命一家〜14話 |
命一家14話
【萌黄】
仕事を終わらせて家に戻ると賑やかな声が聞こえてくる。
その中でもっとも大きな声は愛する娘のみきのものだった。
「萌黄ママー!おかえりー!」
ドアを開けると元気に私に向かって突進をしてくるみき。
ドスンッ
「ぐをっ」
娘の全体重を乗せたタックルをくらって声が漏れる。いくら体重が軽くとも
完璧にお腹に入るとかなり衝撃がきて辛いのだ。
「あいたた…」
「おかえり〜〜」
その後はまるで甘えた猫のように私に抱かれているみき。可愛いから注意もしにくい。
その後、すぐ命ちゃんが来てみきを私から引きはがして注意をしていた。
「みき、痛いことしたらダメでしょ」
「ごめんなさ〜い」
みきはいい子だからよほど悪かったり嫌がられたりするとすぐ学習してやらなくなるが
こういう愛情表現は、感情が高まるとついやってしまう傾向がある。
だから今みたいなことは子供の内はまた何度もしてしまうのだろう。
そしてみきから命ちゃんに視線を移すと怒ってる振りをしながらも充実して幸せそうな
命ちゃんを見てると私も幸せな気持ちが移ってくるようだ。
そう、私も家族が増えて幸せそうにしている命ちゃんを見てると幸せな気持ちに
なるけれど、たまには命ちゃんと二人きりでまったりとイチャイチャできる時間が
欲しいなと思うのは…私のわがままなのだろうか。
**
それから時間があれば命ちゃんと二人きりになろうとするけど、ことあるごとに
みきに邪魔をされてしまうのだった。命ちゃんの部屋で命ちゃんを誘おうとすると
ベッドの掛布団の中から飛び出してきて私にしがみつき。
「萌黄ママー、私とボケモンやろう!」
「それどんなゲームなの?」
「あのね、モンスターを捕まえてボケの練習をさせてボケ対決をして先に相手に
ツッコミさせた方の勝ちってゲームなの」
「なにそのマニアックなゲームは…」
とか誘われたり。ソファに座ってる時に命ちゃんに擦り寄ったりするときは
みきも同じように私にすりすりしてきたり。すごく嬉しいけど!嬉しいけど!
今は命ちゃんと二人きりでいたいのー!
と、そんな思いを抱えながら数日。私の様子に見かねた瞳魅が私に甘えてくる
みきに話しかけてきた。
「みきちゃん、今日は私たちと遊ばない?」
「いいよー!」
元気に騒がしくやってきて向こうへ行くときも元気で騒がしく去っていった。
離れられたらそれはそれで寂しいけど…、ようやく二人きりの時間が作れそうで、
あとで瞳魅には感謝をしなくちゃと思うのだった。
その後、嬉々として命ちゃんを探しに家中を走り回ったが姿はなかった。
あ、そうだ。確か今買い物に出かけているんだった…。一瞬がっかりしながらも
自分から迎えに行けば時間を少しでも多く使えると思い、外に出ると
ぽつぽつと雨が降り始めた。
私は傘を持って走り出すと、すぐ命ちゃんと合流できた。命ちゃんは買い物袋を
両手に持って家の方へ歩いていた。私はすぐに命ちゃんのもとへ近寄って
荷物を一つ私が持つと命ちゃんは空いた手で傘を差した。
「ありがとうございます、萌黄。助かりました」
「えへへ、どういたしまして」
「そういえばさっき傘持ってきてくれた時の萌黄見てたら昔のこと思い出していました」
「出会った時のこと? 私も思った」
嬉しそうに二人で笑いながら家へ戻ると、買った食材を冷蔵庫に入れた後。
命ちゃんの部屋のベッドに二人で乗っかって私はすぐさま命ちゃんに抱きついた。
「萌黄?」
「今日は甘えさせて〜」
「最近、お疲れですか?」
「とっても。それと…たまには二人きりでイチャイチャしたい」
「あぁ、それで瞳魅さんとマナカちゃんがみきを連れて出かけていたんですね」
命ちゃんは思い出して納得したように笑顔で頷いていた。
「命ちゃ〜ん」
「はい」
抱きついた私の頭をナデナデしながら空いてる手を私の背中に回して抱いてくれる。
その柔らかさと暖かさと匂いが心地良すぎてうとうとしてしまう。
「萌黄…眠いです?」
「大丈夫…」
正直溜まっていた疲れが一気に出てきて意識が落ちそうになっていた。
その上、命ちゃんの優しい甘い声が気持ち良すぎて今にも眠ってしまいそうだった。
「無理しないで寝ていいんですよ」
「大丈夫…命ちゃんとイチャイチャしたいから…」
「なら、こうしましょうか」
今度は私と目線が合う所まで命ちゃんがずらしてきて微笑みながら視線を合わせて
キスをしてきた。暖かく包まれて柔らかくて気持ちのいい唇。
いつもなら私の方からえっちなことしたくなるんだけど、今日はこのまま
抱きしめてもらいたい、甘えたい気持ちが強くて唇を離した後、私はそのまま
命ちゃんの胸に顔を当てて目を瞑った。
命ちゃんの温もり、胸の鼓動がよく感じる。まるで子供の時、母に甘えていたときの
ような安らぎすら感じる。でも母のそれとは違う、お嫁さんや恋人に感じる愛おしさも
確かに感じられた。ドキドキする。二人きりだった時のようなあの恋を思い出していた。
「こうしていると昔を思い出しますね」
「命ちゃん…あの時に戻ってみたい?」
「あの時はあの時で幸せでしたけど。私は今が一番幸せなので」
「だよね、うん…。私もそうだよ」
みきがいてみんながいて。こうしてたまに二人でいられるから新鮮に強く
感じられるんだ。私も命ちゃんと同じように感じられた。
昔に戻っても多分、あの賑やかさを知ったら寂しく感じるだろうって。
だから今のうちにいっぱいイチャイチャしていつもの生活に戻ろうと思った。
その瞬間から、私は眠ってしまっていた。
次に起きた時は夕ご飯ができていて部屋から出て階段を下りてリビングに顔を出すと
みんながいつものようにいつもの席に座っていた。
「おかえり、みんな。楽しかった?」
「うん、楽しかったよ!ね〜、瞳魅お姉ちゃん。マナカお姉ちゃん」
みきに言われて笑顔で頷く二人。マナカちゃんは表情作るの苦手だったけど
みきの面倒を見るようになってからは自然な笑顔を出せるようになっていたのが
見ている私も嬉しく思えた。
二人きりの時も良かったけど、こうしてみんな楽しそうにしているのを眺めてると
やっぱり今の方がいいのかなと改めてそう思えるのだ。
みきの笑顔を見ていると自然と私も笑顔になれる。この幸せが訪れるまで、みんな
それぞれ大変な思いをしてきて今ここに、こうしていられる。
この幸せを守るためなら私はどんなことでもがんばることができそうだ。
「みき、また後でママと遊ぼう」
「うん!」
私の隣にいるみきは元気よく答えてから、みんなで楽しくご飯を食べた。
命ちゃんだけに抱いていた温もりとは違った暖かさを胸に染み入って、
元気を取り戻した私はこれを糧にがんばって働けそうだった。
続。
説明 | ||
家族の時間も幸せで大切だけど、恋人としての時間もたまには欲しいなと思ってもやもやする萌黄のお話。 | ||
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