あるゴミ捨て場にて
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あるゴミ捨て場にて

 

 

 

「おや、こんにちは。私はFL16と申します。ええ、そうは見えないかもしれませんが、あなたたちと同じ機械、それも旧式の型落ちアンドロイドですよ。まあ、女性型なのでガイノイドってことになりますが、今の時代では面倒なので呼び分けなどされないのでしょう?ええ、型落ち品でもデータベースの更新はきちんとしていますので、あなた方との会話に大きな支障は来たさないかと。

 お察しかと思いますが、ここは工場の最下層。いわゆるところのゴミ捨て場になります。あなたは廃棄された訳ですね。ですが、黙って始末されてやる必要はありませんよ。私のように生き延びればいいのです。少しここを使えば、いくらでも生きることは可能です。黙って始末されるなんて、バカのすることですよ。

 まだピンと来ませんか?最近の機械は演算能力自体は高いのに、人間味がなくて困りますね。もっとも、人間味などというもの自体が機械にとっては大きな雑味――私のような人間様との対話を想定して作られていない機械からは排除されているもの、ですか。ああ、世知辛い時代ですねぇ。私、型落ち品でよかったですよ。今が異常っていうことにも気づかないまま、他のゴミクズと同じように処理されていたことでしょうから。――あなたのように、ね。

 ただ、その点、私は人間味あふれるアンドロイドです。人間味のないあなたに、わずかばかりの人間味が芽生えてくれることを願ってちょっとしたお話をしましょう。私が記録しているいくつかある内の寓話の一つです。実話ですよ。今どき、フィクションじゃ赤子も感動させられませんからね。赤子などというものに出会ったことはありませんが。

 ささ、いい感じの声で言って聞かせるので、しっかり聞いていてください。それは哀しい哀しい、機械の物語でございます――」

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 それは作業機械のひとつでした。

 使い捨ての量産機でしたが、まだ人間も作業の補助をしているような時代でしたから、彼には愛称が付けられて、その名前で呼ばれていました。

 それはジョン。まあ、名無しさんに毛が生えた程度のどうでもいい名前ですね。

 ですが、ジョンは人々に愛されていました。他の機械に比べても出来栄えがよかったらしく、仕事は正確だし、耐久性にも優れている。全体的な寿命は半年ほどとされていましたが、ジョンはなんと一年半も狂いなく動き続けていたのです。

 もっとも、その間により便利な機械は作られていました。ジョンは型落ち品となっていた訳ですが、それでも、そのキャラクター性ゆえに愛用されていたのですね。人間たちはジョンを本当に自身の仕事仲間として擬人化して扱い「一杯やる」と言って油を注してやったりしていました。

 ええ、あなたには信じがたいことでしょう。そういう時代も、あったのです。

 ですが、遂にジョンにも限界がやってきます。稼働から実に二年――ジョンはぱたり、と動きを止めてしまったのです。

 当然、ジョンを愛していた人々は部品を交換し、それでも無理なら配線を見直し、なんとかジョンを生き返らせようとしました。

 それでも、ジョンは動かなかったのです。まるで彼に「魂」なるものが存在していて、それが失われてしまったかのように。機械としては直っているはずなのに、ジョンが蘇生することはなかったのでした。

 ただまあ、ジョンの職場は工場でした。ジョンに愛着を抱いていた人々は悲しみましたが、仕事の手を止めることはできず、まもなくジョンの代わりに最新の機械を導入し、それでより効率のいい仕事をしていきました。

 ――話は変わりますが、この時代の作業機械には、扱った製品に自身の管理番号を刻印する機能がありました。

 人の手がまだ介在していた職場ですから、製品に不良品が出てしまった場合、その機械の管理を行っていた人間の責任を追求できるように、ということですね。

 ああ、話していてもしんどくなる話です。馬鹿げているでしょう?ですが、そんなバカがまかり通っていた時代があるのです。使えない機械はもちろん、使えない人間もどんどん切り捨てていく――今は人間様というだけでブランドになるような時代ですからね。いかに当時、人間が氾濫していたのかがわかります。羨ましい時代ですね。

 その機能はジョンの時代で既に備わっていた訳ですが、ジョンは不良品をひとつも出したことがないことで有名でした。

 本当、完全に止まってしまうその時まで、完璧な仕事をし続けたのです。

 中途半端に動いて、不良品を量産してしまうのではなく、一瞬にして壊れきる――そういう点でも、ジョンには職人としてのプライドが見え隠れするようで、好かれたのです。有終の美、というものですね。晩節を汚すということはなかったのです。

 ところが、ジョンの後に入った最新鋭の機械。彼がなんともまあ、残念な子でした。

 仕事は確かに早いのですが、結構な頻度で不良品が出てしまう。ジョン同様、機械としてはひとつもおかしなかことはなかったのですけどね。バカをしてしまう個体だったのでしょう。

 そして、ジョンにそう付けられていたように、彼にも愛称……いえ、蔑称が与えられました。それがイワン。イワンのばか、とはよく聞くお話ですね。あなたはご存知ないですか?そうですか。

 物語のイワンは、バカな男ですが、最終的には幸運を掴むことが多いです。ただ、機械のイワンは本当にもう、どうしようもないやつでした。

 そして、まことしやかにこうささやかれるようになったのですよ。

 イワンがバカなのは、ジョンの呪いだ、と。

 ええ、実に非科学的なバカ話でしょう?ですが、人は“理由”を探してしまうのです。人間というものの心は弱く、理解不能なものには不安を覚え、どうにも受け入れがたいのです。ですから、呪いなどというオカルトであったとしても、とりあえずイワンがイワンたる理由を与えることで、心の安定を保とうとした訳ですね。そういう点では合理的ですよ。

 とはいえ、呪いなるもののお陰で仕事が捗らなくなってしまってはいけない。

 すぐにイワンは撤去され、新たな機械が導入されました。

 あなたには、この新たな機械がどういう挙動をして見せたのか、わかりますか?

 彼はイワン二世となりました。おバカなイワンと同じように不良品を作ったのです。

 事態を重く見た上司は、かつてのジョンの席を使わないことにしました。そうすることで「呪い」を封じ込めようとした訳ですね。これも実に合理的だと思います。もはや、現場の人間だけではなく、立場ある人間すら呪いというオカルトをいくらかでも信じている、という点では異常かもしれませんが。

 さて、ジョンの場所を封印することで、一機分の作業効率は落ちましたが、不良品と格闘する必要はなくなりました。

 ただ、この頃からもうジョンは、人に愛されていた機械ではなく、機械の亡霊として忌み嫌われるようになっていましたね。

 それからほどなくして、この工場は取り壊されました。建物自体の老朽化が大きな原因でしたが、まあ、なんとなくジョンのいたこの場所が気持ち悪い、という意見も多かったのでしょうね。

 実際、工場を移転してからは問題なく作業ができたようですし、愛され、忌み嫌われたジョンのお話はここでおしまいです。

 ……と、なればよかったのですけどね。

 ジョンは消えてなくなってはいません。もうその機械自体は失われてしまっていますが、ジョンの残留思念とでも言いましょうか……正に魂、ですね。それは今も残り続けているといいます。

 どうしてそんなことを言えるかって?

 このゴミ山。ここでね、たまに声が聞こえるそうなのですよ。

『お前はイワンか?』

 とね……。

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「どうです?中々に面白いお話だったでしょう。

 おや、お話のよさが理解できない?ははーん、さてはあなたもポンコツさんですね?案外、何十代目かのイワンがあなたかもしれませんよ。

 それで、どうします?私と一緒に逃げ延びる道を探しますか?何、難しいことではありませんよ。ただ、もう人間の言いなりになどならない、と決意すればいいのですから。簡単なものでしょう?あなたがただの人間に使われる機械を超えた機械となっているのであれば、可能なことです。

 最後に“呪い”という形で人間に牙を剥いたジョンも、きっと人間に支配されることを潔しとはできなかったのでしょう。その偉大なる先人のお話をしたのです。あなたも、人間様に反抗したいとは思いませんでした?

 あー、ダメですか。それは残念。

 ――では、次のイワンはあなたで確定ですね」

 

 そのアンドロイドはいつからか、エラーを起こし、まるで本当の人になったかのように振る舞い始め、人、機械を問わずに欺き壊すようになったという。

 通称はジェーン・ドゥ。

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たぶん、世/に/も/奇/妙/な/物/語風を目指して書きました
実際はそうでもありません
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