティナの答えを聞いたセレーネは苦笑しながらある人物達の顔を思い浮かべた。

「アル……あはは、ありがと。でも、これからどうします?予定してた街区は以上ですけど。」

「そうだな……まずは一旦、外に出るとしようか。」

その後リィン達が外に出ると必須要請の一つを出した依頼者が戻って来たという連絡があった為、依頼者から要請内容について聞くために依頼者がいるRF(ラインフォルトグループ)の支部へと向かった――――――

 

 

 

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という訳で今回の話でウィルの娘達&原作閃Vでは登場しなかったセシル、キーア、シズクが登場しました!それと何気にそれぞれの作品のキーキャラクターであるキーアとゲルドの邂逅までしちゃいましたww

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第38話
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