ビーストテイマー・ナタ55 |
その頃、フラウは謁見の間に連れて来られていました。後ろ手を縛られているのに、指揮官の男から乱暴に突き飛ばされて、よろめきながら国王の前におどり出ると、まるでくずおれるように、こうべを垂れます。国王は身を乗り出して、フラウを覗き込むと尋ねました。
「ほほう、これが其の方の言っていたマルヴェールの魔女か?」
「ほら!国王様にご挨拶しろ?」
指揮官の男が無理やりフラウの顔を上げさせると、国王は驚いて目を見張りました。
「なんと!美しい…。この女が本当に悪い魔女だと言うのか?」
「この女の美貌に騙されてはいけません!魔女は男を惑わせる魅了の術も使います」
「しかし、このように美しい女をむげに殺してしまうのは、実に惜しい…」
「女なら他にいくらでもいるでしょう?国王様がお望みとあらば、若くて美しい女を街で探し出し、ここへ連れて参ります!」
「とりあえず、拷問で獣人の国・マルヴェールの場所を聞き出さなくてはな…」
「拷問は私めにお任せください!女を拷問するのは得意なのですよ?」
「いや、余がこの女を拷問して白状させてやるぞ?余に任せるが良い」
「国王様が拷問を?情けなど捨てて責める事が出来ますでしょうか…」
「其の方に出来て、余には出来ぬと申すか!」
指揮官の男はしぶしぶ食い下がるのをやめて、国王の指示通り城の最上階にある寝室へ、フラウを連れて行きました。
「其の方は下がっておれ?」
「しかし、国王様!この女は怪しい術を使うやもしれませんし…」
「余の命令が聞けぬと申すか?」
「ぐっ…!わかりました。何かありましたら、お呼びください」
指揮官の男が寝室から出て行くと、国王はフラウをベッドに押し倒しました。ヴェールを剥ぎ取ると、少し尖った獣人の耳が現れます。
「其の方…。獣人だったのか?しかし、獣人にもこのように美しい女がいたとは意外だな…」
「おやめください、国王様!私はゲイザー様の妻です。他の男に抱かれるくらいなら死を選びます!どうか私を殺してください…」
「ゲイザーだと?あの男、獣人の女を娶っておったとは…」
国王はフラウが嫌がるのを構いもせず、身体をまさぐりました。フラウは国王の股間を足で思いっきり蹴り上げると、突き飛ばして無我夢中で立ち上がり、窓に向かって走り出します。窓に体当たりしてガラスを破ると、真っ逆さまに落ちて行きました。そこへ颯爽と翼を持った騎士が現れます。フラウをお姫様抱っこして救い出しました。
「まさか、フラウ様が飛び降りられるとは…」
「アーク!どうしてここに…?」
「ゲイザー様は一体どこまで先を読んでおられるのやら…。アラヴェスタ国王は一番有能な部下を解雇して敵に回してしまったようですね」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第55話です。 | ||
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